「日本一選挙に強い」政治家・中村喜四郎という生き方

「日本一選挙に強い」政治家・中村喜四郎という生き方

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/11/13
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国会議員も政治記者も「今、どうしてるんだろうね」と口を揃えるのがこの元建設大臣。今回の総選挙でも楽々当選した中村喜四郎が、「無所属」で孤塁を守り続けるのは、彼なりの信念があるようだ。

議員会館で見たことがない

「国会で発言しなければ、議員としての責任を果たせないかといったら、そうではない。群れると感性が鈍る」

本誌にこう語るのは、元建設大臣の中村喜四郎代議士(68歳)だ。

ゼネコン汚職で逮捕され、自民党離党から23年が経った。連続当選を重ね、今も無所属で衆議院議員を続ける中村は、大のメディア嫌いで知られ、実像を知る者は少ない。

「廊下で見かけたことすら何年もないよ。会期中以外は永田町に出てくることはない」(議員会館で同フロアの代議士)

全国紙のベテラン政治部記者も続ける。

「謎の存在です。20年間、本会議での発言はゼロ、質問主意書もゼロ、委員会では一度発言しただけ。何も発信をしていない以上、政治家としては無価値のように思えます」

中村喜四郎は、かつて自民党旧竹下派のホープだった。山崎拓・小泉純一郎・加藤紘一による「YKK」に加わり、「NYKK」と称したグループを作っていたこともある。山崎拓が回想する。

「加藤紘一さんが(経世会の)中村さんも仲間に入れたいと言いましてね。中村さんは政治センスもよかった。細川政権の成立でも、最初に細川擁立案を言い出したのは中村さんだったはずです」

'49年生まれの中村は、日大卒業後、田中角栄の秘書を経て'76年に衆議院議員に初当選。43歳の若さで建設大臣も務めた。

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同じ竹下派にいた鈴木宗男が当時を回想する。

「一途な政治家でした。国対副委員長時代、暴れん坊・浜田幸一さんが国会運営の問題で迫ると『党の方針はこうだ!何を言うか』と毅然とした態度だった。まだ68歳の若さですか。あの事件さえなければね……」

総理候補の呼び声さえあった中村の人生を暗転させたのが、'94年のゼネコン汚職事件だった。斡旋収賄容疑で逮捕され、懲役1年6ヵ月の実刑判決を受けた。

「YKKにいた頃は明るくて開放的な人だったんですが、逆境を経て性格が変わったんじゃないか。殻に閉じこもってしまってね。自分を摘発した検察当局や、政界への反発がものすごくあったと思う」(前出・山崎)

中村は逮捕直前、自民党を離党し、以後無所属のまま当選を重ねた。刑務所に収監された時期を除き、すべての選挙を勝ち抜いた。当選14回は小沢一郎、野田毅に次ぐ衆院議員3位の記録だ。

中村が「日本一選挙に強い男」と言われるのは、徹底したドブ板戦術ゆえだ。メディア露出は一切しない、街頭ポスターも貼らない。その代わり、

「中村後援会『喜友会』は、鉄の結束力で、さながら新興宗教です」と語るのは、ある茨城県議だ。

聴衆が泣き出す演説

「今回の総選挙で、出陣式には4000人が集まった。街頭にはポスターは1枚もないのに、選挙区の家やお店に入れば、どこも中村さんのポスターだらけですよ。

喜友会は、5人単位のユニットで動きます。横の連携はゼロで、全体像を知っているのは中村さんだけ。

1ユニットが集会を開催すれば、もう一つのユニットは講演会を呼びかけ、もう一つは企業の挨拶回りを……というように、年間を通じて活動する」(前出の茨城県議)

本人の動きも凄い。7~8台のスタッフ車に挟まれながら、みずからオートバイのハンドルを握って幹線道路や農道を走り抜ける。支援者を目にすれば、対向車線沿いであろうと乗り付けて、「頑張ります」と次々に握手していく。

中村が圧倒的な支持を得るのは、そのドブ板ぶりに加え、田中角栄直伝の演説のうまさゆえだと後援会の一人は言う。

「防衛でも北朝鮮の問題でも、数字を挙げてわかりやすく話してくれます。演説は1時間から2時間は続きますが、途中で泣き出す人さえいますよ」

中村の演説は、静まりかえった中で行われる。

「こんにちは、中村喜四郎でございます」

小さな声で、ぶつぶつと話すように始まるが、

「昔は東京に出るまでに何時間かかったか?今は常磐道が開通し67分で都心に到着できるようになりました!」

細かな数字がどんどん入ってくるのが特徴。だんだん演説のボルテージは上がっていき、仕舞いには絶叫調となっていく。

「村を良くしてれたことがよくわかる。喜四郎先生に全部任せるよ」

コンサートを見に来たようなうきうきした気分で集まった支援者たちは、満足して帰って行く。別の支援者はこう語る。

「中村先生と有権者は家族。家長の中村先生が代表して国会に行ってくれるだけで安心なんです」

中村本人に問うた。

――選挙に勝つ極意は?

「初当選のときは、私は選挙区を細かく歩いて、10万軒訪ねた。後援会をつくるのは、政治家にとっていちばんの財産になると思って4年間やって勝ち抜いたんです。

基礎が大事というのはそのときに体で覚えた。今の人たちは、インターネットでホームページをやるとか、風に乗ればなんとかなると間違えて考える」

侍のような政治家

――中村さんの決起集会に並ぶ「為書き」は、各後援会のものだけですね。

「国会議員や首長、県会議員だのというのは飾らない。あえて、否定しているんです。みんなの士気を高揚させる『手作り選挙』というのが私の大切なキーワードです」

自民党で要職についていた中村は、なぜ無所属で出馬し続けるのか。

「'09年に『改革クラブ』に一時入党したのを契機に、自民党の会派に入ったこともある。

党本部も名誉復権を画策し、無所属のまま伊吹派(現・二階派)入りさせたり、森喜朗元首相が応援演説をしたりして秋波を送ったのですが、自民党茨城県連のドン・山口武平県議(当時)との長年の確執が尾を引き、復党が拒まれてきた。これが支援者の『判官贔屓』を生み、支援基盤をさらに強固にしてきた」(自民党関係者)

選挙区・茨城7区で、自民党が毎回中村に出している対抗馬は永岡桂子(今回は比例復活)だ。永岡事務所幹部は、「『西の竹下(登)、東の中村』と言われたくらい、選挙が強いからね」と言いつつ、こう悔しがるのだ。

「大臣までやった人が前科者だよ?後援会からお願いされても『私は引退します』と身を引く美学はないのか。かつて建設大臣として地元に利益をもたらした頃の友情や人情で、今も持っているんでしょう。

前科があって、仕事をしていないと言われているにもかかわらずだよ!それをも超える何かがあるんだよ!」

対立陣営をそこまでの思いにさせる中村は、ただの一匹狼ではない。過去3度の選挙で、公明党は自民の永岡ではなく、中村を推薦したのだ。

「公明党の山口那津男代表は、茨城で中村さんの中学校の後輩で頭が上がらないし、無所属候補は『比例は公明党』で呼びかけられるので都合がいい」(公明党関係者)

無所属で今は会派にも入らず、国会質問もしない――。選挙に強いとはいえ、なぜ議員を続けるのか。元代議士の米田建三はこう推測する。

「意地でしょう。プリンスとしての政治生命を絶つことになった日本国家に対する怨念と反発心が、政治家としてのエネルギーになっているのでは」

同じように逮捕経験のある元代議士の山口敏夫も同意する。

「俺にはとてもできないよ。人生のすべてを犠牲にして選挙に懸けるという執念だろうな」

中村は一貫して収賄容疑を否認した。'94年、国会会期中に逮捕されたときのことを前出の米田はよく覚えている。

「中村先生が、『国会の正面玄関で待っているから、堂々と逮捕しに来い』と啖呵を切った姿を見て、二世議員らしからぬ凄まじい人物だと思った。侍のような政治家だとね」

中村は東京地検特捜部の取り調べに完全黙秘。公判でもすべて否認し、有罪判決を受けた。

中村の兄・吉伸は言う。

「一番苦しかったのは、逮捕直前だと思います。金丸(信)さんは『お前のせいじゃない。俺がやったんだ』と言ってくれたが、それを止める勢力もあった。

刑務所を出た後、大量の中傷ビラが撒かれたなか、有権者に対して真実を話していこうという姿勢が通じた」

ある支持者はこう言う。

「先生には志と信念、正義感があるから、あの事件があっても後援会の多くは離反しなかった。中村先生の場合は、『党よりも人』なんだよ」

「見る人は見ている」

本人に「無所属で、政治活動の内容も見えづらいが」と問うと、毅然としてこう答えるのだ。

「無所属であるということは、政策でも政治姿勢でも、いっさい人に気兼ねをしなくて済みます。だから、国民の立場でいろいろものを言うし、ものを考える。

私は共謀罪採決でも反対票を投じた。節目節目で、キャリアのある政治家がどういう動きをするかというのは、見る人は見ています」

――党に入らないのは?

「私はいっさい自民党に近づかないけど、だからといって野党ともべったりしない。

国民目線で、安倍氏のやっていることは許せないといったとき、行動を起こせる人がベテラン国会議員のなかにいないといけない。

私は小沢一郎にも向かっていったし、権力を笠に着て政治を混乱させるような事態には、抵抗していく」

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――安倍政治をどう思うか?

「消費増税を延期するための解散なんて、国政選挙では絶対やっちゃいけない。中長期的なビジョンをまったく示していない。自民党も単なるテクニックで選挙に勝っているだけ。運営の仕方もとても民主的ではない」

――安倍長期政権のなかで、何をやっていく?

「安倍政権は、数はとったけど、政策では行き詰まるのでないか。安保体制も、憲法9条3項の云々という話ではなく、憲法全体を話していかないといけない」

――異論を言えない雰囲気もあるようだが。

「だんだん自分の考えを言わない習慣が、自民党のベテラン議員でも身についてしまっている。無所属で、感性を研ぎ澄ませていかないと」

安倍の大勝、そして泡と消えた野党再編のなか、無所属で孤塁を守る中村。こんな代議士が一人くらいいてもいい。

(文中敬称略)

「週刊現代」2017年11月11日号より

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