白鵬と貴乃花に見る「相撲観」の違い

白鵬と貴乃花に見る「相撲観」の違い

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  • 更新日:2017/12/06
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日馬富士の暴行問題では、貴ノ岩を殴って引退に追い込まれた日馬富士だけではなく、暴行の現場に居合わせた白鵬もすっかり株を下げた。この問題に関する一連の発言で物議を醸した上、貴ノ岩の師匠である貴乃花親方についても、「あの人が巡業部長なら巡業に行きたくない」という意思を相撲協会に示している。そうした白鵬に、「本当に大横綱と言えるのか」と、疑問や違和感を感じているファンは少なくないはずだ。

(konggraphic/iStock)

成績自体は申し分ない。11月の九州場所で果たした幕内通算40回目の優勝をはじめ、今年までの通算1064勝、うち幕内970勝、横綱としての776勝はすべて歴代1位。いまと昔とでは相撲の中身や力士の置かれた環境などが異なるとはいえ、長い大相撲の歴史の中でも超の字の付くトップクラスの存在である。

しかし、それほどの実力の持ち主にしては、あまりにも首を傾げたくなる言動が目立つ。九州場所では嘉風に敗れた直後、規則上認められてない物言いを要求して62秒間も土俵に戻らず。優勝インタビューでは「膿を出し切って」「日馬富士関と貴ノ岩関をまた土俵に上げてあげたい」と発言。観衆に万歳三唱を促し、横綱審議委員会から批判され、相撲協会の八角理事長からも厳重注意を受けた。目の前で日馬富士が貴ノ岩を殴打するところを見ていたくせに、どの口でそんなに偉そうなことが言えるのか、というわけだ。

もっとも、だからといって、白鵬の態度が不遜だという識者やファンの批判が正しいとも、私には思えないのである。私が取材した限りでは、白鵬はふだんから実に稽古熱心、かつ常に真摯な姿勢で相撲に取り組んでいたからだ。宮城野部屋ではいつも厳しい稽古に打ち込み、若手に胸を貸して羽目板にぶつけたり、土俵にたたきつけたり、「ヒーヒー」と喘ぐその若手に「ヒーヒーじゃねえ、この野郎、日本語下手だな」と発破をかけたり。

当時のインタビューでは、「出稽古に行くより、この部屋での稽古が大事。ここが一番強くなれる」と話していた。意外にも、基本的な考え方は「出稽古禁止」を貫く現在の貴乃花親方、つまり貴ノ岩の師匠と同じだったのだ。実際、貴乃花は「尊敬していた横綱のひとり」だと明かし、「もし現役時代が重なっていれば、貴乃花さんとは一度、肌を合わせてみたかった。あの人の強さを肌で感じてみたかった」という思いも吐露してくれた。

ときには稽古のあと、白鵬が昔の相撲雑誌を持ってきたこともある。昭和初期の横綱のモノクロ写真をこちらに見せ、その下にある「男女ノ川」という四股名を指し、「なんて読むかわかる?」とこちらに質問。私が答えに詰まっていると、正解は「みなのがわ」だと教えてくれた。「昔のお相撲さんの写真は雰囲気がいいね。おれ、こういう白黒の世界が好きなんだよ」と話す白鵬の表情からは、嘘偽りのない相撲への愛情が感じられた。

ただ、その半面、日本人の相撲観とは明らかなズレがある、と感じたのも事実。その最たる例が、白鵬が立ち合いに張り差しを多用していることだ。横綱が下位の力士にこんな取り口をするべきではないと、以前はファンだけでなく協会内部の親方衆からもよく批判されていた。相手の攻めを正面からがっちりと受け止め、そこから土俵の外へ押し出してこそ堂々たる横綱相撲だ、と。この張り差しに関しては、師匠の宮城野親方も「横綱なのだから控えるように」と何度も注意。白鵬も最初のうちは殊勝に聞いていたが、そのうちにまた張り差しを連発するようになった。

そして、角界でこの張り差しに最も批判的で、「卑怯で汚い勝ち方」としている親方が、ほかならぬ貴乃花なのである。今年のNHKの大相撲中継の解説では、「白鵬は立ち合いでずらすんですよね」と、立ち合いでもタイミングを外すようになっていることを、暗に横綱らしくないと指摘していた。

自分の相撲こそが「横綱相撲」

しかし、白鵬にとっては恐らく、張り差しも微妙な立ち合いも勝つために必要な手段であり、横綱の技のひとつなのだ。自分の相撲観は絶対で、自分の相撲こそが「横綱相撲」という信念がある。審判への抗議、優勝インタビューでの発言、さらに万歳三唱のパフォーマンスと、すべては「白鵬だけの相撲観」が源になっているように思う。横審や理事長からいくら注意されても、何が悪いんだ、というのが白鵬の本音に違いない。

一方、貴乃花親方の腹の底には、そうした白鵬をはじめとするモンゴル人力士の「汚い取り口」が横行している現状への反発があると思う。対する白鵬も「貴乃花親方の下では巡業に参加できない」と猛反発。かつて「尊敬している」と話していた元大横綱との亀裂は深まる一方だ。

貴乃花と白鵬の相撲観、どちらが正しいかを断じる資格は私ない。ただ、どちらがより多くの日本人の支持を得られるかは言うまでもなかろう。

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