早死より19倍も怖い「死なない」リスク

早死より19倍も怖い「死なない」リスク

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2017/12/12

日本人の95%は60歳以上生きる。多くの人が若いうちから“安心料”としてかける死亡保障は結果的にはムダになる確率が高い。それに、日本には公的な「死亡・医療保障制度」が充実し、万が一でも家族は路頭に迷わずに済む。FPの筆者はむしろ備えるべきは可能性の高い「長生きリスク」だと語る。そのために30、40代が今からすべきこととは?

なぜ日本人は「長生き」の備えではなく「死ぬ」備えをするのか

本コラムでは「あなたとお金の生存戦略」というテーマでお金との関わり方を考えています。長い人生を生き延びていくヒントはどこにあるのでしょうか。今回のテーマは「長生きする可能性」です。

日本人の多くは生命保険に加入しています。再保険会社スイス・リーの2012年調査によると、日本の生命保険料総額は米ドル換算で5240億ドルと、米国の5680億ドルに迫る世界2位。世界全体の生命保険料(2兆6210億ドル)の約20%を世界人口の1.6%でしかない日本人が払っている計算になります。それくらい日本人は生命保険が好きなのです。

生命保険はいろんなリスクに備えることができます。死亡時のリスクはもちろん、病気へのリスク、失職時の所得減少のリスク、長生きへのリスクにも備えることができます。

▼日本人は「若くして死ぬ確率」を大きく見積もりすぎ

しかし、自分の生命保険契約について、月々支払う保険料の額を言えたとしても、その保険料の内訳、例えば、保険の原価である「純保険料」や、保険会社の経費や利益になる「付加保険料」などを説明できる人は少ないと思います。また、「掛け捨て部分がいくらで、貯金部分がいくら」という問いに答えることも難しいでしょう。

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その理由は、契約が複雑でわかりにくいというのがひとつ。また、契約している私たちがあまりにも保険の仕組みに無関心で、言われるがままに加入しているケースが多いというのがひとつ。

21世紀における「あなたとお金の生存戦略」を考えたとき、多くの日本人が「自分が若くして死ぬ確率」を大きく見積もっているのです。そうした誤解をもとに生命保険と関わることはいかがなものかと思わざるをえません。ここに「客観的事実」がひとつあります。

95% vs 5% 長命と早死の確率はどちらが高いか

「95% vs 5%」

この数字の対比を見て、ピンとくる人は少ないでしょう。これは「60歳定年前に死亡する人と、定年後に死亡する人の割合」です。若くして亡くなった芸能人のニュースを見たり、友人・先輩など身近な人の葬式に参列したりするとき、私たちは「死はすぐそこにあること」を実感します。しかし実際は60歳前で亡くなるのは、20人に1人以下、5%以下なのです。

毎年更新される人口統計に厚生労働省の「簡易生命表」があります。平均寿命の引用にしばしば用いられる数字ですが、ここにはある年齢時点での生存率も示されています。60歳男性の生存率は92.8%、65歳女性は96.0%となっており、男女平均でいえば約95%は60歳まで生きている計算になります。

▼60歳までに死ななかったら456万円損する人たち

もし、あなたが新卒として働き始めると同時に生命保険に加入し、定年の60歳まで加入し続けたとします。その生命保険のうち、毎月1万円分が死亡保障のための掛け捨てだとすると、「5%」の人は数千万円の死亡保障を遺族に残すことができます。

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一方、「95%」の人は22歳から60歳までのあいだに456万円を保険料として支払います。これは人生においてかなり大きな額の“買い物”をしたことを意味します。生命保険会社への総支払額を「安心料」と考えれば、そんなに高額とは言えない。そう思う人がいるかもしれませせん。しかし、大学・大学院卒の男性の生涯賃金は2.7億円(独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2016」)です。税金などを引いた手取りが約70%だとすれば、総支払額の456万円はその2.4%にあたる額となります。決して少なくない金額です。

夫が“早死”したとき家族が「もらえるお金4」

「不安に対する安心料」を払うことはおかしいことではありませんが、実際には過剰な備えとなっていることがしばしばです。しかも日本には多くの公的保障があり、それほど大きな不安を抱えなくてもよい環境にあるのです。典型的な「不安」に応じて、公的保障の具体例をいくつか紹介しましょう。

【不安その1:大病して医療費負担が天井知らずにかかると……】
→保険診療の範囲内であれば、医療費の支払いが100万円を超えるようなことはありません。「高額療養費制度」があるからです。これは、病院の窓口で支払う医療費が一定限度を超えた場合にお金が戻ってくる制度のひとつ。※高額療養費が常態化した場合、支払いは不要になるが、最初から窓口支払いがまったくないわけではない

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よって、支払う医療費の自己負担上限額は、年収にもよりますが、報酬月額が27万円~51万4999円の人は「8万100円+(総医療費-26万7000円)×1%」。報酬月額が51万5000円~81万円未満の場合は、「16万7400円+(総医療費-55万8000円)×1%」(いずれも70歳未満)。本当は数十万円以上の医療費がかかっていても、ほとんどの場合、8万円強あるいは17万円前後が自己負担の打ち止めになるのです。

また、総医療費には家族(被扶養者)の費用も含まれるので、家族が同時期に病気になった医療費が足された場合も、自己負担上限額は前述の範囲に収まります。同一年に高額療養費の適用が4回を超えると上限額はさらに半減する仕組みもあります。

さらに、医療費の自己負担額が年10万円を超えると、確定申告で医療費控除を申請して還付金を申請できます(所得税や住民税の軽減になる)。ただし、加入していた医療保険の保険金を受けていた場合、自己負担額と相殺するためむしろ医療費控除を使えないことがありえるのです。

【不安その2:病気になって働けなくなったら無収入で生活が困窮するかも……】
→病気やケガが長引き、会社を長期にわたって休む場合は、健康保険制度の「傷病手当金制度」があります。この健保制度により最長1年半にわたって休職前の賃金の3分の2を支払ってくれます(支給には諸条件あり)。また、業務上の理由による休職の場合は、労災保険によって全ての医療費がカバーされ、労災保険から休業補償給付金(休職前賃金の8割)も受けられます(同)。

【不安その3:自分が死んだら住宅ローンが払えなくなり、家族が路頭に……】
→一戸建てや分譲マンションを購入する際、多くの人は住宅ローンを組みます。その契約内容にもよりますが、ほとんどの場合、契約者が死亡や所定の身体障害状態になった場合には、残債についてその返済を免除する「団体信用生命保険(団信)」をつけることができます。これは公的な制度ではありませんが、買ったばかりの家の何千万円ものローンだけが残って、配偶者が途方に暮れるような事態は回避することができます。

生命保険料が浮いた分を消費に回してしまう残念な人

【不安その4:自分が死んだら妻ひとりで子どもが育てられるか心配だ】
→自分(夫)が死亡したときに18歳未満(高校卒業前)の子がいた場合、妻と子には「遺族基礎年金」が支給されます。支給額は、加入期間にかかわらず年77万9300円(2017年度)。また、子の人数によって加算されます。第1子・第2子は年77万9300円プラス22万4300円ずつで、第3子以降はプラス7万4800円。これを子供が高校卒業まで毎年受け取ることができます。

会社員(夫)の場合、さらに「遺族厚生年金」が妻子に支給されます。加入状況によりますが最低でも25年間の加入に応じた年金額が保障されています。なお、前年の収入が850万円以下(所得655.5万円以下)であれば配偶者が働いていたとしても前出の遺族基礎年金、遺族厚生年金を受けることができます。共働きの場合などは、これらの公的保障を活用しつつ、生活を立て直したり、子育てを続けたりすることが可能なケースも多いのです。

▼もし生命保険料を削ったら、その分を老後に備えたい

さて、ここまでご説明したのは「保険の掛け過ぎは止め、基本的な公的保障をしっかり把握しましょう」ということです。しかし、「あなたとお金の生存戦略」をテーマにしている私が重視したいのは、生命保険の掛け過ぎではなく「保険料を見直したその先」のことです。

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仮に、前出の60歳前に死亡する「5%」のリスクに生命保険を掛けることを見直し、月1万円の保険料を削減したとします。そのとき、その1万円を、自分の老後、つまり「95%」の生きる可能性のほうに備える原資にする必要があります。

ところが多くの人は、「月1万円分、家計が節約されて助かった!」と単純に喜ぶだけ。可処分所得、つまり使えるお金が増えた、と1万円を他の消費に回してしまい未来への備えをしていないケースが目立つのです。

確率「95%」で到来「20年間の老後」にどう備えるか

生命保険の契約によっては60歳の時に満期返戻金が数百万円戻ることもありますが、全部の契約を途中で解約してしまうとこれもなくしてしまうことになります。また、解約時に少額の返戻金を受け取った場合も、「臨時のボーナスが出た」とばかりに使い切ってしまうことがしばしば。これ、すなわち老後の貯蓄分さえも減らしてしまった、ということになります。

生命保険の見直しはいいことなのですが、浮いた保険料が出たら同額を必ず老後のための積み立て原資とするべきです。「95%」の確率で到来する老後、その期間(平均余命)は男性(60歳で定年を迎えた場合)は19年、女性は24年もあるわけですから、少しでも多く老後に向けて備える必要があります。

▼30~40歳代なら、iDeCoがおすすめ

30歳代から40歳代であれば、iDeCo(個人型確定拠出年金)の利用がもっとも有利で確実な老後資産形成になります。国の制度ながら、掛け金は全額が個人の資産として管理されていますので将来、確実にもらえます。

運用は自己責任の制度であるので、金融商品の選択や増やし方はすべて自分で決定することができます。また、以前、本コラムで報告したとおり、掛け金については全額所得控除が認められるので所得税や住民税が軽くなる分、積み立てるだけで20%以上の運用収益を得たも同然です(高所得者はもっと有利)。【参考記事 貯金「1000万の壁」を越える人の共通点http://president.jp/articles/-/23369

しかも60歳まで原則解約不可能という“しばり”は、老後のための資金確保にとっては好都合です。

企業年金のある会社員と公務員は月1.2万円、企業年金のない会社員と専業主婦は月2.3万円、自営業者は月6.8万円まで積み立てられますので、可能であれば上限に近い積み立てを続けていきたいところです。

老後対策として民間の年金保険に加入する手もありますが、税制優遇面ではiDeCoに軍配が上がります。ファイナンシャルプランナーのあいだでは、例の政治のキャッチコピーになぞらえて「iDeCoファースト」と言う人もいるほどです。逆に言うと、iDeCoは金融機関にとってはうまみが少ない(儲からない)ので、セールストークが後回しにされるとも言われるほどのこの仕組み、これを「95%」のための備えにしてはどうでしょうか。

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