誰がための「官邸結婚発表」だったのか? 世襲政治を決定づける小泉進次郎

誰がための「官邸結婚発表」だったのか? 世襲政治を決定づける小泉進次郎

  • ハーバービジネスオンライン
  • 更新日:2019/08/15
No image

世襲のプリンス、小泉進次郎。(撮影/横田一)

◆小泉進次郎をめぐる二つの報道

8月初め、参院選後の短い臨時国会が終わると、小泉進次郎衆議院議員に関する二つの出来事が、大きく報じられました。前者は社会的な話題となり、後者は政治ウオッチャーの話題となりました。

「自民党の小泉進次郎衆院議員(38)とアナウンサーの滝川クリステルさん(41)が7日、首相官邸で記者団に対し、結婚することを明らかにした。小泉氏らによると、滝川氏は妊娠しており、年明けにも出産する予定。安倍晋三首相や菅義偉官房長官とも面会し、結婚の報告をしたという」(出典:『朝日新聞』2019年8月7日

「菅官房長官が10日発売の月刊誌「文芸春秋」の誌上で自民党の小泉進次郎衆院議員と対談し、9月に予定される内閣改造で小泉氏が入閣候補者との考えを示したことがわかった。「ポスト安倍」の有資格者との認識も明らかにした」(出典:『読売新聞』2019年8月8日

首相官邸における異例の結婚発表、滝川さんの妊娠状況、雑誌記事の準備等を考えると、将来の小泉進次郎政権に向けて、誰かによって周到に準備された政治的な動きと考えられます。小泉議員は、内閣の役職(大臣・副大臣・政務官等)に就いておらず、首相官邸で結婚発表をする必然性はまったくありません。

筆者の個人的な経験からしても、誰かの作為を感じます。筆者はかつて、小泉議員が内閣府政務官のとき公務視察に同行しましたが、人々の話をじっくり聴く姿勢を何度も見て、好印象を抱きました。その時の虚栄心のかけらもない姿からすれば、首相官邸で結婚発表する姿は、想像もできません。そのことも、誰かが彼の結婚を政治的に利用したように考える理由です。

その誰かとは、菅義偉官房長官です。もちろん、安倍首相にも、政権に批判的な小泉議員を手なずけるメリットはありますが、既に政権基盤を安定させているため、どうしても手なずけたいというほどの必要性はありません。

菅官房長官にとっては、自らが自民党総裁、そして首相を目指す上で、絶対的に欠落しているものがあり、小泉議員によってそれを補えるメリットがあります。ですから、菅官房長官は、小泉議員を絶対的に必要としているのです。

◆世襲議員しか総裁に就任できなくなった自民党

菅官房長官が絶対的に有していないものを探るには、自民党の歴代総裁を見る必要があります。過去30年(1990年以降)の歴代総裁は、以下のとおりです。

14代 海部俊樹

15代 宮沢喜一 宮沢裕衆院議員の子

16代 河野洋平  河野一郎衆院議員の子

17代 橋本龍太郎 橋本龍伍衆院議員の子

18代 小渕恵三  小渕光平衆院議員の子

19代 森喜朗

20代 小泉純一郎 小泉純也衆院議員の子

21代 安倍晋三  安倍晋太郎衆院議員の子、岸信介元首相の孫

22代 福田康夫  福田赳夫元首相の子

23代 麻生太郎  麻生太賀吉衆院議員の子、吉田茂元首相の孫

24代 谷垣禎一  谷垣専一衆院議員の子

25代 安倍晋三  安倍晋太郎衆院議員の子、岸信介元首相の孫(現総裁)

宮沢喜一総裁を最後に、自民党総裁のほとんどが、衆院議員を父に持っていることが分かります。宮沢議員は、池田勇人元首相の大蔵次官時代から部下として支えた、戦後政治の第二世代です。それまでの自民党は、初代総裁の鳩山和夫議員を除けば、ほとんどがゼロから議員となった政治家ばかりです。佐藤栄作議員も、兄の岸信介議員よりも先に衆院議員となっていました。第一世代を支えた第二世代も鬼籍となり、安倍首相ら現在の政治家たちは第三世代といえます。

異彩を放つのは、森喜朗総裁です。父は、石川県内の村長ではありましたが、国会議員ではありませんでした。

森議員の特徴は、自民党派閥の清和政策研究会の番頭格だったことです。清和研は、福田赳夫議員に始まり、安倍晋太郎議員に引き継がれ、そして現在は、安倍晋三首相を支える派閥(細田派)になっています。

森議員は、小渕総裁(首相)が急逝したとき、自民党幹事長を務めていたことから、総裁に昇格して首相となりました。いわば、急場のリリーフとして登板したようなものです。当時の最大派閥であった経世会が、本格派の後継候補を用意するまでのつなぎだったわけです。ただ、第二派閥の番頭として、安倍晋三議員に引き継ぐまでの会長を務めていたことが、幹事長として腕を振るう基盤となり、そのことがリリーフに起用された理由になっていました。

◆番頭・リリーフとしての菅官房長官

菅官房長官が、自民党の総裁、そして首相を目指す上で、絶対的に欠けているのが「血筋」です。菅長官は、高校卒業後に、秋田県から集団就職で上京してきました。父は、地元の町議会議員をしていましたが、政治家というよりも地元農家の顔役でした。その後、国会議員の秘書、横浜市議会議員を経て衆院議員になっています。

自民党の総裁に「血筋」という条件は明文化されていませんが、前述したように、過去30年で実質的な「前例」となっています。もし、菅長官が総裁・首相を目指しているならば、自らに欠けるものとして「血筋」を意識し、それを補おうと考えるのは自然なことです。

菅長官が目指すロールモデルに適当なのは、森総裁モデルです。すなわち、若手の有力世襲議員(安倍晋三議員)の後ろ盾となり、その勢力(清和政策研究会)の番頭として、彼につなぐまでのリリーフ総裁を目指すモデルです。ただ、森総理・総裁は、短期で失脚しましたが、失政や失言を防げば、長期政権も夢ではありません。その点の「危機管理」は、菅長官の得意とするところでしょう。

つまり、菅長官は、小泉議員の番頭・リリーフとしての役割を担おうとしていることが、一連の報道からうかがえるわけです。

◆小泉進次郎首相による「自民党プリンス・番頭モデル」の確立

自民党の総裁は、16代の河野洋平総裁から、森総裁を除き、世襲議員によって占められています。それでも「自民党をぶっ壊す」の小泉純一郎総裁までは、派閥力学が重視されていました。ところが、小泉総裁によって派閥の機能が低下させられたため、「なんとなく血筋」という流れが生まれてきました。ちなみに、安倍総裁の対立候補の石破茂議員も、父が参院議員でした。

森総裁は、有力世襲議員の後見役、勢力の番頭として、就任しました。世襲議員との補完関係によって総裁になりました。

すると、菅義偉総裁と小泉進次郎総裁の誕生は、こうした「自民党プリンス・番頭モデル」が確立することを意味します。世襲で周囲から見込まれた議員が「プリンス」として総裁・首相となり、非世襲議員は「番頭」として実力を示し、総裁・首相を目指す政治モデルです。これが、自民党で首相を目指す政治家の王道となるのです。

「自民党プリンス・番頭モデル」の確立は、自民党が第一党を占め続ける限り、日本で世襲政治が続くことを意味します。日本で首相になるには、自民党国会議員の家に生まれるか、その番頭を目指して這い上がるか、二つに一つとなるのです。

それは、戦後社会のひずみを維持し、さらに強化することを意味します。重厚長大型の大企業を中心とする社会構造を維持し、そうした人脈につながることが、社会的な「成功」となるからです。「血筋」とそれを支える「実力」によって、人脈をひたすら強化することが、彼らのメリットになります。

そうした社会で良しとする方は、菅長官と小泉議員を応援し、この「自民党プリンス・番頭モデル」の確立を目指しましょう。自らが自民党の一員となり、藩屏として支えることも一つの方法です。

逆に、そうした社会のひずみを解決したいと考えるならば、自民党を野党に転じさせる「政権交代」を求めることが必要です。自民党は、与党でいること自体を目的化する政党です。野党になれば、政権という生命維持装置を失い、次第に衰え、崩壊していくでしょう。

世襲政治で、社会のひずみを拡大するか、政権交代で、社会のひずみを解消するか。そのカギを握るのは、有権者の選択です。

【田中信一郎】

たなかしんいちろう●千葉商科大学准教授、博士(政治学)。著書に『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

政治カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
手元に残るのは額面約130万円の半額以下?! 月々18万円を自主返納、「身を切る改革」実行中
安倍総理は「政府不信」で支持される!?
次期首相争い、事実上始まる...安倍首相vs.菅官房長官、対決激化の様相に
【参院新人議員に聞く】自民党・河井案里氏「人生やり直せる社会作る」
安倍首相、内閣改造「大幅」で検討=人選、政権総仕上げ意識-二階幹事長の処遇焦点
  • このエントリーをはてなブックマークに追加