「俺、パパ、できてるかな」乳がんで亡くなった妻・奈緒さんと息子への等身大の想い――元人気ニュースキャスター「シミケン」が前を向いて歩き始めるまでの973日間

「俺、パパ、できてるかな」乳がんで亡くなった妻・奈緒さんと息子への等身大の想い――元人気ニュースキャスター「シミケン」が前を向いて歩き始めるまでの973日間

  • ダ・ヴィンチニュース
  • 更新日:2017/12/07
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『笑顔のママと僕と息子の973日間』(清水健/小学館)

ダ・ヴィンチニュースでは先日、『112日間のママ』という書籍を取り上げた。関西の人気ニュースキャスター「シミケン」こと、清水健さんの妻の奈緒さんが乳がんになり、その壮絶な闘病の記録と清水さんの想いをご紹介した。

奈緒さんが亡くなったのが2015年2月のこと。それから2年8ヶ月。『笑顔のママと僕と息子の973日間』(清水健/小学館)には、清水さんが奈緒さんと息子に伝えたい不器用で力強い想いが記されていた。

■本当に辞めてよかったんかな。

清水さんは奈緒さんの妊娠が分かったその日から「3人で生きていこう」と決めていた。それは奈緒さんと別れた今も同じだ。しかし清水さんは日々、痛感している。

奈緒は“ここ”にいる。僕の中にも、息子の中にも、奈緒はいる。でも触れられない。抱きしめられない。奈緒の声を聴くことができない。なあ奈緒、どうしたらエエかな?

いくら問いかけても答えは返ってこない。3人だけど、悩むときはひとりだ。

シングルファーザーになっても清水さんは関西の人気情報番組『かんさい情報ネットten.』のメインキャスターとして毎日視聴者にニュースを届けていた。筆者もシミケンとしてニュースを読み上げる姿を何度も見ている。『112日間のママ』の出来事があっても、力強く訴えかけるシミケンの姿に勇気をもらった。しかし本当は、一杯いっぱいだった。

ニュースキャスターの仕事は大変だ。入念なスタッフとの打ち合わせ、自身でのニュースのチェック、ときには現場に取材へ出かけ、曜日ごとの番組スタッフとの連携も欠かせない。この激務に加えて、人気番組のメインキャスターというプレッシャーと闘うことができたのは、弱音を吐いても勇気づけてくれた奈緒さんの存在があったからだ。

しかしシングルファーザーになり、子育てによって清水さんの余裕はなくなった。息子はこの上なく愛おしい。だが、毎晩の夜泣きや世話に時間を取られ、キャスターの仕事もおざなりになり、清水さんはどんどん疲れていった。「しんどい」と言いたい。「もうアカン」と口にしたい。でもそれを聞いてくれるはずの奈緒さんはそばにいない。

父親としての時間も満足に取れず、番組スタッフには気を遣わすばかり。自分一人で息子を育てると誓ったのに、何かあれば母親や姉に頼っている。すべてが中途半端だった。

平日はキャスターとしての仕事。土日は、『112日間のママ』を出版したことで講演会の仕事がくるようになった。講演会に出かけるとき、清水さんの息子は「パパ、パパ……」と泣いて嫌がっていた。しかしあるときから息子は泣かなくなった。「バイバイ!」と手を振って戻っていく。無理をしていたのは清水さんだけじゃない。息子も一番甘えたい時期に寂しさを我慢していたのだ。

奈緒さんがいる間、清水さんは奈緒さんに甘えていた。奈緒さんを守ると言って、守れなかった。また同じことを繰り返そうとしているのではないだろうか。息子を守ると言ったのに、また、息子に甘えている。息子は寂しさの中でじっと耐えている。ママと会えないことも、パパと遊べないことも、じっと……。

2017年1月、清水さんはニュースキャスターを辞めた。読売テレビから退社したのだ。1月26日、明日が最後の放送というその夜、清水さんは真夜中にひとり、衣装室にいた。奈緒さんと初めて出会った場所だ。清水さんは奈緒さんに問いかけた。

「オレ、辞めることにした。奈緒、いいかな?ごめん、勝手に決めて。正直、寂しいよ。手術のときも“いつもの健さんが見たい”と言って、怖いはずなのに、オレをキャスターでいさせてくれた。奈緒は本当に嬉しそうに番組を見てくれた。でも辞める。……本当に辞めてよかったんかな。奈緒……。」

覚悟したのに、自分で決めたのに、涙があふれてくる。翌日2017年1月27日午後7時、清水さんはキャスターとしての最後の放送を終えた。清水さんはひとりのパパになった。

■奈緒さんへの手紙

清水さんは今、講演会に立っている。同じように辛い思いをしている人々が講演会を訪れ、清水さんの話に耳を傾ける。この講演会に演台は置かれていない。清水さんがひとりぽつんと立ち、原稿も何もない舞台で人々に勇気を与えようとマイクを片手に語りかける。しかしときには辛かったことを思い出して涙を流し、客席からの「ガンバレ!」という声で逆に勇気づけられてしまうこともある。“今”の自分をありのままにさらけ出す等身大の姿は、「シミケン」として走り続けたニュースキャスター時代の姿と重なる。

本書の最後には、清水さんが奈緒さんに宛てた手紙がつづられている。奈緒さんに心配かけていることを謝り、愛する我が子が元気であること、「ありがとう」と素直に言えるようになったこと、寂しいけど今が充実していることを伝えている。そして最後に、シミケンらしい、等身大の気持ちがつづられている。

あー、ほんまに、なんやろ、不安やで、怖いで、でも、幸せや。寂しいけど、幸せや。強がってるだけかもしれんけど、そう言わせて。会いたいけど、会いに行かん。パパしないと、みんなに「ありがとう」言わないといけないから。会いたい、ごめん、ありがとね。元気です。笑ってくれている奈緒の笑顔、感じます。なあ、パパ、できてる?奈緒、俺、パパ、できてるかな。

奈緒さんは今日も優しい笑顔で不器用な父親と元気な息子を見守っている。不器用な父親は今日も愛する息子と共に等身大で“今”を生きている。

文=いのうえゆきひろ

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