インドのシリコンバレー、バンガロールが本家シリコンバレーを超える日

インドのシリコンバレー、バンガロールが本家シリコンバレーを超える日

  • @DIME
  • 更新日:2019/06/25

躍進するインドとどうつきあうか

2012年に日立製作所が初めて海外で取締役会を開催した国は、アメリカでも英国でもなく、インドだ。それに先駆けて2011年、技術開発、新事業の創出、現地企業や大学との連携のために「日立インドR&Dセンタ」をインド第3の都市バンガロール(現在正式名はベンガルール)に開設していた。日立のように海外企業がインド国内に持つ1257研究所のうち、37%がバンガロールに集中している。インド南部にあるこの都市には、いったいどんな魅力があるのだろうか。

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南インドで最も背の高い「ワールドトレードエンタービル」には、多くの多国籍企業やテック企業がオフィスを構える。

インドの頭脳と世界からの投資が集まる「アジアのシリコンバレー」

バンガロールには、オラクル、シスコ、インテル、またアップルなどのシリコンバレー発のテクノロジー企業のインド支社の他、海外からインドに進出している多国籍企業の約75%がオフィスを構えている。ITスタートアップ企業の創業数は世界第3位の都市で、さらにユニコーン企業(評価額10億ドル=約1000億円のスタートアップ企業)は、2013年以来7社創出されている。ソフトバンクも投資しているオンライン教育のバイジューズ、 インド版ウーバーのオラ、フードデリバリーのスィギー等で、2019年にはさらに2社のユニコーン誕生が期待されている。

バンガロールでは、1969年にインドのNASAにあたるISRO(インド宇宙研究機関)が置かれ、民間の航空産業や重工業の発展に寄与した。インドのIT産業の黎明期の1980年代前半に、現在のITソフトウェア最大手3社のうちウィプロとインフォシスの2社が創業され、同時期に発効されたソフトウェア事業を海外展開しやすくする法律も後押しとなり、バンガロールでIT産業が萌芽した経緯がある。さらに、2008年に新空港がオープンして人の往来もより盛んになった。

そして、インドで最難関の工科大学をはじめとした大学と企業が連携し、政府やインドIT協会がスタートアップ企業をサポートするインキュベーション施設を作り、投資しやすく人材が集まりやすい環境が作られてきた。技術系の企業だけでなく多業種の外資系企業が研究所を開設し、スタートアップが次々とアイデアを形にして市場で頭角を現し始めた。

このようにインドの優秀な人材と巨大市場を確保し、事業に必要なテクノロジーを中心に研究開発を行い世界展開する拠点として、バンガロールは重宝されている。その一つの例が、2018年に米国本社の巨大企業にバンガロール本社のスタートアップ企業、フリップカートが買収されたことだ。

バンガロール発、インドの頭脳が世界最大の小売企業を支える

今年2月にバンガロールで開催された、「Future of Work」というインドの若手エンジニア向けのカンファレンスに参加した。IT企業のトップ、CTOたちが参加者にテクノロジーの最新の動向を共有し、ビジネスのスケールアップや将来必要なスキルをワークショップで教える学びの場だ。多くの関心を集めていたのが、2007年にバンガロールで創業されたオンライン小売のスタートアップ、フリップカート社CTOのラビ・ガリキパティ氏の講演だ。

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ラビ・ガリキパティ氏(フリップカートCTO / 取材当時):インドで生まれ教育を受けた彼は、IBM、オラクルやスタートアップで活躍し、IT業界で30年間の経歴を持つシリコンバレーでもベテランだ。

彼は2015年に米国から帰国し、フリップカート社でオンライン小売のビッグデータとクラウドを使うビジネス基盤を作り上げ、同社の信頼と業績に多大な貢献をした。今回のカンファレンスでは「AI(人工知能)を使った企業のトランスフォーメーション」として、フリップカートでの経験も共有し具体的できめ細やかなアドバイスで聴衆を魅了していた。AIを何事にも優先して考える「AIファースト」の企業文化、クラウド、ハードウェア、学術論文の重要性を丁寧に説明した。Eコマースのスタートアップからテクノロジー企業に進化し、AIを活用する将来への取り組み準備が整った同社の先進性と自信がうかがわれた。彼は職場で1200人のエンジニアを率いており、会場では若いエンジニアたちの心をつかみ、安心感がある和んだ雰囲気が漂っていた。

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「Future of Works」2019年2月の会場(写真提供YourStory Media

2017年、同社のアプリはインドのEコマースでは初めて1億ダウンロードを達成した。2018年、フリップカートはさらに躍進を続け、世界最大の小売企業ウォルマートに160億ドル(約1兆7500億円)の巨額で買収された。インドの頭脳と経験が地元のスタートアップを支え、グローバル企業の手で世界展開するという好例だ。

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フリップカートのホームページはシンプルに商品が並んでいる。

一方、ウォルマートは日立が研究所を設立したのと同年、2011年からバンガロールに研究所を開設している。同社の世界中のオンラインビジネスのための研究所として設立され、将来的なインドでのオンライン小売に備えてリサーチが進められていた。2000人のエンジニアが在籍し、サプライチェーン、AIやVRの研究など同社の将来に関わる小売に特化したソリューションを研究開発している。そして同社の半分以上のデータアナリティクスの担当者はバンガロールで勤務し、インドのテクノロジー企業の買収でインド人のエンジニア採用が倍々ゲームで増えていると言う(2019年2月BusinessLineより)。

米国で繰り広げられているアマゾンとウォルマートの競争は、インドでは同社が買収したフリップカートを通じて火花が散っている。同社は実店舗の一般小売店をインドに持たないが、フリップカートを通じて実店舗をオープン予定だ。バンガロールでのインドの頭脳と外資の参画が、インドそして世界を揺さぶる。

バンガロールはどこへ向かうのか

バンガロールの人口は2011年の約850万から2017年は約1235万に増え、人口密度は東京都とほぼ同じ6000人/㎢と推定されている。世界経済フォーラムによると、バンガロールは2035年までのGDP伸び率が世界で第3番目に高い都市だ。それを支えているのはIT産業だけではない。製造業の拠点でもあり、日本からはトヨタ、ホンダ(二輪)、YKK、日清などの工場があり、他企業の工場は重工業、機械、繊維、食品加工など多岐に渡る。バンガロールといえば、無機質で人工的な、あるいはインドのイメージとしてある雑然とした街を想像するかもしれないが、実際は「インドの庭園都市」と言われてきたように、緑が多く南国の自然の豊かさがある。現代美術館や様々なアートギャラリー、歴史的な建築物、1400の寺院や400の教会を擁している、約500年前に近代都市が作られた場所だ。近年ではモノづくり産業に関連して工業やグラフィックのデザインも盛んだ。

インド人に人気のクリケットスタジアム、地元ブルーワリーやワイナリー、ラグジュアリーホテル、ブルーボトルコーヒーのようなこだわりのコーヒーショップ、レクサスのショールーム等があり、にぎわうグローバルシティだ。また半導体やIT産業の発展がめざましいハイデラバード、最も人口が多い商業と金融都市ムンバイ、インド第2の取扱量の港を持つ東海岸のチェンナイなどの主要都市に囲まれて、インド南部の経済圏に貢献している。

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市街の喧騒をさえぎるかのように静かに佇む国立現代美術ギャラリー(写真提供:YourStory Media

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バンガロールの一等地にある、レクサスのブランド体験ができるショールーム「Guest Experience Center」

バンガロールのGDPは、今後16年以内に4倍になるという。インドに内在する豊富な人材と巨大市場の魅力で海外資本を惹きつける伸びしろが大きい。爆発的な人口増による交通渋滞や公害、住宅高騰、公衆衛生などのネガティブな面でさえも、それらの課題解決に資本が動いて市場の成長を支える。全ての産業に不可欠なITを強みのひとつにして、これからも躍動が続くだろう。

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旅客数が年間3300万人のケンペコウダ国際空港のターミナルの増設が、今年1月に発表された。

今年4月にフリップカートのラビCTOは同社を去り、インドの東の隣国バングラディッシュのスタートアップ企業を改革してスケールアップする仕事に挑む。このアジアのシリコンバレーのベテランが次に向かう先は、アジアだ。一方、バンガロールに研究所を持つ日立はペイメントビジネスをさらに加速するという。インドでPOS端末を85万台管理している日立の子会社が、同60万台展開するインドの政府系銀行と提携すると発表された。合計150万台近い数字は、日本のPOS端末市場とは桁が異なる。日本の製造業の淘汰が進んでいる中、自社の強みをインドで着実に開花させている。

JETROの調査によるとインドに研究所を持つ企業が最も多いのは米国で620社、5位の日本は32社だ。バンガロールを起点にインド国内やアジアはじめ世界へ繋がるチャンスは大きい。日本からバンガロールへの初めての直行便を来年夏までに就航する、とJALが発表した。思い切ってこの飛行機に乗ってみてはいかがだろう。

取材・文・写真/望月奈津子
日欧米のグローバル企業でマーケティングや広報に一貫して携わる中、10年間勤めたP&Gのインド人上司の影響で、日印の共創をミッションとするムーンリンク社を設立。インドを30回訪問して築いた信頼やビジネスネットワークと現地家庭の訪問や滞在での洞察を活かし、リサーチ、視察、研修等で企業をサポートしている。

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