業界騒然!銀行が有名企業の「役員人事」に反対しまくっている

業界騒然!銀行が有名企業の「役員人事」に反対しまくっている

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/09/13
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株主総会で議案に賛否を投票する――その「議決権行使」をめぐって、今夏の株主総会で異変が勃発した。積み上がる反対、反対、反対の票……。身内も取引先も容赦しない。大株主が牙を剥き始めた。

トップ人事にもケチをつける

三菱グループで役員を務める幹部の一人は、今夏に一斉に開かれたグループ各社の株主総会の「結果」を眺めていた時、衝撃的な数字を見つけて驚愕した。

それは、グループの一角をなす三菱UFJリースの株主総会で、各取締役の人事についてどれくらいの賛成票、反対票が積み上がっていたかの詳細を記した資料に目を通していた時のこと。

株主総会における取締役人事への賛成率は、9割台が一般的。実際、今年の東芝の株主総会では綱川智社長の再任人事への賛成率は89%であり、9割を下回るのはよほどの事態とされる。

それが、三菱UFJリースの株主総会では9割台はおろか、複数の取締役が「8割台割れ」……。該当する3人の取締役の中には「7割台割れ」する者も出るほどの緊急事態になっていたため、思わず我が目を疑った。

「3人の賛成率は、69%、72%、79%という異常な低さ。昨年の株主総会では賛成率が8割を下回る取締役はいなかった。一体なにが起きているのか」

そのグループ幹部が訝っていたところ、さらにショッキングな事実を知ることになる。

というのも、この3人の役員人事に反対票を投じていたのは同社株を大量保有する機関投資家であることがわかったのだが、その当事者はなんと「身内」。

具体的には、三菱UFJリースの株式を2000万株以上保有する大株主で、しかも、同じ三菱グループである三菱UFJ信託銀行だったと判明したのである。

今回の三菱UFJリースの株主総会では新しい監査役の人事への賛否も決議事項になっていたのだが、なんと三菱UFJ信託はこの人事にも反対票を投じていたことがわかった。

「しかも、この新任監査役候補となっていたのは、三菱UFJ信託で執行役員を務めたことのある『身内中の身内』。驚きを超えて、恐怖すら感じた」(前出・グループ幹部)

株を持っている生保や銀行などの機関投資家が、よその大企業の役員人事に文句をつける。それが身内であっても、容赦はしない――。

実はいま、そんな前代未聞の事態があちこちの企業で勃発し、有名企業の役員たちを震撼させている。三井住友グループ幹部も言う。

「うちの場合、グループの中核的金融機関のひとつである三井住友信託銀行が、グループ各社の株主総会で次々と取締役人事に反対票を投じています。それもヒラの取締役レベルだけではなく、トップ人事にまで『NO』を突きつけているから驚きです。

実際、三井ホームの株主総会では市川俊英社長の再任人事に反対票を投じていた。IHIの株主総会にいたっては、斎藤保会長、満岡次郎社長のトップ2をはじめ合計10名の人事に反対し、もはや会社の経営そのものに事実上の不信任を突きつけているようなものです。

さらに、NECの株主総会では2010年から社長を務めた『重鎮』の遠藤信博会長の再任に反対したのみならず、グループの『大物』である三井住友フィナンシャルグループの國部毅社長を社外取締役に再任する人事にも反対票を投じた。

結果、遠藤氏の人事案への賛成率は82%、國部氏は71%という恥ずかしいほどの低位に沈んでおり、もう目も当てられない」

日本の金融機関の多くはどこかの企業グループに所属しており、これまではグループ各社の株を大量に保有することで「安定株主」の役割を果たしてきた。それがここへきて、突如として「モノ言う株主」へと一変。身内にも牙を剥くようになっているわけだ。

金融庁・森長官の「号令」

実はそんな「突然変異」が今夏から続出し始めたのは、森信親長官率いる金融庁がトリガーを引いたのがきっかけ。金融庁関係者が明かす。

「金融庁はかねてより、信託銀行、運用会社、生保などの機関投資家が、系列企業の株主総会で身内の論理を優先させ、その議決に『手心』を加えているのではと問題視してきた。

実際、機関投資家が身内の大企業となれ合い、利益相反になっているケースもあった。

そこで金融庁内では昨年から抜本的に問題を改善すべく専門会議で議論を始め、機関投資家の行動指針を変えたのが今年3月のこと。そこで、これまで機関投資家は株主総会で各議案にどう投票したかについて大まかな集計を公表すればよかったところ、今後はすべて個別開示するように指針を改訂したのです」

もちろんそんなことになれば、これまでバレないからと「賛成票」を投じてきたことも丸裸になってしまう……。

事態を危惧した一部の機関投資家は「投資行動がばれる。株価にも影響が出る」と反発したが、強権で知られる森長官はそうした声に耳を貸さなかった。

「しかも、開示しない場合はその理由を説明すべきとし、むしろ開示を事実上義務付けた。観念した機関投資家たちは、『身内びいき』から一斉に引かざるを得なくなった」(前出・関係者)

かくして前述したように身内相手にも厳しい議決権行使をするケースが続出するようになったわけだが、企業役員たちを震撼させているのはそれだけが理由ではない。

実は、機関投資家たちは親密にしてきた「取引先」にも厳しい議決権行使を断行。昨日まで手を結びあっていたのが一転して、その役員人事にも次々と反対票を投じ始めているのだ。

「たとえば、野村アセットマネジメントは、同じグループの野村證券が主幹事を務める三菱自動車の株主総会で、益子修社長など5名の役員人事に反対票を投じています。

同じく野村證券の得意先である富士フイルムHDの株主総会でも、古森重隆会長、助野健児社長、経営企画部長という経営中枢の人事に反対票を投じている。

驚くのは、会社側が『反対』する議案にはむしろ、『賛成』を投じるような挑戦的な議決権行使もしていることです。

たとえば武田薬品工業の株主総会では、一般株主から『相談役や顧問の職を廃止せよ』との趣旨の株主提案が出され、会社側は反対しているのに、野村アセットマネジメントは賛成票を投じた。まさに『モノ言う株主』であり、会社側は否が応でも緊張感を持たざるを得なくなってきた」(経済ジャーナリストの片山修氏)

反対票を投じる「理由」

相手がだれでも、躊躇しない――。その実態は日産自動車のカルロス・ゴーン会長のようなカリスマ経営者にも反対票が多数投じられるほどで、もはや「聖域なき議決権行使」と化してきたわけだが、実はこのように反対した議決権行使について、銀行などはその「理由」も開示している。

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たとえば取締役の選任について見ると、「重大な不祥事を起こした」「取締役会への出席率が低い」「業績を満たしていない」……。

社外取締役人事にしても、「大株主や取引先の出身者で独立性が担保されていない」「在任期間が著しく長い」などの判断基準をあらかじめ設けており、それをもとに賛否を決めているわけだ。

「おのずと親会社の新聞出身者が社外取締役に入っているテレビ業界の人事では、『独立性基準』に抵触するケースが多発。

メディアは自社のことなので報じませんが、テレビ朝日HDでは朝日新聞社長の渡辺雅隆氏、日本テレビHDでは読売新聞グループ本社代表取締役主筆の渡辺恒雄氏、テレビ東京HDでは日本経済新聞会長の喜多恒雄氏が社外取締役に就く人事について、機関投資家から反対票を投じられている」(大手運用会社ファンドマネージャー)

そもそも、ひとつの機関投資家の投資先は1000社を優に超え、1社につき株主総会での議題は10以上がザラ。

今夏の株主総会だけでも数千から一、二万件の議題の賛否を決断しており、一定の条件を設けないと期限内にすべてを判断できないという事情もある。

もちろん、機関投資家の担当者たちは企業側と面会をして、その面会内容を踏まえたうえで賛否を変更する地道な作業もしている。

ただ、「時間的にも人員的にも限界がある。結果、大半は決められた条件のもと一律に判断をせざるを得なくなっているわけだが、これがいま『新しい問題』を浮上させている」と、元日本興業銀行金融法人部長で経済評論家の山元博孝氏は指摘する。

「たとえば、議決権行使にあたって、『社外取締役の人数が少ない会社の取締役人事には反対する』という旨の基準を設ける機関投資家が多い。

人事が否決されることを回避するため、企業の中には急いで社外取締役を選任したところもあるようだが、果たしてそれは日本企業にとっていいことなのか。すでに日本では社外取締役が名誉職化して機能していないケースが散見される。

議決権行使が強化されることで、こうした『無意味な社外取締役』がさらに急増しかねない」

得をするのは株主だけ

実はこのように議決権行使の「弊害」を指摘する専門家や実務経験者は少なくない。元サムスン電子常務で経営学者の吉川良三氏も言う。

「議決権行使の条件としては『赤字を3年続けてはいけない』、『ROE(株主資本利益率)が高くなければいけない』とあるが、こうした数値目標を企業に一律に求めるのも非常に危険です。

たとえば、これから伸び盛りの企業は利益を犠牲にしてでも投資にカネを回すのが正解だが、そうした積極経営も取りづらくなってしまうからです。実際、米アップルやグーグルも、成長する段階で投資家が温かく見守ってくれたからこそ現在がある。

いまの議決権行使はそうした将来有望な企業の芽を摘み、経営を委縮させかねない」

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議決権行使の厳格化は、不祥事の責任を取らない経営者や取締役会にも出ずに高給を得る役員などを排除できるメリットはある。が、実はそれ以上の「デメリット」を生じさせかねないというわけだ。すかいらーく創業者の横川竟氏も言う。

「そもそも経営者としての経験から言うと、株主の声をそのまま取り入れて経営しているだけでは、新しい価値などを生み出すことはできない。

一時的に利益が出て、株価が上がることはあるだろうが、企業の根幹となる人づくりなどはなおざりになり、結局は経営難に陥るのが結末でしょう」

機関投資家から言われるがままの経営では、企業は独自性を失うだけ。そうして会社が壊れれば投資家たちは一転、株を売り払いにかかってくるのも目に見えている。

「結局、議決権行使の厳格化でだれが得をするのかと言えば、『会社は株主のもの』と考える投資家たちです。散々企業に文句をつけて株価を釣り上げて、企業がダメになればポイ捨てする。

ヨーロッパではそうした短期的利益を求める投資家に企業経営が左右されることが問題視され、むしろ株の長期保有者に多くの議決権を与える制度導入の流れもある。日本はそうした株主の質を重視する世界に逆行している」(早稲田大学法学学術院教授の上村達男氏)

時代遅れの「株主重視策」が日本にやってきて、経済を根本から壊そうとしている――。

「週刊現代」2017年9月16日号より

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