お金の「カッコいい」使い方と「カッコ悪い」使い方

お金の「カッコいい」使い方と「カッコ悪い」使い方

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2017/11/14
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放送作家・脚本家の小山薫堂が「有意義なお金の使い方」を妄想する連載第27回。小学3年生でキャッシュカードを渡され、お金の使い方を父から教わった筆者は故郷・天草の菓子店閉店のニュースを聞いて、ある行動に出る……。

父親から教わったことはいくつかあるけれど、いちばんはやはり、お金の価値・使い方だろう。父は熊本県・天草で金融業を営んでおり、まだ小学生の僕に公定歩合とか預貯金の金利について教えるような人だった。僕は小学3年生でキャッシュカードを持たされ、僕名義の口座に振り込まれる月のお小遣い600円を自分で引き出していた。

中学生になったころだったか、一度、現金を運ばされたこともあった。バッグに入っていたのは、なんと3000万円! 所定の場所まで2時間半ほどバスに揺られていたのだが、周りにいる人すべてが泥棒に見えてしまうという、なんとも言えない経験をした。

そのような父からの教えが、僕にどう影響したか。ケチになった(笑)。よく言えば「もったいない主義」になった。何かを求めようとするとき、それが適正な価値なのかどうかを考えてしまう癖がついたのである。

例えば、大学時代。僕が仕送り9万5000円で暮らしていたとき、家賃30万円、仕送り100万円という医学部の親友がいた。彼と彼の友人は、試験が終わるとディスコ「青山King&Queen」にポルシェやフェラーリで乗り付け、VIPルームで30万円のドン・ペリニョン・ロゼを開ける。

一方、僕はそこに電車で向かう。さすがに車が欲しいと思ったけれど、買えるのはせいぜい中古の国産車。ならば、それを我慢して、違うかたちの贅沢な気分を味わえばいいのではないか?

それで行き着いた答えが「遊び場の近くに住むこと」だ。たいがい青山か六本木で遊んでいたので、赤坂にある秀和赤坂レジデンシャルホテルというマンションの一室を借りた。家賃は9万円。大学生にしては高いけれど、車を買って駐車場代や維持費を払うことを考えたら安いものだ。遊び場には自転車で通うことにした。闇も深くなった時分、自転車で風を感じながら帰宅の途につくのは、気分のよいものだった。

そう、僕は大学生のときに完全に腑に落ちたのだ。お金を闇雲に消費するのはカッコ悪い。むしろ、価値をつくる使い方を考えることが大切だし、カッコイイことなのだと。

素晴らしい光景に出合えるワケ

資産家は資産がありすぎて、使い方に困っている。もしくはお金の価値を見つけにくくなってしまう。僕は常々、「資産コンシェルジュ」というのをやってみたいと思っているのだが、お声がかからないので、この連載でひたすら妄想している。

もちろん、社会のために上手にお金を使える資産家もいらっしゃる。たとえば『Forbes JAPAN』の高野真編集長。高野さんは、「星のや東京」の浜田統之総シェフが軽井沢ホテルプレストンコートのシェフだったとき、別荘でのケータリングパーティで重用していた。

あるとき、浜田さんがボキューズ・ドール国際料理コンクールの国内予選に選出された。高野さんはその予選のスポンサーに名乗りをあげたという。「大好きなシェフが晴れ舞台で戦うなら応援したい」という純粋な気持ちからだ。その想いに応えるかのごとく、浜田さんは国内予選とそれに続く大陸予選を勝ち抜き、フランス・リヨンで開催される本選で世界中から選ばれた24カ国のシェフと戦って、見事銅メダルを獲得した。念願の日本人初の表彰台だった。

ぐるなびの創業者・滝久雄さんもそんなひとりだ。滝さんの『貢献する気持ち』という本には、貢献活動には「愛」から発するものと「憐れみ」から発するものの両方があり、憐れみの感情には自尊心や虚栄心とのすり替えが起こるのに対し、愛には本能的な与える喜びがあると書かれている。

実際に滝さんは若き才能を発掘する日本最大級の料理人コンペティション「RED U-35」を13年から続けており、留学生向け奨学金にも取り組んでいて、先日もお茶の水女子大学に10億円を寄付した。大学内には4階建ての「国際交流・留学生プラザ」が開設されるという。

連載第1回にも書いたけれど、お金を持っている人は、誰かの天使になれる。お金を使うことによって、誰かの人生を変えたり、誰かを幸せにしたりできるのだ。しかも天使というのは、誰かに感謝されるわけではなく、上から様子を見てフフフと微笑むだけ。「見返りは期待しない」というのが鉄則である。なかなか難しいことだけど、それをこんなふうに諭してくれた人がいた。

写真家のハービー・山口さんは、とにかくいつも素晴らしいシーンに出合う。一度なんて代々木体育館でボーイ・ジョージのライブを撮影していて、彼のトイレについていったら、おばさんみたいな外国人男性が入ってきたので立ち小便をしていた子どもたちがギョッとして全員振り向いた、という奇跡的な写真も撮っている。

僕もライカを持ち歩き、いいシーンに出合ったらすぐに撮ろうと待ち構えているのだが、なかなか出合えない。それである日、「どうすればこんないい場面に出合えるんですか」と聞いてみた。ハービーさんは「人間力を鍛えればいいんです」とだけ答える。どうやって鍛えるものなのか、続けて尋ねると、こう言われた。

「例えば朝起きたときに、自分の家の前の落ち葉を掃くとします。このときに隣の家の前の落ち葉も掃く。でも、隣の家人が気がついて申し訳ないなと思わせたらいけない。いわゆる”見返りを期待しない貢献”をしたときに、人間力は鍛えられるんです」

僕はすっかり感激した。例えば投資家は当然リターンを期待して投資をするわけだが、リターンを期待しない投資家がいたら、もっと社会は良くなるのではないだろうか。資産家や投資家が見返りを求めずにエンジェルサロンを開き、そこに夢を持つ若者が集ってプレゼンなんてしたら、すごく愉快な未来が開けそうだ。そういうバーを、高野さん、一緒にやりませんか?

故郷・天草での新しい試み

天草に「まるきん製菓」という店がある。たい焼き、たこ焼き、ソフトクリームなどを売っていて、子どものころからよく通った。しかし今年5月、「機械が古くなり、餡を捏ねる体力もなくなってきた」という理由により、惜しまれながら閉店してしまった。これは一大事である。地元の中高生のオアシスのような場所が閉じることによって、シャッター商店街からさらに若者が消えていくという現象が起きるからだ。

僕は店主に連絡して、僕が店のオーナーとなるから、地元の若者に手伝ってもらってまるきん製菓を続けましょう、と提案した。いまはどうすれば若者たちがこの店の価値をあらためて見出すのか、その企画を思案中。見返りを期待しない貢献は本当にワクワクするものだ。エンジェルとはつまり、滝さんがいうところの「貢献心は本能」を知っている人だとあらためて感じている。

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