iPhone 11の感想文を読み漁って、Appleの今後のメディア戦略を考察してみた

iPhone 11の感想文を読み漁って、Appleの今後のメディア戦略を考察してみた

  • マイナビニュース
  • 更新日:2019/11/23
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iPhone 11を使いはじめて1カ月ちょっと経つ。幸い、巷間で取り沙汰された、データ通信が途切れるだとか、カメラアプリを起動すると画面が真っ暗になる問題もなく快適に利用できている。

「Pro」シリーズに限って言えば、前モデルに相当する「iPhone XS/XS MAX」から各種性能、機能が向上、改善が図られているのにも関わらず、プライスダウンとなっている。無印モデルを「iPhpne XR」の後継モデルと位置付けて良いものかどうか判断つきかねるが、そうだと仮定した場合でも「Pro」シリーズと同じく価格が下がった格好である。

発売当初、次世代通信規格の「5G」に対応してないだとか、カメラ以外、特に目立った改良点はないといった記事をいくつか目にしたが、毎年買い替えてる人にはあまり関係のない話ではあるなと感じた。毎年買い替えてる人以外では、「iPhone 7」シリーズ以前の機種を使ってる人の替え時モデルかなとも思った。

筆者のSNSのアカウントでは「『Pro』って、何が『Pro』なの?」と質問が寄せられたが、「知るかよ、テレアポとか『電話』のプロ向けってことじゃないの? あとは、受話器を早く引き上げた客が相手と通話できるシステムを採用してる店で、素早く電話をとれる人向けとか」といい加減な返答をしておいた。なぜなら、「Pro」の称号に意味はないからだ。

昨年、筆者は「iPhone XR」の先行レビューで「iPhone XRの『R』は『Represent(代表する)』の『R』である」と書き、記事の掲載直前だったか直後だったかに、Appleから「iPhone XRの『R』に特に意味はない」と声明が出て、酷い恥をかく羽目になった。論理学者であるソール・クリプキの言葉を借りれば、固有名には意味がない、固定指示子の一種に過ぎないのである。よって、iPhone 11 Proにも意味はない。

さて、本稿だが、ここまでで早くも書くことがなくなってしまった。もちろんアップデートされた点をピックアップして紹介していっても良いのだが、多分、発売日に弊誌や他媒体で掲載された感想文と殆ど同じになってしまうだろう。そんな何処を切っても同じの飴細工のような(←登録商標なので使えない)文言が出て来る感想文を認めても、である。苦し紛れにクリプキの名前を出して『名指しと必然性』での議論の一部を拾い字数稼ぎするも、もう限界だ。

筆者の場合、何文字書いても原稿料は「実質0円」なので、ここで終わりにしても良いのだけれど、全く別な話題に切り替えて続けることにする。ここからは最近のAppleのメディア戦略の話だ。主にテキストベースの媒体について考察を進める(しかし、本文と関係なく写真とキャプションでiPhone 11の紹介は続ける)。

今年の3月、Appleは「It's show time」と銘打ったイベントを実施。「Apple News+」「Apple Arcade」「Apple TV+」など、サブスクリプションを中心に新サービス提供の発表会となった。

このイベントにはいつものテック系のジャーナリスト/編集者に加え、ごく一部のファッション誌、映画誌の人たちも招待されたようである。

テック系の人たちは前述のiPhone 11感想文と同様、どこ切っても同じような中味で、読むべきものがなかった。登壇した人物の中で、オプラ・ウィンフリーに言及あったのはYoichi Yamashita氏だけで、オプラの人物像まで解説したのは映画媒体でも少なかったと記憶している。

正直、それでいいのかApple、と、ちょっとだけ憤ったのだが、落ち着いて検討してみると、それで良いのだとなった。

映画の世界ではジャンケットやセットヴィジット、ロングリードといった形で批評家やプレスの人間を招待する。が、発言力ある批評家を招集するにしても、比較的マイルドな語り口の人に声がかかるケースが多い。歯に衣着せぬタイプの批評家を呼んで、激しく酷評されたり悪評が掲載されると興収に影響が出ると考えているからだ。

It's show timeに呼ばれた日本の映画媒体の人も恐らく物腰柔らかな人たちだったと思われる。記事が掲載された某媒体には舌鋒鋭い編集者が在籍しているのを知っているが、忖度したか、違う人を送り込んだかどちらかだろう。

シネフィルにウケる批評家の多くは、Apple(のみならず、多くのテック系企業)と敵対するスタンスをとっていることが多い。Appleがいくら「Google、Amazon、Facebookとは違う」とアピールしても、「いや、GAFAでしょ。何故なら……」と切り返すボキャブラリーを持っている。

そのような批評家を、言い方は悪いが籠絡するのは難しいし、接触するのもリスクがある。ならば飼いならしやすいタイプを囲っておいたほうが楽という判断になるはずだ。

つまり、Appleには批評家は必要ないということになる。「この映画最高ですっ!」と衒いもなく感想を述べられる人物のほうが都合が良いのだ。それはITジャーナリスト/編集者に批評性が求められないのと同じである。「iPhoneで撮った写真は綺麗」など感想を書き連ねればそれでOKなのと一緒で。

また、影響力という点から見ても、シネフィル自体、人口が少ないので、高名な批評家を起用するメリットはマーケットに対して小さくなる。それより、SNSでフォロワーが多いとかTVやラジオの出演が多いといった基準を持ち込んだ方が効果的というところに着地するに決まってる。

ここまでApple TV+について論じたが、Apple Booksでも変わりない。Apple Booksに於いても独占配信の作品が存在しているが、それらが文芸評論家に高く評価されるかどうかというと話は別で(と言うか、高く評価される作品はほぼないと思われる)、こちらも市場に対して訴求力のある作家に執筆を依頼しているのではなかろうか。文芸評論家も映画批評家と似たような思想的バックボーンを持っているので、自ずとApple(のみならず、多くのテック系企業)と敵対する関係となる。

日本に限って言えば、批評家と相性が良いのはApple Musicである。何故なら「印象批評」という名の感想文が長く幅を利かせていたからだ。そのことを踏まえると、音楽誌の編集者/ライターからApple Musicのキュレーターになった人が何人もいるのは不思議ではない。ただし、批評と言ってもポップミュージックの世界だけの話ではあるが(現代音楽などではまともな批評が機能している。もちろん敵対関係に……以下同)。

簡素だがインパクトある感想のほうが批評より威光を放つのはSNS時代ならではである。政治学者のジョディ・ディーンが指摘するよう、象徴効果が衰退、あるいは縮減していく中では、言語活動を通じた共通の意味作用が次第に失われていく。そこでは何が言われているかより、何かが言われているというパフォーマティブな次元での多数性が眼目となり、何がより大きなインパクトを与えられるかが力点となる。

となれば、本稿のような長いテキストを読まされるより、写真や動画のほうが、ただ共有するだけなら効率的になる。ここでは象徴性から想像的なものへの転回が見て取れる。そうなってくると、もはや感想文すら必要なくなるので、影響力を誇示するのは、テキストベースに活動するITジャーナリストではなく、インスタグラマーやユーチューバーということになっていくだろう。であるので、批評を必要としないテックジャイアントはテキスト自体を必要としなくなる可能性が出てくるのである(「感想」のようなものも理解される必要はなくなり、ただ交換される何かの循環プロセスの中に組み込まれるだけとなる)。

将来的に要らなくなるであろう「感想家」は「ふるえて眠れ」という話になるのだが、Appleがその路線に邁進していくかどうかは分からない。これは、もうiPhone頼りで収益上げるの無理だから、コンテンツプロバイダー的な役割も兼ねた包括的な製品/サービスを提供しようって流れと直接の関係はない。それより、ディーンの言う「コミュニケーション資本主義」の世界の到来のほうが問題なのである。Google、Amazon、Facebookについては、よっぽどな心変わりがなければ、その世界に間違いなく乗っかる(と言うか、その世界を築くのをリードしてきた)が、果たしてAppleは?というところである。

筆者は、発売から暫く方向性が定まらなかったApple Watchが置かれた状況と似ているなと感じた。当初、ファッション路線で行こうとしたら、思ったよりも苦戦して、どちらかというと健康グッズとしての評価が高いから、やっぱりそっちに舵とろう、でも、ファッショニスタも捨てずにね、としたあの展開と。感想家を生かすか殺すかは、趨勢見守って決められるであろう。インスタグラマーやユーチューバーのほうが誘引力あるならそっち使って、象徴効果の回復を狙う勢力が強くなるなら、テキストベースの情報も有効利用しようとするのが妥当な線だ。

どっちに転ぶか分からないとは言っても、メディア戦略も旧来型、およびその延長線上にある媒体でなく、ソーシャルメディアに注力するのが当然となった今、Appleもテック系のジャーナリスト/編集者も情勢に合わせた変化を余儀なくされている。今後のことを考えるなら、感想家は写真教室に通ったり、動画編集の機材を買い漁るのが、吉、なのかもしれない。

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