モノのデザイン 第61回 小槌のようなユニークデザインにシャープが込めた「ドライヤーの本質」

モノのデザイン 第61回 小槌のようなユニークデザインにシャープが込めた「ドライヤーの本質」

  • マイナビニュース
  • 更新日:2019/11/01
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シャープが9月に発売した「プラズマクラスター ドレープフロー ドライヤー IB-WX1」。一般的なドライヤーのような先端の長いノズルを備えておらず、小槌のようなフォルムが特徴だ。

昨今、従来の常識を覆す、新しい"カタチ"の製品が次々と登場しているドライヤー市場において、本製品も外観のみならず、従来のドライヤーにはない最先端の技術とそれを実現するための異色の機構・設計が採り入れられている。今回は、"プロダクトデザイン"を軸にして、製品誕生の秘話やデザイン上のこだわりについて、担当者に話を伺った。

○奇抜に見える形状も、実は本質追求の結果

このドライヤー、まずはユニークな形状に目が奪われがちだが、出発点となったのは何よりも"髪を速く乾かすこと"。シャープ Smart Appliances & Solutions事業本部 海外スモールアプライアンス事業部 商品企画部 主任の末廣和弥氏は、次のように明かす。

「ドライヤーとしての性能を上げるのが大前提。そこで、『髪を速く乾かすためにはどういう風の出し方がいいのだろうか?』を考えた時、プロの美容師の技術がヒントになりました」

本製品の仕様上の風量は、最大約1.1m3/分と決して高い数値なわけではない。にもかかわらず、速乾性を実現したポイントは吹き出し口(スリット)を2カ所備えている点にある。「プロの美容師の方が乾かしているのを見ていると、ドライヤーを2つ使って乾かしていたりするんです。2カ所から噴き出ている風が交わることで、速く乾かし、プロの手技で熱さを感じさせることなく、まとまりのある髪に仕上げている。そんなサロンブローの技術を 素人が家庭でもできるような1台のドライヤーができないだろか? と考えました」と末廣氏。

しかし、デザイン、および機構設計を担当した、同社同事業本部 国内デザインスタジオのシニアデザイナー・奈良俊佑氏によると、単純に2カ所から風が吹き出るというだけでは、髪を早く乾かすことにはつながらなかったという。最大の課題となったのは"整流"だ。

「単純に穴を2つにしたところで速く乾くことにはつながりませんでした。というのも、これまで採用していた、筒に対して真ん中に風が通る機構の"軸流ファン"のままでは、うまく整流ができなかったんです。そこでファンをはじめ中の機構を一新することに。最終的に採用されたのは、"遠心ファン"。これにより、吸い込んだ風が外側を通った後にきれいにふたつの風に分離させることに成功しました」

しかし、第一号機の段階で技術部門から届いた試作機は、「ファンが大きく、筒が短いため、全体の径が大きくなって、重心バランスが悪かった」という奈良氏。以降は、ユーザーが使いやすい骨格にするための試行錯誤が繰り返されたそうだ。

○熱風の温度と吹き出し速度の調整を突き詰める

一方、速乾性に加えて、本製品のもう1つの技術的課題として掲げられたのが、"熱くない"ドライヤー。そこで新たに採用されたのが"センシング"技術だ。実は、シャープのドライヤーには、従来モデルから温度帯を4段階で切り替えられる機能が備えられているが、これを手動ではなく、髪にダメージを与えない最適な温度帯に自動で制御できることを目指した。

末廣氏によると、この機能を実現するために、まず検討されたのがセンサーの選定だ。最終的に採用されたのは"距離センサー"だが、「反応が遅くて実使用の動作についていけない」という理由で、開発段階で検討されていた温度センサーの採用は見送られたとのこと。

そこで採用されたのが、"Time of Flight(ToF)"方式と呼ばれる、飛行時間型の距離センサーだ。投射したレーザーが対象までを往復するのにかかる時間から距離を計測する仕組みで、反応が速く、ゲーム機のコントローラーなどにも採用されている。しかし、ここから先も試行錯誤の連続。「センサーをもとに、近づけた時に熱くならないように、近づけたり遠ざけたりしながら体感を確認をしたり、表面の温度が髪にダメージを与える55℃以上にならないようにするためには、どれぐらいの距離ならどれぐらいの温度で出せばいいかなどを検討したりしました。しかし、実測値と体感で違っていたり、アルゴリズムとして落とし込むのには本当に苦労しました」と末廣氏。

実は、製品の本体の吹き出し口側の真ん中には小さな穴が開いている。奈良氏は、その理由について「単純にセンサーが距離を測っているのですが、初期の段階では計測が安定しなかったんです。実はセンサーの前に位置する部分の形状も重要で、このように中央に穴を設けることで計測が安定し、かつセンシングを象徴的に表現することにもつながったと思います」と明かす。

もう1つ苦労した点として挙げられたのは、髪の表面にドレープを生み出すための風を吹き出させる機構・設計。

前述のとおり、数値としては決して高いわけではない風量ながら速乾性を高めることに成功したのは、2つの吹き出し口から流れるように出る風の流れ。風が立体的に髪を押し分け、ドレープ状になびかせることで広範囲に風を届けて早く乾かせる原理だが、「適切な風の速さや距離の調整が苦労しました」と末廣氏。一方、奈良氏も「口を2つにして風を平行に出すためには、原理原則から言うと箱型が最適なのですが、その形状のものを頭部に使うというのは使いづらい。そこで、筒状がいいだろうということになり、最終的には現在の三日月形状に落ち着きました」と説明する。

しかし、従来のドライヤーとは風の出し方もファンも違う製品。センサーによる制御というのも初めての取り組みで、他に参考にする製品もなく、すべてが一からの手探りの状態で開発が進められた。「例えば一瞬で近づいた時に、ヒーターの温度がその速度で下げられるのかとか、離れたり近づいたりして使用するので、どれぐらいの距離でどういった風の出し方をするかの微調整や、制御のためのアルゴリズムを決めるのは想像以上に大変でした」(奈良氏)と振り返る。

本製品は、業界初のスマホ連携機能を持つドライヤーでもある。ブルートゥースでスマホと通信ができ、スマホアプリで温度帯と切り替えの時間などを自分好みの仕様に設定できる。

「プロの美容師の方は、髪のダメージを抑えるためにドライヤーの温度帯を細かく変えながらヘアドライをしているんです。弊社の従来からのドライヤーにも"ビューティモード"という、温風・冷風を自動で切り替えるそれと似たような機能があるのですが、人によって時間の長さを変えたいという声もあるので、カスタマイズができるようにしました。家族で使っている場合にはそれぞれ好みの使い方もありますし、プリセットができればより便利ですしね。ブルートゥース接続を選択したのは、設定のしやすさからです」と末廣氏。

○"キレイになりたい"という思いをデザインに

一方、外観上のデザインに関しては、「どの角度から見てもキレイに見えるデザインを目指した」と奈良氏。「女性の方の"キレイになりたい"という思いをプロダクトデザインに込めました」と話すように、本体にはほとんどビス穴もなく、角があるデバイスを多数内蔵しながらも、丸みを帯びた優しいデザインになるように、Rや面の張り方にも技巧を凝らしたという。2色のカラバリは「貝殻のようなキラキラとしたシェルピンクとシェルホワイトの2色。健やかなイメージで、自然界にある色から選びました」。

ちなみに、本製品の重量は約610グラムと従来機とほぼ同じ。設計・デザイン上は、最初に数値設定をした上で、重心バランスや持ちやすさを鑑みて調整が重ねられた。「同じ重さとはいえ、形状が異なるのはしかり、中身もセンサーなどふつうは積んでいない部品も少なくありませんので、それらをバランスよく配置するのも苦労しました」と末廣氏。

また、吹き出し口の面の中央部分は、リング状のLEDが温度帯によって色が変わるギミックもあり、デザイン上のアクセントにもなっている。奈良氏は「センシングによる制御というのが体感としてはわかりにくいところがあります。それをユーザーに伝えるためにもLEDライトの色が変わることで示しました」と説明する。

これまでになかった形状、機能を持った、イノベーティブなドライヤーとして登場した本製品だが、両担当者は、もともとは決して奇をてらう意図で企画されたプロダクトではないと強調する。とはいえ、狙ったわけではないが、結果として人々の目に留まる商品となったことをポジティブに受け止めているようだ。最後にそれぞれ次のように語り、製品の魅力をアピールした。

「プラズマクラスターの美容効果は、まだあまり多くの方に知られていないのですが、実際に使われている方からは高い評価をいただいています。広く知っていただくためにも、インパクトある形状やデザインも重要かなと今回は感じています。先端に長いノズルがないため、腕を頭部に近づけて使えるのも疲れにくいポイント。優雅に使える、ドライヤーの使い方まで変えることができる、自信作です」(末廣氏)

「ドライヤーは既に完成形があると思っていたのですが、サロンのドライワークから、"2つの風"という発想、着眼点に至り、"こういう風をやりたい"と追及したら、まったく違う方向の思わぬこの形にたどり着きました。ドライヤーらしからぬインパクトある見た目が目を惹く商品ですが、仕上がりにも納得してもらえると思います」(奈良氏)

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