「発達障害」の妻が何を言いたいのかわからない

「発達障害」の妻が何を言いたいのかわからない

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/06/28
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現代ビジネスの好評連載を書籍化した『されど愛しきお妻様』。おかげさまで売れ行き好調ではあるのですが、「奇跡の夫婦の物語」と捉えられてしまったことが残念と同時に、もっと実践的な内容も盛り込めばよかった、と反省。というわけで、どんな「すれちがい」のあるご家庭にも応用可能な超・実践的スピンオフ連載待望の第5回です。

*バックナンバーはこちらhttp://gendai.ismedia.jp/list/series/daisukesuzuki

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サザエさんはPMS

先に言うと、ハッキリ言ってお妻様との会話は楽しい。

大人の発達障害さんであるお妻様の旺盛すぎる好奇心は、眼に入る自然とか生き物とか、江戸の風俗史とか世界の魔境とかなんとか、いつだって現実的な家庭運営とか業務なんかとは別の方に広がっていて、毎日毎日、発見や学んだことの報告を僕に投げかけてきてくれる。細かい無駄知識も豊富で、こちらも勉強になることが多いし、つまらない定型発達さんの僕が仕事や家事のことばかり考えているのに比べると、本当に「豊か」なのはお妻様たち不定形さんなんだと、常々思うぐらいだ。

ちなみにこうして原稿を書いている前日の名言は、

「サザエさんがカツオぶっ叩いてるときは、PMS(月経前症候群)なんだな」

おお。その解釈は日本初じゃないか?

こうして日々お妻様名言(迷言)録を更新していくのは、彼女と暮らしている僕のひそかな楽しみだ。

良くも悪くも天然。かつてお妻様が脳にできた60㎜以上の悪性脳腫瘍の摘出手術を受けたときは、何よりも生き延びることを願うと同じくらい、そのパーソナリティが失われてしまわないよう強く願った。

けれどそれでも、不定形お妻様。やっぱり我が家のお困りごとの上位には「話が通じない」が君臨している。お妻様の言いたいことが分からない。こちらの言うことがお妻様に伝わらない。

今回はこの会話困難について掘り下げようと思うが、まずは前者、お妻様がなにを言いたいのか理解できないの方から攻めてみよう。

前述したように、お妻様の話を聞いているのは面白いが、それは聞き流しているときだったり、僕に興味のある話題の場合で、そうではないケースでお妻様の話を正確に理解しようとし始めると、とたんに難易度が上がる。

そういえば先日、お妻様が僕のまだ観ていない劇場版ドラえもんを観ていたので、試しにその内容をお妻様に聞いてみることにしよう。

※(以下、ほぼ会話そのままのリアル再現です・読者様には不快に感じられたら申し訳ない)

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「で、お妻様、昨日夜中に観てたドラえもん、どんなだった?」

「ネイルが剥がれちゃったから、寝るの遅れたゴメン」

しょっぱなから食い違うが、これは「僕の話がお妻様に伝わらない」なので、次回のネタ。気を取り直して、

「じゃなくて、寝たのが朝だったのはいいから、ドラえもんはどうだった?」

「ああ、南海大冒険な。ねじまき都市と宇宙漂流記の間の作品。声優はまだ昔のまま」

いやいや、その無駄に突出した記憶力はおいといおて、さっさと内容教えてくださいよお妻様。

「内容な。宝探しをしたいのね。で、宝箱の道具が出るって宝の地図を出したのね。ドラえもんの道具だから、だからピンポイントでしか出ない。指してもそこじゃなかったら出ないのね、宝の地図の。なんだけど、のび太君一発で当てちゃったので、5人で冒険するの、南の島の」

「お妻様……全然わからんよ」

「あ、前置き忘れちゃった。図書館で夏休みのグループ課題をやるのね。お決まりの四人でやってて、それでのび太君だけが海のことを調べてるから、みんな海の生き物とか深海とか調べるのなんだけど、のび太君はのび太君で宝島?海賊の宝とか調べるのね。それでいつも通りスネ夫とジャイアンに怒られてドラえも~んで、てれれれれれてれれれれれてれれれれれてれれれ♪(オープニング曲)」

歌わないで(涙)。

僕が求めているのは、今回の設定が「海賊の宝探し」だとして、どんな敵が現れてどんな仲間ができて、どんなピンチがあって最後宝は手に入るのかみたいな、ざっくりしたあらすじなのだけど、

「とりあえず宝探しなのね? で、最後に宝は手に入るの?」

「??」

「宝はなんだったの?」

「友達? いや、のび太君たちは宝は手に入らなくて、途中で出てくる海賊島に住んでる子は宝が見つかるんだけど」

「そうか……じゃあ、あと今回の敵とか、大事な出来事みたいのは?」

「劇中の挿入歌が武田鉄矢ではないぞ。えーと誰だっけ」

うーむ、それは物語にまるで関係ないし、挿入歌を誰が歌ってるか調べ始めなくていいから! けれどもああ、いつものお妻様だなあという感じ。

これが平常である。いやほんと。わかんないよ。

分かんないけれども実は、今回のこの会話はお妻様の話の中では比較的分りやすい部類。

少なくとも僕の側にも登場人物のドラえもん+4人とその人間関係や毎度似たような展開をするという予備知識を持ち合わせているからまだいいものの、そうでない場合は冒頭の「宝探しをしたいのね」の段階で「誰が?」となるし、いざその「誰」の説明が始まると、その「誰」役をやっている俳優のそれまでの出演作とか、演じる声優のこととか話が延々と続き(彼女もわからなければグーグル開いて調べ出し)、結局その役の人物が社長なのか研究者なのか子どもなのか侵略者なのかもわからない。

吟味しないで話している

一事が万事、お妻様の話はこんな感じで、こちらが聞き取ろうとしていることを聞き取れないことが多いし、お妻様が何か複雑な事情をこちらに説明したくても正しく伝わらないことばかり。これが我が家のお困りごとだ。

では改めて、ここでお妻様の話し方の観察をしてみよう。まず彼女の話し方には、こんな傾向が顕著である。

・質問されたらすぐに話し始める(えーと、ちょっと待ってみたいな間がない)。

・基本的に、こちらが黙っている限りノンストップでずっと話し続ける。

・自分が発した言葉から連想されることを次に話すので、話題が逸れていく。

・話に登場する人物や事象の説明に入ると、その話が詳細で長すぎ、本題に戻らずに会話が終わることもしばしば。

・脇道に逸れた話題が自分自身のことや自身の過去の経験だと、100%昔話に終始して本題には戻れない。

・ 自分の知っていることは相手も知っているという前提で話す。

・最終的に何が言いたかったのか、本人に聞くと「?」みたいな顔になる。

おお妻よ。君は「友達はちょうどいい距離の人がちょっとだけいればいい」なんていつも言ってるけど、こんな話し方しかできないあなたがこれまでの人生で味わってきた孤独とか、排除とか、苛立ちとか、お察しいたします……。そう言えばお妻様いわく、20歳ぐらいまでは気持ちが言葉にならない時は言葉より先に手が出そうなのを必死に我慢していたらしい凶暴お妻様だから、その苦悩なおさら痛み入る。

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とはいえ夫婦だからね。そこは何とかしたい! ということでよくよく考えてみると、お妻様の話が分かりづらいのは、一言、「吟味しないで話している」に尽きるのではないかというところに至った。

だいたい普通、2時間近い映画のあらすじを聞かれて、間髪入れずに話し始めるだろうか。通常は、1回物語の全体を思い出し、物語のエンディングまでを説明するためにどこから話し始めて、どこを要点としてかいつまむのかなどを「吟味」して話すのではないだろうか。時代や国といった設定、主人公の立場やタイプ、その他重要キャラ、出来事の起承転結など、考えもせずいきなり話し始めてすべて相手にうまく伝わる方が難しい。

が、お妻様の場合は、まず自分が物語について思い出せるところから話をはじめ、自分が話したことをフックに頭の中に思い浮かぶことを次々にそのまま口にしていき、それが物語を伝えるための本筋と外れているかは考えず、その脇筋の話に情報量が多ければ滔々とそれを語り続けるのだ。

あれ? でもそれって、お妻様の日常生活と同じじゃない?

そうなのだ。例えば本を片してきてほしいと僕に頼まれたお妻様が書架のある部屋に行って、なん十分も戻ってこないので見に行くと、案の定「本を片した書架の前に遭った昔の漫画を座り込んで読み返してる」とか。掃除中に拾った何かを飾り棚に置いたついでに、飾り棚の何かを磨き始めるとか。

何かの作業中にほかのものに注意を引っ張られて作業が中断したり、新たに始めた作業に集中して本来の作業をすっかり忘れ果てたりする。そんなお妻様の日常茶飯事は、実は彼女の会話そのものなのだ。

加えて言えば、お妻様はそもそも頭の中で自分の言いたいことやどんな言葉を選べばいいかなどを吟味することがそもそも苦手というか、「頭の中だけでは吟味できない」部分がある。これも、掃除の前に頭の中で部屋のレイアウトを考えるとかができない日常にちょっと通じる部分があるか。

だからお妻様は「言いたいことを整理してから話してごらん」というと途端に黙り込んでしまうし、「じゃ思い出したところから話してごらん」というと、逆に言葉が爆発したみたいに話しだすのだ。

「分かりやすく話せない」という不自由

実際には、不定形発達当事者が上手に自分の気持ちを相手に伝えられない理由には、さまざまな機能の不自由が複合的に絡んでいる。

お妻様の場合は、頭の中だけで話す内容を整理したり、話しながら次に話す言葉を同時併行的に考えるのに必要な「ワーキングメモリが低い」とか、注意障害で自分で話しながらも次々に別の話したい内容に注意がとんでしまったり、逸れた話題に注意が過集中してその話から本題に戻すことができなかったりとまあ、色々重なってこんなことになってしまっているわけだが、本連載毎度のことながら障害のお勉強は置いといて、家庭内における対策だ。

お妻様にもっと考えてから話そうとか、何を言いたいのか決めてから話そうというのは、少々難易度が高いし、それができたら不定形発達じゃない。むしろ彼女の抱えている「分かりやすく話せない」という不自由が「分りやすく話さなければいけないなら話せない」とか「話して分かってもらえない人は近寄らずシカトする」という具体的な障害になる方を危惧すべきだろう。

まあ、かつてのお妻様は自身に色々とやれないことがあることを僕にうまく説明することができず、僕も彼女の不自由を理解せずに責め続け、結果としてお妻様はハードリストカッターになってしまっていた。そんな過去もあるわけで、やれない対策を押し付けるのは、やはり「単なる不自由を障害にまでしてしまう」ことに他ならない。

付き合いたての頃はよく筆談していた

ということで、ではどうしよう。やはりこれは、聴き手(僕)の側が調整したほうが楽だということになる。具体的には「片付けられるお妻様になる」プロジェクトと同様に、お妻様の話を聞きながら、お妻様が話しやすいように「情報を整理」してやればいい。1歩目は、こちらが分からない部分をすべて質問で返すことだ。

「それは誰の話なの」「いつの話なの」「どこの話なの」「なにかをして、結果はどうだったの」。つまり、いわゆる『5W1H』(いつだれがどこでなぜどのように)がすっぽ抜けがちなお妻様のために、足りない情報は逐一聞き返す。

そして話題がある程度逸れたのに気づいたら、「さっきの話は結局どうなるの」と話の軸をもとに軌道修正したり、ある程度話がまとまったら「じゃあお妻様の言いたいことは◎◎なのね」と中間整理や総括してやることも大事だ。そして、お妻様の言いたいことをきちんと最後まで聞き取り終わるまでは、僕自身の感想などは返さない。僕の感想によって、お妻様の思考が本題から逸れてしまうからである。

要するに、やっぱり部屋の片付けと同じ、お妻様に入力される情報の量を制限し、注意が逸れにくい環境を作るよう配慮するのだ。

するとどうだろう。たったこれだけのことで、お妻様の話は俄然整理されて分かりやすくなり、いつもの倍は話すし、しかもやたら嬉しそうなのである。

だがこれ、僕としてはちょっと「え?」と思う反応だった。だって僕がお妻様の立場なら、話していることにいちいちこんな軌道修正とか聞き返しを突っ込まれたら、「いいから黙って聞いてよ」ってイライラしそうなものだ。ところがお妻様はこうして僕が逐一彼女の話にツッコミを入れると、とても嬉しそう話をしてくれるのだ。

どうしてかなと考えて、ちょっとどんよりした気分になった。

話が下手なお妻様は、自分の話を適当に聞き流されたあとに「何が言いたいのか分かんなかった」みたいに言われる人生をずっと送ってきているから、相手がきちんと正面から話を聞く姿勢になることだけでも、純粋に嬉しいみたいなのだ。そして、彼女の話を聞き流している主犯は、言うまでもない。人生の大半を一緒に過ごしている僕だ。

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そう言えば、20年近く前、付き合い始めの頃の僕たちは、よく筆談をしていた。1枚の紙にお互いに書きたいように文字を書いていくのだが、筆談というのは書きながら頭がまとまるし、発言した自分の言葉を確認しながら次に話すことを考えられるので、口頭の会話よりもお妻様にとってのハードルは低く、彼女が言いたいことをきちんと理解しやすく感じた。何より対面での筆談を「聞き流す」ことは出来ないから、僕もきちんとお妻様の話に向き合っていた。

一緒に暮らして職場も同じだったのに、PHS式携帯電話で超長文メールのやり取りを毎日していたし、インターネット普及期に流行ったICQ(チャットソフト)でも、同じ部屋に別々のパソコンで無駄に沢山の会話をしていたな。

言葉を選んで話すお妻様なんて面白くない

そうだ。昔はあんなに真正面から彼女の言葉を理解しようと、僕も努力していたはずだった。いつから僕には聞き流し癖がついたのだろう。いや、恐らく不定形発達で話が分かりにくいパートナーと生活していれば、どうしても聞き流し癖が常態化しがちだし、こんなことはやっぱり多忙な夫婦間なんかじゃ当たり前に起こりうることなのかもしれない。

なんて反省の一方で、昔のお妻様のことを思い出してみたけど、お妻様は出会った頃からこの性格。言葉を吟味しない=躊躇せずに思ったままを口にするお妻様は、縦社会とかフォーマルとかなんとかの場ではヒヤヒヤさせられることが多いけど、一方でズバッと歯に衣着せぬお妻様の物言いは時に痛快で、そこが彼女の魅力でもある。

もちろんそうした自分の話し方が相手を怒らせることもあることをお妻様は知っているから、相手がどんな人間なのかが見えるまでは話さないし、見えた結果不用意な発言を許さない=気を遣うタイプの相手の場合、お妻様はその人に近づきもしなくなる。

そうだ、言葉を選んで話すお妻様なんて面白くない。やっぱ君、そのままでいてもらった方がいいです。夫婦の会話では少し僕の側がしっかり聞く態度になる修正が必要だと思うけどね。

「というわけでお妻様、これから毎日10分、向かい合って筆談する時間を採ろうと思うのですが、どうですか?」

「大ちゃんちょっと倉庫行ってトルソー取って来て」

ああそうですか!! まあ20年一緒に居ればこんなものですよね!

次回は話が通じないの第2章、「僕の話がお妻様に通じない」である。まあ、「ドラえもんのあらすじ教えて」の返事が「朝までネイルやっててごめんなさい」で「筆談しよう」の返事が「トルソー取ってこい」ですから、これはこれで大変なのです。こうご期待。

〈次回に続く〉

【編集部と著者より書店様へのお願い】
現状、『されど愛しきお妻様』はノンフィクション棚に置いてくださる書店様ではよく売れていますが、医療棚に置かれてしまうことが多いようで、そちらは販売が苦戦中です。本書は、「家庭内の障害受容」の話でもありますが、それ以上に世の中のあらゆる「すれ違い夫婦」に届いて欲しい、どうしたらお互いに優しくなれるのかのメソッドを描いた本でもありますので、どうか配本位置をノンフィクション棚にして下さいますようにご配慮いただければありがたい限りです。

現代ビジネスの好評連載が待望の書籍化!愛と笑いと涙の18年間の軌跡。

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