名将、アンチェロッティに学ぶ「静かに、穏やかに人心掌握する」方法

名将、アンチェロッティに学ぶ「静かに、穏やかに人心掌握する」方法

  • ハーバー・ビジネス・オンライン
  • 更新日:2016/10/20
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QUIET LEADERSHIP:Winning hearts, minds and matches

時代とともに、人も変わる。毎年新入社員がやってくるたびに、「俺たちのときと何かが違う」と嘆く中間管理職も少なくないはずだ。自分たちの能力を過信しているように見えてどこか捉えどころがない。その上、成果を挙げるべき“人材”としてみなされている自覚ゆえ、上役に対してもフェアに評価し合うドライな関係を望むのだそうだ。
こうした変化に対してどのような態度で臨めば彼らのモチベーションを高められるだろうか。日々悩みも尽きないのでは?

そんな状況へのヒントを、現代サッカー随一の名将が与えてくれるとしたら意外に感じるだろうか。『QUIET LEADERSHIP:Winning hearts, minds and matches』の著者、カルロ・アンチェロッティは、ACミラン、レアル・マドリード、チェルシーなどのビッグクラブで数々のトロフィーを獲得。今年からドイツの超名門クラブ、バイエルン・ミュンヘンで指揮を執る人物だ。

以上の経歴から、頑固で唯我独尊といった強烈なキャラクターを想像するかもしれない。しかし、アンチェロッティのパーソナリティはその対極にある。カネも出すが口うるさいオーナーと、若く自信に満ち溢れた才能豊かな選手たちとの間でバランスを取る姿は中間管理職そのもの。タイトルが示す通り、“静かで、穏やかな”方法によって、人心を掌握していくのだ。

そのコンセプトは、「怒りや恐怖心によって手なずけるのではなく、互いを尊敬、信頼し合うことで築き上げる暗黙の主従関係」。では、実際にどのような手法で行われているか見ていこう。

まずアンチェロッティは、チームをひとつの家族と考える。全てのメンバーは同じ目的を共有し、それを達成することこそが“家族”にとっての唯一の価値なのだと納得させる作業から始まる。その実感のないところに、持続的な成功などあり得ないからだ。

だが、そこには普段からの行動にともなう裏付けがなくてはならない。ミーティングのときだけご立派な訓示を垂れていればいいという話ではない。

そこで必要となるのが、「選手(部下)と一対一の人間として真剣に付き合う」ことなのだ。プレイヤーや社員は、成果をあげる戦力である前に一人の人間である。プライベートの悩みを聞いたり、ジョークを言い合ったりする中から、“自分はきちんと受け入れられているのだ”との安心感が生まれる。それがセーフティーネットとなり、職務上の能力が存分に発揮される環境が整うのだ。

長らくチェルシーのキャプテンを務めるジョン・テリーは、「自分のことを心から気にかけてくれるボスのためには、どんなに辛くても頑張れるものだ」と語っている。これこそが、“暗黙の主従関係”の最たる成功例と言えるだろう。

もちろん、部下に対して理解や共感を示すだけでは組織はまとまらない。時には怒りをあらわにしなければならないときもある。だが、そうした激情は理性的かつ効果的に表現されねばならないのだとアンチェロッティは語る。一体どういうことなのだろうか?

アンチェロッティにとって重要なのは、結果の良し悪しではない。それは自分たちの意思ではコントロールできないものだからだ。しかし、仕事に取り組む姿勢に甘えや緩みがあったとき、それを見過ごすことは許されないのだ。

ミスを犯したとか、思い描いた数字が上げられなかったとかで、いちいち怒っても仕方ない。確かに残念ではあるけれども、それは人生の中でしばしば起こり得る出来事に過ぎないのだから。失敗をしたとしても、取り組む姿勢そのものが真っ当であったのならば許されるべきである。それがアンチェロッティ流の思考法なのだ。

それでも組織が上手く機能せず、敗北を認めざるを得なくなったとき。そのとき、はじめてリーダーが矢面に立つのである。「自分の力を誇示するためにリーダーの立場を濫用するのは間違っている」と断言するアンチェロッティ。だからと言って、おめおめと引き下がるわけではない。静寂と穏和がもたらす彼の統率力は、映画『ゴッドファーザー』のヴィト・コルレオーネをモデルとしているのだから。

本書にコメントを寄せている関係者は、クリスチャーノ・ロナウド、デイヴィッド・ベッカム、ズラタン・イブラヒモビッチ、サー・アレックス・ファーガソン、パオロ・マルディーニなど、錚々たる面々だ。皆「アンチェロッティがベストだ」と声をそろえている。それだけでなく、監督と選手の関係が終わっても、ずっと友人同士であり続けているという。

仕事とプライベートとの区別を明確にすることが、能率を上げるとの考え方も一理あるだろう。しかし合理性を極めた現代サッカーの世界で、一見“古風な”アンチェロッティが頂点に登りつめている事実を軽んじるべきではないのかもしれない。

<文/石黒隆之>

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