世紀のヒット商品『写ルンです』の"ルン"の意味って知ってる?

世紀のヒット商品『写ルンです』の"ルン"の意味って知ってる?

  • @DIME
  • 更新日:2017/09/17

化粧品『アスタリフト』のヒットなどで絶好調の富士フイルム。だが、その源を築いた、この商品、お忘れではありませんか――?

■フィルムからデジタルへ急変した写真の世界、『写ルンです』はどう変化したか?

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86年に発売された『写ルンです』初号機。まだフラッシュは付いておらず、シルエットは角張っている。ちなみに「使い捨てカメラ」ではなく、「レンズ付きフィルム」が正式なジャンル名。なぜなら部品は捨てられず、リサイクルされるから。

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上から高感度ISO1600フィルム・高速シャッターを搭載した『写ルンです1600 Hi・Speed』、防水タイプの『水に強い写ルンです New Waterproof』、スタンダード。

◎イメージング事業以外でのNo.1を! これからの成長戦略

フィルムをカリカリッ……と巻き、プラスチック製のボタンを押すと、バネ式のシャッターが〝パシャン!〟と小気味よく開く――。『写ルンです』を見ると、友人の笑顔や、観光地の景色を思い出す方も多いのではないか。

『写ルンです』の発売は86年、今年で30周年を迎える。開発会議の時、担当者が上司に「本当に写るのか?」と聞かれ、とっさに返した言葉が商品名になった。今や死語の感もある〝ルンルン気分〟という流行語から「ルン」だけ片仮名にした、などの秘話を持つ。

技術的な深みもあった。話すのは、長くフィルムを研究し、現在、医薬品、化粧品事業を率いる石川隆利常務取締役だ。

「70年代にフィルムを大きめのプラスチックカートリッジに収納した『110(ワンテン)フィルム』という規格が普及し始めました。これを受け弊社は『カートリッジにレンズを付ければ写真が撮れるのでは?』と考えましたが、この時は商品化できませんでした。フィルムの性能が追いつかず、画像は暗めで引き伸ばすと粗かったのです。しかしその後、フィルムの研究が進み『今なら実現可能だ!』と発売したのが『写ルンです』でした」

実は当時の先端技術の賜物だったのだ。フィルムには、光に反応する素材などが、約20マイクロメートルという薄さの中に20層、均一に塗布されている。同社は、素材を化学合成し、一部はナノ単位の粒に整え、コラーゲンに混ぜ込んで塗布する……といった技術を長く磨き続けてきた。だからこそ『写ルンです』を完成させることができたのだ。

90年代、『写ルンです』は写真のあり方を変えた。それまでは記念日に撮るものだったが、同商品の普及により撮影は日常の出来事に変わった。当然、売り上げは絶好調。『写ルンです』は同社に大きな利益をもたらし続ける定番商品になった。

ところが、同商品は間もなく時代の変化に巻き込まれていく。

◎連日、社運を賭けた会議が行なわれていた

『写ルンです』が売れに売れていた頃、デジタルカメラの技術が進化しつつあったのだ。このままでは、フィルムがなくなる――。そこで同社は対策をとった。まず、フィルムの技術をデジタルが簡単に追いつけないまでに高め、同時にデジカメを自社開発した。これに加え、新たなコア事業を探し始めたのだ。そして、世界の写真フィルムの需要がピークを迎えた00年に社長へ就任した古森重隆現会長は、同社の今後を占う鍵となった作業を行なった。石川氏が話す。

「〝持っている技術の棚卸し〟をしたのです。フィルムで培った特殊な技術の中で、世の中にないものは何か。富士フイルムが世界的規模で強い技術は何か。さらには、それで何がつくれるのかを議論し続けました」

当時、古森氏には連日のように、全社から膨大なデータが届いていたという。そして連日、社の今後を決める重要な会議が入っていたそうだ。

そんな作業を通し、首脳は注力すべき分野を絞った。そのひとつが、液晶パネルの生産に欠かせないタックフィルムの製造だ。透明性の高さと優れた光学特性を必要とするため、まさに同社が突出した技術を持つ分野だった。また、当時はプラズマテレビなど様々な表示デバイスが競合していたが、古森氏はデータを収集し「コスト面の優位性をもとに液晶が普及する」と読んだ。そこで同社は05年、『写ルンです』のヒットなどで得た事業資金を千数百億円規模で投入し、熊本にタックフィルムを生産する「富士フイルム九州」を設立。社運を賭けた決断だった。

しかも、これだけではなかった。周囲が「(会議の)アウトプットはそこですか!?」と驚いた逸話すらある医薬・化粧品事業への進出だった。

ただし、技術的な裏付けはあった。石川氏が話す。

「例えば、写真の色あせの原因になる『酸化』は、体の老化の原因とも深く関わっています。我々のコア技術のひとつだった抗酸化技術が役立つのです。ほか、酸化に対しては『アスタキサンチン』という天然成分が有用なのですが、水に溶けず、化粧品には使いにくいものでした。しかし当社のナノテクノロジーを使えば、細かい粒にし、肌への高い浸透性を実現できます。もちろん、コラーゲンの技術も活かせます」

石川氏は医薬品の事業分野でも同様だったと話す。

「フィルムの素材を化学合成してきた技術が生きる分野です。また、ナノ技術も生きます。実際に今、ガンが栄養を取り込む部分をふさぐ医薬品も研究しています」

しかし簡単に本業が転換できるわけもない。化粧品のマーケティングを担当する武田靖子氏が話す。

「弊社は〝新参者〟です。例えば化粧品のマーケティングでは、『富士フイルム』という社名を出すかどうかが大きな議論になりました。社員や外部のアドバイザーから『〝富士フイルムの化粧品〟ではユーザーが戸惑う』という意見が多数出てきたのです」

だが武田氏らは熟考する。仮に子会社をつくり、知名度が低いその会社の名で、営業がバイヤーを訪ねたとしよう。会ってさえもらえないかもしれない。だが、富士フイルムの名があれば、フィルムで築いたブランド名もあって「なぜ化粧品に?」と聞いてもらえる。するとナノ 技術などの説明ができる――。そんな経緯で同社は化粧品『アスタリフト』の製品パッケージやポスター、CMに、堂々「フイルム」の文字がある社名を出すと決めた。

一方、同時期に『写ルンです』やフィルムの市場は同社の予想を超える速さで縮小していった。02年頃から毎年20~30%もの落ち込みを記録したのだ。だが、古森氏はこう宣言した。広報の高林由希子氏が話す。

「富士フイルムは、写真文化を守り、さらなる発展を目指す、と内外に伝えたのです」

そう、彼らはこの後、進出したすべての業種で目覚ましい業績を挙げ、07年には過去最高の連結売上高、約2兆8468億円をたたき出す。だが同社は、この快進撃が、写真フィルムの技術をもとに成り立っていることも意識していたのだ。

今後、時代の移り変わりによって、様々な企業が業態転換を迫られるだろう。そんな時、過去の事業はどうすべきなのか。その答えがここにある。会社の本当の資産は、技術力、ブランド力だ。これが次の事業を生む。ゆえに、これを簡単にたたんではならない――。

こうして世紀の名機『写ルンです』の生産は続いた。

●化粧品『ASTALIFT(アスタリフト)』シリーズ

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アスタキサンチン配合の『JELLY AQUARYSTA』など、現在、21品目・29商品を発売。「ブランドカラーの赤は、当時化粧品のパッケージでは珍しい色でした」(武田氏)

◆カラーフィルムの世界総需要推移

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石川氏いわく、80年代後半は「部屋の中でストロボを使わず顔を撮影できるのはフィルムかデジタルか」と議論されていた。だが、デジタルの性能が向上し、フィルムの需要は左図のように落ち込んだ。

◎写真には「見せ合う」楽しみがあるはずだ

では『写ルンです』の現在はどのようなものか。写真製品の品質保証を担当する河岡芳樹氏が話す。

「デジカメは画像をシャープに加工してくれます。逆に言えばアナログは、独特の柔らかさを持った写真が撮れるのです。だから、あえて『写ルンです』での撮影を好む愛好家の方たちがいらっしゃるのです。さらには水中で撮影する際に、高価なデジカメに万一のことがあったらいけない、と防水タイプの『写ルンです』を使っていただくケースもありますね」

同社は「写真はプリントしてこそ生きる場面がある」とも考えているようだ。現在、写真事業のマーケティングを担う種田進氏が話す。

「撮影した写真をフォトブックにしたり、カレンダーにしたり、といったプレゼントは、例えば夫婦や遠方にいる家族への贈り物として非常に喜ばれています。今も世界には約8000億円ものプリンティングの市場があります。実はスマホの普及により、写真撮影の機会自体は爆発的に増えているのです」

そんな要素もあってか、インスタントカメラ『チェキ』は、デジタル全盛の今も大いに売れ続けている。

「実は社内でも、送別会などの時に『チェキ』で撮影し、皆でメッセージを書き込むことが多いんです。写真にはそんな『見せ合う楽しみ』があるのでしょう」(種田氏)

こんな愛情深い社員に見つめられ、富士「フイルム」の『写ルンです』は30年目を迎えた。

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富士フイルム株式会社

取締役常務執行役員

石川隆利さん

長くフィルムの研究畑を歩み、現在は医薬品、化粧品事業を管掌する。

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株式会社富士フイルム

ヘルスケア ラボラトリー

マネージャー

武田靖子さん

化粧品ブランドマネジメント担当。アスタリフト立ち上げから関わる。

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富士フイルム株式会社

コーポレートコミュニケーション部 マネージャー

高林由希子さん

広報担当として、会社が激変するさまをつぶさに見てきた。

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(左)富士フイルム株式会社

イメージング事業部

統括マネージャー

種田 進さん

プリント商材や、ヒット商品『チェキ』の拡販に努める。

(右)富士フイルム株式会社
イメージング事業部
統括マネージャー
河岡芳樹さん

写真の部門を盛り上げるべく、品質の向上に取り組む。

〈プリントサービスの拡大を目指す〉

富士フイルムのフォトブック。写真が多すぎて選べない……という場合は、自動で写真を選び、レイアウトまでしてくれる『イヤーアルバム』サービスも選べる。「最短5分で作成ができるんですよ」(河岡氏)

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贈り物に喜ばれており「お孫さんの写真を一日中眺めているお年寄りもいます」(種田氏)とか。

■技術開発への投資

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06年、神奈川県足柄上郡に設立された、富士フイルム先進研究所。新規事業や新製品の基盤となる技術開発を行なう。異分野の技術者と出会える「ナレッジカフェ」を設ける工夫も。

■B to Bでビジネスを広げる

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研究機関などのパートナーに同社の技術力を紹介する「オープンイノベーションハブ」。ざっくばらんなコミュニケーションから協業が生まれることが多く、本社内に開設された。

■フィルムの文化を受け継ぐ『チェキ』

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インスタントカメラ『チェキ instax mini 70』。セルフィーモードを使用すると、自撮りに最適な明るさと撮影距離に設定され、レンズ横のミラーで写る範囲を確認できる。背景もバッチリ写る「背景きれいフラッシュ」などの工夫も。

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文/編集部

※記事内のデータ等については取材時のものです。

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