小泉改革は「大いなるまぐれ当たり」だったのか

小泉改革は「大いなるまぐれ当たり」だったのか

  • JBpress
  • 更新日:2018/01/12
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「原発ゼロ法案」を発表する小泉純一郎元首相(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

小泉純一郎元首相が顧問を務める民間団体が「原発ゼロ基本法案」を発表した。その中身は「原発の即時停止」や「2050年に再生可能エネルギー100%」などの荒唐無稽な話だが、小泉氏の思い込みの強さは郵政民営化を唱えたころと同じだ。

かつて「小泉改革」を成功させて多くの国民の支持を得た元首相が、こんな空想を繰り返しているのは奇妙である。小泉改革は「変人」の首相が、たまたま成功した「まぐれ当たり」だったのだろうか。郵政民営化や構造改革とは何だったのだろうか。

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郵政民営化は無意味だった

小泉氏が2001年4月に自民党総裁に当選したのは、3度目の挑戦だった。それまで泡沫候補とみられていた彼が勝ったのは、「自民党をぶっ壊す」という既成秩序への挑戦で地方票を集めたためだった。

それは本来は「田中派(経世会)をぶっ壊す」という意味だった。田中派の支配する郵便貯金の資金が大蔵省の資金運用部に預託され、その資金が財政投融資計画(財投)として特殊法人などに低利で融資されていた。国鉄の37兆円以上の長期債務も、ほとんどが財投の融資だった。

財投の赤字は政府の一般会計予算から補填されたが、その中身は国会で審議されないので、不透明な「第2の予算」として田中派の資金源になっていた。これが財政をゆがめているので郵政事業を民営化すべきだ、というのが当初の小泉氏の発想だった。

それは正論だったが、1990年代に大蔵省は財投の赤字を防ぐために資金運用部を通さない自主運用を増やし、資金運用部は2001年4月に廃止された。小泉首相の誕生したときは、彼のぶっ壊そうとした田中派の貯金箱はすでになく、民営化は無意味だったのだ。

「郵政選挙」で小泉氏が圧勝して2007年に郵政3事業が民営化されたときは、すでに自主運用になっていた郵便貯金が、ゆうちょ銀行と看板を掛け替えただけだった。財投も民間資金で運用され、残っていたのは郵便事業だけだった。

しかし小泉政権の5年半に日本経済は大きく回復した。それが郵政民営化のおかげでないとすれば、何が原因だったのだろうか?

「構造改革」とは不良債権の清算だった

小泉氏が首相に就任したときは、1998年に金融危機が起こったあと、金融機関の不良債権処理が続いていた。普通は不況のときは財政支出を増やすが、小泉首相は極端な「財政タカ派」だった。下の図のように、2001年からの小泉政権で財政支出は大きく減った。

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日本の財政支出(GDP比・%)と実質成長率(右軸・%)、出所:IMF

(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52069

これはマクロ経済政策の常識では考えられないが、彼は「構造改革なくして成長なし」と主張して、財政支出を削減した。これについて当時は「日本経済を崩壊させる」という批判が強く、日経平均株価は2003年4月に7603円の最安値をつけた。

しかし2003年から成長率は上がった。株価もそれにつれて上昇し、2005年には日経平均は1万6000円台まで上がった。その原因は何だろうか。

それは構造改革だ、というのがよくある話だが、郵政民営化や道路公団の民営化などの制度改革は成長に貢献しなかった。郵政選挙の行われた2005年に、成長率はやや下がっている。

成長率が上がった2002年には、竹中平蔵経済財政担当相が不良債権の最終処理を強行した。90年代に銀行が不良債権処理を先送りしていたことが非効率な企業を延命したが、それを竹中氏が「ハードランディング」させたのだ。

これは当時は評判が悪く「清算主義」などと批判されたが、結果的には2003年以降の「V字型回復」の最大の原因だった。つまり構造改革とは、不良債権の清算だったのだ。

大事なのは「景気」ではなく「効率」だ

当時も今も、小泉氏は経済政策の中身はほとんど知らない。構造改革も原発ゼロも、彼の信念のようなものだろう。幸いなことに今の彼は信念を実行する権力はもっていないが、かつての彼の成功の原因を考えることは重要である。

それは景気刺激で経済の効率は上がらないということだ。安倍政権の経済政策は、小泉首相の登場する前の小渕政権のように財政も金融もジャブジャブだが、成長率は上がらない。金余りでも実需が増えないので金利はゼロに張り付き、物価も上がらない。

他方、小泉首相は不況期に緊縮財政を続けた。竹中氏によれば、経済財政諮問会議には毎回、首相が出てきて「竹中のいう通りだ」と賛成してくれたという。諮問会議は単なるアドバイザリーボードで決定権はないが、その場で「首相親政」が行われたのだ。

小泉氏は橋本政権がつくった官邸主導の制度を利用したのだが、それを可能にしたのは、合理主義の竹中平蔵氏と霞が関の人事を知り尽くした飯島勲秘書官という類いまれな組み合わせだった。

安倍首相はプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化を先送りして財政出動を増やそうとしているが、これは小渕政権のような空振りに終わるだろう。政府債務をゼロにする必要はないが、問題は債務の大きさではない。財政赤字を圧縮するという意思が政権にないと、効率の悪い投資が増えるのだ。それは政府も企業も同じである。

日本経済の最大の問題は、潜在成長率や労働生産性で示される長期的な効率の低下である。今の日本の潜在成長率はゼロに近いので、成長率がそれに近づくのは当然だ。これは財政・金融政策では解決できない。逆に小泉政権のような緊縮財政でも、効率が上がると経済が回復する場合もある。

小泉改革の成功は不良債権処理という特殊要因による「まぐれ当たり」だったので、安倍政権がまねることはできないが、いま必要なのは景気刺激ではなく効率の向上だ。そのためには「痛みを伴う改革」も必要だというのが、小泉政権の教訓である。

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