アベノミクスの恩恵、地方にまったく波及せず...自治体の資金調達難が深刻化

アベノミクスの恩恵、地方にまったく波及せず...自治体の資金調達難が深刻化

  • Business Journal
  • 更新日:2018/01/11
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2012年に発足した第2次安倍政権の目玉でもあったアベノミクス。その第1の矢とされる金融緩和は、円安を誘導することで景気を浮揚させる目的があった。

実際、アベノミクスが発動された直後は円安が進行し、輸出に頼る大手メーカーをはじめとする製造業に大きな恩恵をもたらしている。そうしたアベノミクスを加速させるべく、政府・日本銀行が一体となって異次元緩和を推進した。これらの政策が奏功し、昨今の景気は「いざなぎ景気超え」などともいわれる。

しかし、それは東京をはじめとする大都市に限った現象にすぎない。いざなぎ景気超えなどと好景気を装っても、その果実にありつけているのはほんの一握りの人間しかいない。14年頃からアベノミクスは大都市や大企業にばかり利益をもたらし、中小企業には厳しいとされてきた。特に、地方にアベノミクスはまったく波及していない。そんなことが囁かれ始めたため、地方を所管する総務省は危機感を強めていた。

14年9月に発足した第2次安倍改造内閣で入閣した高市早苗総務大臣は「地方にも恩恵が行きわたるように、ローカルアベノミクスに取り組む」と宣言したが、成果は出せていない。地方では、一向に景気回復の兆しが見られない。

景気回復がもたつくなか、アベノミクス第1の矢とされる金融緩和による反動が自治体を蝕み始めている。その最たる例が、マイナス金利政策だ。政府・日銀が一体化して取り組んだマイナス金利政策により、地方自治体は資金調達に苦しむようになった。ある自治体関係者は言う。

「約10年前、政府は民間資金を積極的に活用する方針を打ち出し、財政投融資改革に着手しました。この財政投融資改革は、民間資金を活用することが最大の狙いです。そのため、地方自治体は国の金に頼ることなく、自立的な自治体経営が求められたのです。そこに誕生したのが、地方自治体が市民を対象に販売する債権。いわゆる、住民参加型市場公募債(ミニ公募債)だったのです」

それまで、地方自治体は債券を個人投資家向けに販売することはほとんどなかった。地方自治体の資金調達は、国からの補助金が柱。自ら起債して資金を調達するにしても、銀行等引受債と呼ばれる債券で調達するのが一般的だった。

銀行等引受債は縁故債とも呼ばれる。その名称からも窺えるように、それまでの自治体と銀行との親密な関係で資金を調達していた。自治体は徴税権・課税権を持っているがゆえに破綻する可能性はほとんどなく、信用性は高い。ゆえに、銀行にとって自治体の債券を引き受けることはおいしいビジネスでもあった。

財政投融資改革では、こうした自治体と銀行との馴れ合いのような関係を見直すとともに、自治体の資金調達能力の向上を目指した。01年に財政投融資改革の方針がまとめられると、その翌年には群馬県が10億円のミニ公募債を発行。愛県債と呼ばれた群馬県発行のミニ公募債は、その使途が明確で群馬県の発展に寄与することもあって即日完売した。愛県債が好評だった理由は、ほかにも一口1万円からという個人でも気軽に購入できる価格だった点や、銀行預金や国債を上回る利率が設定されていたことも大きかった。

群馬県の成功により、ほかの地方自治体も追随。わずか5年で、123団体がミニ公募債を起債するまでになり、その総額は3083億円に達した。

●ミニ公募債の停止相次ぐ

しかし、ミニ公募債ブームは安倍政権の異次元緩和によって一気に沈静化する。日銀がマイナス金利を導入したことで、ミニ公募債の発行を取り止める自治体が相次いだのだ。いくらマイナス金利になっても、個人向け国債は下限金利を年0.05パーセントに定めている。それ以下の利率には決してならない。地方債には、下限金利の設定がない。地方自治体がミニ公募債で市場から資金を調達するなら、国債を上回る金利を設定しなければ投資家から資金を集めることは難しい。

しかし、金利上昇の見通しが立てづらい昨今の金融情勢を考慮すると、とても0.05パーセント以上の利率で債権を発行することはできない。こうして地方自治体はミニ公募債の起債を次々と取り止めた。16年度にミニ公募債を発行した自治体は32、発行総額は372億円まで減少した。そうした状況を東京都職員はこう分析する。

「財政力のある神奈川県横浜市や兵庫県神戸市などでもミニ公募債の発行を取り止めるなど、もはや地方自治体が市場から資金を調達するのは難しい状況になりつつあります。東京都でもかなり苦しく、最近は利率を確保するために外貨建て債券を発行してしのいでいます。しかし、国内外から信用の高い東京都ならまだしも、ほかの自治体では外貨建て債券を発行することはまず不可能でしょう」

●立ち行かなくなる地方自治体

地方自治体が資金調達能力を失ってしまえば、老朽化した庁舎の更新をはじめ上下水道・道路・公園・市民センターといったインフラ整備ができなくなる。また、防災対策や福祉政策にも手が回らなくなるだろう。いわば、私たちの生活が成り立たなくなることを意味する。

「地方自治体はたくさんの資金調達手段を持っているので、ミニ公募債の発行を取り止めても行政がすぐに機能を停止してしまうことはありません。しかし、今般のマイナス金利政策で地方自治体の縁故債を引き受けてきた地方銀行の体力も弱まっています。地銀の体力が低下しているので、地方自治体はこれまでのように縁故債を発行して資金を調達することは困難になるでしょう」(前出の地方自治体関係者)

さらに、地銀は生き残りをかけて合併・再編を繰り返している。地銀はかなり苦しい状況に追い込まれている。縁故債の金利も限りなく0に近づき、儲けはほとんどない。それだけに、以前のように「なあなあ」の関係で縁故債を引き受けてくれると考えるのは早計だ。早晩、地方自治体の縁故債は銀行から見捨てられるだろう。地方自治体が立ち行かなくなる日が迫っている。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)

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