スタートアップ大国、イスラエルの秘密|出井伸之

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2017/12/09
No image

人生は岐路の連続。最良の選択でチャンスを呼び込むためには、自身と深く対話し、自分の中にある幸せの価値観を知ることが重要である。この連載は、岐路に立つ人々に出井伸之が送る人生のナビゲーション。アルファベット順にキーワードを掲げ、出井流のHow toを伝授する。

今回は、I=Israel(イスラエル)とInnovation(イノベーション)について(以下、出井伸之氏談)。

今から約70年前の1948年、いまスタートアップネイションと注目されるイスラエルが建国された。実は、そのわずか2年前にソニーの前身である東京通信工業が創業している。40年代半ばに誕生したイスラエルとソニーは、共にイノベーションを起こすことに意欲的だ。

戦後、世界的に伸びた日本企業は、ユダヤ人の商売力の強さにとても恩恵を受けていると思う。ソニーでも各国のエージェントにはユダヤ人が多い。私は昔からユダヤ人と日本人は結構うまくやっていけるのではないかと思っている。

私が代表を務めるクオンタムリープでは、スタートアップやイノベーション領域での仕事をしているため、イスラエルは一度訪れなければと思っていた。それがこの夏、ようやく実現した。

2000年以上にわたり流浪の民だったユダヤ人が様々な困難を乗り越え、エルサレムに3つの宗教が混在する特異な国、イスラエルをつくった。そして今スタートアップ大国と呼ばれるようになった秘密に関心を持っていた私は、アドバイザーや取締役をしているベンチャー企業の経営者らと共に、宗教の聖地エルサレムと、経済文化を牽引するテル・アビブを訪れ、この国の強さとその元になっているものを探ってきた。

イスラエルが持っている3つの強み

行く前に得ていた情報と実際訪れてわかった事実をひっくるめて、私が考えるイスラエルと日本の根本の違いは、大きく3つあると思う。

まず1つ目、技術が発達する背景。建国してから7回も戦争を行い、周辺諸国が敵ばかりというイスラエルは軍事のための技術に集中してきた。一方、日本は国連と日米安保条約で守られ、自ら戦争しない国の平和な産業技術で発展してきた。イスラエルに限らず他の国、たとえば米国は3年に一回は戦争を行なっているが、そのたびに技術が向上している。

イスラエルでは、軍事技術を民間にも活用し国の産業を発展させてきたが、対して日本は、戦後、コンシューマー向けの商品の開発を行い、技術を発達させ経済を発展させてきた。「Japan as No.1」を掲げ、日本から誕生したソニーなどのいくつかの企業はグローバルに大きく成長した。まさに民生用技術の向上から産業が発展した国だ。

イスラエルの国民はわずか800万人だが、その中に8000を超えるスタートアップが存在している。なぜここまで成功しているのだろうと思っていたが、行ってみて確信した。その秘密はやはり軍事にあった。常に戦争と背中合わせの中、自分たちで国を守ってきたという強烈な背景がある。

そして驚いたことに、18歳からの兵役期間(男性3年・女性2年)に、国が一人一人の能力を全て分析し、把握していることだ。プログラミング・ハッキング・物理理論に強いなど、得意分野を定めて伸ばす教育を行なっている。

イスラエルは、常に戦争がそばにあるから思考の元となる国の情勢や国民の状況も、日本とはまるで違う。しかし、そもそもどんな国でも若い人は自分自身の強みというのはよくわかっていないものだ。イスラエルでは兵役後、大学に進学するのは21歳以降となる。

長い人生、社会への船を漕ぎ出す最初は、多くのアドバイスをもらいながらゆっくりとスタートするのがよいのではないかと思うと、ここは今の日本が学ぶべき点だと思う。大人への階段を急いで登ろうとし、これからの人生をどう生きていくか迷ってる大学生や高校生が多くいるが、スロースタートは自分自身を見つめることのできる価値ある時間なのではないだろうか。

2つ目は、国が軍事技術を活用した起業を推奨していること。これはまず多くの国では違法だと思うがイスラエルでは違うようだ。

中東に平和をもたらした功績によりノーベル平和賞を受賞したイスラエル第9代大統領シモン・ペレスの有名なフレーズに、「To Dream is to Survive」がある。人間は年をとると過去を振り返り話すことが心地よいようだが、そればかりでは国が衰退していく。”未来を考え続ける国のみが生き残れる”。それがこのスタートアップネイションの合言葉なのだ。

兵役で会得した技術を活用して起業することに協力的なイスラエルは、国民全員が起業家といわれるようにスタートアップを育てるエコシステムを国として確立させている。だからこそ何もないところから革新的なものを生み出せる「0〜1」の国で、一方日本は、既存のものの改良改善・合理化を行い大きくするのが得意な「1〜100」の国だ。これはもう、国が成り立った歴史やおかれている状況、そしてユダヤ人と日本人の違いということにもなるかもしれない。

そして3つ目は、国民性と時間軸の違いだ。とにかく現地で思ったのは、失敗を怖れないのがイスラエル流ということ。失敗すると「よくやった。次の糧になる」と言われているし、今までどんな失敗したのかと、よく聞かれていた。失敗することで次のベンチャーで成功する確率も高くなるということのようだ。

一方日本では、失敗すると全ての終わりに思うし、周りもそう扱うので、行動も慎重になり、調査検証の繰り返しでなかなか実行に至らない。失敗を受け入れる国民性と国の体制はとてもいいことだと思う。これは起業だけでなく教育でも同じだ。日本はぜひ見習うべきだと思う。

そして、その国民性の違いには、時間軸の違いが大いに関係していると感じた。イスラエルはいつ戦争を起こしてもおかしくない国に囲まれていて、日本のように周りを海で囲まれ終戦後平和を保っている国とは、時の捉え方がまるで違うのだ。ゆっくり大企業をつくり長期改善している暇はないから、すぐに実行し、失敗を恐れず次に進む。そういった時間軸で進まないと生き残る道はない、そうイスラエルの人たちは日々感じているのだと思った。

イスラエルに学ぶ、パラダイムシフトに必要なもの

11月末、東京で行われた「日本・イスラエル・ビジネスフォーラム」と「サイバーテック東京2017」に、スピーカーとして登壇させていただいた。今年5月に世耕経済産業大臣がイスラエルを訪問して、日本とイスラエルの経済関係の道筋を示す取り組みの「日イスラエル・イノベーション・パートナーシップ」に署名してから、二国間の関係がさらに強固なものになってきている。

私はイスラエル訪問前、「0〜1」のイスラエルと「1〜100」の日本はうまく掛け合せればよいと考えていたが、実際行き、話を聞いてみると水と油ぐらい全く違うと思った。だからこそ補完し合えると思う。それに日本はこういった国と付き合えないと、今後イノベーションは起きにくい。もともと成り立ちが全く違うイスラエルとビジネスをすることで、思考や制度、そして規制などの多くを学ぶことができると思う。

何度も言っているが、今は大きな技術のパラダイムの節目にある。世界的に新しい「0〜1」を生み出すチャンスだ。イスラエル方式だけがお手本ではないが、この国と付き合い、例えば似たようなエコシステムのようなものをつくることができれば、日本でも新しいイノベーションが生まれる可能性が高まるだろう。

自ら新しいものをつくることは当然できることだ。ここで、国の規制が最も大切なことになってくる。テクノロジーはダイナミックに変わっていくが、規制は一度決めたらなかなか変わらない。例えばブロックチェーンによるパラダイムチェンジは、縦割りの省庁にとらわれず、国が一丸となり技術にあった新しい規制を作り出す、そういったことができれば、イノベーションは起こるだろう。

経済を全く変えていく新しい技術、今度こそは乗り遅れないようにしたいものだ。それには、新しい規制、そして新しい基本法など、国の協力が必要だ。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

コラム総合カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
この絵をパッと見て、最初に何が見えた?心の奥底を探る心理テスト
ヘビの毒を25年にわたって注射してきたパンクロッカーの体から35種以上の毒への抗体が取り出される
「深夜に晩ゴハン食べる生活」を5年間続けた結果がエグい! 標準体型の人でもこうしてデブになる
ホームから人が転落... 居合わせた人の行動に「頭おかしい」「怖い」の声
悪妻:「妻の気持ちがわからない」。愛し方を間違えた夫が、初めて結婚を後悔した夜
  • このエントリーをはてなブックマークに追加