ハリルJに新たな可能性? 乾貴士、「最低の試合」でも輝いたクオリティー

ハリルJに新たな可能性? 乾貴士、「最低の試合」でも輝いたクオリティー

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  • 更新日:2017/10/12
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ハイチ戦で印象的なプレーを見せた乾。(写真:Getty Images)

10月6日のニュージーランド戦から9人の先発を入れ替えて10日のハイチ戦に臨んだ日本代表は、前半に2点をリードしながら一度は逆転され、後半アディショナルタイムに香川真司のゴールで何とか3-3で引き分けた。試合後、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は「我々にとって最も良くない試合のひとつ」と吐き捨てた。

“ハリルジャパン”では最終予選のオーストラリア戦に続く3度目のスタメンとなった乾貴士も結果的にチームを勝利に導くことができなかった。しかし、2点を取るまでの流れに導くプレーは、相手のディフェンスが慣れていない状況だったとはいえ、チームでの新たな可能性を示すものだった。

「前半はいい時間帯がありましたし、チームとして、前半の最初はすごくよかったですし。ただ、2点取ってから、ボールの取られ方っていうのが悪かったので、そこでカウンターを受けて、失点してしまって、ちょっと流れが相手に行っちゃったかなって感じですね」

2得点後についてはそう認める乾だが、そうした時間帯でも彼がボールを持てば常に相手ディフェンスの脅威となった。その乾の印象的なプレーをいくつか抽出してみた。

【前半2分】

右ウィングの浅野拓磨が中央から左足シュートに持ち込んだシーン。中盤の遠藤航が前線ワイドから引いて来る浅野に縦パスを付けた時、逆サイドの乾は一度外に開くアクションを見せ、そこから相手のセンターバックとサイドバックの間を抜けてスルーパスを引き出そうとした。

しかし、浅野はパスを出さずにボールを内側に運ぶ。すると乾は相手DFの背後を回りながら右に流れて浅野のシュートコースを作ったのだ。結果的に浅野のシュートが相手DFの足に当たり、ゴールマウスの外側に行ってしまったが、乾がボールを持たずして決定的なシーンを演出した場面だった。

【前半14分】

中盤の引いた位置から倉田秋が前方の乾にグラウンダーのパスを付けると、中央のFW杉本健勇が裏に向けてスタートを切るが、相手のセンターバックも反応する。

強引に狭い所を狙うこともできたが、乾はパスを出すモーションを一瞬止め、杉本ではなくその手前のスペースに入った小林祐希にショートパスを通した。そこから小林が外から斜めに走り込む長友にスルーパスを送ったがディフェンスに倒され、ユニフォームを引っ張られていたものの、PKの笛は吹かれなかった。

このシーンで注目したいのは一度やりかけたプレーを止めて、すぐ別の選択肢に切り替えて実行できる瞬時の判断力だ。もしかしたら、はじめから狙いは小林へのパスで、杉本に出そうとしたのがフェイクかもしれない。いずれにしても複数の選択肢を持ちながら、相手に分かりにくい形で効果的なプレーを決断できるということを示すシーンだった。

【前半17分】

2点目のゴールに絡んだシーンだが、乾が常に狙いとしてあげる、左サイドからゴールの右側への飛び出しが、ゴール前に決定的なスペースを生み出した。遠藤の縦パスを杉本が手前に引きながら受けると、左サイドから乾が走り込む。

杉本のバックパスを中盤の位置で受けた酒井高徳が乾にパス。乾はそのまま右ワイドに流れながら浅野にボールを預け、杉本を経由して左のスペースを飛び出した倉田がシュートし、GKが弾いたリバウンドを杉本がゴールに流し込んだ。

乾と言うと高度なテクニックを駆使した細かいプレーをイメージしがちだが、ボールを持っていない時はこうしたダイナミックな動き出しでボールに絡み、スペースを生むプレーも得意としている。そのスペースを使ってシュートに持ち込んだ倉田、最後にゴールを決めた杉本も見事だが、乾の動きがなければまず生まれなかったゴールだ。

【前半27分】

ここで3点目が決まっていれば試合は大きく違っていたという結果的に残念なシーンとなったが、右にポジションを変えていた乾が酒井高徳のオーバーラップを引き出した動きは今後の日本代表の攻撃を見ていく上で非常に参考になる。

後方に引いた遠藤が左の長友から斜め後ろのパスを受けた瞬間、右サイドの前線にいた乾は静止状態からいきなりダッシュして縦のボールを受けるモーションを取る。それと同時に酒井高徳が乾のいた前のスペースに走り、ロングパスを受けた。

ここはサノンという相手の選手が素早く気付き、ダッシュで酒井高徳の動きに付いていったことで一発では大きなチャンスにはならなかった。しかし、そこから酒井高徳が小林につなぐと、乾は前方から手前に引く動きで小林からパスを受け、タメを作ってから今度は左を駆け上がる長友に展開。クロスから杉本が放った惜しいヘッドを演出した。

酒井高徳によれば“ハリルジャパン”ではこれまでサイドハーフがサイドバックの上がりを引き出すような練習は特別していないという。しかし、ボールを持つ状況でもともと持つスキルとビジョンで仲間と流動的にチャンスを生み出す質の高さは目を見張るものがある。

「得点を取ったり、裏に抜けるというところが一番求められているところなので、そのへんはやりつつ、落ちつかせるところは落ちつかせて、自分が左で出ていたら右サイドは(浅野)拓磨か(久保)裕也か、違いがあるので、その選手の特徴を生かしたり、FWの選手の特徴を生かしたりとか、サイドバックの選手のいいところを出していくというのはやっていかないといけない」

試合の前にそう語っていた乾の狙いが前半の途中までは随所に出たが、最初の失点をした後あたりから見られなくなった。その状況でも前半36分にはペナルティーエリアの左脇から鋭いドリブルで右足を振り抜く惜しいシュートを放つなど、個人としては見せ場も作った。それも乾のひとつのスペシャリティーだが、やはり周りとの連動をうまく使ってこそ、得点の可能性は大きくなることは間違いない。

「前半は、(長友)佑都くんとの関係も良かったですし、(倉田)秋がいいタイミングで後ろにサポートしてくれたのと、槙野くんがいいタイミングでいいボールを入れてくれていた。その辺でいい関係ができていたんじゃないかなと思いますけど、1点目取られてからですね。流れがすごく悪くなって、自分たちで苦しくしてしまった」

後半は途中から香川真司が入ったことで、後半35分に武藤嘉紀と交代で退くまでの短い時間ながら2人のコンビネーションで相手のディフェンスを崩しかけるシーンもあった。そこは可能性を感じさせる組み合わせだが、出場した80分間を通して評価すると、チームの機能が低下したところから良い状態に引き戻す選手ではないということだ。

どんな流れであろうと乾がボールを持って前を向けば相手にとって危険なシーンを生み出すことは可能だが、周りに攻守のバランスやビルドアップの安定などお膳立てをできる選手がいてこそ、乾が明確なアクセントとして機能し、そこから得点チャンスが生まれる。ここから乾という世界にも通じる武器をどう活用して戦うのか。ハリルホジッチ監督はもちろん、ともにピッチに立つ選手たちのビジョンの共有も問われてくる。(文・河治良幸)

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