副業を認めない社会に明るい未来ナシ!

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2016/12/01

副業は、本業にもプラスになる

政府は企業に対して副業解禁を求めるなど「働き方改革」を進めている。この副業解禁にはどのような効果があるのかを考えてみたい。

その前に、なぜ、副業解禁が求められるのか、その根底部分を理解する必要性がある。

現実的には多くの企業では就業規則によって収入を伴う副業は禁止されている。認められるケースは、専門的知識を有した社員の講演活動などだ。あるいは、景気低迷や業績不振で工場の稼働率が落ちた場合に、収入カットを補うための副業を認めるケースもあった。

しかし、今回、副業解禁が求められている背景は今までの流れとは大きく違う。

その根底には「パラレルキャリア構築」の重要性が認識され始めたことがある。

パラレルキャリアとは端的に言えば、複数の肩書を持ち、複数の専門性を有することである。科学の進歩によって商品技術やサービスの手法が日進月歩で変化していく中、一つの専門性だけでは飯が食えない時代が来ている。

たとえは陳腐化しているかもしれないが、ポケットベルが携帯電話(ガラケー)に取って代わられ、今やスマートフォンが全盛の時代である。これも話は古いが、自動改札の普及によって、切符切りの仕事はほぼ消滅した。さらに、これからは人工知能(AI)の普及によって消える仕事も増えてくるのではないか。

社員に複数の専門性を持ってもらうためには、企業内で戦略的な人事異動が必要になるが、現実的な問題として、人事部やほとんどの上司はそこまで考えてくれない。自分の身は自分で守るしかない時代が来ている。だから、企業の方も自発的にキャリアを開発したい人材には社外での副業を認めようとしている、とも言える。

副業の効用は、これまでとは違う価値観に接することで「気づき」が生まれることであろう。

一般論として多くの日本企業では、滅私奉公的に長時間労働することが評価され、生産性や何をアウトプットするかよりも、組織への忠誠心や協調性が問われる。その結果、無駄な残業といった長時間労働の弊害が生まれている面もある。

特にホワイトカラーの職場ではこうした傾向が顕著ではないか。それでは、一つの会社(組織)の価値観に自分の人生が縛られてしまう傾向に陥り、ひいては均質的な組織風土に繋がり、イノベーション創発の阻害要因となるばかりか、不祥事などを隠蔽する要因にもなりかねない。

広義の副業としてボランティアも含まれる。ここで言うボランティアとは、災害時の復興支援などではなく、人手が足りない中小企業や非営利組織の経営企画や営業などの仕事を、無償に近い形で手伝うことも含まれる。

「プロボノ」という概念がある。ラテン語で「公益のために」という意味だが、職業で培ってきたスキルや専門性を公益活動に活かしていくことを狙いとしている。

プロボノを通じて自分の専門性やスキルが社外でどこまで通じるかを確かめる意味合いもあり、「他流試合」を通じて自分のキャリアを磨くことにもつながる。このプロボノ活動も副業に含まれる。後述するが、ここでは副業で収入を増やそうというよりも、自分を磨くことに主眼が置かれるべきである。

たとえば、メーカーでの経理での経験が豊富な人が、社会福祉法人の会計を手伝うことで、福祉分野に通じることになり、専門性がひとつ増えることになる。

自分のたとえで恐縮だが、筆者の場合、自動車産業の取材を主なテーマにしているが、その取材で得た「コスト管理」「マーケティング」「国際化対応」などの知見を農業取材にも当てはめることで、農業改革についても一定の取材力が付いた。これも一種のパラレルキャリアと言えるだろう。

プロボノ活動の話に戻るが、こうした活動では、会社の壁を越えて集まった複数の人材がプロジェクトに取り組むケースがある。そこでリーダー役を任されたら、「俺はお前の上司だから言うことに従え」的な指示は通用しない。その指示が合理的で納得性があるか、あるいはリーダー自らがリスク・責任を取る覚悟はあるかなどが問われ、人格も見られる。要は、「権威なきリーダーシップ」が求められるのである。

実はこれこそが、本業の世界でも必要な話で、副業経験によって本業にもプラスになるはずである。

「渡り職工」を目指せ

さらに、「パラレルキャリアの構築」について考えていくと、それは副業をすることだけで成しえるものではない。社会人大学院で学ぶこと、趣味を極めていくこと、育児や地域貢献に積極的に関わっていくことなども含まれる。

ウイークデイは都会のビジネスマンとして働き、週末は田舎で農業を楽しむといったような二地域在住もパラレルキャリアと言えるだろう。

職業キャリアはライフキャリアの一部でしかないという考え方でもある。このライフキャリアを充実させるために、複数の肩書をもって人生を有意義にすることがパラレルキャリアの目的と言えるだろう。

この「パラレルキャリア論」については、法政大学大学院政策創造研究科の石山恒貴教授が詳しい。著書『パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)は論と事例が分かりやすく示されている。石山氏自身がNECやGEなどで人事のプロとして働き、そのプロセスを通じて醸成された問題意識から執筆しているからであろう。

筆者も本稿を執筆するに当たり、石山氏の論文や著書を参考にし、何回かインタビューもした。そもそもパラレルキャリアとは、米国の経営学者、ピーター・F・ドラッカー氏が紹介した考え方だという。知識労働者は会社の定年後に同時に引退するのではなく、生涯にわたって生き生きとした活動を送ることを望むからだそうだ。

今後、企業の中には副業を解禁するところも増えるだろう。しかし、制度ができても、それを使いこなす社員が意識を変えていかなければ、制度は形骸化してしまう。

単に副業で収入を増やすのではなく、副業を通じて自分を磨くという発想が求められている。当たり前のことだが、組織に残ろうが、転職しようが、独立しようが、自分を磨けない人材はどこでも通用しない。

そのためには、まずは「雇われている」という発想は極力捨てるべきではないか。会社の人事権に左右される生き方ではなく、自分には自分の人生を自助努力で切り拓いていく「キャリア権」があるということを強く意識する時代になっている。

「雇われる」ことで一生安泰のサラリーマン生活が送れる時代が終わったことは多くの読者が感じているはずだ。一人ひとりの意識が変わらなければ世の中は変わらない。

日本の1955年度の就業者に占める「雇われ比率」は約44%だったのが2010年度は約87%にまで上昇した。雇用されることが当たり前の「サラリーマン化」が進んだ。これには、収入が安定するなどの効果はあった反面、自分が属する会社(組織)の価値観しか知らない、あるいは認めない人が増え過ぎたという弊害も起こしたのではないか。

これが均質的な組織風土を生み、外部の知恵を受け入れる「オープンイノベーション」の創発を阻害してきた一因であることは否めない。

戦前の日本は「渡り職工」という言葉があったように、ブルーカラーでも正社員ではなく、自分の能力を高く買ってくれる現場を渡り歩いた。

現在の米国では「インディペンデントコントラクター」という働き方が注目されている。訳せば、自営業者である。米国ではこうした力のある自営の技術者が増えているという。自分の「頭脳」をプロジェクト毎に売り込む「渡り技術者」のような存在だ。

アップルやグーグルではこうした「インディペンデントコントラクター」の技術者を使いこなして「オープンイノベーション」を誘発しているという。日本では年金など社会保障の制度がネックとなって、現状ではまだ普及しないだろうが、その発想は学ぶ必要があるのではないか。

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