ゲノム編集で大量生産「食用ほおずき」は遺伝子組み換え食品なのか

ゲノム編集で大量生産「食用ほおずき」は遺伝子組み換え食品なのか

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/10/11
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英語名で「グラウンド・チェリー(ground cherry)」という果実を御存じだろうか? 文字通り訳せば「地表のサクランボ」という意味だが、本当は「ほおずき」の仲間で、日本では実際「食用ほおずき」と呼ばれている。

口に入れるとミニトマトのような食感と、パイナップルにも似た甘酸っぱい味がするらしい。食通の方なら御存じかもしれないが、筆者は正直、今まで、これを食べたことがないし、スーパーやコンビニなどで見かけたこともない。

グラウンド・チェリーは中南米原産の珍しい果物で、食料品店の棚に常時置かれる主要食品というより、農家が自主運営する地元市場や農園などで売られている希少食品のようだ。

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〔PHOTO〕gettyimages

栽培・収穫が難しいオーファン・クロップ

こうした珍しい果物や野菜などは一般に「orphan crop(孤児作物)」と呼ばれている。農家にとって栽培や収穫が難しいため、主要作物のような大量生産に適していないから、そう呼ばれるようになったという。

実際、グラウンド・チェリーの場合、従来の品種改良法では、実を大きくすることが難しかった。また(この実をつける)ほおずき属の当該植物は乱雑な茂みを形成する上、実が熟す前に地表に落下してしまう傾向があるため、その収穫も難しい(「地表のサクランボ」という呼称の由来がここにある)。

今、最新鋭の遺伝子操作技術である「ゲノム編集」を使って、こうした栽培・収穫の難しい希少作物を品種改良し、それによって収穫量を増加させることで、一般消費者がスーパーの棚から手軽に買えるようにする取り組みが始まっている。

https://www.nature.com/articles/s41477-018-0259-x

ピンポイントの遺伝子操作で収量が急増

今月1日に発表された上記論文によれば、米コールド・スプリング・ハーバー研究所の科学者グループは(第3世代のゲノム編集技術)クリスパー・キャス9を使ってグラウンド・チェリーを品種改良し、その実を大きくすると共に、より多数の実を結ばせることに成功した。

さらに当該植物の乱雑な生え方を解消することにも成功し、これらの改良全てによって、グラウンド・チェリーの収穫量を大幅に増加させることができたという。

ここには高精度の遺伝子操作を可能とするクリスパーの真骨頂が現れている。

これまでの「選択育種」や「異種交配」など伝統的な品種改良法、あるいは1970年代に開発された「遺伝子組み換え」技術などに比べ、クリスパーでは遺伝子操作の精度が桁違いにアップした。この結果、農作物のゲノム(DNA)上に存在する特定の遺伝子を、ピンポイントで改変できるようになった。

特にグラウンド・チェリーの場合、これと似たDNAを有するトマトの研究から、「Self Pruning(SP)」と呼ばれる遺伝子が、その収穫量を増加させる上で決定的な役割を果たしていることが知られている。

そこでコールド・スプリング・ハーバー研究所の科学者グループは今回、このSP遺伝子をクリスパーで改変することにより、グラウンド・チェリーの実を従来より24%大きくし、実の数を50%増加させることに成功した。

数千年に及ぶ品種改良を数年で

また同様の手法で、従来の「実が熟す前に地面に落下してしまう」という問題も今後解決できると考えている。さらに以降は、こうした希少作物のみならず、野生植物の中から食用化できそうなものを探し出し、これにクリスパー(ゲノム編集)を適用して、極めて短期間で農作物化することも可能という。

今から約1万~2万年前に始まったとされる人類による農耕の歴史では、「稲(米)」や「麦」をはじめ数々の農作物は、元々は野生環境から食べられそうな植物を選び出し、数百~数千年をかけて品種改良することで作られてきた。それは基本的に自然界の突然変異という偶然(幸運)に頼っていたから、そこまで長い時間を要したのである。

また比較的新しい技術である(1970年代以降の)遺伝子組み換え技術でも、(農作物のDNA上の)特定の遺伝子に狙いを定めて操作することはできなかった。つまり同じく何らかの偶然に依存するランダムな手法であったため、目的とする品種改良を成し遂げるまでには、優に10年以上の開発期間と多額の開発費を要した。

これに対し狙った遺伝子をピンポイントで操作できるクリスパー(ゲノム編集)を使えば、恐らくは僅か数年で(前述のような)希少作物の大量生産や、新型作物の開発が可能になると見られている。

GMOが辿った苦難の歴史

しかし問題は、(現在は開発段階にある)これらゲノム編集作物がいずれ商品化され、スーパーや食品店の棚に置かれた時、私たち消費者に受け入れられるかどうかだろう。

それが一筋縄ではいかないことは、(ゲノム編集以前の遺伝子操作技術である)「遺伝子組み換え」による品種改良の歴史を振り返れば明らかだ。

既に1990年代から米国を中心に開発・商品化されてきた遺伝子組み換え作物、いわゆるGMOに対しては、各国の消費者団体や環境保護団体などの激しい反対運動が巻き起こった。

一方、米欧や日本などの政府は、このGMOに対し規制を課してきた。すなわち政府当局が「環境への影響」や「食の安全性」などについて評価した上で、これに合格したものには流通・販売を許可。特にスーパーや食料品店などで直接、消費者に売られる際には、「遺伝子組み換え」というラベル表示を義務付けている。

しかし各国の消費者はGMOの安全性に不信感を抱いているため、仮に、これらが食品店の棚に置かれても買おうとはしない。また、こうした消費者の反応を予め承知している日本や欧州などの農家は、そもそもGMO(遺伝子組み換え作物)を栽培していない。

GMOは家畜飼料や加工食品に

他方、米国やカナダ、ブラジル、アルゼンチンなどの農家はGMO(トウモロコシ、大豆、菜種など)を大量生産しているが、これらは主に家畜の飼料、あるいは食用油や調味料など加工食品の原料として使用されている。ただしハワイで生産されるパパイアなど一部のGMOは、消費者が直接口にする食品として出回っている。

これら外国産のGMOは日本にも輸入されている。しかし私たち消費者が普段、スーパーやコンビニの棚で「遺伝子組み換え」と表示された農作物(野菜や果物など)を目にすることはほとんどない。(前述のように)消費者はGMOに警戒感を抱いているため、仮に、これらが食品店の棚に置かれたとしても誰も買おうとしないからだ。

結果、日本に輸入されるGMOは諸外国と同様、家畜の飼料や加工食品の原料として使われている。これらGMO飼料(大豆やトウモロコシなど)を食べて育った家畜の肉や、各種のGMO加工食品などには「遺伝子組み換え」の表示義務がない。

また(改めて断るまでもなく)米国をはじめ外国から輸入される牛肉なども、その大部分がGMO飼料を食べて育った家畜の肉だが、遺伝子組み換えの表示義務はない。このため消費者は普段、無意識のうちに、これらを買って食べている。

つまりGMOに根深い不信感を抱きながらも、これら家畜の肉や加工食品などを通じて、間接的にGMOを消費していることになる。

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ゲノム編集作物の商品化が始まる

このGMOの次に来る技術がゲノム編集と見られている。ゲノム編集は今後、医療をはじめ様々な分野に導入されていく汎用技術だが、真っ先に実用化が検討されているのが食の分野、つまり農産物の品種改良なのだ。

しかし仮に、その導入の仕方を誤ると、GMOと同様、消費者団体などNGO(非政府団体)から目の敵にされ、一般消費者から毛嫌いされる恐れもある。

既に米国では一部のベンチャー企業が「ゲノム編集で品種改良した健康に良い大豆」を栽培し、それを加工した食用油の商品化を進めている。またモンサントやダウ・デュポンをはじめ大手バイオ企業も、GMOに代わる主力商品としてゲノム編集作物の研究開発を急ピッチで進めている。

米国ではGMO規制の対象外

彼らがゲノム編集作物に大きな期待を寄せる理由は、これが従来のGMO規制の対象外と認定されたからだ。

既に2015年頃には、米国の大学の研究者らが開発した「時間が経っても変色しないキノコ」や「日持ちの良い(=腐り難い)野菜」などゲノム編集作物に対し、米国の農務省など規制当局が「これらはGMOとは違うものなので、従来の規制は適用されない」という判断を示した。

これにより従来のGMO規制による長期間の作付け実験や安全性検査、それに伴う巨額のコストがゲノム編集作物では免除されることになった。さらに、これらがいずれ商品化され、スーパーや食品店の棚に置かれたときにも、「遺伝子組み換え」のようなラベル表示義務がなくなった。

だから米国のアグリ・バイオ企業は、ゲノム編集作物の研究開発に本腰を入れ始めたのだ。

では何故、米国の農務省は「ゲノム編集作物は従来のGMOとは違うもの」という判定を下したのだろうか?

それは両者の作り方の違いにある。

違いは外来遺伝子の有無

従来のGMOは、基本的に何らかの外来遺伝子を農作物のDNAに組み込むことによって実現されてきた。

たとえば「バチルス・チューリンゲンシス(Bt)」と呼ばれる殺虫性タンパク質を発現する細菌の遺伝子(外来遺伝子)を、遺伝子組み換え技術を使って大豆に組み込むと、この大豆が害虫への抵抗力を持つようになる。これがGMOの典型である。

これに対しゲノム編集作物では、敢えて、そのような外来遺伝子を農作物のDNAに組み込む必要がない。ゲノム編集技術では直接DNAの一部を操作できるので、むしろ(突然変異による偶発的な組み換えに依存する)伝統的な品種改良と同じものと判定されたのだ。

たとえば(前述の)「変色しないキノコ」は、大学の農学者がクリスパーを使って、キノコのDNA上にある僅か2文字の塩基配列(遺伝子の一部)を破壊(消去)するだけで実現された。「外来遺伝子を導入する代わりに、この程度の修正で済むなら安全だろう」という理由で、米国の政府当局はゲノム編集作物をGMO規制の対象外と定めたのだ。

しかし、この判断に対しては米コンシューマーズ・ユニオンや世界的な環境保護団体グリンピースなどが猛反発している。彼らは「ゲノム編集作物でも、農作物のDNA(遺伝子)が操作されている点では従来のGMOと同じ。つまり食の安全性や環境への影響が懸念されるので、従来のGMO規制を適用せよ」と強く訴えている。

各国で異なる規制方針

ゲノム編集に対する各国(地域)のスタンスはまちまちだ。まだ腹を決めかねている国も多い中、欧州ではEU司法裁判所が今年7月、「ゲノム編集作物にも、従来のGMO規制を適用すべき」との裁定を下した。

一方、日本ではまだゲノム編集作物への規制方針は固まっていないが、検討はかなり進んでいる。

まず環境省は「(ゲノム編集を使って農作物に)外来遺伝子を組み込む場合にはGMO規制の対象となるが、組み込まない場合には規制の対象外」とする方向で調整を進めている(前述のように、ゲノム編集を使えば農作物に外来遺伝子を導入しなくても品種改良できるが、外来遺伝子を導入することも勿論できる)。

また厚生労働省も同様の方針と言われる。つまり基本的に米国と同じ規制スタンスだ。

こうした展開は既に日本の各種メディアを通じて報じられており、やはり諸外国同様、日本でも消費者団体などNGOが激しく反発している。

規制しなければ、むしろ混乱を招く

最後に筆者の個人的見解を言わせて貰えれば、ゲノム編集作物にも(少なくとも当面は)従来のGMO規制を適用すべきだと思う。これは何も「ゲノム編集作物は食べると危険だ」とか「環境への悪影響が懸念される」と言っているわけではない。

そうではなくて、もしもゲノム編集作物がGMO規制の対象外とされ、「遺伝子組み換え」のようなラベル表示義務が免除されてしまえば、むしろ消費者に対して「何か危険なものを隠しているような印象」を与えてしまうからだ。

また、これまでGMOから距離を置き、伝統的な農法で作物を栽培してきた日本の農家にとっても、ゲノム編集作物からラベル表示がなくなってしまえば、通常の農作物と区別がつかなくなってしまう。

結果、彼らが「我々の栽培した農作物を、ゲノム編集作物(のような事実上のGMO)と一緒にするな!」と猛反発することは、今から火を見るより明らかだ。

従来のGMO、あるいは今後のゲノム編集作物を問わず、農作物のDNAが先端バイオ技術を使って変更されている点では同じだ。これは(外来遺伝子を導入する、しないによらず)否定しようのない事実である。

そうであるなら、堂々と、それをラベル表示すべきだ。

その結果、どうなるか? 恐らく消費者は従来のGMOと同様、(少なくとも当初は)ゲノム編集作物を敬遠するだろう。これだけ食料が豊富に溢れた現代社会では、農産物に先端バイオ技術で多少の品種改良を施したところで、消費者は敢えて、そんなものを買って食べる必要性が感じられないからだ。

敢えて食べる理由が必要

これに対し、大学研究者やバイオ・メーカーなど提供者側ではどう対応するか? 恐らく、是が非でも消費者が欲しがるような食品を開発していくことになるだろう。

たとえば本稿冒頭で紹介したグラウンド・チェリーのような、普段あまり口にすることのできない希少作物をゲノム編集で大量生産する。

あるいは、「これを食べると健康に痩せることができる」といった劇的な食品効果を科学的に立証したゲノム編集果物などを売り出せば、商品棚に置かれると、あっという間に消えるようなヒット商品になるだろう。現代人の美容にかける情熱には並々ならぬものがあるが、脂肪吸引手術などに比べれば、ゲノム編集食品のほうが余程安全であるからだ。

もちろん、そんなものが実際にできるかどうかは分からないが、要は、それくらいインパクトのある新商品を開発しない限り、消費者がバイオ操作された新型食品を受け入れることはないだろうし、クリスパーのようなゲノム編集技術を使えば、それも単なる夢物語で終わらないということだ。

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規制の抜け道に活路を求めてはいけない

ただし、そのためには(前述の変色しないキノコのような)「農作物のDNAの僅か数文字(塩基配列)を消去する」程度の遺伝子操作では済まないだろう。恐らく、もっと大量の塩基配列をゲノム編集で改変し、その過程で何らかの外来遺伝子を導入する必要にも迫られるかもしれない。

となると結局は、従来のGMOと同様のラベル表示が必要になってくるし、たとえ科学者がどれほどゲノム編集作物の安全性を訴えたところで、消費者心理に配慮すれば、従来の安全性検査も省くわけにはいくまい。

つまりバイオ・メーカーなど提供者側では、規制の抜け道に活路を求めるよりも、むしろゲノム編集食品であることを消費者にきちんと明示した上で、それでも私たちが買いたくなるようなインパクトのある新商品を開発することに励むべきだろう。

その過程でゲノム編集食品の安全性が確かめられていけば、ある程度の時間はかかるにせよ、いずれは消費者に受け入れられるのではないか。

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DNAのメス、クリスパーの全貌とインパクトがわかる! 中学生にもわかる、生命科学最前線。

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