ひとり親家庭が入学シーズンに直面する、ある死活問題

ひとり親家庭が入学シーズンに直面する、ある死活問題

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/04/17
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アルマーニの小学生制服や高級ブランドのランドセルなどが一時期話題になった。本来、喜ばしい入学シーズンだが、経済的な困難を抱えている世帯にとっては多額の出費を迫られる時期でもある。NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長・赤石千衣子氏が、ひとり親家庭が直面する問題を考える。

新年度となり、全国各地で入学式シーズンを迎えた。桜は散っているところが多かったが、明るい陽射しのもと、親子が街を歩いている姿が目立った。

子どもたちの成長を感じ、これからの未来への期待に胸がふくらむ時期だ。同時に親はこれから教育費がかかると覚悟を決めたりする時期でもあるだろう。

だが、すべての親子がそういう気分でいられるわけではない。

経済的な困難を抱えている世帯は、ランドセルもお下がりを使うと決めたり、食費を削って入学準備をしている。特にひとり親世帯は入学時期に多額の出費を前にため息をついていることが多い。

中学で10万円、高校で20万円の準備

小学校に子どもを入学させるときにはランドセルを用意する親がほとんどだろう。

平均価格は3万円~5万円だと言われている。低価格のものは1万円台からあるにはある一方、子どもが少ない分高価なランドセルもつくられており、10万円を超える商品もあるという。

そのほかにお下がりを利用する子も多いが入学式に着る服、体操着、筆箱、ピアニカ、お道具箱、算数セット、上履きなど数万円はかかる。子どもの学習机などは、まだ早いと言って買わない選択もありうる。

中学では制服代(冬服、替え、夏服、白シャツ)と鞄、文具、体操着や部活用品などがかかる。最低でも8万円~10万円は必要だと言われている。

高校の場合、これに有償となる教科書代の購入費用もかかる上、学校が徒歩や自転車で通えなければ通学定期代などがかかり、お弁当を持たせることになる。保護者は15万円~20万円が必要と言われる。さらにほぼすべての子どもを対象とした児童手当は義務教育までで終了となる。

こうした費用を捻出するには、預貯金を用意しておけばいいのだが、ひとり親家庭の場合は預貯金が少なく、50万円以下という母子世帯は約40%であり(平成28年度全国ひとり親世帯等調査による)、ゼロどころか、キャッシングで自転車操業、あるいは借金がすでにある世帯も少なくない。

こうした世帯が入学時の準備をすることが、どんなに困難か想像できるだろうか。

わたしが理事長をするNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむでは、2016年から入学お祝い金事業を提供している。そのきっかけのひとつが、2014年千葉県銚子市で起きた、県営住宅家賃滞納による強制退去の日に母子家庭の母が中学生の娘を殺害(無理心中を企図と思われる)した事件だった。

この家庭は、娘の中学入学時に費用がかかるため、社会福祉協議会からの小口資金借り入れでは間に合わず、闇金融からお金を借り、その督促に追われたことから家賃を滞納したと裁判で明らかになった。

子どもが小学生のときにはなんとか家計をやりくりできていたのが中学入学時の負担で家計が破たんしてしまったのだ。また夫の借金を肩代わりしており、サラ金に借金があった。

裁判を傍聴したわたしは、なぜ、相談をしてくれなかったのだろう、と本当に悔しかった。

そして、こんな事件を起こさないために、最低限支援団体としてできることを考え、入学時のわずか3万円ではあるがお祝い金をお送りする事業を始めたのだった。

お祝い金を受け取った世帯100万円以下の年収が3割

こうして始まったひとり親向けの入学お祝金事業は今年、520人以上の子どもたちの世帯から申込みがあった。

関東圏を中心に全国から申込みがあり、昨年は自治体の窓口で紹介されたという方が多かった。その経済状況は非常に厳しいもので、給与収入が100万円以下の世帯が約30%だった。

本当はすべての子どもたちを支援したいが、寄付いただいた限られた予算のため、所得証明を出していただき、選考委員会を開き、所得に加えて多子であることや、障害をもっていることなど困難状況を考慮して選考、今年は351人の子どもたちを選び子ども1人に3万円を送金した。

また落選のお子さんにも入学おめでとうの気持ちで図書カードを送った。

総額で1000万円を超える資金を支えたのは、全国の寄付者のみなさんである。

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今年度届いた封筒

新品の制服が買える!

応募者は必死の思いを書きつづる。

「高校受験で娘は県立高校1本で私立のすべり止めもとらずに私の低収入の中、がんばっています。入学準備の制服代を何とかしたいです。公立も20万は必要だと言われ、日々、何とか工面しています。よろしくお願いします。新しい制服を着せてやりたい思いですがりました」

この応募者は入学お祝金を無事に受給できることになったときに「本当に、本当に、ありがとうございます!!見ず知らずの方に、こうして助けて頂けるとは夢にも思わず暮らして参りました。高校進学を控え、娘と二人、入学納入金 制服代 教科書 ジャージ 上履き その他の高校からの手紙を見て、頭を抱えておりました。何とかしなければ、とパートを増やして頑張る日々ですが、なかなか生活もギリギリカツカツ。本日、贈呈の手紙を頂き、娘と手を取り喜びました!新品の制服が買える! 娘が、喜ぶ姿は親として皆様に頭を下げて御礼を申し上げたい気持ちです」とお礼のことばを伝えてきた。

昨年の入学お祝金受給後のアンケート調査では、このお祝金がなかったらどうしていたか、という質問に「預貯金を取り崩す」のほかに、「食費を節約する」「働く時間を増やす」「親族からの援助」などとともに「どうしていいかわからなかった」「サラ金やカードローンを借りる」があったことも特記しておきたい。

子どもの受験期に親が居酒屋で働いて学費を出す、そういう母子がいる。あるいは食べ盛りなのに食費を削って、削って、入学時の準備をする家庭があるのだ。

実際、4月以降も食品援助の申込みが増える傾向にある。

進む就学援助制度の入学前支給

本来、教育費は義務教育までは無償である。

しかし、文部科学省の「子供の学習費調査」をみても、公立小学校で年間32万2000円、公立中学校で47万9000円、公立高校では45万1000円の学習費がかかる。

これだけの学習費を子どもにかけられない家庭があることは十分にありうる。

ひとり親家庭の平均就労年収は、母子世帯で200万円、父子世帯で398万円なのである。母子家庭の母の平均就労年収の4分の1が学習費の平均なのである。

国の就学援助制度は、学校教育法第19条において、「経済的理由によって,就学困難と認められる学齢児童生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない」とされている。

生活保護受給家庭の子どもとそれに準ずる程度に困窮していると認める世帯の子どもに新入学児童生徒学用品費等や、給食費、学用品費、修学旅行費などを援助することになっているが、認定基準は各市町村に任せられている。

この就学援助制度は、最近まで、入学後に新入学児童生徒学用品費等の支援を行ってきた。入学後に手続きを行い、6月や7月に入ってから支給する自治体が多く、「本当に苦しいときに役に立たない」という声が聞こえてきていたのである。

自治体も困窮する世帯の子どもたちの入学時の経済的な困難を放置してはいけないと考えるに至ったのだろう。平成30年度には半分近くの自治体が小、学校入学前支給を検討していると文部科学省の調査で答えた(平成29年12月15日文部科学省「就学援助実施状況等調査」の結果について)。

こうした変化は、入学時の援助を行っている他の団体と協力して、ニーズを掘り起こしその声を届けた成果とも考えている。

しかし、こうした制度自体を知らない保護者もまだまだ多く、特に大都市圏以外では周知率が下がる傾向にある(セーブ・ザ・チルドレン「東北沿岸部における、経済的に困難な状況下の子育て世帯への調査結果」によると就学援助を必要と思われる世帯のうち利用していない、分からないと回答した世帯のうち約4割が就学援助制度を知らなかったため利用していなかったという)。

周知とともに、利用に関するハードルを下げるような工夫――たとえば、学校の教室で就学援助制度の説明・申込書を全員に配布し、申込みの有無にかかわらず全員から回収するなど――、スティグマが生じない方法を考える必要がある。

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〔PHOTO〕iStock

誰を対象とし、誰を排除するのか

高級ブランドのランドセル、デザイナーズブランドの小学生の制服などが話題になった。

先ごろ「所得の多い家庭の子どものほうが、よりよい教育を受けられる傾向」について「当然だ」9.7%、「やむをえない」は52.6%で、格差を容認する保護者は計62.3%となった(朝日新聞社とベネッセ教育総合研究所が共同実施した「学校教育に対する保護者の意識調査」による)。

もちろん、個々に高級な服、個別塾、早期教育など子どもにお金をかけていくのはその家庭の子育てや教育方針なので、よしとしよう。実際はそうした流れの中で低所得であっても塾に行かせるために困難を増している世帯があるのも知っている。

ただ、公教育の場では、高額のものを必要とする方針が誰を対象とし誰を排除するのかを常に考慮した選択が必要だ。入学時の制服代や体操服はそうした費用のひとつ。

さらに、卒業時の謝恩会の会費や、卒業アルバムの作成費等々、本来すべての親子が参加できたほうがいいものであっても、高額化が進んでいる。

学校のマーク入りの体操服が高額化した場合に年収200万円の世帯は支払えるのか等々、考えるべきことはたくさんある。

こうしたことを公教育の場では考慮することが当たり前の潮流をつくっていくことで、だれでもスタートラインにつける教育が実現するのではないか。

赤石 千衣子(あかいし ちえこ)
NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長。シングルマザーの就労支援、相談支援等々を行っている。著書に『ひとり親家庭』編著に『シングルマザー365日サポートブック』などがある。『教育費サポートブック』2000冊無料キャンペーンを実施中。http://www.single-mama.com/education-reader2018/

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