千葉の田舎に30人の移住者を集めた地方開拓家、いけちゃんに聞く「町のおこしかた」

千葉の田舎に30人の移住者を集めた地方開拓家、いけちゃんに聞く「町のおこしかた」

  • 政治山
  • 更新日:2017/09/16

千葉の南、上総地方南西部に富津市の金谷(かなや)という町がある。この町は漁業が有名で、ハイキングを目的とした観光客も多く集まる一方で、人口減少に悩まされ小学校が廃校の危機に陥るなど、一般的な「田舎」と同様の問題を抱えている。

一方で、都心からは電車で3時間。通えない範囲ではないし、車がなくとも生活に必要な施設を全て利用することができる町に魅力を感じて、2012年に移住して来た男がいる。それが「いけちゃん」こと、山口拓也氏だ。彼は金谷に縁もゆかりもなく、ただ「金谷ベース」という地域活性化の拠点として運営されていたコミュニティに所属していた後輩に誘われ、この町にやってきた。

その後、この地域で個人事業主として仕事をするうちに、地域の拠点となるコミュニティスペース「まるも」の運営を始めて、“結果としての町おこし事業”を始めると、彼は金谷の活性化の中心となっていった。結果として、彼が手がける事業での移住者は、1年間で30名以上、短期来訪者を含めると100名以上にのぼるという。

彼の独特の町おこし手法、町の素材を活かさない活性化とは、どのような町おこしなのか? いけちゃん氏と、彼が行なった移住者増加の取り組みの影響で金谷に移住してきたカルロス氏に話を伺った。

町おこしは最初「会社の採用のため」に始まった。

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写真左から、いけちゃん氏、カルロス氏

――いきなりですが、どうして金谷で町おこしをしようと思ったんですか?

いけちゃん氏(以下、いけちゃん):正直、最初は町おこしをしようとは思っていませんでした。というか、実は今でも「町おこしをしている」というつもりはないんです。結果として町おこしにつながっているだけというか。

――”町おこしではない”というのは?

いけちゃん:大学を卒業した後、フリーランスとして事業を始める場所を探していたときに、たまたま金谷に来ました。Web系の仕事だから場所は関係ないし、都内にも一応通える。その上、家賃も安いということで、一旦住んでみることにしました。

しばらくして会社を設立。その中で「1人で働くのは限界がある。もっと身の回りに一緒に働ける人たちがいるといいな」と思って、一緒に働くことができる人を誘致しようと思い始めたのが、金谷に移住者を集める1ヶ月体験移住型スキルアッププログラム「田舎フリーランス養成講座」の始まりでした。

最初はただ、自分の周りに優秀な若い人が集まるといいなと思っていただけなんです。

――町おこしというより、事業のひとつとして始めたんですね。いけちゃん自身も、金谷出身ではないですよね。

いけちゃん:はい。出身は埼玉です(笑) たまたま後輩が「金谷ベース」というスペースにいて、僕も呼ばれたのがきっかけですね。今はなくなってしまったスペースなのですが、当時は金谷の地域活性化の拠点でした。

――「移住者増加事業」構想はどうやって生まれたのですか?

いけちゃん:きっかけは2つあるんですが、1つは金谷で暮らすようになって、地域の企業との取引も増えました。その上で採用を強化しようと思ったり、一緒に働く人たちを探しているときに、短期的な金谷滞在斡旋みたいなことをしたことがあったんです。

大学生数人、フリーランス数人を金谷に呼んで、1週間滞在とWeb案件のタスクをこなしてもらう。それだけのことなんですが、意外と都内に住んでいる人が金谷にきてくれるし、楽しかったんですよね。

それで、これを事業化したら形になるんじゃないかと思っていました。

――事業のアイデアがあったと。

いけちゃん:そんなことを考えている時期に、近くでシェアハウスの借り手を探していると声をかけてもらいました。以前から運営されていたシェアハウスで、町の拠点になりそうな場所だったので、町おこしの拠点として活用するか、NPOと合同で運営するかなど、色々とプランを考えていたのですが、計画を考えていくと、自分の事業として成立しそうだった。

それなら、自分でシェアハウス・コワーキングスペースとして運営してみようと思ったんです。

――事業のアイデアと、空き物件を借りるチャンスが重なったんですね。

いけちゃん:最初はシェアハウス・開発合宿のためのスペースとして運営することにしました。名前は「まるも」。それまで運営されていたシェアハウス「まるも」の名前をそのまま引き継ぎました。

ただ、シェアハウス・開発合宿所として運営していても空き部屋が出るので、空き部屋はコワーキングスペースとして活用することを決めました。

その時に、短期滞在のことを思い出したんです。コワーキングスペースでは、フリーランスとしての「学習」ができるスクールを作ればいい。人は学ぶ目的や仕事のためだったら、どこにスクールがあろうとあまり気にしないと思っていました。それで、フリーランス志望の人たちが独立のための学習をすることができる「田舎フリーランス養成講座」を作りました。

――それが、結果として移住者増加になったというわけですね。

いけちゃん:そうです。受講者は案件を獲得するための営業から、プログラミング学習、デザイン学習、あとはブログ運用の方法を学ぶ。スクールが終わる頃には案件を獲得して、収入を得られるので、学習をしながら、仕事も得られる。そういうサイクルが金谷にできるんです。

スクールに参加するためには、金谷にくる必要があります。そこで仕事を得て、住む場所を得て、短期の滞在から本格的な移住をする人が増え始めました。

結果として「いなフリ(田舎フリーランス養成講座)」は成功して、去年と今年で合計30人が移住、114名が参加する講座になりました。

――「自分の周りに人を集めたい」という思いで事業を行なっていた結果、金谷に人が集まるようになっていったんですね。

「認知が集まるだけでは、町おこしとして意味がない」

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――「移住」って大きな決断だと思うのですが、移住者を集めるためには何が重要だと思いますか?

いけちゃん:金谷のケースで話すと、移住してくる人は、金谷のことをあまり理解していないことも多いんです。実際、大学進学や就職で引越しをする時って、その町のことを知らなくても「便利だから」「会社が近いから」という理由で引っ越すことありませんか? そういう感覚です。

金谷は、いなフリで「金谷に来る目的」「住む理由」が生まれました。「金谷に来たら収入が得られる」「生きていける」という仕事の面と、「自分が信頼する人たちがいる」というコミュニティの面です。ただ大きくPRをして認知を広げても、住む必然性がなかったら誰も来てくれない。だから、住むために、暮らすために何を提供するかという下地を用意することが重要だと思っています。

――なるほど。人が暮らす、住むことに意味を用意するんですね。移住者が集まる事業をつくるのは労力もかかったと思うのですが、国や市との連携をしていない理由はありますか?

いけちゃん:最初は提携しようか悩みました。でも、行政と連携するとスピードも落ちて、面白みが減ってしまうと考えました。それなら、自分が楽しく実行できるものを進めていく方が結果も出ると思っていました。

――なるほど。あと、地域活性化は「町の資源」を活かすことが多いと思うのですが、金谷の資源を活かした事業をつくらなかった理由はありますか?

いけちゃん:そもそも「町を活かして人を集める」というのは難しいんです。金谷は魅力的だけど、それだけでは他の地域から移住してくる理由がない。それなら「新しい魅力」を作った方がいいと思っています。

僕の事業だと「金谷にくればスキルが身につく」「プログラミングやデザインのスキルが安価に身につく」というところに魅力を感じてくれて、まず来てくれる。その人たちが金谷で働いてくれたり、住んでくれるようになる。

結果として、来てくれた人たちは金谷の魅力を知ることになるし、1ヶ月滞在すれば金谷のスーパーや飲食店を利用する機会が増えて経済にも還元できる。入り口はどういう形でも、結果としては地域に還元できるんです。

――まずは人を呼ぶために理由をつくる。

いけちゃん:そうですね。結果として金谷には来訪者、移住者ともに増えていきました。ただ、今は「まるも」を拠点にして活動をしているので、「町をつくる」というところまでは活動を拡張できていません。今後はもっとファミリー層の移住も増やして、金谷の町づくりにまで手を伸ばせるといいと考えています。

――金谷の町づくりですか。

いけちゃん:はい。今後は、家族世帯の移住も促進させようと思っているのですが、そのためには空き家が必要。そのときは例えば、飲食店を経営して従業員を雇用するとか、地域との関係性を深めていく必要があると思っています。そうすれば、結果としては町とつながる、空き家も集まる、それを移住者に還元するというサイクルができるなと。

金谷に来たのは偶然。だけど今は、ここをもっと魅力的にしたい

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――移住をして来たカルロスさんの話も聞かせてください。どういうきっかけで金谷に移住することになったんですか。

いけちゃん:たまたま縁があって、いなフリで出会いました。それ以来スタッフとして働いてくれたり、個人で活動をしながら全国を飛び回りながら、金谷を外部的に盛り上げるための影のキーパーソンとして活躍してくれています。

カルロス:昨年も、今年も全国いろいろ足を運びました。その中で、金谷に移住を決めたのは仕事があることが一番の理由ですね。

――仕事があるというのはやっぱり重要ですか。

カルロス:そうですね。もちろんコミュニティがあるのも面白いし、僕は他の地域にも行きまくってるんですが、その上でも金谷に帰ってくれば面白いことがある。仕事もある。一般的ではないライフスタイル・ワークスタイルを取っていても、コラボしながら過ごせる環境があるんです。

いけちゃん:カルロス以外の多くの人も、いなフリに参加した後に「もう少し勉強したい」「ここにいれば、ある程度稼げる」という理由で滞在を延長する人が多いんです。延長滞在という感じですね。

延長滞在をした後にも、金谷なら都心にいるよりも稼げるとか、コミュニティができているからという理由で、定住に切り替える人もいるんです。

――なるほど。生きる拠点になるためには、やっぱり仕事とコミュニティですか。

カルロス:そうですね。やっぱり色々な地域に行っても、まるもが僕の拠点です。だから、金谷のことは他の地域でも普通に話します。「うちも負けずに面白いですよー」って。そうすると、遠方からわざわざ金谷に来てくれるんですよね。

――地方から、この地域に足を運んでもらうのはすごいですね。

カルロス:それに、金谷を拠点にしているから、房総半島を中心に面白い縁に恵まれるようにもなりました。一次産業、主に農業や建築系の方達とのつながりや、縁が生まれました。金谷周辺には面白いことがたくさんある……そういう感覚が大きいです。

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――金谷の南にある、いすみ市にもいなフリを展開していましたね。

いけちゃん:カルロスが、いすみ市の方をまるもに連れて来てくれたことがきっかけで決まりました。

カルロス:たまたま参加した異業種交流会にいすみ市行政の人が来てて、僕の話を聞いたら「案内してください」って言われたので連れて行きました。

いけちゃん:それで町おこしの担当の方と知り合って、その後少し時期が空いた時にやりとりする機会がありました。いすみ市でコワーキングスペースを運営するための管理者を公募しているという話を聞いて、応募することに決めました。

――移住者から縁が広がる。

いけちゃん:移住者きっかけで何かが始まることは、けっこう少なくない。これも田舎・地方を拠点にした事業の面白みかなと思っています。

――外から町おこしをすることに、苦労はありませんか?

いけちゃん:金谷もいすみ市も偶然始めた事業でしたが、両方とも寛容です。そもそも金谷も地域活性化に挑戦をしていたし、いすみ市も外から来た人たちが多いんです。そういう「地域の文化」もあいまって、色々と自由にやらせてもらえていますね。

――今後、いすみ市と金谷で実現していきたいことはありますか?

いけちゃん:僕は、金谷に来たのは偶然だけど、それでもここに新しい魅力をつくって、新しい「町」を作りたいと思っています。

移住促進をするには、働く場所と働きたい人、生活する場所や施設があれば実現しやすい。幸い、金谷には生活する場所と施設は十分にあります。だから僕は働く場所と働きたい人の手伝いをしているだけなんです。今も何箇所が開発合宿のためのスペースを建設したり、拠点も増やしたりと準備しています。今後も、様々なコンテンツを提供して、より多くの人の受け口が作れるといいなと思っています。

特に、今は若者が移住する受け口は用意できているけど、ファミリー世帯向けにはあまり展開できていない。その辺りを強化したいです。それに、金谷は「まるも」を拠点とした活性化しかできていません。だから、今後は金谷ともっとコミュニケーションをとって、金谷という町をより魅力的にしていきたいんです。そのためには、金谷の町としてビジョンをつくる。その上で、僕に何ができるかを考えて、一緒に町をつくっていけるといい。そう考えています。

◇       ◇

【編集後記】

個人的に4年前から縁のあったいけちゃんは、当時「町をつくることに決めた」という話をしていました。当時はまるももなく、カルロスさんもいない、移住者は1人もいない状況でした。

そこから、数年。金谷にはいけちゃんが作る町の原型ができていて、未来の町の様子も見えてくるようでした。「地域活性化」の様相とは、少し違うアプローチに見えるいけちゃんの「結果としての町おこし事業」。それは、他の多くの市町村、「田舎」を起こすためのヒントになり得ると感じました。

ちなみに「山口拓也なのになぜ”いけちゃん”なの?」というニックネームに対する疑問には「金谷に来た際にお答えします」とのことでした。

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提供:70seeds

WRITER

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大沢 俊介
1994年2月生まれ。フリーランスのライター。「働き方」を中心に執筆中。現在はライターとして活動しつつ、Web制作、PR支援や雑司が谷でカフェ・バーの共同経営、ゲストハウスの運営なども行なう。

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