「第3のビール」が消える? 大手こぞって“クラフトビール”にシフト

「第3のビール」が消える? 大手こぞって“クラフトビール”にシフト

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  • 更新日:2016/12/01
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サントリービール「ザ・モルツ」 (c)朝日新聞社

忘年会シーズンを目前に、聞き捨てならないニュースがまた飛び込んできた。ビール類の税額一本化の方針だ。なんでもビールは減税だが、安さが売りの発泡酒と第3のビールは増税とか。今度は本気か。節約派もビール派も要チェック! 本誌がウラ側を探ってきた。

「間違いなくその質問がみなさんからあるかな、と思って来ました」

11月24日午後、東京都内のホテルであったアサヒグループホールディングスの「欧州ビール事業方針説明会」。同社が主力のスーパードライを引っ提げ、英国で子会社を設立し、小路明善社長が英国やイタリア、オランダで攻勢をかける青写真を発表した。

壇上の小路社長に記者から質問が飛んだのは、前週末からニュースで流れた「ビール類の税額一本化」について。ビール類の税制を、発泡酒と第3のビールは増税、ビールは減税とする内容だ。減税で追い風となるビールでアサヒはシェア49.6%(2015年)と断トツの首位。小路社長は笑みともニガ笑いともいえない表情で手元の書面を読み始めた。

「まだ正式に決まっているわけではありません。あえてビール減税については、早期改正を求めたい。諸外国と比較しても日本の酒税は非常に高く、ビールはほかの酒と比べても特に高い。14年に税制改正大綱で『結論を得る』としてから2年が経つ。報道のとおりであれば、早期にビール減税を、と言いたい」

ここ1~2年、出ては消えた政府与党のビール類に関する税制改正論議。特に昨年度、正式な政府大綱の元となる与党大綱で、前年度までは「速やかに結論を得るよう検討を進める」にとどめていた表現が「速やかに結論を得る」に変わり、各社が「これは本気だ」と身構えた。ところが財務省は17年春の消費増税10%の軽減税率の品目選定などに追われ、酒税改正検討も結局立ち消えに。しかし、消費増税延期となった後の今回は、より具体的な形で姿を現した。

報道によれば、ビール類の酒税改正は20年、23年、26年の3段階。現在、税額は350ミリリットル当たりでそれぞれビールは77円、発泡酒は47円、第3のビールは28円だが、この差を縮小させ、10年後に55円程度に一本化するというものだ。

最も割を食いそうなのは第3のビールだ。仮に55円となれば税金は倍増。しかも「消滅」という悲しい末路をたどる予感も生まれる。第3のビールは、低迷する業界、そして節約派の救世主だ。売れ筋で言うと、キリン「のどごし生」やサントリー「金麦」、アサヒ「クリアアサヒ」、サッポロ「麦とホップ」など、本誌を読みつつ世話になっている方も多いはずで、「庶民いじめ」との声もあがりそうだ。

一方で、実は「ビール減税」の風向きを感じた業界はすでに動き始めている。ビール商品への傾倒だ。

サントリーは昨秋に「ザ・モルツ」を発売。アサヒは今年3月、麦芽使用比率を通常の1.2倍、糖質は50%オフの「アサヒ ザ・ドリーム」を7年ぶりのビール新商品として出した。キリンも今年から地域の好みや特徴を踏まえた47都道府県ごとの「一番搾り」を企画。各社が需要掘り起こしに向けてテコ入れと強化をスタートさせたほか、近年は定番商品と異なる地ビールのような味わいのクラフトビールも展開し始めている。

「ビール減税」を見据えた動きだが、ここまで積極的にシフトし始めたのはなぜか。ある業界関係者は“ビールシフト”のウラ事情についてこう告白する。

「酒税より前に、ビール需要が縮小する危機感がある。ワイン人気などを考えると、相対的にビールの魅力が低下しています。ビールには発酵や原材料、ホップの種類も多様で、例えばドイツでは修道院ごとにビールがあるなど、世界には多種のビールがある。それなのに日本では、のど越しが特徴の『ピルスナータイプ』しかなかった。大手各社がほぼピルスナーしかつくってこなかったんです。その結果、需要が伸びず、“新橋のオッサンの酒”のイメージになった」

では向かい風が吹きそうな発泡酒や第3のビールはどうなるのか。この関係者はこう続ける。

「業界が努力をしてきた分野だが、各社とも既存ブランドの季節限定品を出すのにとどめ、新商品は手控え始めている。糖質オフやプリン体オフなどの機能性に対する需要、強いブランドには固定客がいるので、そこは続行するはず」

ただ追い風ムードのビールとて安穏としてはいられない。というのも、例えばアサヒが7年ぶりに新発売したビール「ザ・ドリーム」がなかなか消費者の心をつかめていない、というのだ。

同社によると、年内の販売目標は400万箱(1箱は633ミリリットル×20本換算)と設定したが、10月末時点で計140万箱。小路社長も「計画どおりに行っていない。(苦戦の原因は)糖質50%オフという点を強調すると、どうしてもビールという認識でなかなか受け入れてもらえておらず、ビールではないんじゃないかと思っておられる方がまだたくさんいる。ビール購入者は(特定ブランドを購入する)ロイヤルユーザーが多いため、需要創出には時間もかかる」とする。

悲喜こもごもの酒税改正となりそうだが、まだまだ先の話で、そもそも実現するのか。ある大手紙記者はこう予想する。

「財務省にとっては、第3のビールでいいやという風潮になると、同量が売れても税収は少ない。与党の宮沢洋一税調会長は『時期と何段階で上げていくというのは書き込みたい』と宣言しているので、今年は時期については政府大綱に入るでしょう。ただ1年後の消費増税すらできなかった政権や財務省が、10年後の酒税改正を本当にできるのか。最後は『景気や業界の状況をみながら』という一文も入れ込むが、政治は世論も見ている。結局、第3のビールについてもなかなか決められないのでは」

ビール党には気をもむ話題だが、茶番は御免被りたい。与党が演ずる“田舎のプロレス”でないことを祈るばかりだ。

※週刊朝日 2016年12月9日号

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