異例の「思想闘争」勃発!中国は再び毛沢東時代に戻るのか

異例の「思想闘争」勃発!中国は再び毛沢東時代に戻るのか

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/02/15
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働いても働いても豊かになれず

ここ1カ月の間に、現代社会を描いた中国映画を相次ぎ鑑賞する機会があった。いずれもドキュメンタリー映画で世界的にも有名な王兵(ワン・ビン)監督の作品で、雲南省の山奥に暮らす3姉妹を記録した「三姉妹~雲南の子」(2012年)と、現在渋谷の映画館で公開中の「苦い銭」(2016年)だ。

「三姉妹」は強風が吹き荒れる山の斜面にしがみつくように人々が暮らす貧しい村で、出稼ぎで父母が不在のぼろ家で助け合って生きる幼い3姉妹の生活を記録した作品だ。

「苦い銭」はこの作品のいわば続編で、長江デルタ地区の衣料品を作る零細工場で働く出稼ぎ労働者の、長時間労働でもわずかな金しか稼げない希望のない毎日を描いている。

いずれの作品にも共通するのは、日本のメディアでは伝えられることが少ない、北京や上海など大都会の繁栄とはまったく無縁の人々の暮らしだ。

1978年に鄧小平が始めた中国の「改革開放」は本来、彼ら貧しき農民や出稼ぎ労働者にも豊かになるチャンスを与えたはずだったが、30年以上を経てはっきりしたのは、中国社会の貧富の格差は広がるばかりで、「権貴」と呼ばれる特権階級や彼らとつながる企業家に富が集中する一方、いわゆる「低端人口」と呼ばれる彼ら貧しき人々には決して豊かになれるチャンスが回ってこないということだ。

この改革開放のあり方を巡って、中国では今年に入り、知識人の間で激烈な論争が起こっている。共産党政権の合法性にもつながる議論だけに、海外の中国研究者やメディアもその動向に注目しており、ここではこのテーマを取り上げてみたい。

今回の論争の口火を切ったのが、中国共産党の理論誌『求是』に掲載された、人民大学マルクス主義学院教授周新城の論文「共産党人は自己の理論を一言で概括できる:私有(財産)制消滅」という文章だ。多維ニュースによれば、文章はまず左派の微信アカウント「察網」に掲載され、その後『求是』の微博に転載された。

文化大革命の亡霊が再び

論文は、「私有制消滅は社会主義発展の客観的、必然的趨勢だ」「私有制消滅、公有制確立、これは共産党員の忘れてはならない初心であり、党員が心に刻まなければならない使命だ。これを忘れることは、すなわち裏切りであり、共産党員とはもはや呼べない」と訴えた。

さらに「現在、公有制を堅持発展させるか、私有制を徐々に消滅させるかの闘争は、国有経済にいかに対応するかという問題に集中的に表れている」と指摘。

「国有経済を消滅させようと騒いでいるお偉いさん方は、社会的に影響力のある“著名経済学者”や、高い地位にあり実権を握っている指導者もいる。彼らの大多数は共産党員なのに、『共産党宣言』の私有財産制消滅や国有経済を主とする公有制についての論断を読んだことがあるのか」と批判のトーンを強めた。

具体的には張五常、呉敬璉ら著名経済学者を名指しし、「赤裸々な反党反社会主義の張五常は経済管理部門の会議で、『人間の本性は利己的だという一言で、共産主義を論破できる』と語った」と批判。

さらに「社会主義には国有企業の必要がない」と過激に吹聴しているのは呉敬璉であり、国有企業を何としても消滅させようとしていると指摘。「私有財産制万歳を吹聴している」「赤裸々に党や社会主義に反対する新自由主義分子」「人格も卑劣」などと罵倒を繰り返した。

ただ、GDPで世界第二の経済大国となった中国に、いまさら毛沢東時代のような経済に戻れという主張自体、無理があり、ネットでも多くの批判があった。

フランス国際ラジオによれば、新浪網では6万を超えるコメントの大部分は、周の文章は文革の風潮があるとの見方で、「まずあなたが自分の財産をすべて差し出してから、私有制を批判せよ」なの批判があったという。

華南師範大学の張立建講師は、周の文章は常識に反しており、他人の文章を悪辣に攻撃する文章を公開の刊行物に載せるとは、この刊行物の高い見識と恐れ知らずに感服するしかない、と皮肉を込めて述べた。

だが、このような時代錯誤とも言える論文が党の機関誌に掲載されたことは、大きな波紋を広げた。特に看過できないのは、周論文がこれまで公的な報道ではほとんど紹介されなかった習近平総書記の次のような発言を取り上げたことだった。

2016年10月に行われた全国国有企業党建設工作会議で、習近平は次のように語った。

「中国共産党の指導と我が国の社会主義制度のもと、国有企業と国有経済は不断に発展させ、壮大にしなければならない。だが一時期から、社会には国有企業に対し『国有企業による独占』『国有企業は民間と利益を争っている』『国有企業は持ちこたえられない存在だ』などと奇怪な言説を述べるものがあり、そして『私有化』『脱国有化』などと吹聴している。

特に各種の敵対勢力と下心のある人が国有企業に泥を塗り、国有企業改革の最良の方法は『解体』だなどと主張し、人心を惑わそうとしようとしている。我々の同志にはこの問題がはっきりと理解できず、この誤った観念を受け入れているが、我々は政治的にこの問題を見るべきであり、純粋な経済問題と考えたら、あまりにも幼稚だ!」

最高指導者がこのような考えを明らかにしていたからこそ、周は堂々と「私有制消滅」との主張を党機関誌で展開できたのであり、これが筆者が以前、本ウェブでも紹介した、文化大革命の歴史を教科書から削減する動きとともに、改革開放の流れを否定する左傾化、毛時代への逆行と人々には映ったのだった。

この文章について、趙紫陽元総書記のブレーンで、1989年の天安門事件後、海外に逃れた政治学者、厳家祺は在米華字メディア、博聞社の取材に次のように指摘した。

「毛沢東時代を概括すれば3つの特徴がある。『私有制消滅』『帝政の復辟』『鎖国』であり、文革時代はこの3つが頂点を極めた。鄧小平が提唱した改革開放は、一党独裁を除けばこの3つに背くものだった。『求是』に載ったこの『私有制消滅』という文章は文革終了後初めて現れたもので、重要な目印だ」。

そして「北京の地底から再び現れた文革の幽霊が再び中国の上空を徘徊している」と表現した。

食いつぶされる改革開放

だが、改革開放の相次ぐ後退の動きに、中国の主流派の学者からも批判の声が上がった。特に清華大学の学者、許章潤教授による「保衛“改革開放”」つまり「“改革開放”を守れ」という文章が2月に入りネットで知識人やメディアの間に拡散した。

原文は1万字を超え、中国語として難解な部分もあるが、筆者なりにまとめれば、主な趣旨は次のとおりだ。

「中国は今、改革開放の第3の波の中にあり、本来ならば歴史に与えられた使命を果たし、憲政民主の政治的転換を実現し、世界文明社会へと融合すべき段階だ。ところが現在大きな挫折が出現し、歴史の潮流に逆行する動きが起きている。今立ち上がって『改革開放』を守り、『1978年』を守らなければならない」―ここでいう第3の改革の波とは、1978年の改革開放のスタート、1992年の鄧小平の南巡講話に次ぐ第3の波という意味だ。

そして具体的には次のような逆行する動きがあるという。

1)改革開放が中国の諸問題を解決するという基本認識が破棄されようとしている。

2)改革開放後、社会と思想が発展を見せ、権力と権利のバランス意識が官民に広がったが、ここ数年、地方政治のゴロツキ化、国民を階級化する血統論、赤裸々なナショナリズム、大多数の国民の政治参加を排除する専制政治が進むなど、国のガバナンスや現代化の理念が破壊されている。

3)改革開放後の三十数年間で国民の努力によって蓄積された資産が、内政や民生に使われるのではなく、(海外援助や軍拡など)外向型の政策、非効率な国有企業などにより食いつぶされそうになっていること。

そしてこうした中で「私有制消滅」などの文革期の極論が、やっと生活が安定したばかりの国民に恐怖を与えている。こうしたことから「改革開放」を守ることが時代の急務だとした。

さらには西側の右派の思想を取り込んだ新左派の台頭や、人々が政治から小市民的生活へと逃避し、憲政など国家の重要問題を語ることができない社会の雰囲気になっているとして、国家の発展に必要な思想と文化の発展が、言論の自由が妨げられる中で窒息状態にあると指摘した。

こうした中で特権階層は今や「天下を取り、政権に居座り、国を食いつぶす」存在であり、改革開放の堅持という政治的な責任を負えるのは中産階級のほかにはなく、彼らに政治の最前線に出ることを呼び掛け、自覚的に政治的な地位を高め、主導権を取らねばならないとしている。

最後に、習近平ら指導者に対し「大権を掌握したのだから、大事を行ってほしい」として、この大事とは「台湾解放」や日米との敵対、世界の指導者になることではなく、「官僚の財産公開、貧困支援、農村振興と教育の普及、司法の独立に向けた改革、全人代の権限強化、多元的なメディアの容認などであり、これらを進めることで、中国を民族国家から民主国家へと発展させることができると結んでいる。

この文章は民間シンクタンク、天則経済研究所で行われた講演とのことで、同研究所といえば政治改革を提唱する著名な経済学者の茅于軾が責任者を務めており、改革派の声を代弁しているといえるだろう。

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許章潤・清華大教授(右)と馬立誠・元人民日報論説委員

左派は許氏にさっそく反論し、周論文を掲載した『察網』は「改革開放を守れと言いながら、実は中国の社会主義や共産党の指導を否定し、全面的な西側化を吹聴するものだ」と批判した。

許氏は昨年秋、「対日新思考」で有名な元人民日報論説委員の馬立誠氏らと来日し、筆者が箱根や伊豆を案内した。物静かな学者で、来日時に発表したという日中関係に関する論文を後日送ってくれた。

今回改めてメールを送ってみたところ、天則経済研究所で以前発表した文章を送ってくれた。厳家祺氏は「もし許氏が今回の言論を理由に迫害を受けるようなら、中国は文革の古い時代に戻ったということだ」と語ったが、無事が分かって安心した。

進む知識人の分裂

さて、今回の「改革」と「文革」を巡る論争について、中国の知識人の間ではどのように受け止められているのか。著名な自由派作家の慕容雪村は、筆者に次のように語ってくれた。長くなるがそのまま引用する。

「ここ数年、中国のイデオロギー全体でますます保守的で、社会を厳格にコントロールしようとする傾向が強まっている。政府が専制政治を再び始めようとの動きであり、ここ数年多くの問題で毛沢東時代に近づいている。」

「この種の原理主義的な社会主義とは、私有制消滅(の主張)やNGOの解散、民間教会や弁護士や言論への弾圧などだ。こうした状況で、許教授のような体制内の学者は80年代に始まった改革開放を懐かしむようになった。当時は(言論の)空間もあり、社会にも活気があった。こうした人々は『改革』により後ろ向きの『文革』に対抗、つまりは共産党自らの理論により共産党の今のイデオロギーのやり方に挑戦しようとしている。」

だが慕容雪村は、「ここ数年知識人階層の分裂は非常に深刻で、知識人の中には異なる意見もある」と次のように指摘した。

「知識人の大部分は時流に合わせ、イデオロギーに適応し、政府の呼び掛けに積極的に応じ、『習近平思想検討会』などに参加、情勢を賛美する文章を書く、いわば『党知』(党内知識人)だ。さらに一部は、体制や政権と様々な関係があるが、現在のような社会の後退ではなく、前進を望んでいる。許教授や(北京大学の)賀衛方教授はそうした『公知』(公共知識人)だ。」

「だが最も過激な『異知』(異見=反体制知識人)は許教授の文章に賛成していない。許氏らは前提として共産党の統治や合法性を認めた上で、温和な統治を望んでいる。だが反体制知識人らは、共産党の統治そのものが非合法であり、改革を守るというやり方自体が、(現在の体制を)持続させようとしているだけで、誤りだと考えている。彼らは、現在の様々な問題を解決するには、(共産党の)統治を終わらせることだと考えており、『改革を守れ』という言説に賛成できないのだ。」

「党知」「公知」「異知」という区分は初めて聞いたが、許氏のようなバランス感覚のあるリベラルな知識人が迫害されるようならば、中国の思想界は左右極端に分裂してしまい、社会の共通認識の形成は困難になるだろう。

厳家祺は「改革開放はすでに変質してしまったが、文革の幽霊が再び中国の大地に現れた時、許章潤は『改革開放を守れ』と呼び掛け、人々に文革や80年代の改革開放を思い出させ、中国人民に毛沢東時代復活への警告と、胡耀邦、趙紫陽の改革開放への懐かしい思いを喚起した。

許氏の呼び掛けは、中国が再び毛沢東の時代に戻ることはできないということを呼び覚ますのに役に立った」と語った。

習近平政権が毛沢東回帰路線を進める中で、許氏のような温和な改革派に言論と活動の自由が保証されることを、願ってやまない。

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