山中伸弥教授が明かす、故・平尾誠二との「最後の一年」

山中伸弥教授が明かす、故・平尾誠二との「最後の一年」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/10/15
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告げられた余命はわずか3カ月。生還か、永遠の別れか――。

「自分の全力を懸けます。この僕のいうことを聞いてください」

「僕は山中先生を信じるって決めたんや」

2016年10月に永眠した、元ラグビー日本代表監督の平尾誠二さん。死の影が日々迫るなか、ノーベル賞受賞者の山中伸弥さんが彼を支え続けていたことはあまり知られていない。

40半ばを過ぎて出会った大人の男たちの間に生まれた、知られざる物語を綴ったのが『友情~平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」』だ。

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本書の中から、山中さんが平尾さんとの思い出を語ったパートを特別公開する。

思っていた通りの「男」だった

初めて平尾誠二さんとお話をしたのは、2008年だったと思います。

ある晩、神戸大学医学部の先輩と後輩、僕の三人で食事をしていました。先輩は僕より十歳ぐらい上で、当時は整形外科の教授でした。後輩は二、三歳下で、神戸大医学部のラグビー部でも一緒でした。今は教授になっています。

二人とも神戸製鋼ラグビー部(神戸製鋼コベルコスティーラーズ)のチームドクターをしている関係で、平尾さんと親交がありました。

僕は高校時代から平尾さんの大ファンです。伏見工業高校の試合をテレビでよく観ていましたし、自分も大学で三年間だけですがラグビーをやっていたので、「本当に素晴らしい選手や」と憧れていました。

そんな話をしたところ、ちょっとお酒が入っていたこともあり、先輩が「そんなら平尾さんに電話するわ」と言って、その場で平尾さんに電話をかけました。

先輩はしばらく平尾さんと話をすると、

「今、隣に山中先生がいてますねん。代わりますわ」

と、僕に携帯電話を渡してくれました。その時は挨拶程度の会話でしたが、平尾さんは、
「山中先生のことは前から存じ上げてます。ぜひ、お会いできたらいいですね」

と、おっしゃいました。社交辞令だったのかもしれませんが、「とても紳士的な方だな」という印象を受けました。

それから二年ほどして、「週刊現代」から平尾さんとの対談の依頼がありました。

京都大学iPS細胞研究所には国際広報室という部署があり、取材や対談などいろいろなリクエストを全部チェックしています。

まだノーベル賞をいただく前で、毎年、発表の前の時期になると、ものすごい数の取材依頼をいただいており、基本的にはすべてお断りしていたのですが、二週間に一度ぐらいの割合で、どういう依頼があったかを僕に教えてくれていました。

「週刊現代」の依頼があった時も、「こういうお話がありましたがお断りします、この依頼もお断りします、これもお断りします……」という報告を、僕は「はい、はい、はい」と聞いていました。その流れのなかにさりげなく、

「ラグビーの平尾誠二さんとの対談もお断りします」

という言葉が出てきたのです。僕は慌ててストップをかけました。

「えーっ! ちょっと待って、ちょっと待って。今、なんて言うたの?」

これでこの話は復活。2010年9月30日に京都で対談をすることになりました。

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初めての対談で。話は尽きなかった Photo by 岡村啓嗣

実際にお会いしてみると、平尾さんは僕が思い描いていた通りの方でした。

平尾誠二は、僕のようにラグビーをやっていた人間だけでなく、男女を問わず同年代の人たちにとってヒーロー的な存在です。テレビでも、伏見工業高校ラグビー部を題材にしたドラマ『スクール・ウォーズ』が大人気で、平尾さんをモデルにしたキャプテンの「平山誠」は、女子生徒がファンクラブを作るほど格好いいエースとして描かれていました。

「その通りの人が、そのまま出てきたな」と、僕は思いました。

テレビなどで憧れていた人でも、実際に会ったら想像していたイメージと違ってガッカリした、という話はよくあります。僕もそう思われているかもしれません。でも、平尾さんは想像していたイメージそのまま、いや、それ以上に素敵な方でした。

彫りが深くて男前なだけでなく、とても心の優しい人なのです。話の端々に、いろいろな人に対する思いやりが滲みます。それが慇懃無礼な感じではまったくなく、むしろ口では結構辛辣なことも言うのですが、それでも優しさが自然に伝わってくるようでした。

対談後、編集者もまじえて京都で食事をしました。いちばん憧れていた人にお会いできた嬉しさから、いつもよりたくさんお酒を呑んでしまいました。

そこから、僕たちの付き合いが始まったのです。

平尾さんが癌を告知されたのは、2015年9月12日でした。

その前日、彼は友人たちとゴルフをし、夜になって僕や別の友人と一緒に食事をしました。その時は特に痩せておらず、様子も普段と変わったところはありませんでした。

ところが、二日後に、

「先生、実は先生と別れたあの晩に血を吐いて。どうやら癌みたいです」

と、車で移動中だった僕のところに彼から電話がかかってきたのです。

吐血と聞いて、食道癌かな、胃癌かなと思い、それなら早期発見で絶対に大丈夫と思いましたが、話を聞いてみると、もっと深刻な状態のようです。入院先を聞くと、神戸にある僕も知っている病院でした。

翌日は日帰りの東京出張でした。僕の自宅は大阪なので、新大阪駅で降りてそのまま帰宅するつもりでしたが、予定を変更して新神戸駅まで行き、彼が入院している病院に直行しました。そこで担当の医師に話を聞き、CT画像を見せてもらったのです。

肝臓の中にできる胆管癌(肝内胆管癌)で、癌はびっくりするほど肝臓の中に広がっており、大きな衝撃を受けました。

その数日前には、いつもと同じように一緒に呑んでいたのです。まさに青天の霹靂でした。

吐血は、食道静脈瘤の破裂によるものでした。

年を越せないかもしれない

僕はもともと整形外科医で癌は専門ではなく、長らく臨床もやっていませんが、その僕から見ても、彼の癌は「こうなるまで気付かないものなのか」と思うくらい大変な状況でした。

その時は余命のことまでは説明を受けなかったと記憶していますが、平尾さんが入院したことは病院内の医師たちの間ではすでに知られており、知り合いの医師から、

「山中先生、平尾さんは年を越せない可能性が高いよ」

と言われました。つまり、あと三ヵ月半くらいということです。余命というのはなかなか予想できないものですが、非常に厳しい闘いになることは確かでした。

そのあと病室に行って平尾さんと奥様にお会いし、「とにかく頑張りましょう」などと努めて明るい話をしました。

昔、僕の知り合いに、気が付いたら末期癌で非常に落ち込んだ人がおられましたが、平尾さんはそれほど気落ちしている様子ではなく、笑顔さえ見せていました。

家族ぐるみのお付き合いだったので、帰宅すると家族に、「誠二さんはこういう状態なんだ」と告げました。彼の病気のことは、家内と娘たち以外、誰にも話していません。皆、「信じられない」とショックを受けていました。

弱音を吐くことさえなかった

平尾誠二の闘病生活は、究極の試合でした。ワンプレー、ワンプレーが結果を左右する極限状態の試合を、彼と一緒に闘っているような感じでした。

もちろん、彼が中心で闘っていたわけですが、少しでも僕にできることがあるのならどんなことでもしてあげたい、という思いでいっぱいでした。

肝臓の状態が悪くなると、体の中にいろいろな有害物質が増えてしまうため、ちょっと怒りっぽくなったり、おかしなことを言ったりすることもあり得るのですが、彼の言葉や考え方は、元気な頃とまったく変わりませんでした。

僕に弱音を吐くこともなく、「絶対に闘うんだ」と常に前向きでした。周囲の人に気配りし、ジョークもたくさん言いました。もし自分なら、とてもできなかっただろうと思います。

平尾誠二は最期まで紳士でした。平尾誠二のままでした。

平尾誠二さんと僕との付き合いは、出会いからわずか六年間で終わってしまいました。せっかく知り合えたのに、あっという間でした。

けれど、四十代半ばを過ぎてから男同士の友情を育{はぐく}むというのは、滅多にないことです。なんの利害関係もなく、一緒にいて心から楽しいと感じられる人と巡り会えた僕は幸せでした。

平尾誠二は、常に全力疾走でした。

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「僕の自慢です」と語る、平尾さんと山中さんとのパス回し Photo 平尾惠子さん提供

2019年にはラグビーワールドカップ日本大会が開かれます。

平尾さんとはよく、その話をしました。日本代表監督を志半ばで退いたこともあり、「自分だったらこうしたい、ああしたい」という構想も、きっとあっただろうと思います。

日本でワールドカップが観られるなんて夢のよう。万難を排して観に行くつもりです。

平尾さん、その時はもちろん、きみと一緒だ。

二人で思いっきり日本チームを応援しような。

※『友情~平尾誠二と山中伸弥「最後の一年」』では、山中教授とミスターラグビーの知られざる濃密な交際と、最後まであきらめなかった「がんとの闘い」が、山中教授によって語られる。また、平尾誠二夫人・惠子さんが壮絶な闘病を振り返る手記も、同書には収録されている。

同書刊行を記念して、紀伊國屋書店グランフロント大阪店にて、「平尾誠二×山中伸弥写真展」が開催される(10月14日~30日)。写真展で展示された写真パネルは、チャリティとして希望者に有料で譲られ、その収益の全額が京都大学iPS細胞研究所に寄付される。(詳細はこちらからご覧ください http://news.kodansha.co.jp/5257)

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