作曲家・大友良英が選ぶ「繰り返し読んでも飽きない本」

作曲家・大友良英が選ぶ「繰り返し読んでも飽きない本」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/08/12
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自分の根っこにある人

今回選んだのは自分の核となった本ばかり。でも、どれか一冊となったら、間違いなく殿山泰司さんの『三文役者あなあきい伝』を選びます。

読んだ回数で順位付けしたのですが、なかでも『あなあきい伝』はPart1、2ともに2冊ずつ持っていて、どっちももうボロボロ。世界中をツアーで回る生活が長く、本は大事な旅の友。鞄に入れる3~4冊のうちの一冊にいつも選んでしまうのが、殿山さんの本です。

初めて読んだのは20歳くらいだったかな。福島から上京して明治大学に入ったものの、勉強はそっちのけ、音楽漬けの生活で、音楽家の高柳昌行さんに弟子入りしたばかりの頃です。

当時、「これはいいな」と思ったフリージャズのライブに片っ端から行っていました。すると、そこには必ずと言っていいほど殿山さんの姿があった。気軽なジーンズ姿で、お客が数人しかいないようなライブにもいるんですよ。

戦後映画界を代表する名脇役だった殿山さんの出演作は名作ぞろい。それはやはり新藤兼人や今井正のような名監督に必要とされたからです。そりゃあもちろん俳優としても素晴らしいんですけど、ジャズ評論家としての顔もあった。そんな俳優いませんよ。

殿山さんが役者の世界に足を踏み入れていく話を読んで、僕も音楽の世界を志していた若者だったので、すごく憧れました。

この本からは、戦前の東京の生き生きとした様子も伝わってきます。なにより殿山さんの、リベラルだけど、難しいことは言わない思想が好きなんです。軽やかでテンポ感があって、江戸っ子らしい照れ隠しも見せたりして。

僕がゲストディレクターを務める札幌国際芸術祭が8月6日から始まるのですが、自分の展示のタイトルも、殿山さんが高柳さんのギターを評した「お月さままで飛んでいく音」という大好きな言葉にしました。それくらい、殿山さんは自分の根っこにある人です。

ここ数年で一番衝撃を受けた本

即興音楽に魅せられた人間として、デレク・ベイリーは外せません。2位の『インプロヴィゼーション』は'70年代の終わりに英語で読んだものの、難しくて挫折。'81年に日本語版が出たので、それを夢中で読みました。この本を読んだのも、20歳くらいの頃。他人の言葉を知って、自分自身のことを客観的に見る―。そんな読書に目覚めたのがその頃だったんですね。

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3位に選んだ『ジ・オフィシャル・クレイジーキャッツ・グラフィティ』は、小さな頃に『シャボン玉ホリデー』を見てワクワクした気持ちが、自分の音楽のルーツなんだと確認できる本ですね。とにかく写真がいい。写真を見て子供の頃の楽しい記憶を思い出して、頭のなかで音楽を想像する。そして、懐かしさで心が和む。'16年のNHKドラマ『トットてれび』でクレイジーキャッツの音楽を演奏できたのは嬉しかったな。

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6位の『ねぼけ人生』は最高の癒し本です。子供の頃から水木しげる漫画は好きで、エッセイもどれも大好き。癒やしったって、通常の癒やしじゃ全然ない。水木さんの書く俗っぽいところも、戦争体験も貧乏体験も全てひっくるめて深く人間というものを考えさせられて、そこが僕にとって癒やしの源なのです。

海外ツアーには本を何冊も持っていけないから、殿山さんにしろ水木さんにしろ、繰り返し楽しめる味わい深い本を選ぶんですよ。

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反対に、『剣客商売』は主人公のスーパーおじいちゃん、秋山小兵衛が大好きなんだけど、面白くて一気に読み終えてしまう。だからこちらは国内ツアー用(笑)。池波作品は全国どこの書店や駅でも買えたので、読み捨てては各地で買い直していて、全部で何冊買ったかわかりません。

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7位の『日本フリージャズ史』は、僕も著者の副島輝人さんの取材に答えています。特に師匠である高柳さんについて、副島さんにはしっかりした取材をしてもらいました。フリージャズは自分の育ったベース。ずっと手元に置きたい本です。

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中村美亜さんの『音楽をひらく』は'13年に出た本ですが、ここ数年読んだ本のなかで最も衝撃でした。音楽を語る時は、たとえば「ベートーベンのあの曲が」という「作品論」にどうしてもなってしまう。しかし、中村さんは「音楽が成立する場」に目を向けているんです。

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僕にとって読書は、決して自分では行けない場所へ連れて行ってくれる「扉」のようなもの。中村さんの本には、これまでの音楽論が辿り着けなかったところが示されている。もっと世間に注目されてほしいですね。

(構成・文/伊藤達也)

▼最近読んだ一冊

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「旅の途中で手に取った本。きっとこの本に出てくる『投げ出された断片たち』に対する岸さんの眼差しというか、絶妙な距離のとり方にほっとする人が結構いるんじゃないかなと。自分も、距離のことばかり考えています」

大友良英さんのベスト10冊

第1位『三文役者あなあきい伝』Part1、2
殿山泰司著 ちくま文庫 入手は古書のみ
ジャズ評論家、エッセイストとしても活躍した個性派俳優のタイちゃん節が炸裂する人生録。「永遠の憧れです」

第2位『インプロヴィゼーション
デレク・ベイリー著 竹田賢一・木幡和枝・斉藤栄一訳 工作舎 2300円
タイトルは即興音楽の意。その代表的なギタリストである著者がジャズやロック、世界中の演奏家と語り合った大著

第3位『ジ・オフィシャル・クレイジーキャッツ・グラフィティ
エディシオン・トレヴィル 3800円
「若き日のハナ肇は高柳昌行とジャズを志した。『俺はコミックをやる。お前はシリアスをやれ』と言ったそう」

第4位『ことばと国家
田中克彦著 岩波新書 760円
「言葉には上下も、正しいも間違いもない。田中言語学は音楽に当てはめても面白い」

第5位『剣客商売
池波正太郎著 新潮文庫 590円
「秋山小兵衛の活躍に夢中に。一気に読んでしまう僕にとって最高のエンタメ本」

第6位『ねぼけ人生
水木しげる著 ちくま文庫 580円
「鬼太郎」を生んだ妖怪漫画家の波乱の半生が、愉快にときに哀切を込めて描かれる

第7位『日本フリージャズ史
副島輝人著 青土社 2800円
日本だけでなく世界中のフリージャズ・シーンを追いかけた評論家が残した金字塔

第8位『戦争が遺したもの
鶴見俊輔・上野千鶴子・小熊英二著 新曜社 2800円
「鶴見さんはインテリだけどどこか不良。軍国主義に染まらなかった戦中派の魅力」

第9位『音楽をひらく アート・ケア・文化のトリロジー
中村美亜著 水声社 3000円
ジェンダー論で知られる著者が、実践としての音楽論をまとめた。「一推し本です」

第10位『殺人犯はそこにいる
清水潔著 新潮文庫 750円
「ジャーナリズムの本として体を張った取材力に驚くが、読み物としても抜群に面白い

『週刊現代』2017年8月12日号より

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