なぜ安倍首相はなりふり構わず「石破潰し」に動くのか

なぜ安倍首相はなりふり構わず「石破潰し」に動くのか

  • 文春オンライン
  • 更新日:2018/08/11

9月下旬に予定される自民党総裁選を控え、安倍晋三首相が三選を目指し、「石破潰し」に向けてなりふり構わず動き始めた。月刊文藝春秋の名物連載で、毎月、政界の動きを取材し続けている「赤坂太郎」のインサイド・リポートを、8月10日発売の文藝春秋9月号から特別に転載する。

【写真】額賀福志郎に代わって派閥会長に就任した竹下派の竹下亘

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連続三選を目指す安倍晋三首相と石破茂元幹事長による自民党総裁レースは、一騎打ちへと雪崩れ込んだ。

もはや戦いの焦点は、安倍がどれぐらい石破を圧倒するのか、あるいは石破がどれだけ善戦できるかという「安倍の勝ち具合」に移っている。麻生太郎副総理兼財務相、菅義偉官房長官、二階俊博幹事長ら政権の骨格が三選後にどう変わるか。すでに具体的な人事情報が口の端に登り始めている。

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©文藝春秋

両者激突の構図が固まったのは、岸田文雄政調会長が3年前の総裁選に続いて立候補見送りを決め、安倍支持を表明した7月24日の午後のこと。

「自分の思うことをきちんと申し述べてご審判を仰ぐという方針に何ら変わりはない」。石破は岸田の不出馬を受けて記者団にこう語り、安倍に挑戦する考えを鮮明にした。

その直前の昼前、東京・紀尾井町のホテルニューオータニ宴会場「edo ROOM」。安倍は東京都議会有志の会で、「総裁選では憲法改正が争点となる。憲法改正のためには発議する国会でも、国民の皆さんにもご理解いただかなければならない」と述べ、事実上の出馬表明と受け止められた。

安倍にしてみれば、やや“遅きに失した”感の否めない岸田不出馬だが、この流れは自らが引き寄せたものと自負している。ひと月余り前の6月18日夜、東京・赤坂の日本料理店「古母里」で岸田とサシで会食した安倍は、究極の一手を打っていたからだ。

「私が今こうしてあるのは官房副長官、幹事長、官房長官と小泉さんの政権中枢を経験させてもらったおかげです」。総理総裁を目指すのなら政権中枢、今の岸田にとっては幹事長を経験しておくべきだ――。言い方は婉曲的だが、ポストによる露骨な籠絡だ。

御公家集団と呼ばれる宏池会の嫡流で、政治センスのなさでは定評のある岸田のこと。彼はこの時、安倍の言葉の含意が分からず、特段の反応を見せなかった。それどころか岸田が返した言葉はピント外れのものだった。

「私は派閥会長と言ってもまだ派内を掌握できておらず、皆の意見を無視できないんです。私が『総裁選に出て負けて宏池会が干されたら中堅や若手が困るだろう』と言っても『構わない』という声が多いんですよ」。あまつさえ「どうしたらいいでしょう」と泣きを入れ、安倍を呆れさせた。

絵に描いたような岸田の優柔不断さゆえに密約成立とはならなかった。だが、この時「岸田に戦闘意志なし」と踏んだ安倍は一手を打つ。声をかけたのは若手時代からの「お友達」である岸田派の根本匠筆頭副会長や非戦論の急先鋒である望月義夫事務総長。彼らを使い、「総理の座は勝ち取るべし」と主戦論を唱える林芳正座長ら一部のベテラン、中堅、若手を抑えて、岸田を撤退に追い込んだのだ。

竹下派切り崩しの秘技

岸田と並ぶ安倍の次なる攻略対象は竹下派だった。今春、額賀福志郎に代わって派閥会長に就任した竹下亘は、「安倍さんが引き続き総理になるか。『はい、その通り』とは即答しかねる」と漏らしていたからだ。

派閥創設者の竹下登の異母弟でNHK記者から政治家に転じた亘が、逆らえない人物がいる。兄の秘書を長く務めた後、地元島根選出の参院議員に転じ、かつて参院自民党の「ドン」と恐れられた青木幹雄だ。青木は自らの直系である今の参院自民党最大の実力者、吉田博美参院幹事長・竹下派会長代行を通じて派閥運営を左右する。

そもそも亘が額賀の後の派閥会長になれたのも、青木が吉田ら参院側を使って額賀に引導を渡したからだ。亘は一定の数を持ちながら、あえて総裁選の支持を明確にしない、あいまい戦術をとった。それも、狐と狸の化かし合いのような旧い永田町の駆け引きにたけた青木の意向に沿ったものだった。

亘も青木も究極の目標は、小渕恵三の愛娘、優子を日本初の女性総理に押し上げること。しかし優子は44歳と若く、3年前、政治資金問題で躓いたばかり。総裁を狙うのは「次の次」以降だ。青木は自分の後を継いだ息子の参院議員青木一彦の選挙で石破の世話になっており、今回は石破支持を打ち出すのではとの見方が根強かった。

安倍が石破を完膚なきまでに叩きのめすためには、竹下派を味方に付けるか、少なくとも全面的な石破支持を阻止することが必須。安倍は、竹下派対策の要諦は青木対策にあると睨んだ。

鍵は来年の参院選だ。改選議席が一に減った長野選挙区で吉田が野党の羽田雄一郎相手に苦戦必至とみるや、吉田を比例区に転出させ、次回から導入される「特定枠」の名簿上位で当選を保証する案まで考え周辺に漏らした。もっとも、構想通り「特定枠」で処遇された吉田が4回目の当選を果たしても、「選挙区から逃げた」と批判され力を失いかねない。ここにも、吉田を可愛がる青木をあらゆる手を使って懐柔したい安倍の執念がうかがえる。

同時に、安倍は竹下派内で自身への支持を増やす多数派工作に精を出す。派内の一定以上を安倍で固めてしまえば、さすがの青木も無理はできないだろうとの計算だ。安倍は、経済再生相で竹下派会長代行の茂木敏充、厚生労働相の加藤勝信、竹下派事務総長の山口泰明、元総務相の新藤義孝ら安倍支持を公言している竹下派の面々に声をかけ、「一人でも多くの仲間に安倍支持と言わせてほしい」と頼み込んだ。

「9月の総裁選も、しっかり三選を自ら勝ち取って、そして万全な態勢で、日朝交渉に臨んでもらいたい」

山口が6月13日夜、東京都内で開いた自身の政治資金パーティで、竹下を差し置いて安倍三選支持を表明したのはその号砲だった。

7月25日、吉田を平河町に構える事務所に呼んだ青木は、「参院は石破支持でまとめなさい」と指示した。

安倍は第一目標である竹下派からの全面的な支持取り付けこそかなわなかったが、青木の指示を参院にとどめることには成功した。今後は、各個撃破で態度を決めきれない竹下派の衆参両院議員の支持獲得に力を注ぐ。

岸田派と竹下派の大勢を取り込むことにほぼ成功した今、安倍の最大の懸念はただ一つ。それは今回から国会議員と同じ票数となり、重要度を増した地方票の行方だ。内閣支持率は回復傾向にあり、各マスコミの世論調査によれば、自民党支持者の間では石破を大きく引き離してトップに立つ。とはいえ、森友学園や加計学園の問題への対処の仕方に国民の視線はなお厳しい。長期政権による「飽き」も広がる。安倍自身は、数か月前まで「前回は地方票で石破氏に負けたが、今度は現職総裁としてそうはさせないので大丈夫だ」と自信を示していた。ところが最近、地方党員の間に安倍に厳しい意見が多いとの情報が多く寄せられ、一転、気を引き締めている。

党員投票年齢引き下げも

一方の石破も議員票では広がりを欠くので、地方票で圧倒的なトップに立つ以外に活路を見いだせない。ある石破支持の議員は「地方票で石破がトップに立つとの見通しが報じられれば、議員票もかなり石破に流れる可能性はある。そこに期待するしかない」と望みをつなぐ。かつて地方票での圧倒的優位を背景に総裁選を制した小泉純一郎元首相にならった戦略だ。

「自民党支持者の間で私の支持が高いといっても安倍内閣の支持者は20代、30代の若者が多い。実際に投票権を持つ自民党員は中高年層が多いから楽観はできない」。安倍は周辺にこう語り、懸念をのぞかせている。

公選法や国民投票法の選挙権年齢引き下げと整合性を図るとの名目で、自民党は「20歳以上」としている党員投票年齢を「18歳以上」に引き下げる方向で検討に入った。これも安倍の懸念を忖度した措置とみられている。

当の安倍は外交日程以外、9月の投票日まで地方の党員への働きかけに注力する考えだ。また、石破が頼みとする小泉進次郎を巡っても、官房長官の菅がさかんに「将来のリーダー候補」と持ち上げ、囲い込みに余念がない。

「白河の戦いでは東軍、西軍兵士だけでなく住民の方々も犠牲になりました。先人たちは敵味方の区別なく、手厚く弔い、慰霊碑を建て、香花を手向けられています。どこまでも寛容な心を忘れることはありません」

7月14日、福島県白河市で「白河口の戦い」の犠牲者を弔う合同慰霊祭が開かれた。「白河口の戦い」とは150年前の戊辰戦争で、会津藩や東北諸藩からなる奥羽越列藩同盟と、長州藩などの新政府軍が交通の要衝を巡って激しく衝突した戦闘だ。その慰霊祭で長州出身である安倍のビデオメッセージが流れ、会場はざわめいた。

当初、安倍のメッセージは予定されておらず、約1000人の参加者に配られた式次第には記載されていなかった。これは依頼されれば受けるとの安倍サイドの感触を得た鈴木和夫市長の要請で、急遽実現した企画だった。

2016年の参院選の改選一人区で自民党は東北6県のうち秋田以外を取りこぼした。安倍が長州出身を誇りにしていることや、奥羽越列藩同盟から秋田藩が脱落した歴史を引き、当時、民進党幹事長だった枝野幸男は「現代の戊辰戦争」だと勝因を解説した。

枝野の解説の当否は別にして、12年の政権復帰以来、計4回の衆参両院選での圧勝が求心力の源泉である安倍にとって、東北は鬼門になりかねない地域。東北で安倍支持を広げることは、総裁選だけでなく、憲法改正に向けて是が非でも勝たねばならぬ来年の参院選での弱点を補う狙いもある。

総裁選「その先」のカギ

現在、安倍陣営では首席秘書官の今井尚哉らを中心に極秘の調査が進む。細田派の国会議員、地方議員に加え、メディア関係者や内閣情報調査室まで駆使して、石破がいつ、どこに入り、誰と会って、何を話したかを調べているのだ。反応が良かったという情報があれば、その地域に安倍が出向く、あるいはビデオメッセージを送る。場合によっては安倍自身や菅ら側近が直接電話を入れてくぎを刺す徹底ぶりだ。

独裁政権による反乱勢力の鎮圧を彷彿とさせるこの計略は、安倍の自信のなさの裏返しでもある。

そもそも安倍が国政選挙で連勝できたのは、主要野党の分立が原因だ。

「安易な合従連衡」を嫌う立憲民主党代表の枝野は、国民民主党や共産党との表だった選挙協力を拒み続けるが、参院選まで一年を切り、他の野党間では立憲優位の候補者棲み分けもやむなしとの声が上がる。9月4日に代表選を予定する国民からは、野党連携を進められない玉木雄一郎、大塚耕平共同代表を降ろそうという策動も漏れる。

岸田が不出馬を表明したその夕方、安倍は、東京・内幸町の帝国ホテル宴会場「孔雀の間」で開かれた日本医師会の役員就任披露パーティに出席。会長4選を決めた横倉義武への祝辞で、意味深長な発言をしている。

「横倉会長が初めて会長に就任されたのは2012年の4月だったと思いますが、その5か月後に私が自民党総裁として復活をさせていただきました。強引に結びつける考えはございませんが、自民党では4選した総裁は佐藤栄作総理ただ一人です」

こう言って安倍は続けた。

「今、4選はできないようになっていますが、まさに、ある意味では継続は力。日本医師会ここにありと示していただいている」

安倍にとって政権の長さでのライバルは今や大叔父の佐藤だけ。現在は総裁4選できないルールだが、党是である憲法改正を成し遂げればそれも可能になる――と聞こえなくもない。

憲法改正を掲げ、森友・加計学園問題から逃れて、さらなる政権運営に当たろうとする安倍。その未来を左右するのが9月の総裁選だ。

(文中敬称略)

(赤坂 太郎)

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