中国で普及する「人間バーコードバトラー」の深い闇

中国で普及する「人間バーコードバトラー」の深い闇

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/09/16
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生身の人間でバーコードバトラー?

1990年代前半に流行した「バーコードバトラー」を覚えている人はいるだろうか。市販商品のバーコードを読み取って生命力(HP)や攻撃力(ST)などのデータを生成し、友達同士でバトルできるユニークなおもちゃだ。当時は「ノートvsワープロ」「電池vsおにぎり」といったCMのキャッチフレーズ通り、身近なものを数値化して強さを競うおもしろさが、私を含めた平成初期の小学生男子の間で大いにウケたものであった。

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世代によっては懐かしのおもちゃ。ノートやおにぎりなど身近な商品のバーコードを読み取ってバトルするゲームだった。amazonではいまでもそこそこの値段で中古品が売られている

実は現代中国の社会においては、生身の人間を使ってこれと同様のバトルができるのだ。ここで「戦闘力」の基準となるのは、芝麻信用(セサミ・クレジット)の信用ポイントだ。

これは中国最大手IT企業・アリババの系列企業が提供しているサービスで、社会における個人や企業の「信用」をポイント化して可視化できるようにしたシステムである。詳しくは、以下に引用する記事とリンク先の説明をご覧いただきたい。

”芝麻信用(セサミ・クレジット)とは、アントフィナンシャル社旗下の第三者信用調査機関が提供する個人と企業の信用状況を示す指数だ。2015年から始まった、まだ新しいサービスである”

”このスコアはどのように算出されるのか? ネットショッピングや振り込み、決済などのアリババグループのエコシステムに関する取引記録と政府のオープンデータベースの2種類がある。後者については学歴や公共料金支払い記録に加え、「失信被執行人リスト」というデータベースも含まれる”

“「失信被執行人リスト」、通称「老頼リスト」(踏み倒し者リスト)とは、契約を履行しなかった不誠実者を公開するデータベースだ。(中略)契約を守らず金を支払わない、裁判で負けても判決を遵守しない、そうした踏み倒し行為を念頭に置いた制度だ”
(高口康太「「信用の可視化」で中国社会から不正が消える!?」『WEDGE Infinity』http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10557

かいつまんで言えば、延滞や踏み倒しなくきっちりとお金を払って消費し、社会のルールを守って(裁判所の命令を守るなども含まれる)、品行方正に生きている人ほど高いポイントがつくわけである。

日本でもクレジットカード会社などが信用情報の査定をおこなっているが、中国のセサミの場合は対象とする消費がアリババ社の電子マネー・支付宝(アリペイ)を基準としたうえで、消費やビジネスと直接関係がない平素のマナーや交友関係なども評価に含む点が大きく異なる。

中国国家としても国民管理の視点から好都合であるため、目下政府も積極的に協力してこの手のサービスの普及を推し進めている。日本人の感覚では、自分の社会性が点数化され、サイフを握る大企業(アリババ)と政府に常に把握され続けるのはよい気持ちがしないと思うが、中国では特に気にせずに受け入れられている模様である。

個人情報保護やプライバシーの意識がそれほど強くない文化的背景もあって、SNSなどで自分のポイントを公開・シェアする中国人も多く、むしろオープンに親しまれるサービスとなっている。

信用バトラーズ6人の中国人格付けチェック

セサミのスコアは最低が350点で、最高が950点。公式のアナウンスによると、350~549点が「やや劣る」、550~599点が「中程度」、600~649点が「良好」、650~699点が「優秀」、700点以上が「極めて優秀」となっている。

そこで気になるのが、実際はどんな人の点数が高いのか。また、明らかに社会的に信用がなさそうな人の点数は何点なのかという具体的な話だ。そこで本記事では、私が中国人の友人たちに片っ端から信用ポイントを尋ねまくった結果を紹介してみることにしたい。

プライバシーに配慮して、以下に紹介する信用バトラーたちのプロフィールには多少のアレンジを加えたことを先に断っておく。また、取材対象にしたのは私と年齢が近い人(20~30代)が多く、地域も広東省に偏っているため、以下の事例は中国人(支付宝の利用者)全体の傾向を反映するわけではない。

とはいえ、それでも見えてくるものはある。驚きの結果をご覧いただきたい。

【信用バトラー1号 国有企業さん】
[年齢・性別・学歴]30代前半 女性 大卒
[出身地・住所]広東省汕尾市出身、深セン市在住
[職業]国有企業社員
[プロフィール]広東省の経済特区、深セン市出身の都市戸籍を保有。大学時代に1年間の日本留学経験あり。学生時代は0.5元の市バスに乗って3元のぶっかけ飯を食べていたが、いまや深センの大企業のホワイトカラーとして、休暇のたびに家族で日本や東南アジアに旅行に行くぐらいの暮らしの余裕がある。

ちなみに彼女は会社の書類の翻訳チェックのため、日本語が末期的に壊滅したパワポのデータを私によく送ってくるのだが、この会社はまともな通訳を雇ったほうがいいのではないか。

信用ポイント:715「極めて優秀」

【信用バトラー2号 板前くん】
[年齢・性別・学歴]40代前半 男性 高卒
[出身地・住所]吉林省出身(朝鮮族)、広東省東莞市在住
[職業]料理人、日本料理店経営
[プロフィール]吉林省出身の朝鮮族。料理人として腕がよく、日本で居酒屋で働き修行してから広東省東莞市の工場地帯で日本料理店をオープン。チェーン展開などはしていない小規模かつ誠実な家族経営。カツ丼と親子丼が、日本国内に店があっても通いたいと思えるレベルの美味しさである。

信用ポイント:754「極めて優秀」

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【信用バトラー3号 ネトゲ廃人くん】
[年齢・性別・学歴]30代前半 男性 中卒
[出身地・住所]湖南省の農村出身、広東省深セン市郊外在住
[職業]ネトゲ廃人、短期労働者
[プロフィール]広東省深セン市郊外の龍華地区にあるネトゲ廃人村「三和」(http://bunshun.jp/articles/-/2681)の住民。朝から晩まで住所不定でネトゲ漬けの暮らしを送り、いよいよお金がなくなると近所のスマホ工場で短期労働を繰り返すサイバー・ルンペンプロレタリアートである。ネトゲ課金とネット博打による借金は数万元以上に膨れ上がっている。

信用ポイント:580「中程度」

【信用バトラー4号 銀行さん】
[年齢・性別]30代前半 女性 大卒
[出身地・住所]ともに広東省深セン市
[職業]銀行員
[プロフィール]広東省の経済特区、深セン市出身で現地の都市戸籍を保有。海外留学経験はないが英語は喋れる。一族の多くが中国の大手国有銀行グループに勤務しており、本人も大学卒業後にそのまま就職。ブランド品が大好きな浪費家で、月の給料はその月のうちに自分だけで全額使う。休暇のたびに家族でニュージーランドや日本へ遊びに行く。「さすがに節約しなきゃヤバいわー。あ、でもiPhoneXは超ほしいわー」というのが最近の連絡内容。

信用ポイント:723「極めて優秀」

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【信用バトラー5号 売れないモデルさん】
[年齢・性別・学歴]20代前半 女性 中卒
[出身地・住所]四川省出身、広東省深セン市郊外在住
[職業]モデル、服屋のバイト
[プロフィール]四川省の地方都市出身。一族が国民党の人だったため、人民共和国の建国後に政治迫害を受けたこともあって実家が貧しいらしいのだが、美貌を活かして人生の一発逆転を賭けるべく深セン市にやってきた。現在の職業は自称モデル(チラシの下着モデルなどが多い)、ただし主たる収入源は「三和」の近所にある服屋のバイトで、目下の目標は自宅の扇風機をクーラーに買い換えること。

以前に大きな借金を作ったときに、闇のブローカーから香港の141ガール(=「ちょんの間」嬢)のスカウトを受けたが、ちょっと悩んでから断ったらしい。

信用ポイント:675「優秀」

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【信用バトラー6号 不動産マダムさん】
[年齢・性別・学歴]30代後半 女性 大卒
[出身地・住所]ともに広東省深セン市
[職業]経営者(不動産)
[プロフィール]中国一の金持ち都市・深センで親の代から不動産業ほか手広くビジネスを営む、改革開放政策の勝ち組ファミリーにして敏腕経営者かつ中国共産党員。そこそこ以上に金持ちなはずの「国有企業さん」や「銀行さん」よりも2回りくらいリッチで、数カ月に1回くらい家族4人でニュージーランドとかドバイとかスイスとかに行っている。

前回の来日は2年前。例によって家族で苗場にスキーに行って温泉に入って都内でもんじゃを食べて帰った。今回の信用バトルロワイアルの優勝候補ナンバーワン。

信用ポイント:730「極めて優秀」

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板前が不動産バブルマダムに勝利

いかがだろうか。意外なことに、客観的に見ればどう考えても社会的信用が高いと思われる不動産会社のマダム社長や大手国有銀行のファミリーよりも、家族経営の料理店のおっさんのほうが信用ポイントが高いという謎の結果が出たのである。

また、借金歴があって香港の夜の街のブローカーからスカウトを受けた貧困女子が675点で「優秀」、住所不定・職業不安定かつ現在進行形で借金を背負っているネトゲ廃人でも580点で「中程度」と、思ったよりもかなり信用評価が高い。これについて、ネトゲ廃人のコメントを紹介しておこう。

「三和にいる人間(=短期労働者)は基本的に600点は越えねえな。だから支付宝のローンはあまり多額を借りられないんだ。700点超えのやつらは、30万元までならローンを組めるらしいんだけどな。いいよな」

「事実上、信用ポイントの最低点数は550点だぜ。それ以下のスコアは取るほうが難しくて、カネを借りて踏み倒しまくらないと無理だ。ただ、550点を取るようなやつは、ここから1点、1点をあげていくのがめちゃくちゃキツくなる。ほんと、点数が上がるのが遅くて嫌になっちまうよ」

どうやら、公式には350~950点の幅があるとアナウンスされているセサミの信用ポイントは、実際は550~800点くらいの間でだけ点数評価がなされているようだ。とすると、信用評価が「中程度」とされている550~599点の本当の評価は「最悪」、「良好」(600~649点)は実際は「微妙」、「優秀」(650~699点)が「普通」くらいの評価が妥当になるだろう。

事実、中国のネット上にアップロードされた信用ポイントのスクリーンショットを見ても、多くの人が600点前半~700点前半にとどまっている。

信用ポイントの評価基準のあやふやさについても当事者の話を紹介しておきたい。今回の調査では730点で2位に甘んじた、不動産マダムさんは以下のように語る。

「セサミの信用ポイントは現時点ではそれほど完璧じゃないですね。個人の資産や、アリババがカバーしきれていないクレジットカードの決済の状況は反映されていないでしょう。経営者としても、企業なり個人なりを評価する際にセサミのポイントはそれほど信頼が置けるものではないと判断しています。私自身、支付宝は使うけれど補助的な使い方しかしていないですから、730点という数字は『ふーん』という感じなんです」

すなわち、中国では一定以上の富裕層になるほど資産の置き場所やカネの流れが複雑になる。ゆえにガリバー企業のアリババをもってしても補足しきれない情報が増え、正確な数字が出なくなるのだ。今回の人間バーコードバトラーに勝利した板前くん(754点)もこのように言う。

「これって、単に支付宝でお金をいっぱい使って、ちゃんと払っていればポイントが上がるシステムなんじゃないですかね。僕は個人事業主ですから、店の仕入れなんかでも支付宝を使うことがある。だから点数が高くなるんじゃないでしょうか?」

中国の信用ポイント制度は、少くとも現時点では意外と信用できない。もっとも、ほとんど国策によってシステムの整備が進められているだけに、信用ポイントを評価する(=国民監視情報を反映する)精度は時間が経つほどに上がっていくことになるのではないか。

14億人の全中国人民を使って、究極の人間バーコードバトラーがプレイできるようになる日も、いつかきっとやってくるはずだ。

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