【寄稿】米大使館移転に反対するユダヤ的根拠

【寄稿】米大使館移転に反対するユダヤ的根拠

  • WSJ日本版
  • 更新日:2017/12/07
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―――筆者のエリオラ・カッツ氏はWSJ「ロバート・L・バートリー」プログラムの元フェロー

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報道によると、ドナルド・トランプ米大統領は6日、イスラエルの「米国大使館を(テルアビブから)ユダヤ人の永遠の都であるエルサレムに移転する」という公約を間もなく実行するかどうかを表明する見通しだ。一部報道によると、トランプ氏はエルサレムを正式にイスラエルの首都と認める一方、大使館の移転を遅らせることで妥協を図りたい考えだという。

シオニスト(パレスチナにユダヤ人国家を建設する運動の支持者)である筆者は、エルサレムがイスラエルの永遠の都であり、現代の首都でもあることに同意する。しかしシオニストだからこそ、今そうした行動を取ることには反対だ。どれほど魅力的に思えても、実行に移せば生命をいたずらに危険にさらすからだ。

パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスはこの週末、米国がエルサレムをイスラエルの首都と認めれば、「エルサレムのインティファーダ(パレスチナ住民の反イスラエル闘争)」を再び「エスカレート」させると警告した。ハマスはパレスチナの人々に向けて「この陰謀を許さないために新たな蜂起を呼びかける」声明を出した。

「エルサレムのインティファーダ」とは2015年後半にヨルダン川西岸地区およびエルサレムで発生したパレスチナ人によるテロ行為を指している。イスラム教徒には「ハラム・アッシャリフ」、ユダヤ教徒には「神殿の丘」として知られるエルサレム旧市街の聖地を、イスラエルが侵害したことへの抗議が大きな理由だった。

米大使館移転の可能性が浮上しただけですでに複数のイスラエル人が殺害された。1月上旬、東エルサレムに住むパレスチナ人のファディ・クンバル容疑者がトラックで歩行者に突っ込み、4人のイスラエル兵士が死亡した。犯行の動機は、米大統領に就任するトランプ氏の大使館移転の選挙公約を激しく非難するイスラム教の説教を聞いたことだとされる。

中東では政治的主張が常に形而上学的な議論と絡み合っている。複数の宗教にとって聖なる都に米大使館を移転するのは、最も危険な種類の神聖な火をもてあそぶようなものだ。特にイスラエルがイラン包囲網を築くためにスンニ派アラブ諸国と協力する必要がある今はなおさら、宗教上の対立を悪化させてはならない。パレスチナの過激派はどのような口実を使ってもイスラエルを攻撃するだろうが、なぜあえて有力な口実を手渡すのか。

シオニズムはユダヤ人の民族自決という長年の夢を実現することが根底にあるが、常に現実主義的な精神と結びついてきた。シオニストは世界にユダヤ人の存在の大切さを示すことで、歴史の犠牲者ではなくその行為者となることを目指す。それには現実主義が必要だ。つまり本当に戦うべき闘争はどれなのかを抜け目なく判断することだ。

近代シオニズムの父、テオドール・ヘルツェルは次のような見解を示した。「実のところユダヤ人は長年にわたり、最も独創的な起業家を輩出してきた。ビジネスの才覚でわれわれが築けなかったのはわれわれ自身の未来くらいだ」。ヘルツェルにとって理想主義は重要だが、報酬とリスクを冷静に分析することも同じくらい重要だった。

今回の場合、生命が犠牲になる潜在的コストが、政治的な象徴主義の重みを上回っている。それを宣言することで包括的な和平協議がいくらかでも進みやすくなるのか? 激高した殉教志願者が車で群衆に突っ込むのを防ぐために、イスラエル当局ができることには限界がある。

イスラエルのエフード・バラク元首相は最近、「安全が何より優先される」ことをイスラエル人なら誰でも理解していると指摘した。米大統領が公約を実現すれば、安全ではなく逆に不安定さを促すことになる。

象徴主義は生命と安定性を脅かすだけの価値があるか? ヘルツェルならその質問にノーと答えるだろう。

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