水牛の脊髄ちゅるりん炒めに脊髄反射!――高野秀行のヘンな食べもの

水牛の脊髄ちゅるりん炒めに脊髄反射!――高野秀行のヘンな食べもの

  • 文春オンライン
  • 更新日:2018/02/13

※前回「ネパールにあった世界遺産級!の水牛グルメ居酒屋」より続く

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イラスト 小幡彩貴

世界遺産の中で世界遺産級に珍しくて美味な水牛料理に舌鼓を打っていた私。だが、このあとは驚愕の食材が連発した。

入店当初から、台におかれた皿に、真っ黄色の細い管がとぐろを巻くように載せられているのが気になっていた。太さ約一センチ、長さ約一メートル弱。見るからに「異形」。小腸かと思うが、そのわりにはウネウネしておらずゴムホースのように滑らかだし、だいたい中身がつまっていて管ではなかった。「一体何だ、これ?」首をひねっていると、案内役の友人ミランさんが流暢な日本語で言う。

「これ、なんて言うかな、背中を通ってるズイみたいなもの……」

え、脊髄!! 思わずピンと背筋を伸ばしてしまった。まさに脊髄反射だ。

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鮮やかな黄色が不気味な脊髄。骨の髄まで食い尽くすのがネワール族の流儀

しかし、他の動物でも脊髄を食べるなんて聞いたことがない。少なくとも私は知らない。ネワール族の言葉では「ティソ」。これはすでに茹でてターメリックで色づけしてあるという。おそらく、そのままの色だと気持ち悪いので色をつけたのだろうが、不気味さはいささかも減じていない。指でつまむと案の定、ぶよぶよしている。

美人女将のギタ姐さんはこれを包丁で一口大に切り、タマネギ、ニンニク、黒ごまのような見かけのネパール人の好むスパイス、ジュラ(キダチトウガラシ)と一緒に手際よく油炒め。ようやく料理らしくなり、一安心。食してみれば、もっちりとしたマシュマロのような歯ごたえで、ちゅるりん、ちゅるりんという喉ごしが独特。味はあまり感じない。それこそマシュマロやコンニャクのように、味よりも食感を楽しむ料理か。

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水牛の脊髄炒め

正体不明で他の動物の肉でもお目にかかったことがないという点では、次の「ツォヒ」もすごい。平たい鍋にびっちり詰まっているものを指さし、ミランさん曰く、「血です」。

「は?!」である。だって白い煮こごりなのだから。見てくれは牛乳プリンっぽい。「ミルクでしょ?」「いえ、ミルクじゃない。血です」「血じゃないでしょう」としばし押し問答。するとミランさんは自分の首筋を人差し指でたどりながら、「ここを通っている白い血」と言う。それはもしやリンパ? よく知らないが、老廃物が流れるところと聞いた憶えがある。目の前にあるものは元は液体というから、器官ではなくリンパ液か。

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水牛のリンパ液プディング(調理前)

あとでネットで調べると、無色透明な液体で白血球を運んでいるという。そればかりか、「不要になった老廃物や蛋白成分・ウイルスなど病原体を回収しながら、集合リンパ管(リンパ管)を通して心臓へ送る下水道の様な役目をする液体のこと」とも説明されていた。いいのか、「下水」を料理して食べて。日本の保健所もビックリだろう。

私の驚き顔にギタ姐さんはフフフと笑い、鍋からプリンを切り分けるように一口大に切ると、塩、唐辛子、スパイスだけでサッと炒めた。口に入れると、ぷるぷるして豆腐か寒天かプディング。ほんのりミルクっぽい。思えば、乳も血の一種だというから“類似商品”なのかもしれない。塩味のミルクプディングと言っても、知らなかったら信じてしまうだろう。誰か、女性を騙して食べさせたくなる。

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水牛のリンパ液プディング炒め

さて、リンパ炒めのあとは、外見が最高に異様な「ソンニャ・クワン」。なにしろ、大きな平たい皿に真っ赤な物質が充満している。見ただけでは固いのか柔らかいのかもわからない。

案内役のミランさん曰く、「水牛の頭を全部煮たもの」。

「全部って何?」と訊くと、「全部と言ったら全部ですよ」と彼は笑った。本当に水牛の頭をただ洗っただけでそのまま鍋に入れて煮るんだという。(以下、次号)

(高野 秀行)

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