NHK植木等ドラマに抱く残念な違和感...『トットてれび』との決定的な差

NHK植木等ドラマに抱く残念な違和感...『トットてれび』との決定的な差

  • Business Journal
  • 更新日:2017/09/16
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コミックバンド「ハナ肇とクレージーキャッツ」のボーカルとして活躍し、映画『無責任シリーズ』などをはじめ数々のヒット作を生み出した、昭和を代表する喜劇人・植木等。その植木等を主人公にしたドラマが、土曜20時台にNHKで放送されている。

タイトルは『植木等とのぼせもん』。植木等の付き人だった小松政夫が書いた小説『のぼせもんやけん』(竹書房)を原案とするドラマだ。

現在、第2話まで放送されており、第1話では「スーダラ節」のヒットによって人気者に駆け上がっていく植木等が、「無責任男」というイメージが世間に定着していくことに対して戸惑う姿が描かれた。

●植木等役はヒカキンでもよかった?

企画自体は、昨年放送された黒柳徹子の自叙エッセイを原案にドラマ化した『トットてれび』(NHK)の成功を受けてのものだろう。黒柳の目を通して描かれたNHK開局時のテレビ黎明期の物語は見応えがあり、当時の空気を再現しようという試みが高い評価を受けた。

それに比べると、『植木等とのぼせもん』は昭和歌謡こそたくさん流れるが、植木等とクレージーキャッツの立ち位置を再定義しようという批評的な試みはあまり感じられない。

おそらく本作は、付き人の松崎雅臣(のちの小松政夫)からみた人間・植木等を描こうとしているのだろう。第2話で、息子を心配して上京してきた母親を追い返した松崎雅臣(志尊淳)に対して、「親は大事にしないといけない」と説教する植木等の姿は、人情ドラマとして感動できる。

だが、「その見せ方は違うんじゃないか」と思う。植木等もクレージーキャッツも、とてもアナーキーな存在だった。人間・植木等ではなく、喜劇人・植木等の圧倒的なパワーを見せてこそ、今のテレビでやる意味があるのではないかと歯がゆい気持ちになった。

脚本は『リンダリンダリンダ』(ビターズ・エンド)や『マイ・バック・ページ』(アスミック・エース)といった山下敦弘監督の映画に参加している向井康介だが、彼の持つオフビートでシニカルな笑いによって人間を掘り下げていく作家性は、あまり生かされてない。実話を基にしているという難しさがあるのだろうが、普段は連続ドラマを書かない向井がせっかく執筆しているのだから、今までにない試みが見たい。

植木等を演じる山本耕史は、歌唱シーンを含めて植木等の“完コピ”をしており、見ていて感心する。だが、そこに植木等が持っていたアナーキーな迫力はない。いっそのこと、既存の俳優を起用するのではなく、ユーチューバーのヒカキンに植木等を演じさせるくらいの大胆さがあってもよかったのではないかと思う。

しかし、とても残念なことだが、植木等の評伝がスラップスティックなコメディとしてではなく、泣けるヒューマンドラマとしてつくられてしまうこと自体が、今のテレビドラマの状況をよく表しているのだろう。

●急増する、昭和の芸能史を語るドラマ

前述した『トットてれび』を筆頭に、実在した芸能人を主人公にして昭和の芸能史を語ろうとするノスタルジックなドラマは近年増えている。つい先日も、『24時間テレビ 愛は地球を救う』(日本テレビ系)で作詞家・阿久悠の生涯を描いたドラマ『時代をつくった男 阿久悠物語』が放送された。

連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK)にも、1960年代のテレビ局が繰り返し登場する。舞台こそ現代だが、倉本聰が脚本を担当する帯ドラマ『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)も昭和の芸能文化に貢献した俳優や脚本家が暮らす老人ホームが舞台であり、劇中では過去の映像と共に当時のテレビ番組のことが繰り返し語られる。

これらの作品は、どれもドラマとしては丁寧なつくりでレベルが高い。しかし、見ていてゲンナリするのは、懐古主義が全面に出ていて、テレビの“お葬式”を見せられているような気持ちになるからだ。

つくり手の気持ちとしては、テレビ黎明期の昭和のテレビや芸能人たちを描くことで、当時のエネルギーを今の時代にも再現したいという気持ちがあるのかもしれない。だが、残念ながら今のテレビ業界は視聴者と共に高齢化しており、そんな気力はない。

●テレビ黎明期に似た、ユーチューバーたちの熱量

今、その熱量があるとすれば、それはテレビ業界の人たちが忌み嫌っているユーチューバーたちの表現だ。彼らの表現は拙くて、くだらないものも多い。しかし、少人数で制作し、いつでも動画を配信できる機動力によって、それこそテレビ黎明期にも似た熱量を放っている。

だからこそ、若い視聴者たちはテレビではなく「ユーチューブ」などの配信メディアに注目している。同時に、ドラマや映画といったつくり込んだ映像を配信する場所としては「ネットフリックス」や「アマゾンプライム・ビデオ」などの定額動画配信サービスが台頭してきており、テレビの存在感は年々厳しいものとなってきている。

そういった新たな才能への批評性、つまり過去のテレビ芸能史を振り返ることで、現代のユーチューバーを撃つようなドラマになっていれば、まだ応援したくなるのだが、現状では高齢者が昔をなつかしむための番組以上のものにはなっていない。

個人的にはクレージーキャッツも植木等も大好きで、彼らの表現を振り返る価値は十分にあると思う。だからこそ、安易なヒューマンドラマに落とすのではなく、「もっと乱暴にいこうよ」と思ってしまうのだ。
(文=成馬零一/ライター、ドラマ評論家)

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