U2の新作発表が遅れた重大な理由とは

U2の新作発表が遅れた重大な理由とは

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  • 更新日:2018/01/12
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結成時からメンバー不変のU2。(左から)ジ・エッジ(g)、ボノ(vo)、ラリー・マレン(ds)、アダム・クレイトン(b)(写真:Anton Corbijn)

U2のニュー・アルバム『ソングス・オブ・エクスペリエンス』。2014年、世界中のiTunes Storeの利用者に無料配信され、後にCD化された『ソングス・オブ・イノセンス』と対になる作品として発表を予告されながら、見送られていたアルバムである。

【U2のニュー・アルバム『ソングス・オブ・エクスペリエンス』ジャケット写真はこちら】

U2は1978年、ボノ、ジ・エッジ、アダム・クレイトン、ラリー・マレン・ジュニアがアイルランド・ダブリンで結成。デビュー以来、不変のメンバーでロック・シーンの第一線で活躍し続けている。

本作の発表遅延の要因は複数ある。まず14年11月にボノがニューヨークで自転車事故を起こし、腕などに大けがをした。その後のツアーの合間にレコーディングを継続したものの、イギリスのEUからの離脱決定、ドナルド・トランプ米大統領の誕生、ヨーロッパ各国での極右勢力の台頭といった社会情勢をにらみ、もともと私的な内容だった歌詞を書き直す作業も加わった。

一貫して社会問題をテーマとした作品を発表してきた彼らからすれば、当然の処置だったといえよう。

さて、『ソングス・オブ・イノセンス』と『ソングス・オブ・エクスペリエンス』のそれぞれのタイトルは、イギリスの詩人ウィリアム・ブレイクの詩集“Songs of Innocence and Experience”(『無垢と経験の歌』)にインスパイアされたものだという。

先に発表された『イノセンス』は、U2結成当時に遡り、バンド活動にあたって刺激や影響を受けてきたラモーンズやザ・クラッシュに捧げた曲、バンドを取り囲む人間関係、友情、恋人、家族について解き明かした曲などを収録。“無垢”だった時代を描いた自伝的な作品だった。

今回の『エクスペリエンス』は前作と対照的に、現在のU2を表現している。『ヨシュア・トゥリー』(87年)以後のU2らしいギター・ロックを主体に、モータウン・スタイルのソウル/ファンク的な要素、最近になって影響を受けた音楽展開などを反映させたコンテンポラリーな内容だ。

ゲストとして、ラッパーとして評価の高いケンドリック・ラマーをはじめ、レディー・ガガやジュリアン・レノン、ガールズ・ロック・バンドのハイムがコーラスで参加している。

音楽展開もさることながら、注目されるのはボノが手がけた歌詞である。ボノ自身がそれぞれの曲を書いた背景などを記した文章を公表している。

その中でとくに目に留まったのは、本作の曲を書き始める前、アイルランドの詩人、小説家のブレンダン・ケネリーが立ち向かっていた課題にボノも取り組んだというエピソードだ。それは“文芸の深奥を極めたいなら”という挑発でもあり、“自分が死んだかのように書く”“自我を超越しようという挑戦”でもあった。曲が“ラジオでかかったり、様々なところから流れるころには、自分はこの世にはいないかもしれないという感覚を抱いていた”とも触れている。

ボノはそうした思索の結果、自分が亡くなった後を想定したラヴ・レターとして詞を書くことにした。本作の収録曲は、家族、友人、ファン、自分自身にあてた手紙の形をとったという。

ボノが“パンクなモータウン”と語る「ベスト・シング」、ジ・エッジ独特のギター・リフやシンセサイザーなどによる叙情的な「ランドレディ」は、ボノの妻アリに向けてのものだ。「ザ・ショウマン(リトル・モア・ベター)」や「ザ・リトル・シングス・ザット・ギヴ・ユー・アウェイ」などからはボノ自身のことが思い浮かぶ。

「ゲット・アウト・オブ・ユア・オウン・ウェイ」は、“自分で自分の行く手を阻むな、邪魔をするな”と歌うメッセージ・ソングで、歌の最後でケンドリック・ラマーが傲慢な者、スーパースターや金持ちを揶揄する。

ケンドリックが弱者をいじめて嘘をつく者を皮肉る「アメリカン・ソウル」では、トランプ大統領の不法移民、難民、イスラム系の人々への強硬な政策への批判と、寛容な国であったはずのアメリカのあるべき姿への願いが歌われる。

“刺激臭を放つ暗雲が垂れ込めたラヴ・ソング”とボノが記す「サマー・オブ・ラヴ」と「レッド・フラッグ・デイ」は、写真家で映像作家のリチャード・モスによるシリア難民の記録を見たのをきっかけに書いた。前者で“ずっと考えているのは西海岸(ウエスト・コースト)のこと 皆が知っているあの西海岸ではない”と歌われる“西海岸”は、地中海に面したシリアのそれを意味する。後者では遊泳禁止の日の荒れた海に出ていく難民を描いた。

民主主義の崩壊への憂いを歌う「ザ・ブラックアウト」も含め、社会問題をテーマにした一連の作品のインパクトはU2ならでは。詞を書き直した成果と言えるだろう。

さらにボノは“自らの生にしがみつかざるを得なかった”ことがあったと明らかにしている。実際、16年の末、生死の境をさまよう出来事があったとされるが、冒頭の「ラヴ・イズ・オール・ウィ・ハヴ・レフト」「ライツ・オブ・ホーム」などは、その体験に基づいた曲らしい。

「13(ゼア・イズ・ア・ライト)」での“闇”“光”といった歌詞は“死”と“生”を象徴するかのようだ。最後に“誰かへの曲、僕のような誰かへの”と繰り返され、無垢だったかつてと、経験を経た現在の自身を映し出すとともに、“死”への旅立ちや無垢な存在への回帰、無垢な存在である子どもたちに願いを託した曲でもあると言えそうだ。

アルバムのカヴァーを飾る2人の子どもはボノの息子のイーライとジ・エッジの娘のサイアンである。(音楽評論家・小倉エージ)

●『ソングス・オブ・エクスペリエンス』(ユニバーサル UICI-9068)

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