生きる上で大切なことはすべてリングから学んだ  最強家族伝説『ファイティング・ファミリー』

生きる上で大切なことはすべてリングから学んだ 最強家族伝説『ファイティング・ファミリー』

  • 日刊サイゾー
  • 更新日:2019/11/22
No image

プロレス好きなら見逃せない、最高にご機嫌な映画『ファイティング・ファミリー』が日本でも劇場公開される。プロレス界きってのメジャー団体「WWE」が生み出したスーパースター、ザ・ロックことドウェイン・ジョンソンのプロデュース作で、本人役で出演もしている。英国の小さなインディーズ団体から「WWE」へと移り、大活躍した女子レスラー・ペイジとその家族を描いた実録ドラマだ。

18歳になるペイジ(フローレンス・ピュー)は、英国北部の都市ノーウィッチを拠点にするインディーズのプロレス団体に所属する女子レスラー。プロレス団体といっても、所属レスラーは父親のリッキー(ニック・フロスト)、母親のジュリア(レナ・ヘディ)、兄のザック(ジャック・ロウデン)だけという家族経営の弱小団体だった。英国の伝統を感じさせる正統派のレスリングと家族ならではの息の合った連係プレーで、小さな会場を沸かせている。13歳でリングデビューしたペイジにとって、プロレスのリングこそが青春そのものだった。

試合巧者の兄ザックと共にペイジは、英国で興行中の「WWE」のトライアウトに呼ばれる。メジャーデビューを狙っていたプロレス兄妹にとって、願ってもないチャンスだった。会場にはザ・ロック(ドウェイン・ジョンソン)もいる。思わず駆け寄り、アドバイスを求めるプロレス兄妹。「プロレスファンは噓を見破る。本当の自分を出せ」と親身になって助言するロック様だった。この言葉は、本作のメインテーマとしての重みを持つことになる。

兄妹でぴったり息の合ったチームワークを見せるザックとペイジだったが、メジャー団体の判定は極めて冷酷だった。「WWE」が米国フロリダで行うキャンプへと駒を進めることができたのは、トライアウトを受けた若手レスラーの中の紅一点・ペイジだけだった。「WWE」のトレーナー、ハッチ(ヴィンス・ヴォーン)に「兄妹で採用して」と訴えるペイジだったが、ハッチの下した裁定は変わらない。これまで家族に支えられながらリングで闘ってきたペイジは、単身で渡米し、「WWE」へと乗り込むことになる。

もともとはペイジとその家族の様子を追った英国BBCのドキュメンタリー番組だったが、視聴したドウェイン・ジョンソンが感銘を受け、みずからプロデューサーを買って出ての劇映画化。ペイジ役のフローレンス・ピューはマーベル大作『Black Widow』(2020年公開)に出演決定、家族想いの優しい兄ザック役のジャック・ロウデンは戦争映画『ダンケルク』(17)で注目を集めるなど、英国の伸び盛りの若手俳優たちがキャスティングされている。また、トップレスラーとして長年活躍したドウェイン・ジョンソンのプロデュース作だけに、プロレスシーンは手抜きなしのリアルな仕上がりとなっている。

中でも「WWE」でのデビューを目指す練習生たちがしのぎを削るフロリダでのキャンプシーンは、本作の大きな見どころだ。地元では怖いものなしだったペイジだが、自分が井の中の蛙だったことを思い知らされる。世界各地から有能なアスリートたちが集まったこのキャンプは、梶原一騎原作漫画『タイガーマスク』の「虎の穴」さながらの恐ろしい場所だった。鬼トレーナーのハッチの指導のもと、ハードトレーニングについていけない者は次々と退場を命じられる。

キャンプではプロレスラーとしての体力だけでなく、メンタル面も問われる。マイクパフォーマンスのテストで、ペイジは自慢のラップ調でのマイクアピールを披露するも、ハッチからは「時代遅れ」とけなされてしまう。観客からの心ない野次にうまく対応できるかどうかも、プロレスラーにとっては重要な資質だ。モデルやチアガール出身のセクシーなディーバ候補生たちとの間に、ペイジは溝を感じ、どんどん落ち込んでしまう。トレーニングなかばでの里帰りを余儀なくされるペイジだった。

英国出身のスティーヴン・マーチャント監督にとって、本作は長編映画デビュー作。米国最大のプロレス団体「WWE」のショーアップされたド派手さとは対象的に、英国のインディーズ団体の生活に根差した地味な活動ぶりを丁寧に描いている点に好感を覚える。「WWE」のトライアウトでは採用されなかった兄ザックだが、普段は地元の子どもたちに声を掛け、プロレス教室を開いている。集まるのは、プロレス教室がなかったらドラックの売人になってしまうような、他に行き場所のない貧困層の子どもたちだ。両親のリッキーとジュリアもかつては不良児だったが、プロレスと出会ったお陰で更生することができた。この一家にとって、プロレス教室は大切な意味を持つものだった。

プロレス教室に参加する生徒のひとりに、視覚障害の少年がいる。彼は他の生徒たちと同じようにリングに上がり、コーナーポストに登ってからのダイビングボディプレスを決めようとする。このシーンを見て、ハッとさせられた。プロレスとはただ単に強さを競い合うだけの競技ではない。お互いの個性を競い合ってこそのプロレスなのだと。プロレスラーとは職業ではなく、生き方を指した言葉であり、裸一貫でどこまで自分をさらけ出せるかの勝負なのだ。視覚障害の少年はコーナーポストからダイブした瞬間、プロレスラーとしての輝きを放ってみせる。

地元ノーウィッチに里帰りしたペイジは、メジャーデビューを目指すあまりに大切なものを見失っていたことに気づく。プロレスは自分ひとりが意気がっても成立しない。自分の力と技を認めて受け止めてくれる相手がいるからこそ、初めて成り立つ肉体表現である。ひとりよがりになっていたことを改め、「WWE」に再挑戦することを決意するペイジ。兄ザックも一時は酒に溺れてしまうが、自分にしかできないスタイルを模索することになる。

プロレスのリングは多様性に溢れた世界だ。ベビーフェイス(善玉)よりもヒール(悪役)のほうが、観客からの支持を得ることが多い。相手レスラーとのライブセッションの中で、予定調和からはみだした熱戦が生まれていく。そんなリングで闘いながら、ペイジは自分らしさを見つけていくことになる。

金髪系ディーバのようなセクシーさはないものの、全力ファイトを信条とするペイジはリング上で輝きを発揮するようになる。そんなペイジを、ザックたち家族はテレビ観戦しながら応援する。離れていても、リングで培った家族の想いはずっと繋がったままだ。プロレス、最高! プロレスファンでなかった人も本作を見終わった後には、そう叫ばずにはいられないだろう。

(文=長野辰次)

No image

『ファイティング・ファミリー』
監督・脚本/スティーヴン・マーチャント
出演/フローレンス・ピュー、レナ・ヘディ、ニック・フロスト、ジャック・ロウデン、ヴィンス・ヴォーン、ドウェイン・ジョンソン
配給/パルコ、ユニバーサル映画 11月29日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
(c) 2019 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC., WWE STUDIOS FINANCE CORP. AND FILM4, A DIVISION OF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.
https://fighting-family.com

No image

『パンドラ映画館』電子書籍発売中!
日刊サイゾーの人気連載『パンドラ映画館』
が電子書籍になりました。
詳細はこちらから!

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

映画カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
関ジャニ∞丸山隆平、6年ぶり連ドラ主演で“ダメ男”に<大江戸グレートジャーニー ~ザ・お伊勢参り~>
『アナ雪2』エルサの「スピリチュアルな自己実現」の奇妙さを考える
ライアン・レイノルズ、デッドプールやピカチュウに続くハマり役!?映画『6アンダーグラウンド』
丸山隆平がドラマWで初主演、『超高速!参勤交代』コンビが描くダメ男のロードムービー
12月14日の注目映画第1位は『シン・ウルトラマン』
  • このエントリーをはてなブックマークに追加