「アニメ産業レポート 2017」から読み解くアニメ業界の現実と課題 藤津亮太のアニメの門V 第28回

「アニメ産業レポート 2017」から読み解くアニメ業界の現実と課題 藤津亮太のアニメの門V 第28回

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  • 更新日:2017/11/12
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日本動画協会が毎年まとめている産業統計の最新版『アニメ産業レポート2017』(http://www.spi-information.com/report/17361.html)がリリースされた。『アニメ産業レポート』は前年までの市場動向をデータなどをもとにまとめたもので、アニメ産業の動向を俯瞰できる貴重なレポートとなっている。『2017』には2016年のデータがまとめられており、配信の現状やアニメを使ったCMが制作される背景などにも触れている。またとじ込み付録として、リスト制作委員会による「2016年アニメ全作品年間パーフェクトデータ」も入っている。
今回は『アニメ産業レポート2017』の中で個人的に気になる部分を2つ紹介したいと思う。

まずひとつめはソーシャルゲームとアニメの関係について。
2016年の全製作・制作会社の売上高(狭義のアニメ市場)は2301億円。昨年より114.6%の数字となった。この項目で大きなトピックとして取り上げられているのがアニプレックスの売上にソーシャルゲーム『Fate/Grand Order』が非常に貢献したという話題だ。
同レポートによると、公表されたアニプレックスの平成28年度の売上は1032億4100万円。アニプレックスは、Blu-rayなどのソフトを売るいわゆる「ビデオメーカー」に相当する立ち位置だが、アニプレックスのビデオ販売を担当するソニー・ミュージックのアニメ映像売上は94億円とのことで、売上の1割弱しか占めていないことがわかる。そのため売上の多くは大ヒットした『Fate/Grand Order』に寄るものであろうと同レポートは推定し、「この現象はアニプレをアニメビデオメーカーという範疇では捉えきれない存在になっていることを示しており、それは同時にアニメにおける『ソーシャルゲーム』の位置づけについても定義しなければならない時期に来ているということでもある」と結んでいる。

現在、ソーシャルゲームの売上は「その他」の項目で処理されているが、ソーシャルゲームの伸長を反映して、「その他」の項目は2015年比で165.8%の伸び、2013年と比較すると倍近い184億円となっている。
2004年ごろから売上が増えたというパチンコ関係は、2008年から独立して「遊興」という項目で同レポートで扱われるようになった。また、いわゆる2.5次元の舞台やアニソンライブなどを含むライブエンターテイメントについては今回のレポートから1項目を割いて、その概況を記している。ソーシャルゲームはそこに続く可能性を感じさせる存在として、今回大きく浮上することになったのだ。
ソーシャルゲーム原作のアニメは増えているし、たとえば『ラブライブ!』の人気がここまで加熱した背景にソーシャルゲーム「スクールアイドルフェスティバル」の存在を無視することはできない。2016年にはゲーム会社Cygamesがアニメ制作会社CygamesPicturesを立ち上げてもいる。これはつまり、ソーシャルゲームがさらにアニメと深い関係を結ぶようになるかどうか、2016年がひとつの分水嶺となる可能性があるということを示しているといえる。

そしてこの話題は、先述の通りビデオメーカーの未来像についても考えさせられる内容となっている。
2016年のアニメビデオパッケージ売上は788億円。3年連続の現象で、2015年比11.5%減となっている。800億円をきったのは、18年ぶりとなる。
ビデオパッケージ市場が縮小するのは既定路線であり、驚くことはないのだが、問題はそれによってビデオメーカーの立脚基盤が危うくなる点にある。アニメ製作においてビデオメーカーは製作委員会の主幹事になることも多く、企画や宣伝、広報などについて大きな機能を持っている。それだけにパッケージが売れない時代におけるビデオメーカーのあり方には注目が集まっている。
当然、メーカーも配信へとシフトすることは第一に考えられる。だが、それ以外にビデオメーカーの主たる利益になる事業に何がありうるか。『Fate/Grand Order』自体は、今や巨大なメディアミックスタイトルとなった『Fate』の一翼を担うもので、直接アニメと結びついてはいない。しかし、アニプレックスの売上は、ビデオメーカー自体がソーシャルゲームをハンドリングする主体となって積極的に売上をあげていく可能性を示していると考えられる。
アニメ(の製作会社)とソーシャルゲームの関係を振り返るとき、2016年はひとつのターニングポイントとなりそうだ。

ふたつめに気になったポイントは、取材の中などで感じられる製作・制作状況が同レポートの数字でどう裏付けられているか、だ。
まず日々、アニメに関するニュースを見ていると、世間の「アニメ」に対する期待は高まっているのは間違いない。
これは数字でよく示されている。
狭義のアニメ市場が2015年より14%増加しているだけでなく、さらに広義のアニメ市場(エンドユーザーがアニメに関連するものに支払ったお金の総計)も2015年比で9%伸びて、初の2兆円超えとなる2兆9億円を記録している。
これはファンがアニメを望んでいるということでもあり、同時にアニメにお金を出したい、アニメビジネスに関わりたいという企業の多さでもある。

一方でアニメ本編を作るための制作力は現状でほぼいっぱいいっぱいだと思われる。
2016年のTVアニメ制作タイトル数は356本(うち10分未満のショートアニメは126本)で2015年よりも微増である。これに対し、制作総分数は11万5805分で、これは2015年とくらべてほぼ横ばい。2013年ごろからショートアニメが増えており、タイトル数ほどに制作分数は伸びていない。
2000年代で11万分を超えているのは、2006年から2008年の3年間と、2013年から2016年までの4年間。うち2006年と2007年だけは12万分を超えている、産業レポートではこうした数字を踏まえ、日本のTVアニメの制作能力はおよそ年間11万分あたりではないかという指摘もしている。

気になるのは、10年前のほうが制作分数は多いにも関わらず、制作現場は現在のほうがより大変そうに見えるところだ。
同レポートではアニメスタジオに景況感などに自由回答の形で質問し、「収益・事業環境で改善した点/悪化した点」の代表的な意見を掲載している。悪化した点について同レポートでは「制作のひっ迫、人材難とビデオマーケットの縮小」の2点に絞られたとまとめている。制作のひっ迫、人材難については、筆者も取材していて特に感じる点である。
一方で、同レポートでは制作費についてのアンケート結果について「ゆるやかながら上昇」と記しており、同時に「クオリティアップや人材確保のコストアップによって利益確保が難しくなっている」とも書いている。また、取材をしていると「10年前には当たり前にできていたことが、今では難しことになってしまった」という話を聞く。

ここから浮かぶのは、1)制作能力はほぼ天井に達している、2)それを支える人材が足りず人海戦術でなんとかしのいでいる、3)その流れの中で人材育成が弱体化している――のではないか、という想像だ。そしてこのこの負のサイクルが始まったのは10年前の繁忙な時期にまで遡れるのではないか。そこに「原画が使えないので大量の作画監督で修正して作品を完成させる」という状況が広まった遠因なのではないか、と想像される。
なにしろ2006年以降でもっとも落ち込んだ2010年でも制作時間は9万分ほど。2000年や2001年よりも多いのである。
こうした現況に対し、中国のIT系や外資系SVODサービスなど海外からの資金も含め、これまでになかった回路から資金が入ってきている状況がある。

こうして見ると現在、(製作というより)出資する側の「作りたいアニメの数」と制作側の「作れるアニメの数に、かなりのギャップが生じているのではないかと実態との乖離を「バブル」というなら、今まさに「アニメ企画バブル」(アニメそのもののバブルではない)のような状態になってはいないか。追い風は強ければいいというわけではないが、ただ誰かがそれを強制的にコントロールするわけにもいかない。このままだと、製作者も制作者も(もちろんファンも)誰も望んでいないのに、「これしかできない」という形で「粗製乱造」されてしまうアニメが増えてしまう恐れを感じる。

2006年はアニメにとってひとつの節目で、そこからUHF局の1クール作品が増加する流れができ、翌年には現在の「イベント上映形式」への道も開けた。そこから始まったことのツケと、アニメの新しい販路が見えつつある現場が交錯して、現在のような混沌とした状況が生まれているように思う。
ツケをいかに精算し、新しい状況へとシフトできるか。そこがこれからファンが注視していくべきポイントだろう。

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ
ゼロ年代アニメ時評』、『声優語 ~アニメに命を吹き込むプロフェッショナル~ 』がある。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。

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