軍事とIT 第227回 既存民生品の活用(1)通信サービスの利用例

軍事とIT 第227回 既存民生品の活用(1)通信サービスの利用例

  • マイナビニュース
  • 更新日:2018/01/13
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今回から、COTS(Commercial Off-The-Shelf)、つまり既存民生品の活用を取り上げてみようと思う。どうして「軍事とIT」でCOTSかといえば、情報通信分野において、最も活用が盛んに行われているからだ。そうなると、真っ先に思いつくのはコンピュータ機器やネットワーク機器の話なのだが、その話は後に回して。

○民間の通信サービスも使われる

さすがに四半世紀ぐらい前の話なので記憶があやふやなのだが、まだソ連という国が実在していた冷戦期に、「NTTの通信網は軍用にも使われているので、第3次世界大戦になったらNTTが攻撃される」との論を展開していた人がいた、と記憶している。

真偽の程はともかく、軍用通信が民間の通信サービスを利用している事例、今でもいろいろあるのは事実だ。

ポピュラーなところでは衛星通信がある。国によっては軍が自前の通信衛星を保有・運用しているし、アメリカ海軍みたいに「空軍が運用している全軍共用の衛星とは別に、内輪で使うための通信衛星を別に自前で用意している」なんていう豪気な事例もある。

ただし、そんな国は少数派。自国だけで用意できなければ、複数の国で相乗りして衛星を調達・運用することになり、ヨーロッパにはそういう事例がある。しかし数的な主流は、民間の通信衛星を借り受ける方法だろう。

だいたい、自前の通信衛星をたくさん打ち上げているアメリカ軍ですら、それでは足りずに民間の衛星を借りている。使い過ぎ……なのかどうかは知らない。

○通信衛星を借りる場合

通信衛星とは煎じ詰めると、受信した電波を送り返す中継器の集合体である。その中継器をトランスポンダーといい、なぜか「本」を単位として数える。

ひとつの衛星に複数のトランスポンダーを搭載しているので、個々のトランスポンダーを単位として顧客を区分することは、物理的に可能であろうと思われる。

たとえば、日本には放送衛星システム(B-SAT : Broadcasting Satellite System Corp.)という会社がある。同社が運用するBSAT-3b衛星はロッキード・マーティン製で、同社のA2100AバスにKuバンドのトランスポンダー12本を搭載している。同じバンドだけとは限らず、異なるバンドのトランスポンダーを併載している衛星もある。

そこでどこかの国の軍が、衛星オペレーターに対して「○○衛星のKuバンドのトランスポンダーを10本、10年契約で借りたい」とかいった形で契約するわけだ。物理的に独立したデバイス同士であれば、軍用の通信と民間用の通信は分離しやすい。

さらに一歩進めて、民間用のトランスポンダーを束ねた通信ペイロードと、軍用のトランスポンダーを束ねた通信ペイロードを別々に搭載する手もある。もっともこれは、そういう相乗りができる構造のバスになっていなければならないが。

2010年の話だが、ボーイング社がインテルサット社(Intelsat S.A.)から受注した商用通信衛星4基に、軍用UHF通信ペイロードを載せる話があった。インテルサット社の衛星「IS-27」はCバンドとKuバンドのトランスポンダーを合計39本搭載するが、さらにUHFのトランスポンダーを載せて、25KHzのUHFチャンネルを20個確保するという内容だった。

実は、これより先に「IS-22」でも、オーストラリア軍向けのUHF通信ペイロードを載せていたそうである。

○通信サービスをそのまま利用する

2017年11月に、アルゼンチン海軍の潜水艦「サンファン」が南大西洋で行方不明になる事故が発生した。その事故に関連する報道の中に、「イリジウム衛星携帯電話で連絡してきた」というものがあった。

後になって、イリジウム社は「サンファン」からの通信ではなかったと説明したので、「サンファン」がイリジウムを利用していたかどうかははっきりしないところがあるが、それはそれとして。

実は、イリジウムは軍の利用が多い衛星携帯電話サービスである。もともと、コンシューマー向けに売り出していて、日本でも「通話エリアは地球です」といってテレビCMを打っていた。しかし、端末機は大きくて重いし、そもそも「どこにいても電話を受けられる」ニーズがどれぐらいあったのか。結局、十分なユーザーを確保できずに経営が行き詰まってしまった。

そこで再建に際して打ち出した方針が、個人ではなく政府機関を主体とする、という戦略。なかんずく軍隊である。

といったところで、ちょっと考えてみてほしい。地球の表面のうち、おおむね7割は海である。そして、そこに人は住んでいない。しかし、衛星携帯電話は人が住んでいない海も含めた全世界をカバーするために、小型の通信衛星をたくさん、周回軌道に打ち上げている。あまり、割のいいビジネスには見えない。

ところが、軍隊というのは往々にして、人がいない場所、あるいは人が少ない場所に出かけていって作戦行動を行う。洋上にしても、艦艇が通信を確保したいというニーズは必ずある。もちろん短波通信という手もあるが、伝送能力に限りがあるし、電離層の反射を利用するから、時間帯によって伝搬状況が変わったり、スキップ・ゾーンが生じたりといった問題もついて回る。

その点、衛星携帯電話のほうが使いやすい。しかも、もともとデジタル通信だからデータ通信も行いやすい。そして、軍用通信機と比べれば衛星携帯電話の端末機は小さい。

というわけで、特殊作戦部隊などを中心として衛星携帯電話を利用する事例が発生した。米国防総省の契約情報を見てみると、ときどきイリジウム社に契約を発注している様子がわかる。近年だと2017年11月に契約があり、基本契約で891万ドル、オプション契約まで含めると4581万ドルというから、かなり大きい。

こうやって需要を獲得できたので、イリジウム社は衛星の更新も行えることとなり、新しい「Iridium NEXT」衛星の計画を進めているというわけだ。

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