人工知能に把握された好みで、人は交際相手を選ぶか?

人工知能に把握された好みで、人は交際相手を選ぶか?

  • 週刊アスキー
  • 更新日:2016/12/01
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昨今の技術発展により、日々の生活や業務において行なう判断を「人工知能」が助ける場面が増えている。現時点では、人間が利用している「人工知能」のほとんどが”目的特化型のアプリ”であり、従来人手による手間がかかる作業や調査などを効率化するために利用されている。今後、人工知能の技術が発展するにつれ、徐々に高度な判断も人工知能に委ねられることが増える可能性があるが、技術の発展だけで人間が人工知能を真に信頼することはできるのだろうか? 筆者が過去に企画した新規事業案などをネタとして、人工知能と人間が寄り添うために必要な発展について考えてみた。

人工知能による出会いの創出?

筆者が昨年参加した、経済産業省主催のイノベーター育成プログラム「始動」では、参加者がそれぞれ新規事業計画を策定する必要があった。本プログラムにて、筆者が提案した新規事業計画のテーマは人工知能(という表現は使わなかったが……)を活用した男女のオンラインマッチングサービス「せつこさん」である。

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2015年度「始動」プログラムに筆者が提出した新規事業計画「せつこさん」の表紙画像

Facebookをはじめとする実名登録型のSNSの普及により、オンラインマッチングサービスも数多く出現している。国内では、Yahoo!や楽天が運営しているサイトもあれば、『Pairs』のような新規サービスも多くの会員を集めている。また、実名ベースのオンラインマッチングサービスが日本よりも発展している海外のサービスでは、『Tinder』が代表的な存在である。次々と表示されるプロフィール写真を左右にスワイプするだけで相手選びができるという革新的なUXにより、多くのユーザーを獲得している。

こうしたオンラインマッチングサイトでは、交際相手の情報(顔写真、および年齢・居住地などのプロフィール情報)が明確に提示されるため、ユーザーとしてはより魅力度が高い(たとえば、見た目がかわいい・かっこいい、所得が高いなど)相手に惹かれてしまう。この双方による「高望み」により、多くのすれ違いが発生し、結果として交際できる良好な相手との出会いの可能性が狭められる結果となる。

ユーザー自身の魅力度とは関係なく、80点・90点・100点の高水準な相手が並んでいるオンラインマッチングサービスの中では、自身の要求水準を下げることは難しい。結果的に、相手の情報が明示的に見えているオンラインマッチングサービスでは、「高望み」に起因するすれ違いは不可避と思われる。

そのため、ユーザーの間に立って、適切な交際相手をレコメンドし、オンラインでのコミュニケーションを活性化するエージェントを作り、高精度なマッチングを実現する……というのが、「せつこさん」の基本コンセプトである。最初から双方の情報をつまびらかにせず、「せつこさん」が推薦する相手とのコミュニケーションを促進し、お互いの信頼感を高めたうえで、最終的に良い交際に結びつけることを目指したサービス案である。

上記の構想は、残念ながらまだ実現には至っていないが、オンラインマッチングサービスにおけるデータ活用の動きは最近活性化している。たとえば、婚活サービスを運営するIBJ社では、東京大学・山崎研究室との共同研究を通じ、婚活マッチングアルゴリズムの開発を進めている。また、愛媛県での少子化対策の一環として行なわれている婚活支援事業「えひめ結婚支援センター」では、国立情報学研究所との協業により、ビッグデータ解析を活用した婚活の支援サービスを提供している。さらに、人のマッチングは恋愛に限らず、転職先探しや人材発掘などのビジネス用途にも有用であり、「人工知能」の活用をうたったサービスがいくつも現れている。

筆者が「せつこさん」のような新規事業を検討し始めた最大の理由は、データ分析を通じて人の「好み」や「相性」といった、「極めて主観的かつ個人に依存するような事象を理解することにつながるのでは……?」という、一研究者としての興味によるところが大きい。通常の新規事業検討において考慮しなければならない市場規模などについては検討が浅く、その点においては「始動」のシリコンバレー派遣組に選ばれなかったのはやむなし……と振り返っている。しかし、筆者が興味を持っている「ヒト内面理解」という研究を追究する面で面白いテーマであり、今後も検討を深化させたいと考えている。

「東ロボくん」の挑戦

話は変わるが、最近の人工知能関連の大きな話題の一つとして、東京大学への合格を目指して研究が進められていた人工知能「東ロボくん」の東大合格断念のニュースがあげられる。

2011年から開始されたこのプロジェクトでは、当初は最低レベルの大学への合格すら難しい成績しか達成できなかったものの、研究が進むにつれて徐々に成績が上がり、多くの大学に合格できるレベルにまで進化した。しかし、英語・国語など一部の科目については、最終目標である東京大学への合格に必要な成績には及ばず、現状の方式ではこれ以上の成績向上が見込めないことから、東京大学への合格を断念している。

この決断の大きな要因となっているのが、今のデータドリブンな人工知能の限界である。詳細な情報は、本年11月に行なわれた同プロジェクト報告会に関する記事(「『東ロボくん』が偏差値57で東大受験を諦めた理由」「AI研究者が問う ロボットは文章を読めない では子どもたちは『読めて』いるのか?」)などを参照されたいが、簡単にいうと、東ロボくんが受験問題を解くロジックは膨大な試験問題や教科書などの学習データに基づいて構築されているため、そのデータに明示的に含まれていない情報を読み解くための「読解力」や、それ以前の「常識」を必要とする科目(たとえば国語や英語)については、正解を導出することが難しいという課題が明らかになっている。

現状のデータドリブンな人工知能の作り方では、入力されたデータが表現している以上の概念を人工知能に理解させることは難しい。無論、人工知能による「理解」が人間のそれと同じような形である必要はなく、世の中のあらゆる情報をインプットして作られるものが(人間には理解不能な)究極の人工知能になる可能性もある。しかし、そこまでの発展が期待できるのはまだ先の話であり、人工知能のアルゴリズムのみならず、計算機アーキテクチャーなどの個別の技術領域においていくつものブレークスルーが必要であろう。

人工知能は「理解」をすれば良い?

ここで話を最初のマッチングに戻そう。前述の「せつこさん」のようなマッチングサービスを実現するために重要な要素技術として、個々のユーザーが交際相手に求める条件などの「好み」の理解があげられる。

表層的なデータ(たとえば、マッチングサービスで提示された交際相手候補の属性情報や、交際相手候補に対するYES/NOのフィードバック情報など)は、サービス運営者であれば容易に蓄積することができ、ちょっとしたデータ分析を行なえばある程度一般的な傾向を見ることはできる。実際、Xiaらによる研究論文では、マッチングサービスにおける交際相手のレコメンド精度を高めることを目的として、中国のマッチングサービスのデータ解析を行っている。その結果、「男性はより若い女性を好む」、「女性は男性の社会的・経済的な地位を重視する」、「居住地域が近いほうがマッチしやすい」といった傾向の存在を明らかにしている。

こうした知見の一部を交際相手のレコメンドロジックとして組み込むことにより、初期段階でのマッチング精度を改善することは、技術的には十分可能である。そして、この「好み」の理解を深掘りしていくことにより、交際の初期段階におけるマッチングのみならず、その後の発展(たとえば結婚に至るなど)が期待できる相手の発見につながる技術も実現可能に思える。

しかし、「東ロボくん」の例からもわかる通り、学習データに基づく表層的な分析と、そのデータから導出される本質的な理解との間には大きな隔たりがある。特に、マッチングという利用シーンを想定した場合、個々人の好みを表すデータは非常に限られるため、より少ないデータからの知見獲得が必要となる。そして、何よりも人間自身が確たる「正解」を持っていないという本質的な問題がある。このように、人の交際相手に対する好みを理解する人工知能の開発は、技術的には極めてチャレンジングな課題といえる。

では、人工知能が個々のユーザーの好みを何らかの方法で完璧に理解できるようになったら、人々はそのおすすめに応じて交際相手を選ぶようになるかというと、それだけでは足りないと筆者は考える。その理由は、インタフェースとしての人工知能に対する信頼感の不足である。

インタフェースとしての人工知能に対する信頼感

仮に、あなた自身が交際相手を探している状況を想像しよう。自分で出会いを作ることができるのであれば苦労はしないが、そうでない場合は、友人などに相手候補を紹介してもらうという方法が有効であろう。その紹介者となる友人に求められる要件としては、交際相手候補として紹介可能な知り合いの多さと、自身の好みに対する理解がある。

知り合いの多さ=データベースの大きさと考えれば、普通の人間に対し、人工知能は圧倒的に優位といえる。人間と比べると、人工知能の記憶容量の大きさは無限に近いからである。一方、好みの理解については、人間の紹介者と人工知能は互角たとえ紹介者が親しい友人であったとしても、あなたの全ての嗜好を理解しているわけではない。この点では、将来的に発展した人工知能においても同様であろう。

すなわち、交際相手のレコメンドシステムという観点では、紹介者である人間の友人と人工知能のそれぞれに期待される能力には大きな差はなく、むしろデータベースの規模を考えると人工知能に分があるともいえる。しかし、人工知能から推薦される相手と、友人から紹介される相手を比べると、なんとなく友人から紹介される交際相手候補の方に期待が持てる人のほうが多いのではないだろうか。

現在の人工知能は能力が限られているため、確実に正解が存在する問題に関する情報収集・分析のために利用されることがほとんどである。電車の乗り換え経路案内や、ウェブからの情報検索などがこれに該当する。一方、自身の人生や会社の経営に関わる重要な判断を行なわなければならない場面においては、人工知能によって得られた分析結果は参考情報として活用されるかもしれないが、それのみに基づいて判断を行なう人間はあまりいない。むしろ、人工知能が出力する情報に対し、人間が何らかの解釈を追加して説明することによって、初めて判断できることが現実には多いだろう。

今後、人工知能が発展していくにつれ、より複雑な問題に対する分析結果を出力できるようになると思われる。しかし、その分析結果が高度かつ正確であった場合でも、ユーザーである人間が人工知能に対して人間と同じような信頼感を感じ、その判断結果を盲目に信じて行動するとは考えにくい。そこで重要となるのは、「インタフェースとしての人工知能の発展」にあるというのが筆者の考えである。

インタフェースとしての人工知能の発展の方向性は、大きく2つ考えられる。1つは、人工知能が導出した結論の根拠となる理由を、人間が理解できる形で説明・提示するというロジカルな技術の発展。もう1つは、人工知能と人間との間で小さな実績を積み重ねることによって信頼感が向上するというエモーショナルな発展である。

深層学習(ディープラーニング)は、画像からの一般物体認識などにおいて高い精度を実現している革新的なアルゴリズムだが、その中身が完全にブラックボックスとなっているため、導出している推測結果の理由は、そのままではユーザーにとって理解できない。これは、深層学習に限らず、多くのデータドリブンな人工知能関連技術も同様であり、人工知能に対する漠然とした不安感の原因となっている。人工知能が何らかの理由を含めて自身が出した結論を説明できるようなロジカルな発展を実現すれば、こうした不安感もやわらげられる。その結果、ユーザーが人工知能の「考え」を理解できるようになり、人工知能に対する信頼感が醸成できる可能性がある。

後者のエモーショナルな発展については、チャットボットのようなインタフェースを想像するとわかりやすい。現在のチャットボットは、自然言語解析技術の限界ゆえ、特定の利用シナリオ下で簡単な会話を行なうか、1つの質問に対して(予め仕込まれた)回答を返す程度の能力しかない。

それでも、AppleのSiriやマイクロソフトがLINEで公開している「りんな」との面白いやりとりがしばしばウェブ上で話題にのぼるなど、人工知能と人間との間の距離感を縮めることにはある程度成功しているといえる。この方向性をさらに進化させれば、他愛のない雑談をしたり、ちょっとした相談をしたりするといった、人間の友人のようなやりとりを人工知能との間で行なえるようになるかもしれない。そして、この方向が深化すれば、人間の友人には言いにくいことも気軽に人工知能と話し合える日がくる可能性もある。

前述の「東ロボくん」が明らかにしたように、言葉のやりとりの内容を真に理解するためにはまだまだブレークスルーが必要である。その制約条件下においても人間と人工知能との間で人間同士のような「ラポール」が形成できるか、そのために人工知能として実現すべき機能は何か、あるいは真の意味での「理解」が実現されない限りは人工知能との信頼関係を醸成できないのか。必ずしも技術的(工学的)な課題ではないが、今後の人工知能と人間との関係性を考える上では大変興味深いテーマと感じている。

シンギュラリティがもたらす身近な幸せ

最近の人工知能ブームにともない、人間の叡智を越える圧倒的な能力を持つ人工知能が出現する「シンギュラリティ」が話題になっている。筆者は、こうしたスケールの大きな議論も嫌いではないが、それよりも身近なシーンに対して人工知能が与える影響について考えるのも一興と思い、オンラインマッチングという今あるサービスにおける人工知能という可能性について述べた。

人工知能を何だか得体の知れない恐ろしいものと捉えて心配するよりは、自分の子供や孫の人生を幸せにするための「お見合いおばさん」として活躍するような幸せな将来を実現すべく、引き続き研究開発を進めていきたいと考えている。

アスキーエキスパート筆者紹介─帆足啓一郎(ほあしけいいちろう)

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1997年早稲田大学大学院修了。同年国際電信電話株式会社(現KDDI株式会社)入社。以来、音楽・画像・動画などマルチメディアコンテンツ検索の研究に従事。2011年、KDDI研究所のシリコンバレー拠点を立ち上げるため渡米し、現地スタートアップとの協業を推進。現在は株式会社KDDI総合研究所・知能メディアグループ・グループリーダーとして、自然言語解析技術を中心とした研究開発を進めるとともに、研究シーズを活用した新規事業創出に取り組んでいる。電子情報通信学会、情報処理学会、ACM各会員。経済産業省「始動Next Innovator 2015」選抜メンバー。

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