中国のメディアは、北海道大震災を自国民にこう伝えた

中国のメディアは、北海道大震災を自国民にこう伝えた

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/09/16
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4つの傾向

9月6日午前3時8分に北海道で発生した最大震度7の大地震は、40人以上の死者を出し、一時は道内の全域が停電状態に陥るという非常に深刻な被害をもたらした。その数日前に関西地方を襲った台風21号の被害と合わせて、日本の天災は中国メディアでも大きな話題となっている。

今回の記事では、北海道地震に対する中国側の報道について考察を加えてみることにしよう。被害の規模をストレートニュース的に伝えたものを除くと、中国側の北海道地震の報道には大きく4つの傾向が見られた。

1.「中国人は見た」被災体験系

在日中国人や中国人観光客がみずから体験した地震の様子を詳しく述べる内容だ。例えば国営通信社・中国新聞社(中新社)のWEB版は「北海道の華僑同胞が地震の驚愕の一夜を振り返る」と題した記事を掲載している。

25年前に上海から来日して札幌市北区で診療院を開いている陶さんの屋内ではものが散乱して停電した、10年前に来日した札幌市白石区の王さんの家の被害は大したことがなく電気も午後に復旧した――、といった話だ。掲載された被災体験談の一部を意訳して引用しよう。

”商店はまだ営業していたが、列に並ぶ人たちが非常に多く、王さんは列の周囲をうろうろ歩き回ってみたが列の尻尾を探し出せずあきらめた。停電しているので店では現金のみを取り扱っており、店員は電卓で精算していた。

民衆はみな非常に我慢強く待っており、混乱はまったく見られなかった、街では救急車と消防車が次々に走り、頭上には絶えずヘリが飛んでいた。日本のメディアと政府はさまざまなチャンネルを通じて災害情報を報じており、王さんは日本の災害対策の経験は学ぶに値すると感じた”

”王さんを感動させたのは、地震後に近所の数人の老人がみな王さんたちの様子を見にやってきたことだった。彼らは、外国人だったら地震はいっそう怖いだろうと思ったらしく、「困ったときは言いなさいよ」となぐさめてくれた。この数人の老人の話は王さん一家を温かい気持ちにし、心配を減らすことになった”

これ以外にも国営通信社の新華社や、在日華人メディアの『中文導報』などが、北海道を旅行中の中国人や在日中国人に取材して、彼らの被災体験を伝えている。

良くも悪くも、中国の国営通信社である新華社や中新社の海外中国人への取材ネットワークの強固さを感じさせる話だが、今回の報道ではおおむね、札幌の街が電気を失ってもなお秩序だっていることや、コンビニエンスストアなど商店の店員たちの驚異的な努力を伝えるものが多かった。

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※9月6日、被災地での外国人犯罪発生のリスクを煽るツイッターの投稿。右派系のネットユーザーが書き込み、炎上した。

北海道地震に限らず、近年は大規模な災害の発生時に、在日外国人の被災地での犯罪リスクが、ネット上などでさしたる根拠もなく煽られる例も増えている。

だが、排外主義的なデマが広がって、被災地においてリアルで差別的な対応をおこなう人が出た場合、その行為が「国際的な震災報道」として大きく報じられる可能性があることは留意しておいたほうがいいだろう。

「電子マネー使えず」への強い関心

2.救援体制や避難所の様子を伝える系

次に目立つのは日本国内の救援体制や、避難所の様子を伝える報道だ。例えば北京の大手紙『新京報』は9月7日付けで「北海道で震度7 日本の避難所における生活とはどういう体験なのか?」と題した記事を掲載している。

避難所で一夜を明かした在日中国人の社会人や中国人留学生に尋ねたり、日本の新聞報道を引用する形で、日本の大規模災害対策のありかたを詳しく伝えるという、日本理解の視点からもなかなか意義を覚える長文の記事である。

記事では、日本の被災地の避難所では生活に必要な物資が提供されていること、平時から避難所が指定されており大きな看板が立てられていること、日本国内にこうした緊急時の避難所が数多くあること等を紹介するいっぽう、日本側報道をベースに、避難所での痴漢や窃盗の問題や、トイレの衛生問題なども伝えている。

ほか、日本のメディアの災害報道についても伝えており、被災者の生活上の情報を多く伝えている点を特筆すべき話として記している。停電状態でスマホの電源が切れても、新聞さえ読めば情報を得られる点を肯定的に取り上げる形だ。

中国で大規模な地震や風水害が発生した場合、メディアは最初の3日くらい、活躍する人民解放軍兵士の姿や現地を訪問して「ぬくもりを送る(=送温暖)」党指導者の姿を取り上げ、その後は何事もなかったかのように通常報道に戻るのが通例である。

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※2013年4月、四川省で発生した大地震の被災地を訪問して「ぬくもりを送る」党の偉い人(李克強総理)の姿を報じる中国報道。それよりも被災者のためになる情報を伝えてあげるべきでは……。

被災者向けの情報発信をおこなう日本の新聞の報道姿勢についてわざわざ紹介しているのは、当局のメディア統制に対する『新京報』なりの消極的な批判だと言えるかもしれない。

3.インフラ問題を論じる系

上記の『新京報』と同じく日本の報道をかなり詳しく調べた上で「防災強国の日本でなぜ大規模停電が起きたのか」と題した長文の論説記事を出しているのは、上海に拠点を置くネットメディア『澎湃新聞』。同紙はネットメディアとはいえ習近平肝煎りの媒体と見られており、豊富な人材と資金力を武器にハイレベルな記事を出すことがある。

いっぽう、娯楽記事も多いネットメディアの『東方頭条』に掲載されたコラムが興味深い。こちらは日本のネットの投稿をベースに、Apple payオンリーでキャッシュレス生活を送っている男性が停電で「詰んだ」ことを紹介する内容だ。

記事中ではキャッシュレス経済が進んでいるスウェーデンにおいても、中央銀行の頭取が戦争や天災の際のキャッシュレス社会の脆弱性を指摘したことが紹介されている。

中国ではスマホを用いた電子決済(アリババ社が提供するアリペイなど)が非常に広く普及しており、都市部ではほとんど財布や現金を持たずに出歩くような人も少なくない。天災の際に思わぬ落とし穴があるというわけで、関心をそそられるテーマだったのだろう。

もっとも、店舗側に有電の電子リーダーが必要な日本のApple payや非接触型ICカード決済(さらにはクレジットカードも同様だ)と違って、中国のモバイルペイメントは店舗にあるQRコードをスマホで読み取る方式なので、スマホの電池と電波さえ無事なら、上記の札幌の男性のように「詰む」ことは考えづらい。

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※広東省広州市内のスラム街の八百屋。壁に張られたQRコードを読み込んでスマホ決済が可能。確かに、停電しても問題なさそうだ。

緊急時の信頼性はアナログな現金が一番だとはいえ、実は停電時の対応能力は、クレカや非接触型ICカードよりもアリペイのほうが「強い」ことが判明したのは、ちょっと意外な話ではある。

4.「海外にいても国民を救うエラい中国」アピール系

地震の数日前に発生した、台風21号による関西空港の孤立化事件も含めて、近年の中国において国外の天災が報じられる際に最も顕著なのが「エラい中国」アピールだ。

関空事件の際には、中国大使館がいち早くバスを手配して中国人客を救出した……ということになっているのだが、中国ではこの事件が大きく報じられ、「偉大な祖国」「中国よ、愛している」といった旅行客自身のSNS投稿のスクリーンショットが、さまざまな報道で広く出回った。

北海道地震においても、9月8日付けの新華社が「雪中に炭を送るぬくもり 地震後の中国人旅行客が札幌で祖国と同胞より温かい配慮を受ける」と題した記事を載せるなど、領事館の取り組みを肯定的に報じる記事が散見される。

例えば上記の新華社記事によれば、札幌華僑会館が同胞を対象に無料の食事と宿泊を提供したとのこと。三重県から北海道への旅行中に被災した中国人留学生の鄒さんは「ここに避難して本当によかった。シューマイと小龍包を食べられるんだ!」と喜んだそうである。

もっとも、被災した鄒さんがシューマイを食べただけなら美談なのだが、新華社記事の後半部分は、華僑総会と合わせて領事館への感謝の声が上がっていることを強調する内容だ。読者である中国国民向けに「国家からのご恩」を強調する目的があるらしい。

また、中国メディアが台湾の報道を引用する形ではあるが、関空や北海道の被災地で中国人がすぐに領事館の救援を受けているのに台湾人は放っておかれている――、という在日台湾人や台湾人旅行客の不満をあえて紹介するような記事も少なくない。

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※関空孤立事件に関連して、台湾の駐日代表処を叩きまくる中国の『環球時報』WEB版。台湾側の自国民救援が後手に回ったのは確かだが、むしろ中国側の意地の悪さが目立つ。

日本の天災報道にかこつけて、台湾の蔡英文政権を批判したり、中国人がいかに優遇されているかを中国国内向けにプロパガンダするのが、「党の喉と舌」の役割を担わされている中国の大手メディアの仕事なのだ。

(なお、孤立化した関空に中国領事館がいちはやくバスを送り込んで中国人観光客を救出したとの情報については、一種の官製フェイク・ニュースだったとする「産経新聞」の報道がある。http://www.sankei.com/smp/world/news/180911/wor1809110024-s1.html)

東日本大震災報道との違い

近年の日本で発生した最大の大規模災害と言えば、2011年の東日本大震災がある。だが、この2011年当時と、今年2018年の中国の報道を比較すると、わずか7年の差にもかかわらず明らかな傾向の違いがあるようだ。

例えば、東日本大震災のときは大災害でもパニックに陥らない日本人や日本社会の「民度」の高さを称賛するような中国側報道が目立ったが、今回はこの手の称賛はそれほど多くない。

いっぽうで「中国領事館は被災した同胞の救援に励んでいる」という、自画自賛的に中国国内向けのナショナリズムを煽るような論調は、以前と比べて増えた印象がある。中国国内の災害報道とより近い報道姿勢に変わったとも言えそうだ。

日本国内にいる中国人の声を拾う報道も、東日本大震災のときよりも増えた。2011年当時は中国人の訪日観光旅行がそれほど一般化していなかったことや、今回の被災地が中国人の間で旅行先として人気が高い北海道だったことも背景にあるのだろう。

さらに意地悪な考察をすれば、東日本大震災の主要な被災地である東北地方沿岸部にいた中国人の多くは、本国では低所得層に属する外国人技能実習生だった。対して、今回の北海道地震で被災した中国人には旅行客や留学生(つまり中産階層以上の人)が多く含まれている。中国から見てより重要度が高い人たちが被災しているので、扱いが大きいのではないかという邪推もできなくはない。

2011年当時の中国は胡錦濤政権で訪日旅行は控えめだった時代、いっぽうで現在はイデオロギー色が強い習近平政権下で訪日旅行が活発化するようになった時代――。とまあ、たった7年の違いであっても、日本の天災についての中国側の報道の論調は大きく異なってくるのだ。

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