中国政府が閉鎖を勧告した「北朝鮮レストラン」に行ってきた!

中国政府が閉鎖を勧告した「北朝鮮レストラン」に行ってきた!

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/10/12
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もっとも好きな歌は、将軍様が作った歌

「首領よ、命令のみ下されよ。一気に駆けて、仇敵米帝をこの地より掃討せん!」

9月某日、中国遼寧省の都市・丹東の北朝鮮レストランに、北朝鮮の歌「首領よ、命令のみ下されよ」が響き渡った。私がリクエストしたものだった。

歌ったのは、同レストランの女性従業員。前日にもこの店を訪れていた私は、この日、2階の個室に通された。

部屋にはカラオケが置かれており、好きな歌をBGMに食事ができるという趣向だった。自分で歌うのも可だという。

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丹東名物、金日成・金正日「グッズ」。北朝鮮の切手集のはずが、なぜか日本の切手も含まれていた

せっかくなので、私は次々に希望を出した。はじめは穏当に「アリラン」から。そして次第に「北朝鮮らしい歌」に移行していく。

「学ぼう」「泉のほとりで」「燃え上がれ焚き火よ」「われらは愛する」「これ見よがしに」「ひとつの大家庭」――。

付きっきりで大同江ビール(北朝鮮のビール)を注いでくれた女性従業員は、次第にみずから歌ってくれるようになった。その歌声は、個室で独占するにはあまりに惜しいハイレベルだった。

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(右)有名な北朝鮮のビール・大同江ビール、(左)は焼酎・平壌酒

「社会主義を守ろう」「朝鮮人民軍歌」「一気に」「進軍また進軍」「われらの727」「党に従い、青年たちよ前へ」「突破せよ、最先端を」――。

彼女は、行進曲調の歌でも嫌がることもなく、むしろ勇ましく手を振り、足踏みをして、ノリノリで応じてくれた。最後は、権力継承のテーマソングである「永遠にこの道を行かん」でしめた。

なお、カラオケに入っていない歌もあった。

「朝鮮労働党万歳」「この地の主人たちは話す」「死を米帝侵略者どもに」「行こう白頭山へ」「われらは万里馬騎手」「社会主義前進歌」など。

朝鮮戦争に参加した中国軍の軍歌「中国人民志願軍戦歌」は、中国の北朝鮮レストランにはつきものだが、カラオケには入っていないらしかった。

途中、女性従業員にもっとも好きな歌を訊いてみた。すると彼女は即座にカラオケを操作して歌いはじめた。

その歌は「祖国の懐」。行進曲調ではない、穏やかなメロディーが室内に流れる。

歌い終わると、彼女は私のスマホを指差して、音声認識機能を使うように促した。こちらがグーグル翻訳のアプリを起動して差し出すと、朝鮮語でスマホに話しだした。

そして、画面に表示された翻訳は――。

「わたしたちの将軍様が作った歌です」

そう、彼女がもっとも好きな歌は、金正日が作った歌だったのである。ここはお気楽な軍国酒場の類ではない。彼女の眼差しは真剣だった。

北朝鮮レストランの集積地

北朝鮮系の団体は、外貨獲得などのために、世界各地にレストランを設けている。いわゆる北朝鮮レストランがそれだ。

このような飲食店では、北朝鮮出身の女性従業員が、定期的に歌謡ショーを行う。そのため、彼女たちの歌唱や演奏はきわだってうまい。

その服装は赤や青などで統一されており、ときにチマチョゴリやモランボン楽団(北朝鮮のガールズグループ)の衣装も使われる。

北朝鮮を旅行しても、レストランの女性従業員と話す機会はめったにない。それにくらべ、海外の北朝鮮レストランでは、比較的自由にやり取りができる。

丹東のある店では、私が2013年に平壌を訪問したときの写真を見せると、女性従業員のひとりがスマホを奪い取って、こなれた手つきでスワイプし、つぎつぎに写真を眺めて、「この子は知っている」「昔、(平壌の)高麗ホテルで働いていた」などと教えてくれることもあった。

外国人のスマホなど、何の写真が入っているかわかったものではない。北朝鮮本国では考えにくい行動で、少し驚きを感じた。

ただ彼女も、スマホを見ながら、ときおり出入り口のほうを振り返ることを忘れなかった。やはり後ろめたい行為なのだろう。

それはともかく、鴨緑江を挟んで北朝鮮の新義州に接する丹東は、世界有数の北朝鮮レストランの集積地である。正確な数は不明だが、10店舗近くあるのではないかと思われる。私は今回そのうち6店舗を訪れた。

ちょうど同じころ、北朝鮮レストランをめぐって重大なニュースが飛び込んできた。中国政府が9月28日、国連安保理の制裁決議を受けて、北朝鮮系企業にたいし、来年1月上旬までに閉鎖するよう求めたのである。

中国が本気で実行するかは不透明だが、もしかすると、北朝鮮レストランはこれで見納めになるかもしれない。そこで、存亡の危機にある北朝鮮レストランの姿を今のうちに記録しておきたい。

なお、応対してくれた女性従業員の身に危害を及ぼすのは本意ではないので、一部の内容をぼかしたことを事前にお断りしておく。同じ理由で、店内における女性従業員の写真などはない。

机に突っ伏してスマホを操作する

丹東にとって、北朝鮮の景色は重要な観光資源だ。そのため、鴨緑江沿いには遊歩道が整備され、土産物屋が軒を連ねる。

北朝鮮レストランも、この観光エリアに集まっている。大規模店である丹東高麗館と柳京酒店も、その例にもれない。

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ホテルの窓より丹東中心部を臨む。鴨緑江の向こう側が北朝鮮

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世界最大とされる丹東高麗館。壁には高麗ホテルのマークも。朝鮮語で「平壌高麗館」とあるが、ここでは中国語の表記を採用する

そのうち世界最大とされる丹東高麗館は、なんと5階建て。広場に面する立派な建物の壁面にはディスプレイが設置され、昼夜を問わず、モランボン楽団のコンサートの映像などが流されている。

入店すると、1階の広い客室に案内された。一見客はどこでも大体同じような扱いになる。客の入りはそこそこ。

ドリンクメニューがなかったので、直接、数種類の焼酎を見せてもらった。女性従業員の応対は悪くない。日本人とわかると、筆談にも応じてくれた。丹東では、日本語はおろか、英語さえほとんど通じない。

私は、大同江ビールと焼酎ボトル(銘柄は「焼酎」)、そしてつまみとして、宮廷式鍋の神仙炉などを注文した。味は申し分なかった。

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色鮮やか宮廷式鍋の神仙炉。ナマコも入っていて豪華。なお、女性従業員が小鉢に掬ってくれた

丹東の北朝鮮レストランは、よほど高額なメニューでも頼まない限り、ひとり100元〜200元(約1700円〜3400円)あれば足りる。

丹東高麗館はもっとも大きな北朝鮮レストランだけあって、サービスは標準的だ。最初の店としておすすめできる。

つづいて、柳京酒店。こちらは、観光スポットの中朝友誼橋からすぐだ。高層ビルの1、2階が朝鮮風の建物になっているので、簡単に見つけられる。ちなみに、柳京は平壌の別称である。

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特徴的な柳京酒店の外観。昼過ぎに訪れたためか、照明が落とされ、やや暗かった

柳京酒店は、唯一歌謡ショーの写真撮影が許されているとされる。だが、じっさいにカメラを構えると、遮られてしまった。

北朝鮮レストランでは、どんなに丁寧に応対してくれていても、女性従業員の写真撮影や動画撮影だけは全力で抵抗してくる。気持ちよく過ごしたいなら、やめておいたほうが無難だろう。

たまたまかもしれないが、こちらの女性従業員は疲れ気味で、やや「塩対応」。昼過ぎの時間になると、枕を抱えてテーブルに突っ伏し、うつろな目でスマホを操作する姿もあった。

また、仕事を終えた女性たちは、お揃いの赤いジャージを着て、店外に待機していたワゴン車に乗り込んでいった。行動の自由はあまりないのだろうか。

なお食事の量は、全体的に多め。大皿にたっぷり出てくる。厨房から中国人男性の声が聞こえてきたので、料理人は中国人なのかもしれない。厨房の声が聞けたのは、この店舗だけだった。

険しい表情で朝鮮中央テレビを凝視

沿岸エリアには、中小規模の北朝鮮レストランも集まっている。

丹東高麗飯店は、柳京酒店の向かいに位置する中規模店。店の名前や、名刺のデザインから、丹東高麗館の系列店と思われる。

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丹東高麗飯店。柳京酒店の向かいにある。入り口にはチマチョゴリ姿の女性の姿も

店の奥にはカラオケルームがあり、ドアが開くたびに、中国人客の熱唱がこちらの席まで響いてきた。その日は休日の夕方だけあって、客席は半分以上埋まっていた。

ここの歌謡ショーでは、常連の中国人客がステージ上で女性従業員と一緒に手をつないで踊ったり、店内を駆け巡ったりしていて、驚かされた。北朝鮮レストランでは、どこも常連客にたいして手厚い。これも常連サービスの一貫なのだろうが、「夜の店」の印象も受けた。

女性従業員たちは、ステージでは満面の笑みだが、そこから降りると、ふと真顔に戻った。毎日同じようなことをやらされて、うんざりしていたのかもしれない。

つぎに、松涛園飯店は、鴨緑江に面する小規模店。1階は厨房のようで、客は全員2階に通される。個室のほか、ベランダにもテーブルがある。天気がよければ、パラソルの下で、北朝鮮をみながら食事できる。

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鴨緑江に面する松涛園飯店。2階はそこで食べることも

この店は海産料理がメイン。サザエの壺焼きなどを頼んだが、量が少なめだったので、つまみにちょうどよかった。

メニューの最後のページには、お酒のリストが載っていた。大同江ビールや普通の焼酎から、松茸酒、まむし酒、白頭山のブルーベリー酒まで。残念ながらグラスでは頼めなかったが、酒飲みには優しい店である。

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松涛園飯店の酒メニュー。大同江ビール以外の焼酎は結構高め。左下には松茸酒も

最後に、高麗香は、沿岸エリアの一番端に位置する小規模店。比較的新しい店らしく、朝鮮語の「平壌」の文字が、顔文字のようにデフォルメされていて、まるでソウルの飲み屋のようだった。

もっとも、入店すると、北朝鮮の物騒な番組を流すテレビが設置されており、数名の女性従業員が険しい顔で腕組みしながら、画面を凝視していた。これではせっかくのイメージ作りも台無しである。

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高麗香(奥の光っている建物)。「平壌」が顔文字のようになっている

こちらも小規模店なので、客は全員2階へ。やはり奥には個室があり、中国人客が大声で騒いでいた。

高麗香は、メニューが紙ではなくタブレットだった。北朝鮮レストランでは、いつも10ページ近くある分厚いメニューを渡されていたので、これは新鮮だった。

なお、沿岸エリアには、三千里という北朝鮮レストランもあったようだが、すでに閉店していた。北朝鮮レストランの移り変わりをすべて把握するのは難しい。

「タンコギ、タンコギ」に苦笑

内陸部の北朝鮮レストランにも触れておこう。ここは観光エリアではない分、客足は期待できないが、一見の観光客よりも地元の常連客を獲得するには向いている。

平壌高麗飯店は、丹東駅近くのやや狭い通りに位置する。近くにはブランドものを扱う百貨店や回転寿司屋などがある。小規模店だが、2階、3階があるようだ。店の名刺には「分店」とあった。こちらも丹東高麗館の系列店なのだろう。

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やや薄暗い通りに位置する平壌高麗飯店。ラジカセから北朝鮮音楽が鳴り響いていた

私が訪問したときには、入り口にはラジカセが置かれ、北朝鮮の音楽が大音響で鳴り響いていた。客を選ぶ宣伝方法だが、私のような人間には「ここだ、ここだ」と教えてくれるようでありがたい。

席につくと牛肉の料理を薦められたが、「タンコギ、タンコギ(犬肉)」を連呼すると、苦笑しながら、犬肉料理のページを教えてくれた。前回、平壌を訪問したとき、名物の犬肉を食べられなかったので、心残りだったのだ。

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犬肉のスープ。こちらは柳京酒店のもの

こういうとき、グーグル翻訳のアプリは役に立つ。ただ、注意しなければならないのは、日本語の「朝鮮」は、中国語の翻訳でしばしば「韓国」と変換されてしまうことだ。

そのため、

「朝鮮の音楽は好きですか?」

と訊かれて、

「はい、韓国の音楽が好きです」

という、いやがらせのようなやり取りが発生してしまう。

それはともかく、平壌高麗飯店の近くには、ほかにもいくつか北朝鮮レストランが確認できた。そのいっぽうで、北朝鮮系に模したらしいレストランも見受けられた。

たとえば、ヒルトン・ガーデンイン丹東に近い七宝山飯店がそうである。七宝山は北朝鮮の観光名所だが、同店には北朝鮮の国旗がなく、大同江ビールも置いていなかった。平壌冷麺の味もいまひとつだった。

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北朝鮮系ではない? 国旗がない七宝山飯店。近くに、似た名前の北朝鮮レストランもある

女性従業員は、北朝鮮レストランに似た衣装を着ていたものの、やたら胸の部分を強調したデザインで、違和感があった。会計中の常連客に、女性従業員が腕組みする姿さえ見られた。

近所には、似た名前の北朝鮮レストランがあるという。おそらくそれを模したのではないだろうか。偽装の可能性もあるが、北朝鮮系とは断定しがたい。

もっとも、このようなレストランの形態は示唆的ではある。

現在、中国と北朝鮮の関係は悪化しつつある。すでに述べたとおり、北朝鮮系の企業は閉鎖を勧告されている。

ただ、北朝鮮が外貨獲得の活動をやめるとは思えない。なんらかの偽装をしてでも、飲食店の経営を続けるのではないだろうか。北朝鮮の崩壊を望まない中国も、これを黙認しかねない。

すると今後は、北朝鮮系とはわかりにくい飲食店が増える可能性がある。そうなれば、「首領よ、命令のみ下されよ」と歌う、典型的な北朝鮮レストランはあまり見られなくなるだろう。

とはいえ、それはただちに北朝鮮レストランの終焉を意味しない。

ある北朝鮮レストランの女性従業員は、休憩中に、ハローキティのマグカップを使って、昼食を取っていた。また別の女性従業員は、胸のブローチを近くの商業施設で買ったといっていた。

彼女たちは、資本主義と社会主義が混ざり合う丹東の現実をすでにある程度受け入れつつある。それゆえ、新しいタイプの北朝鮮レストランは、さほど難産ではないのかもしれない。

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