ソニー復活へのキーワードは「反脆さ」

ソニー復活へのキーワードは「反脆さ」

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  • 更新日:2018/02/14
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ソニーは、4月1日付けで代表執行役社長兼CEOを、現在CFOを務める吉田副社長に交代する人事を発表した。平井社長は記者会見で、「コンシューマエレクトロニクス事業を、安定した収益を挙げられる事業構造に変革できたことは感慨深い」と語った。

2017年度の業績見通しの売上高が8兆5000億円、営業利益が前年比2.5倍の7200億円という数字は、確かにソニーという企業の復活を示すものだろうし、「規模を追わず、違いを追う」という方針で、コンシューマエレクトロニクス事業の事業構造を変革して黒字化した平井社長の努力は讃えられるべきなのかもしれない。しかし、次期社長に引き継がれる課題は大きい。

リーマンショックという誰も予測できなかった衝撃によって、世界的な景気の低迷や円高などが引き起こされた。ソニーは、すでにグローバルな競争力を失っていたパソコンやテレビなどのコンシューマエレクトロニクス事業(エレキ)の業績悪化が加速し、長期的な経営不振に陥った。

(Alex Wong/Getty Images)

やむなく、事業の売却や撤退、さらに大規模な人員削減などのリストラを繰り返し、10年を費やして、ようやく回復にこぎ着けたというところだ。しかも、平井社長らがエレキの復活の担い手と位置付けてきたスマートフォン事業を抱えるモバイル・コミュニケーション分野(MC)は苦戦しており、黒字を維持してゆく見通しは立っていないのが実情だ。

デジタル時代になって、テレビも携帯電話もカメラも携帯音楽プレーヤーも、インターネットのクラウドサービスと繋がるようになった。映画や写真や音楽といったコンテンツ自体は変わらないが、それを楽しむための仕組みやサービスが大きく変化し、その体験が新しい顧客価値を生み出した。

平井社長は、ラストワンインチというキャッチフレーズを考案した。それは、クラウドとユーザーのつながりのラストワンインチ(カメラはファーストワンインチだが)を担うハードウェアの価値向上に集中するという意味だ。「規模を追わず、違いを追う」とは、そのハードウェアの高画質や高音質を追求する高級化路線をひた進むこと示している。

高級化路線は、スマートフォンでは行き詰まっているが、デジタルカメラでは自社製のセンサーとミラーレスという「違い」で、キヤノンとニコンの独壇場だった一眼レフ市場に大きく食い込むことに成功している。大画面の薄型テレビの世界市場では、量子ドット液晶テレビで先行するサムスンや、ソニーと同じLGディスプレイ製の有機ELパネルを採用するLGとの「違い」を追う戦いが始まったばかりだ。

MCの他、テレビやオーディオなどのホームエンタテインメント&サウンド分野(HE&S)と、デジタルカメラを中心とするイメージング・プロダクツ&ソリューション分野(IP&S)を合わせたエレキは、売上が全体の30%、営業利益は20%を占めているに過ぎない。高級化路線だけで、エレキのソニーの復活は難しい。高級化路線だけでは大きな成長は望めない。そして、ゲームチェンジャーには脆い。

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「毋なる自然は“安全”なだけじゃない。破壊や置き換え、選択や改造を積極的に繰り返す。ランダムな事象に関していえば、『頑強』なだけでは足りない。長い目でみれば、ほんのちょっとでも脆弱なものはすべて、容赦ない時の洗礼を受けて、壊される」

ナシーム・ニコラス・タレブは、最新の著書『反脆弱性―不確実な世界を生き延びる唯一の考え方』のなかで、「完璧な頑強さなどありえないことを考えると、ランダムな事象、予測不能な衝撃、ストレス、変動性を敵に回すのではなく、味方につけ、自己再生しつづける仕組みが必要なのだ」と説き、それを反脆さ(はんもろさ)と呼んだ。タレブの2007年の著書『ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質』は、サブプライムローンの破綻がきっかけで起きたリーマンショックのあと、全米で150万部の大ヒットを記録した。

日本の経営者は筋肉質という表現を好むようだが、頑強さを求めて無駄をギリギリまで排除した事業は脆い。タレブは、反脆さとはオプションを持つことだという。「オプションとは私たちを反脆くしてくれるものだ。オプションがあれば、不確実性の負の側面から深刻な害をこうむることなく、不確実性の正の側面から利益を得ることができるのだ」

予測不能な衝撃を糧にしてさらに成長するには、自社の事業の製品を置き換え、ビジネスモデルを変革するようなオプションを持つためのイノベーションを並行して進めなければならない。その事業ドメインのイノベーションが他社によって起こされれば自社の事業は破壊されてしまうが、それを自らが起こせばさらなる成長につながる。

ゼロから生み出されるイノベーションは意外と少ない

イノベーションというと、それまでまったく存在しなかった製品を発明することと考えがちだが、人々の生活に大きな影響を与えるような製品は、既存の製品を置き換えるものであることが多い。iPodはウォークマンを置き換え、デジタルカメラはフィルムカメラを置き換え、そしてスマートフォンは携帯電話を置き換えた。それらは、置き換えた製品の市場のビジネスモデルを大きく変革して、その市場をさらに拡大するデジタル・ディスラプション(創造のための破壊)を引き起こした。

デジタルカメラは、カシオやパナソニックの新規参入組の電機メーカーが先行した。それまでパソコンへの画像入力デバイスとしてデジタルカメラの開発に取り組んでいたキヤノンは、フィルムカメラ事業のリソースをデジタルカメラに集中し、2000年に発売したIXYデジタルを大ヒットさせて反脆さを示してみせた。

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他社の革新的な製品やビジネスモデルによって、自社の事業を破壊された事業責任者が「イノベーションのジレンマ」を口にすることがある。しかしジレンマとは、やるべきことがわかっていて、やりたいと思ってもできないときに感じるものだ。多くの場合、それは後付けの言い訳に使われる。やるべきことがわからないので、R&Dへの投資や人件費を抑え、株主に配当した残りの利益をひたすら溜め込む企業は、反脆さを備えることはできない。

「私は、イノベーションや洗練というものは、最初は必要に迫られて生まれると思っている。いや、そう確信している。最初の発明や何かを作ろうという努力が思ってもみない副作用をもたらし、必要を満たす以上の大きなイノベーションや洗練へと繋がっていく」とタレブは言う。

スティーブ・ジョブズは、2001年1月にサンフランシスコで開催されたマックワールドエキスポでiTunesを発表し、Macがさまざまなデジタル機器を相互連携させるためのハブとしての役割を担うというデジタルハブ構想を披露した。赤字を垂れ流していたアップルのCEOに復帰したばかりのジョブズにとって、Macの価値を最大化して販売を伸ばすことが最大の課題だった。Macの周辺機器という位置付けで開発されたiPodが、後に音楽関連産業に起こしたデジタル・ディスラプションを、ジョブズも明確にはイメージしていなかった。

キヤノンで、デジタルカメラの開発を始めたとき、それがフィルムカメラを置き換えて、カメラ市場を飛躍的に拡大するものになると信じていた人は何人いたのだろう。スマートフォンは携帯電話を置き換えたが、フェースブックやインスタグラムなどのソーシャルネットがなければ、ここまで人々にとって「なくてはならないもの」にはならなかった。

大きなイノベーションが(副作用として)生み出される前には、それに先行する発明や何かを作ろうという努力が必要だ。平井社長は、新規事業創出プロジェクト「シード・アクセラレーション・プログラム」(SAP)を立ち上げている。しかし、それは既存の事業を不可侵にしているようだ。それでは、既存事業の製品を置き換え、ビジネスモデルを変革するようなイノベーションに繋がるオプションが生み出されることは期待できない。その制限は、すぐに取り払うべきだ。

ソニーのブランドは、映画や写真や音楽やコミュニケーションといった、人々の生活に不可欠なコンテンツやサービスのラストワンマイルを網羅している。そのような誰もが羨む企業は、世界でもソニーしか存在しない。それは、デジタル・ディスラプションが起きる危険性を数多くはらんでいるということでもある。

「世の中には、半分だけ発明されたものがある。これを『半発明』と呼ぼう。半発明を発明に変えるには、たいてい大きな飛躍が必要だ。発見をどう活かすかを見極めるには、ビジョナリーだけが持っているビジョンが必要なこともある」

iPodが登場する前に存在したシリコンメモリーを使った携帯音楽プレーヤーや、パソコンへの画像入力デバイスとしてのデジタルカメラ、そしてiPhone以前のスマートフォンも、タレブの言う「半発明」だろう。

ソニーのコミュニケーションロボットXperia Hello!や、AIアシスタントと会話するためのイヤホンXperia Earなどの、スマートプロダクトと呼ばれる一連のXperiaのアクセサリー、そして華々しくリバイバルしたaiboなどを「半発明」と呼ぶのは間違っているだろうか。タレブの言葉を借りれば、AIやロボティクスという技術が「発見」されたが、できることをそのまま「半発明」したという段階だ。

求められるビジョン

デジタルの次に、既存の製品の置き換えを可能にするもの、すなわち変動性を生み出す技術は、AIとロボティクスに違いない。ソニーは、ディープラーニング(深層学習)のAIを生成できる開発環境のクラウドサービスを無償提供しており、そしてもちろん小型ロボットの技術も有している。それらの「発見」をどう生かすかを、誰かが見極める必要がある。

イノベーションには多くの試行錯誤、ときにはピボットも必要になる。ピボットとは、計画の主要な部分を変更することをいう。そのような、何かを作ろうという努力がイノベーションの偶然性を呼ぶ。ソニーを反脆くするために、新しいトップの眼力と胆力、そして何よりもビジョンが求められる。

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