制球難で勝てない阪神・藤浪に重なるスティーブ・ブラス病

制球難で勝てない阪神・藤浪に重なるスティーブ・ブラス病

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  • 更新日:2017/09/16
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阪神の藤浪がまたしても四死球で崩れた。その制球難はメジャーのスティーブ・ブラス病に重なる(資料写真・黒田文夫)

阪神の藤波晋太郎(23)の苦悩が続いている。12日に先発した巨人戦も、4回、坂本勇人に与えた死球をきっかけに崩れて失点を重ねてKOされ、また勝てなかった。「右打者に変化球が抜ける」という課題が克服できていない。今季は開幕から制球が安定せず、5月末に2軍落ちするまで、7試合に登板し40回2/3で36四死球。8月27日の巨人戦でも七回、村田への死球から崩れ、6回1/3を3安打3失点。5日の広島戦も4四死球が絡み4回5失点。5月4日のヤクルト戦以来、勝ち星から見放され、また2軍に落ちた藤浪が持つ問題は、メカニックか、メンタルか。もしそれが後者ならば、実に厄介だ。

かつてパイレーツに、スティーブ・ブラスという投手がいた。

1968年から72年までの5年間で78勝44敗、防御率3.05をマークし、72年には19勝8敗、防御率2.49で、ナ・リーグのサイヤング賞投票で2位に入っている。

ところが、73年は3勝9敗と低迷し、88回2/3イニングを投げて、84個も四球を与えている。それまで9イニングあたりの四球数は3.0。それがいきなり8.5に跳ね上がった。74年はメジャーでの登板機会がわずかに1試合。5回を投げて7つの四球を与えると、翌年の春、32歳で引退した。

好投手だった彼に何があったのか。1988年6月16日付のシカゴ・トリビューン紙に彼のコメントが載っているが、「今も原因は、分からない」と答えている。

当時、フォームを徹底的に見直したそう。心理学の先生にもアドバイスを仰ぎ、瞑想もした。あらゆることを試みたものの、ブルペンでは良くても、打者が立つとボールは荒れた。

いずれにしても、以来、大リーグではそうした突然の症状をスティーブ・ブラス病と呼ぶようになっている。

苦しめられるのは、なにも投手だけではない。知られるところではドジャースなどで活躍し、オールスターゲームにも5度選出されたスティーブ・サックス(1981〜1994)、 ツインズ、ヤンキースに所属したチャック・ノブロック(1991〜2002)らがいる。二塁手だったノブロックは外野に転向してキャリアの延命を図ったが、長くはもたなかった。サックスは、父親の死をきっかけに克服した。

1999年にデビューしたリック・アンキール(当時カージナルス)という投手も明らかなスティーブ・ブラス病だった。

リーグでも屈指のプロスペクトとみられていた彼は、2000年から先発ローテーションに入ると11勝7敗、防御率3.50で新人賞の投票で2位となるなど、期待に違わぬ活躍を見せている。

ところが、その年のプレイオフでおかしくなった。アンキールはブレーブスとのナ・リーグ地区シリーズ第1戦に先発すると、2回までは良かったが、6点をリードして迎えた3回、投手のグレッグ・マダックスを歩かせてから崩れ、この回だけで4つの四球と5つのワイルドピッチを記録した。

彼は、続くメッツとのナ・リーグ優勝決定戦でもチャンスを与えられ、第2戦に先発したものの、初回に20球を投げたところで降板。そのうちの5球がバックネットに当たった。

翌年になると症状がさらにひどくなり、6試合に先発した段階で、24回で25四球と荒れた。降格となった3Aメンフィスでも、3試合に先発し4回1/3イニングを投げて、17四球、12ワイルドピッチと散々。事実上、彼の投手生命はそこで終わっている。

キャッチャーには投げられても、牽制が出来なくなったのが、カブスのジョン・レスターだ。

昨年のワールドシリーズ第1戦。一塁走者のインディアンズのフランシスコ・リンドーアが大きくリードを取ったが、レスターは一塁へ投げる振りしかできなかった。

「スポーティングチャートデータ」によると、レスターは2010年、牽制を98回しているが、11年は70回、12年は5回、13年は7回、14年はゼロとなり、15年4月13日に牽制するまで、66試合連続で牽制をしなかった。およそ2年ぶりの牽制は大暴投だった。

かつてレスターが所属していたレッドソックスは、2011年の終盤にはそのことに気づいた。レスターは2014年7月にアスレチックスへトレードされたが、アスレチックスもそれを承知していたという。いや、全球団が気づいていたのだ。

レスターは、例えば、バント処理をした後の一塁送球にも難があり、レッドソックスやアスレチックス、そしてカブスももちろん、矯正に乗り出した。

今年5月17日付の「スポーツ・イラストレイテッド」誌によると、レッドソックスは一塁へけん制する際も、ホームへ投げるのと同様、左足から右足にしっかり体重移動をするように指導し、また、捕手のミットを狙うのと同じように、一塁手の“腰のあたり”ではなく、一塁手のユニホームのボタンを狙え、と指示したそうである。

ところが何一つ効果がなく、14年のオフに契約したカブスは、15年のシーズンが始まる頃にはもう、修正をあきらめたという。

今年、そんなレスターにもついに転機が訪れる。

6月3日、カージナルスのトミー・ファムが、いつものように一塁で大きなリードを取った。完全に投げてこない、いや、投げられない、となめてかかったのだ。しかし、その距離が6メートルに達しようかというタイミングで、レスターが牽制すると、タッチアウト。彼が長いトンネルを抜けた瞬間だった。

理由について本人は語っていないが、先程紹介したスポーツ・イラストレイテッド誌は、遅かれ早かれ、彼は克服するとみており、主に2点、理由を挙げていた。

まずは、彼が問題を認めたこと。昨年12月、大リーグは新労使協定が締結されると、レスターはこう自虐的にツィートした。

「一塁に投げることが禁止されればよかったのに」

さらにファンから、牽制専門の投手が必要ではないかなどと提案されると、それに同意し、積極的に弱点を晒すようになった。

また、同誌は、ジョー・マドン監督の対応も評価していた。

先ほども触れたが、カブスも当初は修正を試みた。しかしマドン監督は、「ホームに投げることに集中してくれればいい」と、不問にしている。そこに気を取られて、本来の投球にまで影響が出たら、本末転倒というわけだ。その言葉が嘘ではないことは、こんな起用にも示されていた。

くだんのワールドシリーズ。第7戦の5回、2死一塁の場面で、マドン監督はレスターを投入したのである。
信頼感もまた、レスターの支えになったか。
いずれにしてもこれまで、スティーブ・ブラス病を克服できた人もいれば、できなかった人もいる。症状の程度もきっかけも、人それぞれ。少なくとも、こうすれば治る、という特効薬はない。

果たして藤浪の中に潜む病巣とはなにか。それを追い出すすべはあるのか。やや大げさに言えば、彼は今、キャリアの岐路に立っているといえるかもしれない。

(文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)

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