大脱走しない"ミニオン"の巧みな印象操作

大脱走しない"ミニオン"の巧みな印象操作

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2017/08/15
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3週連続第1位の快進撃を続けている『怪盗グルーのミニオン大脱走』。シリーズ4作目で過去最大のヒットになっていますが、なぜ人気が出たのでしょうか。ライターの稲田豊史さんは「ミニオン推しという配慮に満ちた『印象操作』が成功した」と分析します。みなさん「ミニオン」が主役だと勘違いしていませんか?

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(c)UNIVERSAL STUDIOS

『怪盗グルーのミニオン大脱走』

■製作国:アメリカ/配給:東宝東和/公開:2017年7月21日
■2017年8月5日~8月6日の観客動員数:第1位(興行通信社調べ)

USJにエリアも誕生した大人気キャラ

CGアニメ『怪盗グルーのミニオン大脱走』が3週連続第1位の快進撃を続けています。同作は2010年から始まった「怪盗グルー」シリーズの外伝を含む通算4作目で、過去3作の興行収入は、12億円→25億円→52.3億円と倍々ゲーム状態。今作も立ち上がりは上々で、前作を超える最終興収が見込まれています。

原作はなく、ディズニーやピクサーのようなブランド力もないスタジオの作品だった「怪盗グルー」シリーズが、なぜこれほど人気になったのでしょうか。その立役者と考えられるのが、シリーズを通じて登場する約2頭身の黄色いキャラクター「ミニオン」たちです。日本での「怪盗グルー」人気は、ほぼミニオンのキャラクター人気に支えられているといっても過言ではありません。

ミニオンたちは本シリーズの主役である怪盗グルーの手下であって、主役ではありません。そして、ひとりではなく大量にいます(「ミニオン」は種族名です)。

本作を1本も観たことがない方でも、ミニオンは見かけたことがあるでしょう。キャラクターグッズは山のように発売されていますし、さまざまな企業とタイアップして精力的に露出を増やしています。2017年4月からはユニバーサル・スタジオ・ジャパンにその名を冠したエリア「ミニオン・パーク」が登場しました。もちろん、大人気です。

ハロウィンで大量発生「ミニオンパリピ」

筆者が日本でのミニオン人気をはっきりと確認したのは、2015年10月のハロウィンでした。渋谷や六本木などの繁華街で、ミニオンのコスプレ(黄色い服、デニムのオーバーオール、目を模したゴーグル)をした若者が大量出没していたのです。それ以前、少なくとも2013年のハロウィンでも、ミニオンのコスプレをしている人はいたようですが、2015年7月公開の3作目『ミニオンズ』の大ヒットを受けて激増した、という印象です。

都心にコスプレで繰り出すという日本独特のハロウィン習慣は、パーティーやイベントが大好きなパリピ(パーティーピープルの略)の大学生たちによって、2010年頃から徐々に広がりました。流行のアーリーアダプターであるパリピの功績により、ハロウィンの市場規模は2015年に1200億円を超え、バレンタインデー市場を上回る規模になったと報じられています。

イベントとしてのハロウィンが広く一般化して以降は、参加している若者の全員がパリピというわけではありませんが、パリピ的な属性を持ち合わせた、あるいはパリピに憧れを抱いている「アッパーな祭り好きの若者たち」がハロウィンコスプレで上機嫌になっているのは、間違いありません。その彼らがミニオンを好む傾向にあることと、興収が作を追うごとにうなぎのぼりになっていった事実は、深く関係しているはずです。

パリピ的なマインドに満ちたミニオンたち

ミニオンたちは実にパリピ的なマインドに満ちた存在です。基本的にポジティブでアッパー。良い意味で能天気。すぐ歌い、すぐ騒ぐ。バカだけど裏表がなく、憎めない。ロジックは苦手(ほとんど言葉がしゃべれない)ですが感情は豊かで、喜怒哀楽を全身で表現する。直感で行動し、あまり悩まない。何より、見た目や挙動が多幸感に満ち満ちています。ハロウィンとの親和性が高いのもうなずけます。

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『怪盗グルーのミニオン大脱走』の宣伝ポスター

そもそも、「怪盗グルー」シリーズに通底する雰囲気こそが、時代が求める空気なのかもしれません。一言でいうなら「パーティー感」。スクリーンで、大量のミニオンたちが飛んだり跳ねたり踊ったりバカをやっている。「楽しそう! あの空間に参加したい!」それが若者たちを劇場に向かわせます。

「ファミリー向けのCGアニメ」は他にもたくさんありますが、「子どもたち+付き添いの大人」だけで集客が止まってしまうのか、そこに10~20代の若者が加わるかで、命運が分かれます。「怪盗グルー」シリーズは若者の支持をとりつけ、見事に後者となりました。その鍵となったのが、ミニオンというわけです。

『怪盗グルーのミニオン大脱走』の日本での宣伝展開も、当初から完全にミニオン推しでした。予告編やプロモーション映像ではミニオンたちの楽しげなミュージカルシーンが大々的に取り上げられ、囚人服を着たミニオンが尻を出している姿も印象的です。しかもタイトルには「大脱走」とありますから、ミニオンたちが集団で脱獄するアドベンチャーに違いない! と期待は高まります。

「大脱走」という邦題はかなり大げさ

ところが、いざ劇場に行ってみると、予想した内容とは少し違っていました。

たしかにミニオンたちはミュージカルを披露しますし、刑務所にも入りますが、本筋とはあまり関係ないサイドストーリーで、脱走劇自体にそれほど尺は割かれません。ストーリーの軸足は決して脱走劇にあるわけではないので、「ミニオン大脱走」という邦題はかなり大げさな印象をもちます。物語の中心は、主人公のグルーにそっくりな双子の兄の登場と、1980年代カルチャーを引きずった敵、バルタザール・ブラットの強烈なキャラクター描写および対決です。

バルタザール・ブラットの登場シーンではマイケル・ジャクソンやa-ha(アーハ)がBGMとして流れます。爆笑モノの80年代ファッション、ルービック・キューブ、ウォークマン、レオタードなど、ガジェットもいちいち80年代フィーチャーゆえ、製作側がそれで観客を笑かしにいこうとしている意図は明白。中年ブラットの悲しい過去も、ドラマ的には見どころといえるでしょう。

しかし日本の宣伝において、それらは前面には出ていません。当然です。本作の「アラフォーホイホイ」要素を打ち出して彼らを喜ばせても、子どもや若者は呼べません。子どもを呼べば自動的に同伴者の親がついてきますし、若者は友達を誘って観に行きます。デートムービーにもなりうるでしょう。しかしアラフォーはそこまで人を連れてきてくれません。集客を最大化するためには、「80年代推し」ではなく「ミニオン推し」が正解でした。

原題は「Despicable Me(卑劣な私)」

予告編やプロモーションを通じた作品の見え方コントロール、当世風に言うなら「印象操作」は映画業界の常套手段です。ゾンビ映画をヒーローアクションに勘違いさせることも、サスペンス映画をラブストーリーに偽装することも、扱いの難しいセクシャルなテーマを巧みに伏せることもできます。それらに比べれば、今作のミニオンフィーチャーなど、大した話ではないでしょう。結果的に観客が作品に満足できれば、なにも問題はないのですから。「牛肉をオーダーして馬肉が運ばれてきても、ちゃんとおいしければほとんどの客は怒らないだろう」という理屈で回っているのが、日本の映画業界です。

そもそも「怪盗グルー」は日本でつけられたオリジナルの邦題です。原題は『Despicable Me 3』、つまり「Despicable Me(卑劣な私)」シリーズの第3作。「ミニオン」の文字も「大脱走」の文字も、一切入っていません。ちなみに「卑劣な私」とは、主人公グルーのことです。

逆に、作品の本質を正直に伝えることで、客層を狭めてしまうことすらあります。良い例が、今年7月14日に公開された『カーズ/クロスロード』ではないでしょうか。同作は、海外CGアニメシリーズの3作目で公開規模は345館。海外CGアニメシリーズの4作目で公開規模359館の『怪盗グルーのミニオン大脱走』とは近いスペックです。公開日は1週間違い。いずれも「夏休みファミリー映画」という位置付けでした。

『カーズ/クロスロード』の苦い失敗

ところが、初日2日間の興収は『カーズ』が3億2000万円、『怪盗グルー』が興収5億9900万円。大きく水をあけられてしまいました。

『カーズ/クロスロード』の宣伝は、『怪盗グルーのミニオン大脱走』と違って実に「正直」でした。台頭する有望な新人を前に、加齢で実力に陰りが見えた元チャンピオンが悩む――という深刻で重い内容を、正確・誠実に伝えていたからです。日本版予告編にもそれが現れていました。

『カーズ/クロスロード』日本版予告編
https://www.youtube.com/watch?v=uuLDkDWXe1M

ただ、このようなテーマにもっとも反応するのは、それこそアラフォー以上のオヤジ。子どもたちや若者層は、そこまで心をつかまれません。

もちろん『カーズ/クロスロード』本編にも、コメディタッチのくだりやギャグはちゃんとあります。そのシーンだけを巧みにつなげば、そこまで深刻でない、愉快で楽しげな予告編を作ることもできたでしょう。それによって「愉快で楽しげな映画」を観たい子どもたちや、多幸感を求める若者客の一部を引き込めた可能性もあります。

宣伝は「事前に受け取った印象」がすべて

もちろん、予告編で幅広い客層の興味を引いたからといって映画がヒットするとは限りません。限りませんが、ほとんどの観客は映画を「事前に受け取った印象」で観に行くかどうかを判断します。

もし、(最大公約数的な意味で)時代の機運というものが――大ヒットシリーズ「パイレーツ・オブ・カリビアン」のように――「ポジティブでアッパーで、パーティー感に満ちたコンテンツ」を求めているなら、事前にその印象を予告編なり、プロモーションなりで観客に植え付けておくのは得策でしょう。作品の本質とは関係なく、単なる集客上の工夫として。

融通のきかない「正直」よりも、配慮に満ちた「印象操作」のほうが、ビジネス上好ましい結果をもたらすことだってあるのです。誤解する政治家が多いようですが、「印象操作」は必ずしも悪意を伴うものではありません。政治と同じく、「中身」だけでは勝負が決まらないのが、映画興行の妙にして奥深さではないでしょうか。

稲田豊史(いなだ・とよし)
編集者/ライター。1974年、愛知県生まれ。キネマ旬報社でDVD業界誌編集長、書籍編集者を経て2013年よりフリーランス。著書に『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)。編著に『ヤンキーマンガガイドブック』(DU BOOKS)、編集担当書籍に『押井言論 2012-2015』(押井守・著、サイゾー)など。

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