止まれ暴走老人!脳を見て分かった「高齢交通事故」急増の理由

止まれ暴走老人!脳を見て分かった「高齢交通事故」急増の理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/12/08
No image

ついにウルトラ高齢社会を迎える日本

日本では高齢化が言われて久しいですが、改めて注目すると、意外にも日本の総人口は2016年をピークに既に減少段階に入っています(図1)。

一方、総人口に占める65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)は年々増加の一途であり、最新のデータでは27.7%(H29年9月15日総務省統計局)になりました。

WHOは、高齢化率によって社会を分類しており、7%を高齢化社会、14%を高齢社会、21%を超高齢社会と呼んでいます。

日本は28%をまもなく越えようとしているわけであり、新たな名称が必要となるのです。たとえば、「ウルトラ高齢社会」と命名すれば良いという意見があります。

日本の高齢化率は2050年頃に40%まで上り詰め、高齢化率世界一の座は2060年まで維持されます。

No image

図1

拡大画像表示

「ウルトラ」という名称が相応しいかは別にして、今後40年間は日本の高齢化率は断トツなのです。いま世界が固唾をのんで、トップを疾走する日本の高齢化対策を見守っているのが実情だと思います。

日本は常に欧米モデルを参考に国づくりを進めてきましたが、こと高齢化対策に関しては自ら切り拓いていく立場にあるのです。

よって、小手先の高齢化対策ではなく、世界が注目する、むしろ手本になるような革新的かつ抜本的な対策を立てなければならないと考えています。

No image

図2

拡大画像表示

高齢ドライバーの事故対策は一筋縄では行かない

日本の交通事故件数と交通事故死亡者数は減少し続けています。交通事故死者数は昭和45年の16765名をピークに、平成28年には3904名まで激減しました。

道路や交通信号・標識などの交通インフラの充実、自動車の安全設計・安全装備の普及、飲酒運転などの取り締まり強化の成果だと考えられています。

しかしながら、近年は死亡者数の減少幅が小さくなり、今後とも減らし続けるためには新たな事故対策、すなわち今まで十分対応ができていなかったドライバー自身への対策が必須であると指摘されてきました。

一方、全体の交通事故死者数に占める高齢者の割合は、社会の高齢化と共に増え続けて、平成28年は58%になっています。今後ともこの傾向は続くことが確実視されていますから、高齢ドライバー自身の対策が急務であります。

ドライバー自身の事故原因としては、操作・行動ミス、判断・予測ミス、認知ミスが考えられます。

操作・行動ミスではABSやブレーキアシストなどの車両側からの支援でカバーでき、今後もさらに進化発展していくものと推察されます。認知ミスの対策としては、昨今流行の衝突防止システムが挙げられます。

しなしながら、判断・予測ミスに関しては、今なお車両側からも、交通インフラ側からも十分な事故防止の支援対策が講じられていません。

高齢者は加齢と共に身体能力も認知・判断・予測能力も徐々に低下していきます。高齢ドライバーの事故防止には、今まで十分な対策が講じられてこなかった判断・予測ミスをいかに克服するかが鍵となるのです。

判断・予測は高次脳機能の代表格でありますから、判断・予測ミス対策には脳を調べなければいけないという問題点が明白に浮かび上がってきます。

人工知能の急速な進歩より、判断・予測ミスにもいずれは有効な手立てが講じられると推察されますが、一朝一夕には行かないでしょう。

よって、高齢ドライバーの事故対策は、今までの延長線上にあるのではなく、脳を調べるという革新的かつ抜本的なアプローチから講じられることになると確信しています。

高齢者対策のカギは「脳の個人差」

ここで、脳の個人差について説明しますが、下の図表はA・Bともに70歳の頭部MRI水平断面画像(画像上部が頭部前面で、丁度脳の真ん中の断面図)です。

一見して大きな違いがわかりますが、Aさんは正常な脳である一方、Bさんの脳には明らかな脳萎縮と白質病変が見られます。

No image

拡大画像表示

脳萎縮は脳容積が減少することですが、これが進行すると頭蓋骨と脳表面との空間(硬膜下腔)が拡大し、脳の皺(脳溝)も開大します(矢印)。

白質病変(矢頭)は、中高年者から高頻度に認められ(平均では約50%)、加齢とともに増大するのです(図3)。

No image

図3:白質病変の年代別・グレード別出現頻度(%)

拡大画像表示

加齢、高血圧・糖尿病・高脂血症等の生活習慣病、メタボや喫煙等の生活習慣の乱れによる動脈硬化性変化のために、白質内の微細血管である髄質動脈が消失して生じた細胞外間隙であり、脳梗塞とは異なりますが循環不全部位と見なされています。

広範囲の白質病変は、認知症や脳卒中の再発と有意に関連します。大脳白質には神経線維が集まっている場所であり、高次脳機能の情報処理に関与していますので、白質病変によって脳の情報処理が遅れたり、間違ったりすると考えられています。

車の安全運転には、認知、判断・予測、操作・行動を連続して行う遂行機能(あるいは注意機能)が必須でありますが、白質病変ではこの遂行機能や注意機能が低下するのです1。

我々は、脳ドック受診者から過去の交通事故歴の聞き取り調査を行い、白質病変と交通事故、特に交差点事故(交差点では注意機能がより一層求められる)との有意な相関性を報告しています2。

また、白質病変のある高齢ドライバーは、白質病変のない高齢ドライバーと比べて、脳の情報処理が乱れる環境下(運転をしながら暗算計算をさせるというマルチタスク負荷)では一旦停止無視などの危険運転行動が有意に増え、右折時のハンドル操作のぎこちなさ(ステアリングエントロピーの増加)が有意に認められました3。

脳腫瘍やてんかんのような脳疾患は言うに及ばず、健常者でも脳組織変化(白質病変)でも危険運転行動に関与することが明らかになっています。

警察庁はどんな対策をしているのか?

高齢ドライバーの悲惨な事故が多発している現状を打開するために、警察庁は認知症ドライバーの早期発見と運転免許証の自主返納促進に取り組んでいます。

認知症ドライバーの早期発見のために、平成29年3月に道路交通法が改正されました。

75歳以上のドライバーは3年ごとの免許更新時に認知機能検査が義務づけられていますが、従来よりも厳しい基準になり「認知症のおそれ」と判定された場合に、医師の診断が義務化されました。

また、免許更新時でなくとも一定の交通違反をした(駐車違反とシートベルト装着違反以外の全ての違反が含まれる)場合には、臨時認知機能検査を受けて「認知症のおそれ」と判定されると医師の診断が義務化されます。

認知症ドライバーを水際で防ぐ対策でありますが、今年上半期(1~6月)の集計では一定の効果が出ています。

75歳以上の高齢ドライバーによる交通死亡事故は190件と前年同期(218件)より12.8%減りました(警察庁報告)。ただし、事故全体に占める割合は1割強であり依然として高水準を維持しています。

ところで、認知症と正常とのボーダーラインとして軽度認知障害(MCI: mild cognitive impairment)という病態があります。

2013年の厚生労働省の行った全国調査で、認知症は約460万人、MCIは約400万人と推定されます。認知症は運転してはいけないことになっていますが、MCIの約400万人のうち多くは運転を継続していると考えられます。

MCIから認知症への移行は、4年間の追跡調査より14%と報告されています(国立長寿医療研究センター、2017年)。1年間に換算すると、約14万人の認知症が増えることになります。

現行の高齢者講習は3年に1度でありますから、かなりの数の認知症ドライバーを見逃してしまう可能性があると思われます。2017年上半期では高齢ドライバーによる交通死亡事故が減少していますが、このまま下がり続けるのか注意深く見守る必要があります。

No image

〔PHOTO〕iStock

一方、運転免許証の自主返納件数は順調に増えています。75歳以上の返納数は1~8月で16万3325件(暫定値)に上り、過去最多だった昨年の16万2341件を早くも超えました。

要因として、免許更新時などの認知機能検査で「認知症のおそれ」と判定された場合、医師の助言により自主返納が増えていることが考えられます。

地方の自治体で行われている返納を促す取り組み(例えば、タクシー券や商品割引などサービス)も一定の効果を及ぼしているのでしょう。

ところが、高齢ドライバーの免許返納によって、社会活動・日常活動が低下し、うつ気分やうつ病発症を促し、同居人・家族の負担増につながると欧米先進国から報告されています4。

安易に免許返納を促すことの問題点が指摘されているわけですが、高齢者の社会・経済・文化活動が主要原動力となるウルトラ高齢社会では、社会全体の活力を削ぐ諸刃の剣になるかもしれません。

運転寿命と健康寿命を同時に延ばす

前述の通り、日本はウルトラ高齢社会に到達する最初の国であり、世界の範となる高齢者対策を講じる立場にあります。よって、その場しのぎの高齢者講習のマイナーチャンジではなく、大きく変革した方が良いと考えています。

たとえば、3年に一度の高齢者講習ではなく、毎年高齢者講習を行い認知症ドライバーの早期発見の精度を上げるようにするのはどうでしょう。

車検も2回目以降は1年か2年ごとに施行されています。75歳以上の高齢者なら毎年調べるに越したことはありません。

しかし、この期間短縮に関する議論が起こらないのは、全国規模で毎年、高齢者講習を行うことの費用対効果が見出せないからだと思います。

ここで視点を変えて見ることを提案します。

運転だけでなく健康チェックもして、高齢者講習に健康寿命を延ばす対策を加味すればどうでしょうか?

No image

拡大画像表示

すでに高齢者講習に認知機能検査を実施しているのが現実です。私はこの際、脳のMRI検査も実施すれば良いと考えています。

私は脳ドック診療を生業にしており、すでに4万人以上の脳診断を経験しています。人は血管から老いると言われていますが、最も血管に依存している臓器が脳なのです。

脳は体重の2%以下の重量ですが、血管が運ぶ酸素・エネルギーの約20%を消費する血管依存度が最も高い臓器なのです。

つまり、血管の老いが一番表れやすい臓器が脳であり、脳の老いの変化(脳萎縮や白質病変)を被曝することなく安全にMRIで見ることができます。しかも、日本には全国津々浦々の脳ドック施設で撮影された膨大な脳データが蓄積されているのです。

多くの方は、脳ドックは日本にしかないことをご存知ではないでしょう。実は、脳ドックは日本で独自発展した予防医学の分野なのです。ウルトラ高齢社会に突入する日本こそが、健常者の脳の膨大なデータベースを作り得る立場いるのです。

すでに蓄積された脳データを参考にして、高齢者講習から得られる健常高齢者から認知症までいろいろな状態の脳のMRIデータベースを作り上げ、それを活かして安全運転の限界、免許返納の科学的裏付けを行うことが可能になります。

白質病変のレベルもその一つの基準になり得るはずです。白質病変は、高血圧などの生活習慣病やメタボなどの生活習慣の乱れが原因ですから、白質病変に関する健康管理や生活指導をするだけでも脳を守ることにつながります。

脳を守ることが血管を守ることにつながり、それは健康寿命を延ばし、強いては運転寿命をも延ばすことになるのです。安易に免許返納を強いるのではなく、脳を守って安全に長く、安心して幸せな運転生活が続けられるようにすべきです。

長い目で見れば、健康保険や介護保険の軽減にもつながり、毎年実施する高齢者講習の費用対効果が見出されることになります。いわば急がば回れです。

脳の健康管理まで考慮した高齢者講習が――言い換えれば、健康寿命と運転寿命の同時延伸化を目指す高齢者講習こそが――世界独自の脳ドックが発展・普及し、かつウルトラ高齢社会に突入した日本が世界に向けて範を示すことができる高齢者対策であると確信しています。

【参考文献】
1 阿部玲佳, 朴啓彰, 大田学, 木村憙從, 三宅宏治, 金光義弘. “大脳白質病変が認められるドライバーの動体認知機能解析-ダイナミック・ビジランス・チェッカー(DVC)を用いて-”, 交通科学Vol.46, No.2, pp.54-62, 2015.
2 Park K, Nakagawa Y, Kumagai Y, et al., “Leukoaraiosis, a Common Brain Magnetic Resonance Imaging Finding, as a Predictor of Traffic Crashes.”, PLOS ONE, 8(2):e57255, 2013.
3 Nakano K, Park K ,他11名(2)“Leukoaraiosis significantly worsens driving performance of ordinaryolder drivers.”, PLOS ONE, 9(10):e108333, 2014.
4 S. Chihuri, TJ. Mielenz,ed al., Driving Cessation and Health Outcomes in Older Adults, The Journal of the American Geriatrics Society, 64, 332-341, 2016.

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

社会カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
左折車線から悪質な割り込みをする身勝手な車。しかし警察は見ていた!
警察に捕まる人が続出?韓国人が日本の道路で困惑するもの=韓国ネット「地獄のよう」「見た瞬間、怒りが...」
3歳男の子が行方不明 父親が目離した10分で...
一番人気は?...自動車メーカーはホンダ、スバル、マツダ、三菱がエコプロ2017に出展
東名夫婦死亡事故前にも“トラブル” 「ケンカ売ってんのか」と怒鳴る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加