吉川晃司が到達した「吉川晃司らしさ」とは?

吉川晃司が到達した「吉川晃司らしさ」とは?

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  • 更新日:2016/11/30
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ツアーファイナルの舞台となった東京体育館は、1964年の東京オリンピックの際に水球競技が行われた場所でもあった。吉川にとって、ここでのコンサートは初めて(Photograph:Shinji Hosono、Shigeru Toyama[STARMINE])

鮮烈なデビューから三十余年。さらなる高みを目指す吉川晃司が、ニューアルバムを引っさげ、全国ツアーを開催。『アエラスタイルマガジン 33号』(朝日新聞出版)に掲載された、ライブレポートを特別に公開する。歳を重ねるごとに魅力を増していく吉川晃司の、

いまの“すべて”が、ステージにある。

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1984年に歌手、俳優としてデビューした吉川晃司。あれから三十余年が経過したいまもロックアーティストとして第一線で活躍しつづけるだけでなく、幅広い分野で多忙な日々を送っている。そんな吉川の姿に対して「いい年齢の重ね方をしている」と感じている人は多いのではないだろうか。

しかし、そうだとするならば、そこには「憧れ」や「羨望(せんぼう)」も潜んでいるはずだ。デビュー当時から、女性ファンのみならず男性ファンも多く獲得していた吉川晃司。高校時代、「世界ジュニア水球選手権大会」に日本代表メンバーとして出場したという経歴はよく知られており、そのしなやかでパワフルな体躯もパフォーマンスに生かされていた。型にハマらない行動が話題に上ることも多く、日本のロック界において、吉川は独自のポジションを築いていく。90年代、個人事務所を設立するに至る経緯など、不遇な一時期を経験しつつも、自身はブレることなく、信じる音楽を追求してきた。その延長線上に、現在の吉川がある。

2016年、ニューアルバム「WILD LIPS」を引っさげ、6月から8月にかけて行った全国ツアー。近年の俳優としての活動などが好影響を与えたのか、客層も広がった。そんななか、吉川が見せるのは当然ながら、本業であるロックアーティストとしての姿だ。新編成のバンドメンバーたちと作り上げてきたステージは、公演を重ねるごとに味わいを深めていき、8月27、28日の東京体育館2daysで、好評のうちに幕を閉じた。

セットリストのオープニングを飾ったのはアルバムのタイトル曲でもある「WILD LIPS」。ここではまず、幕の向こうで歌う吉川の姿がシルエットで映し出されるという演出がなされた。これなどは、プロポーションに特徴のある吉川だからこそ成立する趣向とも言えるだろう。現在、51歳となっている吉川だが、「WILD LIPS」のジャケットで「バックショットヌード」を披露したのは記憶に新しい。若き日に水球で鍛えた肉体は、現在もたゆまぬトレーニングによって維持されている。「WILD LIPS」で吉川が目指したのは文字どおり、ワイルドかつエロティックなロック。前半はアルバム収録曲を中心とした構成で、中盤からはライブでの定番となっている人気ナンバーも続々と登場した。ハードなサウンドとはうって変わって、冗談も交えたMCでは、本人がステージを心から楽しんでいることが伝わってくる。「笑顔の再会」というのが、近年の吉川が好んで用いるフレーズだ。2011年の東日本大震災では自ら被災地へ赴いたり、復興支援のために「COMPLEX」を復活させ、東京ドーム公演を行ったりといった積極的な活動を見せた吉川。歌いつづけられること、そしてそれを楽しみにしているファンがいるということ――それらが決して当たり前ではないのだという真摯(しんし)な思いを、この短いフレーズに込めているのだろう。

また、今回のツアー期間には、想定外の出来事もあった。32年ぶりにオリンピックへの出場権を勝ち取った水球日本代表チーム「ポセイドンジャパン」から応援ソングの依頼を受けたのだ。逼迫(ひっぱく)するスケジュールのなか、吉川は楽曲制作に臨む。こうして完成した「Over The Rainbow」は、吉川にしか表現し得ないものとなり、東京体育館でのファイナル2日間のみ、アンコールの1曲目として披露された。

アンコールのラストを飾った「Dream On」も映画の主題歌として作られた曲であり、その点では「Over The Rainbow」と通じるものがあるのだが、それぞれ、オーダーに応えつつも、見事なまでに「吉川晃司らしさ」にあふれているのが素晴らしい。吉川がもともともっていた人生観に加え、近年のさまざまな経験が血肉となり、作品にいい形で反映されているのだろう。そして、それを表現する歌声にも、磨きがかかっている。ボーカリストとして、音域が広がり、声量も増しているいま、ようやくイメージに近い形で“歌える”ようになってきた、というのが本人の弁だ。

こういったあらゆる要素が相まって、冒頭に挙げた「いい年齢の重ね方」という印象につながっているように思う。ビジュアル面だけではなく、技術や内面的な部分での成熟も感じられるからこそ、吉川へ熱い視線が集まっているのだ。「ブレない」と評すれば「ガキのままで、変われないだけ」と答え、「こんな吉川晃司が見たい」と期待を寄せようものなら「俺はひねくれ者だから」と、それを敢えて裏切っていく。だが、それは案外、現代を生きる人々が「こうありたい」と望みながらも決して簡単にはたどり着けない、新しい「理想の大人像」ではないだろうか。そう言ったら、これもまた、本人は笑って否定するに違いないけれど。(取材/用田邦憲)

※アエラスタイルマガジン33号より抜粋

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