東芝メモリ買収に「失敗」した鴻海、実は圧倒的に有利な立場だった

東芝メモリ買収に「失敗」した鴻海、実は圧倒的に有利な立場だった

  • Business Journal
  • 更新日:2017/10/23
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●やっと東芝メモリの売却先が決定した

東芝は9月28日、米ファンドのベインキャピタルを中心とする「日米韓連合」と、東芝メモリを売却することで正式に契約した。しかし今後も問題は山積している。買収に失敗した米ウエスタンデジタル(WD)とは今後、国際仲裁裁判所で本格的な裁判を行うことになる。恨み骨髄のWDとは、さぞかし激しい裁判になるだろう。

さらにWDは早速、東芝メモリが四日市工場の新棟となる第6棟に単独で投資することを差し止める裁判を、新たに国際仲裁裁判所に提起している。それ以外にも、さまざまな嫌がらせをしてくると思われる。

また、売却契約を締結した日米韓連合には、ベインを中心として、米アップル、米デル、米シーゲイト・テクノロジー、米キングストン・テクノロジー、韓国SK Hynix、日本のHOYA、産業革新機構、日本政策投資銀行が加わっている(図1)。これらが、「パンゲア」と名付けられた特別目的会社に出資・融資し、東芝本体も3505億円を拠出して、東芝メモリを約2兆円で買収する。

SK HynixはNANDを生産している同業他社であるため、いくら融資するだけとはいっても、各国での独占禁止法の審査を受けねばならない。その際、日本政府から外為法を盾に買収協議の蚊帳の外の置かれた中国は、わざと時間をかけて審査をするかもしれない。そもそも、最短でも独禁法の審査は6カ月かかるといわれている。少しでも長引けば、18年3月末までに売却できない。最悪の場合は、中国が「ノー」を突きつけてくる可能性もある。

なお、「パンゲア」とは、約3億年前の大陸移動が起こる前に、現在の大陸が巨大なひとつの塊であったと想定される大陸の名称とのことである。パンゲアがもし存在したとすると、その後、ユーラシア、北米、南米、アフリカなどに分裂していくわけである。なんと不吉な名前を付けたのだろう。誰が命名したかは知らないが、そのセンスの悪さを疑う。

●忘れ去られたホンハイ

新聞、雑誌、テレビなどでは、「日米韓連合」に買収されることになった東芝メモリの訴訟リスクや独禁法リスクの問題、および、東芝メモリが売却された後、カスのようになった東芝本体がどうやって生き残っていくかといった問題が盛んに議論されている。

しかし、本稿では、東芝メモリの買収候補先に最後まで残っていたにもかかわらず、いつの間にか脇役となり、買収に失敗し、忘れ去られていった台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)を取り上げたい。

7月頃に時間を巻き戻すと、東芝メモリの買収候補先は、SK Hynix陣営、WD陣営、ホンハイ陣営の3つに絞られていた(表1)。

SK Hynixの陣営には独禁法という障害がある上に、WDが同業他社の介入に猛反対しており、「東芝メモリ売却差し止め」の裁判を立て続けに起こすなどの問題があった。

WDの陣営に売却すれば訴訟リスクはなくなるが、SK Hynixと同様に独禁法の審査という障害がある上に、東芝の経営陣はWDを嫌悪していた。
一方、ホンハイには独禁法の障害はないが、経済産業省が技術流出を懸念して外為法違反を適用し、「何がなんでもホンハイには買わせない」と拒否されていた問題があった。

筆者は、この3陣営のなかで(ホンハイが買収することが良いか悪いかは別として)ホンハイ陣営が圧倒的に有利な立場にいると思っていた。巧妙に戦略を立てて実行すれば、外為法違反という障害を回避して、買収を成功させることができると考えていた。

ところが、ホンハイ陣営は有利に立つどころか、脇役に追いやられ、結果的に買収に失敗した。筆者にいわせれば、圧倒的に有利である立場を利することができず、戦略立案に失敗して経産省にダメ出しを食らい、シャープ買収のときの意趣返しをされたのである。

以下では、なぜ筆者が、ホンハイが圧倒的に有利だと思っていたのか、ホンハイの前に立ちはだかっていた障害はどのような戦略なら打破できたのかを論じたい。そして、最後に、ホンハイが買収したほうが良かったか否かについて意見を述べたい。

●ホンハイが解決すべきだった課題とは

ホンハイが東芝メモリの買収を成功させるために、解決しなければならなかった問題を整理してみよう。

まず、経産省が突きつけている外為法違反を回避しなければならない。次に、東芝とWDの訴訟をやめさせなければならない。そして、東芝の取締役会に「ホンハイに売却させる」ことを認めさせなければならない。

どれもこれも相当難しそうな問題であるが、筆者はすべて解決できると考えていた。その詳細を以下に論じよう。

●経産省はいつ外為法違反を持ち出してきたか

ホンハイが外為法違反を回避するためには、なぜ経産省が外為法を持ち出してきたかを理解しなければならない。その経緯をおさらいしてみよう。

1~3月初旬頃までは、日本政府、経産省、革新機構等は東芝(メモリ)問題に無関心だった。たとえば、世耕弘成経産相は1月20日の閣議後の会見で、「経産省として(東芝に対して)支援策など対応を検討していない」と述べている。また、世耕経産相は3月8日の衆院経済産業委員会で、民進党の近藤洋介衆院議員に、東芝に対する革新機構の関与を問われ、「一般論だが革新機構は『企業救済機構』ではない」と述べて否定的な考えを示している。

当の革新機構の志賀俊之会長は3月13日、「東洋経済オンライン」のインタビューに対して、「産業革新機構は産業競争力強化法という法律に基づき設置されており、成長事業にしか投資できない」「少なくとも私が会長兼CEOをやっている限りは、そんな都合のいいお財布にはならない」と、やはり東芝メモリの買収に対して関与しない方針であることを明言している。

ところが3月16日に世耕経産相が渡米して、米商務省長官とエネルギー省長官と会談した直後から、事態が急変する。東芝メモリの買収にそれまで否定的だったはずの革新機構と政策銀が急浮上する。そして、中国と台湾による買収を阻止するために、経産省が外為法違反を持ち出してきた。つまり、この会談で何かが起きたのだ。それは一体何か。

●なぜ経産省は外為法違反を持ち出してきたか

筆者の推理は以下の通りである。

東芝は2月14日、米ウエスチングハウス(WH)の原子力事業の損失が7125億円となり、16年末時点で自己資本が1912億円の債務超過になっていたことを発表した。WHの巨額損失はそのまま放置しておくと、さらに膨らむ可能性があるため、東芝は3月8日、米国で4基建設中だった原発事業から撤退し、米連邦破産法11条(日本の民事再生法)を適用申請することを決定した。つまり、止血するためにWHを倒産させたのである。

ところが3月9日、WHが巨額損失を計上していた4基の原発建設をめぐって、米国政府が83億ドルの債務保証をしていることが判明した。つまり、東芝が倒産させたWHの尻拭いを、米国が税金を投じて行わなければならなくなったのである。米国政府は、怒り心頭に発したに違いない。

そこで、米商務省長官およびエネルギー省長官が、日本の世耕経産相を呼びつけたのだろう。新聞などでは、世耕経産相が3月17日に自らの意志で渡米したかのように報道されていたが、その実態は、頭にきた米国政府が日本の責任者である世耕経産相を叱りつけるために呼びつけたのだと思われる。

日本は原発事業で米国に借りをつくってしまった。そこで、米国政府は「借りを返せ」と迫ったに違いない。その借りの返し方が、「カネにものを言わせて東芝メモリを買収しようとしている中国の紫光集団を阻止せよ」ということだったと推察される。

というのは米国政府は、18兆円もの国家IC基金を使って世界の半導体企業を爆買いしようとしている中国を脅威と考えており、それを阻止することを政府の諮問機関が米大統領に提言しているからだ。この提言書は「オバマ・レポート」と呼ばれており、1月初旬にホワイトハウスが公開した。

このように米国政府からの圧力で、中国の紫光集団による東芝メモリ買収を阻止する必要に迫られた経産省が3月24日、外為法違反という奥の手を持ち出してきたのである。つまり、外為法違反は日本政府が自らの意志で決定した方針ではなく、圧力をかけてきた米国政府の意向を忖度した政治判断であると考えられる。

●外為法違反の回避方法とは

当初、外為法違反のターゲットは中国の紫光集団だった。3月29日に行われた1次入札では、外為法違反を嫌悪した紫光集団、美的集団、台湾TSMCが応札を取りやめた。つまり、日本政府が持ち出してきた外為法違反は奏功し、米国政府の意向通りの結果を導くことに成功した。

しかし、外為法違反に該当するホンハイだけは、最高価格3兆円で応札し、1次入札を通過してしまった。ここで、経産省が初めて本性を露わにした。ホンハイには、シャープ買収をめぐって苦杯を舐めさせられた恨みがある。そこで経産省は、外為法違反のターゲットを、今度はホンハイに定めたのである。これは、ホンハイに対する経産省の復讐である。

このような感情的な問題で適用される外為法違反を、ホンハイがいくら論理的に説得して突破しようとしても、無駄である。したがって、ホンハイは経産省への正面突破は避けるべきだった。しかし、外部から観察していた限りでは、経産省に真っ向勝負を挑んで、鼻先であしらわれていたように見える。ホンハイは、もっと権謀術策をめぐらせなければならなかった。

では、どうすべきだったか。その答えは簡単である。日本政府が逆らえない相手に「外為法違反の解除」を命令してもらえばいいのである。その逆らえない相手とは唯一、米国政府である。

●米国政府を動かすには

ホンハイは、「米国にNAND工場をつくる」などというキャンペーンを張ったが、そんな程度ではダメである。そもそも、そんなことはホンハイには無理だと思われる。ホンハイが東芝メモリを買収した場合に、それによって米国がどれだけ潤うかをもっと訴えなければならなかった。

その際、ホンハイ陣営にアップル、デル、アマゾンが加わっていることが鍵となる。これら企業が完璧なサプライチェーンを形成することができる。それが、ホンハイ陣営の圧倒的な強みとなっていると筆者は考えていた。

まず、アップルのiPhoneには、東芝のNANDが使われている。そのiPhoneを組み立てているのがホンハイであるが、米国国民の多数がそのiPhoneを購入している。アップルに対しては、米国内で生産せず、米国に雇用を生まず、米国に税金を納めていないという指摘がある。ならば、ホンハイは自社では無理そうなNAND工場ではなく、iPhone用の組み立て工場(EMS)を米国に建設すると発表すればよかったのだ。

次に、世界シェア3位のPCと世界シェア2位のサーバーをビジネスとしているデルには、NANDを基幹部品としたSSDが必要である。そのデルのPCやサーバーをホンハイが組み立てている。このなかでは特にビッグデータが本格的に普及し始めたために、サーバー市場が途轍もない勢いで急拡大している。そのために、大量のSSD(つまりNAND)が必要になっている。

そして、このサーバーを大量に購入しているのが、クラウドビジネスで世界シェア1位のアマゾンである。つまり、東芝のNANDがデルのサーバーにSSDとして使われ、そのサーバーをホンハイが組み立てて、それをアマゾンが購入してクラウドビジネスを展開している。そのクラウドビジネスは、米国のIT産業に多大な利益をもたらしている。このことを、ホンハイはもっとアピールする必要があった。しかし、筆者の管見の限りでは、ホンハイからこのような発表を聞いたことは一度もなかった。

つまり、ホンハイが東芝メモリを買収し、たとえば米国内にEMSの巨大工場を建設すると発表すれば、iPhoneの組み立てやデルのサーバーの組み立てによって、米国国内に利益と雇用を生み出す。また、デルのサーバーを使ったアマゾンのクラウドビジネスも米国を潤す。

だから、「ホンハイが東芝メモリを買収すると米国にこんなに経済的利益があるのですよ」ということを、ホンハイの郭台銘CEO(最高経営責任者)はもっと大々的にトランプ大統領にアピールするべきだった。そして、米国政府から日本政府に「外為法違反を解除する」命令を出すように依頼すればよかったのだ。米国政府から命令されれば、日本政府は外為法違反を引っ込めざるを得なくなるだろう。

●東芝とWDの訴訟を止める方法

7月頃、東芝とWDは合計4つの訴訟合戦を展開していた(図3)。ホンハイが東芝メモリを買収するには、この泥沼の裁判をやめさせる必要があった。筆者は、それが可能だったと思っている。

まず、過去を振り返ってみて明らかなのは、WDが東芝メモリの買収候補で嫌悪感を表わした相手は、SK Hynixとブロードコムであるということである。筆者の知る限りでは、WDがホンハイに対して敵意を見せたことはない。これには以下の理由がある。

ホンハイの陣営には、デルとアマゾンが加わっていることは前述した通りだが、デルはPCとサーバーをメインビジネスとしている。それには、SSDが大量に必要である。つまり、WDにとってデルは極めて重要なカスタマーなのだ。さらに、デルのカスタマーにはクラウドビジネスのチャンピオンのアマゾンがいる。要するに、ホンハイの陣営には、WDのカスタマーであるデル、その上位カスタマーのアマゾンが存在しているのである。

WDとしては、カスタマーを敵対視することができない。だから、WDはホンハイの陣営に対して何も言うことができなかったのである。ということは、WDはホンハイの陣営の言うことを聞かざるを得ない立場にあるともいえる。

具体的にいえば、ホンハイの郭CEOがWDのスティーブ・ミリガンCEOに、「東芝に対する訴訟を取り下げろ」と直談判に行けば良かったのである。その際、デルのマイケル・デルCEOやアマゾンのジェフ・ベゾスCEOなども同行すれば、WDは大人しく従わざるを得なかっただろう。

●東芝の取締役会への説得

これまで述べたような戦略で、米国政府の口添えで日本政府に外為法違反を取り下げさせ、WDに東芝への訴訟を取り下げさせた上で、東芝の取締役会への面談を申し込めばよかったと思う。

ホンハイがWDの訴訟を取り下げさせたとなると、東芝の取締役会はホンハイに感謝することになるだろう。また、ホンハイ陣営にアップル、デル、アマゾンがいることにより、完璧なサプライチェーンが確立できることを説明すれば、東芝の取締役会はホンハイに東芝メモリを売却したくなるはずだ。

というのは、まず第一に、アップルやデルなどの巨大なカスタマーがいることにより、東芝メモリのNANDの営業およびマーケティング活動がほとんど必要なくなるからだ。また、カスタマーが固定されることにより、競合他社との間の価格競争に巻き込まれることもなくなる。

その上、東芝メモリは設計力とマーケティング力が弱いために、SSDビジネスが低調だった。しかし、デルとアマゾンがいるお蔭で、思う存分SSD用のNANDを生産できる。SSDのシステム設計について東芝メモリの力不足が発覚した場合、デルやアマゾンがなんとかするだろう。

さらに、なんといってもホンハイは、1次入札および2次入札で、いずれも最高価格で応札しているのである。買収資金はふんだんにある(ただし、シャープ買収のときのように、突然ディスカウントされる危険もある)。

●技術流出の懸念もない

経産省やジャーナリストたちは、ホンハイが東芝メモリを買収すると、NANDの技術流出が起きることを懸念している。これについては、まったく的外れな懸念であるといわざるを得ない。

第一に、現在すでに東芝メモリのNANDは次のような経路で、スマホ、PC、デジタル家電、サーバーに組み込まれている。

まず、東芝メモリが四日市工場でウエハ上にNANDを製造する。このNANDは台湾メーカーに送られて1個1個切り出され、パッケージングされる。これが中国のホンハイ工場に送られて、検査とスクリーニングが行われたうえで、スマホ、PC、デジタル家電、サーバーに組み込まれ、製品として出荷されている。

つまり、すでに東芝メモリのNANDは、四日市工場→台湾→中国という経路で、各種デジタル機器に組み込まれているのである。台湾や中国に東芝メモリのNANDが渡ることを技術流失というのなら、もうすでに製品として技術は流出しているが、これについて経産省をはじめとして誰も問題視していない。だったら、最終組み立てを行っているホンハイがNANDの製造元の東芝メモリを買収することに、なんの問題があるというのだろうか。

第二に、東芝は3次元NANDの量産ができず苦しんだために、サムスン電子の西安工場の3次元NAND構造を模倣した。要するに、技術を盗んだのは東芝のほうである。そして現在、サムスン電子の技術は、東芝メモリよりずっと先を快走している。

その上、サムスン電子の技術も、元を辿ればスパンションの技術を盗んでいる。これは2008年に訴訟となり、スパンションが勝訴し、サムスン電子が7000万ドルの和解金を支払うとともに、この両社はクロスライセンスを締結した。そして、16年3月から、中国紫光集団傘下の長江ストレージ(旧XMC)がスパンションとともに、3次元NANDの開発を開始した。現在、32層が立ち上がってきており、東芝メモリに追いつくのは時間の問題である。

つまり、経産省等が技術流出を懸念している中国では、韓国籍ではあるがサムスン電子の西安工場で、東芝メモリよりもレベルの高い3次元NANDが製造されている。また、サムスン電子とクロスライセンスを締結しているスパンションが長江ストレージとともに、サムスン電子の3次元NANDを合法的に模倣して、今年末あたりから量産しようとしている。だから、中国にはすでに3次元NANDの技術がある。このような状況のなかで、ホンハイが東芝メモリを買収したところで、それが技術流出というのは、まったくお門違いである。

このようなことは、東芝メモリの幹部たちはよく認識しているはずである。以上、外為法違反もなく、WDの訴訟も取り下げられ、完璧なNANDのサプライチェーンがあり、資金力も豊富で、技術流出の懸念もないとなれば、東芝の取締役会がホンハイによる東芝メモリの買収を歓迎こそすれ、拒む理由は微塵もない。

●ホンハイが東芝メモリを買収することの是非

以上、ホンハイは、実は圧倒的に有利な立場にあって、巧妙に戦略を立てて実行すれば、外為法違反の障害を回避して東芝メモリを買収できたであろうことを論じた。しかし、結果として、ホンハイは脇役に甘んじ、東芝メモリの買収に失敗した。知恵が足りなかったといわざるを得ない。

では、ホンハイが東芝メモリを買収できたと仮定して、それは東芝にとって良いことなのか否か。

筆者は、日本で発売されているホンハイや郭CEO関係の書籍6冊をすべて読んだ。ホンハイは1974年に郭CEOが創業し、EMSとして急成長し、現在の売上高は16兆円、従業員数は130万人の巨大企業となった。特に中国に巨大なEMS工場が集中しており、世界のスマホ、PC、デジタル家電の約9割をホンハイが製造しており、「世界の工場」といわれるまでになった。

ホンハイの競争力は、一言でいえば「スピード」である。スピードに関しては郭CEOが発言した多くの名言が書籍に記載されている。たとえば、「この世界では、大きい者が小さい者を打ち負かすのではない。スピードのある者が遅い者を打ち負かすのだ」「スピードのある者には利益が、ない者には在庫が残る」「スピード=コスト」などである。

東芝メモリの売却問題をみても、東芝のスピードは遅すぎる。それゆえホンハイが東芝メモリを買収したら、否が応でもスピードを叩きこまれるから、それは東芝にとって良いことかもしれない。

●ホンハイに歩留りが理解できるか?

その半面、果たしてホンハイに半導体事業が経営できるかという疑問もある。ホンハイは郭CEOの独裁企業であり、軍隊のような鉄の規律で社員は縛られている。そして、「実験室をでよ! 先端技術などない。あるのは実行する規律だけだ」などという郭CEOの発言がある。しかし、半導体メモリとは先端技術の集積である。その技術開発なくして、半導体ビジネスはあり得ない。

また、郭CEOには「99.99%の哲学」があり、マイケル・デルがいうところの「われわれの目標は、100万台のPCのうち、不良品を1台以下にすることだ」という思想を実践している。この思想や哲学は、わからないわけではないが、このような人たちが半導体工場を経営するとどういうことになるだろう。

半導体には歩留りというものがある。新製品が開発センターから量産工場に移管された際に、歩留りはほとんどゼロである。500~1000工程の一つひとつを改善していくことにより、数カ月かけて90%ほどの歩留りに向上させていく。しかし、せいぜい歩留りは90%なのである。99.99%の歩留りなど、非現実的な話である。

郭台銘CEOが90%の歩留りに対し、なんというだろうか。「10%も不良品があるとは何事だ」と叱責するのではないか。1枚のウエハから1000個のNANDを同時形成するとして、歩留り90%なら、100個が不良品となる。「99.99%の哲学」の郭CEOは100個の不良品を許せないだろう。

ホンハイが東芝メモリを買収する道は断たれたが、その後の報道を注意深く見ていると、ホンハイには半導体事業に進出したそうな気配があるようだ。そのとき、果たして郭CEOが半導体の歩留りという概念を理解できるかどうか、筆者には疑問に思えてならない。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)

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