金正恩氏の「隠し資産」にだけは絶対に触れてはいけない

金正恩氏の「隠し資産」にだけは絶対に触れてはいけない

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/09/14
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資産家として見ると意外とシンプル

緊迫した状況が続いていた北朝鮮問題は、国連安保理決議が採択されたことで、ひとつのヤマ場を迎えつつある。

金正恩朝鮮労働党委員長は、金日成氏から3代続く世襲の独裁者だが、日本人は独裁者という存在について、実はあまりよく知らない。

日本社会はどの時代であっても、よく言えば利害調整型の政治であり、悪くいえば曖昧で玉虫色の政治だった。軍国主義の時代においても本当の意味での独裁者は存在しなかった。独裁者というものが何を考え、どう振る舞うものなのか、実はよく分かっていないのだ。

独裁者はたいていの場合、不当な手段によって得た莫大な資産を持っており、資産の維持管理は独裁体制と密接に関係している。

中央日報の報道によると、金正恩氏の海外資産は約30億〜50億ドル(約3300億〜5500億円)と言われている。

つまり独裁者というのは、資産家の持つ「悪い面」をすべて凝縮した人物であり、お金という視点で独裁者を分析すれば、その行動原理は意外とシンプルに理解できる。この話は当然のことながら金正恩氏にもあてはまる。

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錯乱してミサイルを撃っているわけではない

北朝鮮は1990年代に中距離弾道ミサイル「ノドン」(射程1300キロ程度)を開発、その後「テポドン1号」(射程2000キロ程度)や「ムスダン」(射程2500~4000キロ程度)の開発へと進み、とうとう大陸間弾道ミサイル(ICBM)「テポドン2号」(射程4000~6000キロ程度)の開発に成功した。

米国に到達できるICBMを完成させるのは時間の問題と言われており、同時並行で核実験も次々と成功させている。タテマエはともかくとして、北朝鮮は限りなく核保有国に近い立場を得たとみてよいだろう。

それにもかかわらず、北朝鮮はなぜミサイルを発射するという危険な挑発行為を繰り返すのだろうか。

日本人からするとこうした行為は狂気の沙汰であり、同国はいつ何をするか分からない危険極まりない国に映る。実際、その通りであり、同国のこうした行為は断じて容認できるものではない。

だが北朝鮮は決して錯乱した状態でミサイルを撃っているわけではないと筆者は考えている。北朝鮮がミサイルを何度も発射するのは、米国を交渉の場に引きずり出すことが目的であり、この行動パターンはノドンの時代から一貫しているからだ。

北朝鮮がリスクを冒してでも、米国との交渉を望むことには理由があるが、そのヒントは安保理決議の中に見出すことができる。

国連の安全保障理事会は9月12日、北朝鮮に対する新たな制裁決議を全会一致で採択した。決議には、北朝鮮からの繊維製品の輸入禁止や、北朝鮮からの出稼ぎ労働者に対する新規就労許可の禁止といった項目が盛り込まれ、以前と比べて制裁対象が拡大した。

重要なのは、何が決議に盛り込まれたのかではなく、何が盛り込まれなかったのかである。

この決議には、草案段階において、金正恩氏の資産凍結と北朝鮮への原油輸出禁止という項目が盛り込まれていた。

だが資産凍結については見送られ、原油については現状維持が認められるなど、各国は北朝鮮に譲歩する形となった。おそらくここが今回の交渉における最重要ポイントである。

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「資産保全」と「体制維持」

北朝鮮としては、金正恩氏の資産凍結は何としても避けたかった項目と考えられる。石油は金氏の独裁体制を維持するためのカギであり、こちらについても絶対に譲ることができなかった。

言い換えれば、一連の交渉は、金一族の資産と独裁体制の保証を各国に要求したものだと解釈することができる。これらを保証してくれるのであれば、ミサイルは撃たないという取引である。

この話は2005年、当時の米ブッシュ政権がマカオにあるバンコ・デルタ・アジア(BDA)の北朝鮮関連の口座を凍結したケースとまったく同じ文脈で理解することができる。

同行に対する制裁は、北朝鮮にとっては大打撃となったが、米国は核問題に関する6カ国協議に北朝鮮を復帰させる必要があり、2007年にやむなく制裁を解除している。

同行は北朝鮮が外貨取引を実施するため口座を開いていた銀行だが、外国とのやり取りの中には、当然、金一族の資産も含まれていたはずだ。この時も北朝鮮は核問題をダシに、独裁体制や資産保全手段の維持に成功している。

米国と中国は北朝鮮問題について利害が相反する関係なので、対北朝鮮問題において見解は一致しない。ミサイルの発射や核実験で脅しをかけ、中国と米国を同時に交渉のテーブルに引きずり出す。そして、両国の利害の不一致を利用して、自らの利益を最大化するというのが、北朝鮮の基本戦略ということになる。

つまり金一族は、祖父である金日成氏の代から終始一貫し、自らの資産と独裁体制の保証を各国に要求するという行為を繰り返しているのだ(金日成氏の時代における主な交渉相手は旧ソ連)。

今回の挑発は時期も絶妙だ。米国には北朝鮮を攻撃するという決断を下しにくいという政治的事情があり、中国は10月の党大会を前にして本来であれば外交どころではない。当面の体制維持について交渉するにはベストのタイミングといってよいだろう。

外交の主目的は個人資産の維持

独裁者はたいていの場合、反体制派を排除するため国内に相互監視システムや密告システムを構築しており、敵対的な人物は徹底的に粛正するなど、いわゆる恐怖政治を行っている。

だがこうした独裁体制は恐怖だけでは長続きしない。独裁者に媚び、協力してくる人物に対しては相応の利益をもたらし、秩序を維持する必要がある。

このため独裁者の多くが、不正に蓄財した莫大な富を持っており、これを統治に利用している。また、いつ国を追われるか分からないので、その一部は海外に送金し資産保全を図るケースがほとんどだ。

つまり独裁者は多分に資産家としての側面を持っていることになる(資産家といっても、非常にタチの悪い資産家だが…)。

中国は北朝鮮とは異なり、共産党による独裁国家であり個人崇拝が行われているわけではないが、それでも党幹部が蓄財する金額は私たちの常識をはるかに超えている。

ニューヨークタイムズなど複数の海外メディアが報じたところによると、胡錦濤政権時代に国務院総理(首相)を務めた温家宝氏は、2200億円もの蓄財をしていたという。

またPLO(パレスチナ解放機構)元議長で、パレスチナ自治政府初代大統領のアラファト氏は、300億円の個人資産を保有していたとフォーブス誌が報じている。一部では1000億円以上の資産を運用しているとの報道もあったが、これらの多くは、PLOから不正に流用されたものだという。

時に人格者と評される温家宝氏やパレスチナ解放運動の指導者であるアラファト氏を独裁者として扱ってよいのかは微妙なところだが、相当なパワーを持った権力者であることは間違いない。彼らは総じて資産家であり、その行動パターンもやはり資産家に似てくることになる。

金正恩氏に至っては疑う余地のない独裁者であり、そして資産家でもあることを考えると、資産家の思考パターンをあてはめれば、金正恩氏を理解することはそれほど難しくはないはずだ。

独裁者が本当に暴発する時

資産家が考えることは、何をおいてもまずは自身の資産保全であり、あらゆる行動はその一点に絞られることが多い。資産を保全するための努力や苦労は惜しまず、非情な措置も躊躇なく決断する。

また人に雇われるということがないので、世間からの評判はほとんど気にせず、他人から賛同を得ようとも思わない。

かつて田中真紀子氏は「世間には敵か家族か使用人の3種類しかない」と評したことがあったが、これもある種の資産家的な思考回路といってよいかもしれない。

独裁者の場合、資産を保全するため独裁体制の維持が必須であることに加え、万が一の場合には海外への資産隠匿手段を確保しておく必要がある。

したがって外国との交渉は、独裁体制と資産保全手段に関することが主題となる。極論すると、国家の名誉などはどうでもよいし、資産を喪失する恐れがあるので実は外国との戦争についても消極的だ。

金正恩氏をはじめとする独裁国家の指導者たちは、何万人もの群衆が作り笑いをして自身に万歳三唱をする姿をただ無表情に眺めている。群衆が強制されて笑っているのは明らかであり、私たちの一般常識からすると、そのような形で賞賛されても嬉しくない。

だが支配する群衆がこうした作り笑いをしているということは、恐怖支配が行き届いている証拠であり、それは資産保全と体制維持が出来ていることの裏返しでもある。

おそらく金正恩氏にとってパレードの閲覧というのは、大きな問題が発生していないことを淡々と確認する作業に過ぎないということになる。

逆にいえば、独裁者の資産保全や体制維持が不完全になった時、こうした国家は暴発する危険性が一気に高まることになる。つまり、海外資産の凍結が、本当のレッドラインなのではないだろうか。

独裁者に特有の行動パターンを基本に据えれば、最悪の事態を避け、北朝鮮と対峙するにはどうすればよいのか、また彼らの最大の弱点はどこなのか、ある程度の見通しを付けることができるはずだ。

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