実は「653万部号」は売り損じだった? 元ジャンプ編集長が語る“巨大漫画誌”の影響力

実は「653万部号」は売り損じだった? 元ジャンプ編集長が語る“巨大漫画誌”の影響力

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  • 更新日:2017/09/24
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人気漫画「北斗の拳」「シティハンター」を担当し、週刊少年ジャンプの“黄金時代”に編集長を務めた堀江信彦氏 (C)oricon ME inc.

先日、週刊少年ジャンプの人気漫画『HUNTER×HUNTER』(冨樫義博)が、9月4日(月)発売号を最後に再び休載すると発表。ネット界隈では、季節の風物詩、様式美、休載再開などと言われ、ややネタ化している『HUNTER×HUNTER』休載問題。しかし、かつては休載が“タブー視”されている時代もあった。そこで、漫画家の働き方は昔と今とでどう変わったのか。人気漫画『北斗の拳』(原作:武論尊/漫画:原哲夫)や『シティーハンター』(北条司)を担当し、ジャンプの歴代最高部数653万部を記録した時代に編集長を務めた堀江信彦氏に、前・後編の2回に渡って話を聞いた。

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■週刊ジャンプが取り組んだ先進的なマーケティングとは?

週刊少年ジャンプでは、“友情・努力・勝利”を基本理念とした『ドラゴンボール』(鳥山明)などの王道とは別に、『珍遊記』(漫☆画太郎)や、『ボボボーボ・ボーボボ』(澤井啓夫)、『みどりのマキバオー』(つの丸)など、チャレンジ精神を感じる個性的な作品が多い。こうした自由な作風について堀江氏は、ジャンプが後発の雑誌であることが要因と語る。
「ジャンプは週刊少年マガジン(1959年創刊)、週刊少年サンデー(1959年創刊)に比べて後発です。他誌はジャンプ創刊時(1968年)、作家を持ってかれないようにと脇を固めていて、誰も協力してくれなかった」。そのため、新人作家にチャレンジさせるしかなく、いわばしかたなく決まった方針であったようだ。

初代編集長の長野規氏がその方針を決め、さらに、“より読者の気持ちに寄り添う”ため、とじ込みハガキの読者アンケートをつけることになったと堀江氏。「当初、会社の中には『こんな無駄なことをするな』という声もありました。ハガキをつけるだけで仮に1円かかるとしたら、300万部だったら300万、ひと月なら1200~1500万、年間では1億円以上。ハガキも読者に出してもらえばいいじゃないか、というのが普通の経済的な考え方。でも“読者に寄り添う”という方針でつけ続けました」

■打ち切りの判断はわずか3週!? アンケートシステムの功罪

ジャンプは、たとえ大物作家であろうと、人気が落ちればシビアな打ち切りをしてきた。「それは読者アンケートでの判断でした。連載開始から、人気が出るかどうかは3週程度見れば経験則で分かりました。このシステムは読者にとっても刺激的だったと思う」と堀江氏。読者が支持するものが生き残り、支持しないものは生き残らない。ジャンプは、それを徹底し、読者に寄り添うことを意思表示した。「何よりアンケートには客観性があります。作家に対して編集サイドが『キミの作品は面白くないから終わり』と言っても、作家さんはなかなか納得しない。でも、アンケート結果を伝えれば、納得せざるを得ない」

しかし、早い打ち切り判断にはデメリットもあったという。
「漫画は徐々に人気が上がるケースもあるため、それを見逃すこともありました。打ち切りの目安は10週ですが、中には7~8週で人気が出てくるケースもある。なので、そうした作品を何度か拾ったことがある」と話す。ジャンプは打ち切りの判断が早く、展開がゆっくりの作品にとっては不利な部分も。そうした作品の中には『県立海空高校野球部員山下たろーくん』(こせきこうじ)、『HARELUYA』(梅澤春人)などがあった。
『HARELUYA』は、編集と相談して主人公の設定を神様から人間にしたら人気が上昇。しかし10週での打ち切りは決まっていた。そこで、打ち切りの後、『BO(※スラッシュ付きO)Y』というタイトルで読み切りを掲載。それが人気連載に発展していったのだという。堀江氏によれば、こうしたケースはよくあったようだ。

■もし休載しようものなら、その座を奪われてしまう環境だった

昨今の休載問題について、昔と今とではマンガ雑誌の置かれている状況が大きく違うと語る堀江氏。「僕がジャンプの編集長だった1990年代は、マンガ雑誌の数も今ほどなかった。けれど、漫画を描きたい人は雑誌の数に比べて多かった。つまり、力のある予備軍が数少ない連載枠を虎視眈々と狙っていた」。もし休載しようものなら、その座を奪われてしまう環境だったようだ。また、読者が“休載”に対して優しくなったのかもしれないとも。

「昔は、休載すると人気作品でもパッと人気が落ちてしまった。江口(寿史)先生は『ストップ!! ひばりくん!』でトップの人気だったが、休載が続くとポン、ポンと読者人気が落ちていった。それくらい読者はシビアでした」
堀江氏によれば、ジャンプ読者は自分たちの求める漫画でないと “ジャンプにいらないよ”という意思表明をしたのだという。けれど、ある頃から何度休載しても人気が衰えない作品が出てくるようになったと同氏。
「出版社側も、売れる漫画は休載しても許しちゃうんです。もちろん、体調不良とか、持病とかはしょうがないですよ。漫画家は体力勝負のアスリートですから。でも、“筆が乗らないから”と言って飲み屋で騒いでいるような作家もいるんですよ」

今より娯楽の少なかった当時、子どもはジャンプが発売されるのを今か、今かと待っていた。「漫画ファンは、週刊じゃなくて日刊でも読みたいと思っている。それを1週間待ってもらっていた。だから、“読者ファースト”を考えれば休載は考えられなかった」と堀江氏は述懐する。

一方で、休載によってチャンスを見出す作家もいた。
「本宮(ひろ志)先生が典型的な例。ある作家さんが休載したのでその枠に入れたけど、その読み切りが評価されて『男一匹ガキ大将』の連載に繋がった。休載の穴埋めをきっかけにヒット作が登場し、既存の作品と入れ替わる。これも、当時の作家が休載を恐れた理由のひとつだったと思います」

しかし、漫画家の置かれている状況は当時と異なる。ジャンプなどの成功で漫画が儲かることが分かると、各出版社から多くの漫画雑誌が生まれた。当然、連載作家の席も急増。「漫画雑誌が増えたことで、描ける雑誌が一気に増えた。だから自分の席はあまり脅かされない。贅沢せずに、食べていければいいと思うなら、楽をしちゃう作家もいるかもしれないですね」

『HUNTER×HUNTER』の休載も、待たされても続きを見たい、という現代の漫画ファンの在り方が休載を許容しているともいえる。「冨樫先生も僕の名前を聞いたら胃が痛くなるんじゃない?(笑)。人気漫画ですし、読者が待っているから、できるだけ休載しないで頑張って欲しいですね」(堀江氏)

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