成績表をつけない「超進学校」の秘密

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2018/01/13
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成績表をつけず、生徒一人一人の長所を伸ばすことだけに注力すること50年。その結果、卒業生の3割以上がアイビーリーグに、ほぼ半数がスタンフォードやタフツなどを含む”名門校”に進学する不思議な学校がある。数値で評価しない教育の秘密を探りに、ニューヨークにある同校を訪ねてみた。

10をつけた瞬間に成長が止まる

Saint Anns Schoolは、マンハッタンから20分ほどのブルックリンの街中にある。1965年に創設されて以来、一度も生徒たちの成績表に数値で評価をつけたことがなく、学期中のアセスメント(小テスト)にも決して点数をつけることがない。

それなのに、卒業生の多くが全米の著名大学へ進学。さらには、入学してからも積極的に教授達のオフィスアワーを活用するなど、知的探究心を持つ人間に育つともっぱらの評判だ。今回はUpper Middle SchoolのAssistant Headを務めるKatie Haddock氏にインタビューする機会を得た。

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そもそもなぜ数値で人を評価しないのか。Haddock氏は、「生徒は一人一人個性があり、仮にテストの出来が違ったとしても、それは必ずしも能力の差ではない。学び方や表現力の違いだったり、情報の処理の仕方の違いだったりする。数値化することで彼らを直線上に並べて比べることには意味がない」と言う。

さらに、「人は往々にして、満点をとった瞬間に満足して成長が止まってしまう。しかし本来それはゴールではない。探究心と学びに終わりはない。常に成長の余地がある生徒達から、もっと深く知りたいという欲求を奪ってはいけない」とも。

これは大変にもっともな意見である。しかし実際問題、生徒達はどうやって学ぶべきことを学び、さらに学び続ける意欲を持ち続けられるのか?

教員に最大限の権限を与える

もっとも重要なカギは、「教員に最大限の権限を与えることだ」という。実際に4年目の若手教員にもインタビューしたところ、「着任して言われたのは、『あなたは数学と物理を教えてください』ということと、カバーすべきトピックのことだけ。あとは任せます、と。それだけでした」と話す。嘘のような本当の話である。

この学校では、いわゆる教育学部を卒業した教員かどうかは重視していない。教える科目を専攻した人、その科目を知り尽くし情熱を持っている人を採用することを主眼に置き、必要があれば生徒への教え方は採用してから身につけてもらうスタイルだ。

一体どうやって? と聞くと、「学年主任と教科主任が、ほぼ毎週若手教員の授業を見学し、毎回10分ほどのフィードバックセッションをもつ。科目の内容については既に申し分のない知識を持ち合わせている人材ばかりなので、フィードバックの中心は授業の運び方について。生徒が送っていた微妙なサインを見逃していなかったか、どの言葉がクラスを盛り上げていたか、など教授法についての助言を伝えている」と教えてくれた。また、数週間に一度は、若手教員がベテラン教員の授業を見学しに行くという。

「それを繰り返す中で、自分なりのティーチングスタイルが確立されていくし、毎日どんな風に授業を進めるか考えるのが楽しい」と、若手教員は言う。究極のOn the Job Trainingといった感じである。

ただしHaddock氏は、正直にこうも打ち明けてくれた。「この学校は全ての人のためにあるわけではありません。教員も生徒も、自立心と好奇心が旺盛でなければ、学校が成り立ちません。でも学校の理念に沿った人だけを選べるのが私学の良さであり、そのアドバンテージを最大限に活かして特色のある教育をするのが私学の使命です」

優秀な教員は、給与が高い?

そう言うのは簡単だが、ずば抜けて能力のある教員を、相当な給与で採用できるから成り立っているモデルなのではないか。疑問を投げかけてみると、意外な答えが返ってきた。「その逆です。長年にわたり、本校はニューヨークの私学の中でもほぼ最低水準の学費と、最低水準の給与を支払う学校として知られてきました」

驚いて調べてみると、学費は中学から高校にかけて年間約450万円。通学制のため、寮費などは一切含まれない。これなら相当な給与を支払えるのでは……と一瞬思ってしまったが、実はきめ細やかな教育を実現するために、教員対生徒比率が4:1と極端に低く(スイスの高額なボーディングスクールと同水準である)、これが学費を押し上げる形になっている。教員の給与が、他校より高いわけではないようである。

先ほどの若手教員に、その条件のもとで働き続ける理由を聞いてみると、「自分の才能を活かし、クリエイティブに考えて、自由に授業を設計できるのは嬉しい」と言う。こうした環境は、少人数制であることにも由縁している。

授業は小学3年生までは20名ほどの生徒に担任2名。小学4年生からは必修科目と選択科目に分かれるため、教員1名あたりの生徒数は科目によって3名から15名。一人一人の生徒の興味や理解度や学び方の特徴に、目がゆき届く範囲である。逆に、そうでなければこういった教育はできないだろう。

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3割の生徒に奨学金を給付

きめ細やかな教育には、コストがかかる。一般的に、学校予算の5〜7割は人件費である。上述のような教育をブルックリンで実現すれば、通学制の学校で年間450万円の授業料になってしまうことも理解できなくはない。

クラスを8つほど見学して、印象に残ったことがある。最近訪問した学校の中では白人比率が最も高い部類だったのだ。この疑問を問うと、「率直に申し上げると、ダイバーシティは大きな課題だと思っています。近年、その強化のためにDirector of Diversityを置き、様々なワークショップなども始めています」とHaddock氏。確かに、学年が下がるにつれて、表面的にわかるレベルだけでもダイバーシティが増していた。

学費については、払える家庭にはきちんと対価を払ってもらい、それが難しい家庭には奨学金を出すというモデルだ。「人数でいうと31%の生徒に、家庭の経済事情に応じた奨学金、あるいは一部成績優秀者のための奨学金を給付しています」とHaddock氏は話す。

日本では、長年にわたって、学費水準を低く抑えてほぼ全員が同じ金額を支払うモデルが一般的だった。奨学金は経済事情に応じたものよりも、いわゆる学業成績優秀者に給付することが多かった。しかし「一億総中流」時代は過去のものとなり、いまや子どもの6〜7人に1人が相対的貧困の中で暮らす時代。富めるものがより富を手に入れる社会経済構造の中においては、そろそろ「応能負担」を考える時期に来ているのかもしれない。

特に私学において、公立にはできないかもしれないユニークかつきめ細やかな教育をするためには、根本的な経営指標を見直すことも考えられるのではないだろうか。

次回は、学力テストをしないだけではなく、生徒一人一人に何を学びたいかを決めさせているプログレッシブな小学校の事例を紹介しながら、引き続き日本における教育の選択肢の幅について考えてみたい。

ISAK小林りん氏と考える 日本と世界の「教育のこれから」

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