20年ぶりにアルゼンチンから帰国した丸ノ内線500形

20年ぶりにアルゼンチンから帰国した丸ノ内線500形

  • @DIME
  • 更新日:2017/12/07

鉄道車両もプロ野球選手やJリーガーと同じように、海外に移籍することがある。しかし、私の記憶が確かならば、帰国して古巣に戻ることは2015年までなかった。

2016年7月11日、アルゼンチンのメトロビアス社(ブエノスアイレス市地下鉄)での“勤務”を終えた営団地下鉄500形4両が20年ぶりに帰国。古巣営団地下鉄を民営化した東京メトロの手により、3両が美しく、凛々しい姿に復元された。

■500形とは

No image

500形などのベースカラー、スカーレットミディアムは、当時の営団総裁がイギリス製の煙草「ベンソン・アンド・ヘッジェズ」の缶の色に魅力を感じて決めたという(東京メトロ 提供)。

かつて営団地下鉄丸ノ内線で活躍した500形は、1957年に登場。丸ノ内線の第1世代車両では、最多の234両が新製された。車体は鋼製で、スカーレットミディアムをベースに、白帯とステンレスのサインウェーブを組み合わせた。

基本的な性能は丸ノ内線初代車両の300形と同じだが、乗客の増加に伴い、両運転台(1両につき運転台が2か所)から片運転台(1両につき運転台が1か所)に変更され、自重も5.5トンの軽量化を図った。

No image

神田川を渡る02系6両車。

1988年9月に第2世代車両の02系が登場すると、順次置き換えられ、1996年7月18日に営業運転を終了。祝日「海の日」初日の7月20日にサヨナラ運転(後楽園―中野富士見町間)を行ない、39年間の活躍に終止符を打った。これに伴い、営団地下鉄から鋼製車、非冷房車、塗装工場が姿を消した。

No image

元丸ノ内線車両は、現在もアルゼンチンで活躍中(東京メトロ 提供)。

幸い、第1世代車両の300形7両、500形110両、900形14両は、1994年から1996年にかけて、メトロビアス社に移籍。現地で小規模な改造を施したうえ、営業運転に就く。元気な姿は、『世界の車窓から』(テレビ朝日、2016年5月11日放送)でも紹介された。

■リターンズ

No image

除幕後のフォトシューティング。

No image

東京メトロによると、メトロビアス社移籍車両も老朽化が進み、2014年頃から廃車する一報を受けたという。そこで若手の車両保守教育を充実させるため、500形を保存、復元する方針を2015年に決めた。メトロビアス社に車両部員を2回派遣し、車両の状態を確認したうえで、4両を選別したという。アルゼンチンのザラテ港から横浜の大黒ふ頭まで、約2か月弱のあいだ、船に揺られた。

「昔から、向こう(メトロビアス社)で使われなくなったときには、また、日本へ何両か戻してですね、保存したり、鉄道文化遺産の保存もありますけど、“若い人たちの教育に使えないか”と、かねがね思っていたのが、今回こういった結果になって、大変嬉しく思っております」

留岡正男常務取締役は、式典のトークセッションで胸に秘めていた想いを明かした。復元工事に際しては、各現業から9人を集め、プロジェクトチームを発足。2016年9月から“本業”の傍ら、週1回のペースで進めてきた。

増澤富士雄中野車両管理所技術課長、才口翔也氏(プロジェクトチームメンバー)の話をまとめると、中野車両基地搬入後、車両の落書きを消す作業から始まった。落書きに使われたペンキがなかなか消えず、薬品をつけた翌日に落とすなど、壮絶な作業だったそうだ。

その後、車体を確認すると、車体側面下部全体にステップなどを取りつけたため、相当数の穴があいていたという。腐食箇所も見つかったほか、床下機器の汚れもひどかったそうだ。そして、プロジェクトチームメンバーは、今まで見たことのない部品に四苦八苦。現在、東京メトロで営業運転に使われる車両は、省エネかつハイテクなので、大昔の車両は“未知の世界”なのだ。

プロジェクトチームメンバーの一部は昭和鉄道高校出身で、幸い校内に500形を保存しているという。才口氏は何度も母校へ足を運び、“模範解答”を得たそうだ。

そして、周辺の住民に配慮し、“大きな音をたてる作業”を新木場車両基地で行なうため、2017年3月に陸送。メトロ車両、手塚車輌工業の力を借り、腐食作業の補修、床下機器のメンテナンス、塗装などに着手した。

5か月後、中野車両基地に戻り、中野工場のメンバーとともに各装置の取りつけを行なう。式典と報道公開の時点、1次補修が完成(全体の6割程度)し、その後、2次補修に取り掛かる。留岡常務取締役によると、自力で走行と停止ができる状態にしたいという。

なお、先述した塗装工場の廃止に伴い、将来の再塗装(塗装車両の多くは、検査時に実施)については現時点考えておらず、20~30年後に色落ちがひどくなれば検討するそうだ。

■4両のプロフィール

増澤技術課長によると、3両を復元したのは留岡常務取締役の意向で、1両が動けなくなってしまった場合、残り2両でカバーできるという。また、復元に際し、1両ごとにテーマがある。

○584号車(初期仕様)

No image

丸ノ内線開業時を再現した方向幕。運行番号の「90」は、地下鉄開業90周年を表す。

500形登場時の姿を極力再現した。新製当初は300形、400形に倣い、方向幕(前面のみ設置)の両側に方向識別灯が組み込まれ、荻窪方面は黄色、池袋方面は水色が灯っていた。方向幕はプロジェクトメンバーが調べたところ、幸い図面が残っており、当時を再現した。

ほかの2両と異なるのは、車両番号の標記はステンレスの切抜文字、乗降用ドアの窓が大きい、側面の窓枠及び戸袋窓の内側はダスキーピンク、外側は赤。台車、連結器、床下機器は黒、荷棚は戸袋のみ設置である。

No image

584号車の車内。

500形は冷房装置が搭載されていないこともあり、天井が高く、丸みもあるほか、実は暖房装置も未搭載。地上区間が短いことや、冬場であってもトンネル内は低温にならないからだ。

登場時の吊り手はリコ式だが、今回は銀座線1000系特別仕様車と同じ模擬形状とした。

○734号車(引退仕様車)

No image

734号車のエクステリア。いつかは先頭車として“御尊顔”を拝したい。

734号車は営団地下鉄時代に大規模な改造が施されており、出国前の状態をできるだけ再現した。

No image

734号車の車内。

No image

隣の771号車と共通しているのは、車両番号の標記はペイント、乗降用ドアの窓が小さい、側面の窓枠及び戸袋窓は内側、外側ともに無塗装。台車や床下機器はグレー、荷棚は座席の上部に設置した。鉄道業界でいうところの「マイナーチェンジ」である。

一部の乗降用ドア上には、当時使用されていた丸ノ内線路線図を掲示。引退時は丸ノ内線に西新宿駅が開業、南北線も四ツ谷―駒込間を延伸開業していたが、ここでは駅や乗り換え案内の表示はない。駅ナンバリングもないので、シンプルに映る。

○771号車(アルゼンチン仕様)

No image

734号車のエクステリア。方向幕もメトロビアス社仕様。

「アルゼンチンにも敬意を表するということで、“20年間向こうに行ってた”という歴史を想うためにも」

留岡常務取締役は、式典で771号車のコンセプトを語った。車内はメトロビアス社で使用されたステッカー、中吊り広告、路線図があり、海外移籍時の雰囲気を楽しめる。

No image
No image
No image

734号車の車内。

インテリアの化粧板は、ダスキーピンクではなく白系の柄となっており、ほかの2両と比べ、明るい印象を持つ。

吊り手は丸型ながら、溝がつく。実際に握ってみると、隣の734号車より細い。

○752号車

今回、お披露目されなかった752号車は復元の対象から外れ、「部品取り」と言われる、ストック車両となった。実は部品のみを船に積み込むことができず、車両ごと帰国する形となった。それだけでも幸運な車両と言える。

■将来は丸ノ内線で復活運転なるか

No image

次の元号でも丸ノ内線を走行するのだろうか。

「当然、教育もありますけど、“文化遺産として保存したい”ということですね。

ちょっとクリティカルな話をしたいんですけど、3両は構内で動かなくなってもいいんですけど、“止まると困るようなところに行きたいな”とやっぱり想っているんですね」

「技術的には難しいんですけど、“1回行かしたいな”という想いがありますね」

留岡常務取締役は式典で、500形を丸ノ内線に再び走らせたい“私案”を明かした。丸ノ内線第1世代車両引退後、保安装置の更新、トンネル冷房の廃止、ホームドアの設置、ワンマン運転化など、環境が激変。500形が再び丸ノ内線に入線するには、多くの課題をクリアしなければならない。

さらに、将来は第3世代車両(新型車両)の投入、保安装置を新タイプに更新、第3軌条(線路脇に敷設された給電用レール)の昇圧(直流600ボルトから750ボルトへ)が予定されている。このうち昇圧に関しては、必要であれば部品を取り換えて対応するという。

実際に丸ノ内線で走れるかは不明ながら、古い車両が復元されたことで、映画やドラマの出演が考えられる(ロケ地は車両基地に限定されると思う)。今や時代劇の舞台は昭和30年代まで広がった。

もしかすると、2019年の大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』に出演するかもしれない。500形や日比谷線第1世代車両の3000系は、1964年の東京オリンピックで多くの観客を運んだ“歴史の生き証人”なのだから。

【協力:東京地下鉄】

取材・文/岸田法眼

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

社会カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
3歳男の子が行方不明 父親が目離した10分で...
紀子さま焦燥! 悠仁さま帝王教育「また先送り」
富岡八幡宮殺害事件  チャンバラ好きの弟が日本刀で姉の宮司を斬りつけた本当の動機
ベンツの運転手に絡まれ煽られていた軽自動車。しかし軽の方が一枚上手だった
警察に捕まる人が続出?韓国人が日本の道路で困惑するもの=韓国ネット「地獄のよう」「見た瞬間、怒りが...」
  • このエントリーをはてなブックマークに追加