共産党に忠誠誓う"中国人富豪"急増の理由

共産党に忠誠誓う"中国人富豪"急増の理由

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2017/09/17
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このところ中国の大富豪が、次々と共産党に対して忠誠を表明している。秋の共産党大会を控え、当たり前のよう思えるが、あらゆる産業のトップたちが、そのような表明しているわけではない。両者の違いは何か。その違いに目を向けると、中国の最重要海外戦略である「一帯一路」との関連が見えてくる。

有力トップが次々「党」の支持を表明

最近、中国の大富豪たちは、われ先に共産党に対して忠誠を表明している。対外大型投資で有名な複数の企業代表が、断固として中共中央の政策を支持する意向をメディアを通じて発表したのだ。

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7月29日、復星集団(フォースン・グループ)の郭広昌董事長は、パリから上海に戻る便の機内で、「(7月14日から15日開かれた)今回の全国金融工作会議と最近の対外投資、中国金融の混乱を整えることおよび規範化することは、非常に必要でありかつ時宜を得たものだ」と語った。巨大な投資を行っているから、飛行機の着陸も、もどかしかったはずだ。

不動産大手・大連万達集団(ワンダ・グループ)の会長で、中国の長者番付でトップに君臨する王健林代表は、「積極的に国家の呼びかけに呼応し、早急に主要な投資を国内に呼び戻す」ことを表明した。しかし、王代表はその少し前には、「みずから苦労して稼いだ資金は、投資したいところに投資する。誰にも邪魔はされない」と語っていたのだ。

海外で大型のM&A(企業買収)を進め、最近、ベールに包まれた株主提案権で西側メディアから注視されている海航集団(HNA・グループ)は、まだ直接的な意思表明はしていないが、公式ホームページのトップ画面に「初心を忘れず、党に従って歩む」という一文を掲載し、さらに「民間企業の空に党旗をはためかせよう」という文章まで載せ、「党に従って歩む」姿勢が画面上に踊っている。

中国では企業規模がいかに大きかろうと、党の呼びかけに従わないでいることはできない。たとえば安邦保険集団の呉小暉董事長は、先ごろ、「安邦が海外に投資した資金は、国際マーケットを通じて調達したものであり、政府が保有する外貨は1銭も使っていない」と語った直後、呉董事長は「個人的な理由でその職務を遂行することができなくなってしまった」と会社のHPに書かれ、辞職したと思われる。

「非理性的」な海外投資とは何か

中国政府で海外投資を監督管理する商務部(省)などは、2016年末から「非理性的」な海外投資に「急ブレーキ」をかけてそれらを抑制した。その効果は絶大で、影響の大きさに国内外の関係者は驚愕したほどだ。商務省の銭克明副大臣は7月31日に記者会見を開き、今年上半期の対外直接投資が前年同期比43%減の3311億元(約5.5兆円、1元=16.45円)だったことを明らかにした。

海外投資プロジェクトのうちのどれが「理性的」で、どれが「非理性的」なのか、その基準はどこに設定されているのか、それはずっと分からないままだった。7月18日になって、国家発展改革委員会の厳鵬程スポークスマンが、ようやく明確な基準を示した。それは「『一帯一路』政策と『国際生産能力提携(国際産能合作)プロジェクト』への投資と経営に対し、政府は特段の支援をする。同時に、関係部門は不動産、ホテル、映画産業、エンターテイメント産業、スポーツ産業などの非理性的な対外投資に対して引き続き規制をかけ、対外投資リスクを防止し、関連企業が慎重な決定を下すよう提案する」というものだった。

これで、状況は明らかになった。商務省の別の部門は具体的なデータを挙げ、今年上半期における不動産、文化、スポーツ・エンターテイメント産業などの海外投資が前年同期比82%減り、対外投資全体の3%に押さえられたことを明らかにしている。これらの数値から、ここにあげた産業がいわゆる「非理性的」な対外投資であることが伺える。

不動産王・王健林の「非理性的」な投資

この「非理性的」という表現は、表面上は企業活動を考慮したようにみえるが、実際上、こうした行為をおこなうと、国のタブーに触れてしまうことになる。これに関して、万達グループの王健林代表の例を見ていこう。

ブルームバークの報道によれば、万達グループの海外投資総額は2500億元(約4.1兆円)に達すると言われ、その投資プロジェクトは米国、欧州、豪州、インドにまたがり、ホテル、映画産業、エンターテイメント施設、奢侈品の買い付けなどが含まれる。なかでも同グループが買い付けたクロード・モネとパブロ・ピカソの絵画は、目玉が飛び出るほど高額だった。

同集団は短期間に2500億元という巨額の資金を、どこから調達したのか。はたして同集団にこれほどの自己資金があったのか。

メディアの概算統計によると、2016年末現在までに万達グループ対するメイン取引銀行の予信限度額は3629億元(約6兆円)に達し、このうちすでに実施済みの借入額が1448億元(約2.4兆円)で、2180億元(約3.6兆円)が未使用になっていた。同グループは5年前から海外M&Aに着手したが、金融機関各社は競ってローンの提供に乗り出した。この融資を後ろ盾に万達グループは世界中で買いに走った。つまり、資金は銀行から獲得したローンだった。王健林代表が声高に自慢したような「みずから苦労して稼いだ資金」ではなかったのである。

ここで王代表が弄した金融テクニックは説明しないが、簡単に言えば、万達グループと王代表は国内で「元」で債務を背負い、保有するのは海外の「米ドル」資産なので、資産を海外に付け替え、「移転」した形となっている。復興グループも万達グループと同様の方法を採用した。

こうした行為を、中国の外貨準備高が大幅に減少するなか、政府の監督管理部門がどうして容認できるというのだろうか。

にらまれる産業、にらまれない産業

最近、万達、復興、安邦各グループに対して、政府の査察、もしくは監督が入ったといううわさが絶えない。ただ、これらグループの海外投資状況を細かく検討してみると、たとえば美的集団(ミデア・グループ)や建設機械、重機を生産する三一重工、自動車部品メーカーの万向グループなどの大規模海外投資に比べて、規模はそれほどでもない。

「万達グループの王健林代表らが巻き起こした世論が、政府に目を付けられた」という訳ではないようだ。これより以前、福耀玻璃(ガラス)グループの曹徳旺代表は米国で大規模投資を行ったが、政府から何らの問責もされなかった。

大胆に推論すれば、カギとなる問題は「理性的」とか「非理性的」などということではなく、中国政府には最初から計画があったことがうかがえる。その計画に従わなかった者は厳罰を受けるのである。

では、その計画とは、なんだろうか。国家発展改革委員会のスポークスマンが明確に表明しているように、それは第一に「一帯一路」プロジェクト、2番目は「国際生産能力提携プロジェクト」であろう。

「一帯一路」関連プロジェクトを推奨

「一帯一路」とは、現在、中国が進行する最重要の世界戦略である。それは、欧米が主導する既存の世界システムを打破し、世界秩序を再構築するプロジェクトだ。

「一帯一路」はNATO(北大西洋条約機構)のように共通の敵に対する軍事同盟ではなく、またTPP(環太平洋連携協定)のような共通の貿易スタンダードに依拠して構築されたものでもない。その本質において「一帯一路」の吸引力と合法性は経済発展の基礎の上に積み上げられており、すべての加盟国が発展の機会、収益を上げる機会を共有すると中国政府は語る。

このため、監督管理部門は中国企業の海外投資に対して、まず「一帯一路」関連プロジェクトを政府として奨励し、その商業行為で国家戦略の推進をもくろんでいる。

しかし、国内からの「一帯一路」プロジェクトに向けた対外投資は、2015年下半期以降減り続けているのが現状だ。これは、ちょうど中国の外貨準備高の激減と資本の対外流出の時間と一致している。

中国企業が対外投資した資金はどこにいったのか。大部分が不動産、ホテル、映画産業、エンターテイメント産業、スポーツクラブの開発や購入に投下された。これらのプロジェクトは大半が「一帯一路」とは関係のない分野である。

こうした対外投資が国家戦略と齟齬をきたした場合、政府監督管理部門はその調整に乗り出してくる。これが、最近発生した一連の事件の根本的理由になっている。

国際生産能力提携で過剰生産能力解消を狙う

政府の計画にある二番目の方向性は、「国際生産能力提携プロジェクト」である。

この言葉は、いささか専門的にすぎるかもしれない。簡単に言えば、設備や生産ライン、生産技術、管理経験などを含む実体経済の対外輸出と国際協力のことを指している。これは監督管理部門が推進する「走出去(海外進出)戦略」の中核である。

この戦略は、グローバルな規模で起りつつある深刻な産業構造の変化に由来する。すなわち、世界規模におけるインフラ建設のブームのことを指している。

欧米の先進経済体のインフラはグレードアップが求められ、発展途上の経済体においては工業化と都市化が急務の課題となっている。同時に、中国国内では過剰生産能力の問題が深刻だ。そこで、生産能力の輸出は、国家戦略となっているのである。

いずれの分野の産業が海外進出を奨励されているのか。最も期待されているのは中国でも最高水準を誇る高速鉄道、原子力発電所だが、輸出するまでには多くの問題・障害が存在し、投資規模は大きいが、利潤の回収までの長い期間がかかるいという難点がある。

このためハイテク産業以外では、鉄鋼、セメント、化工、建材、非鉄金属、板ガラス、造船など、価格競争力を有する分野の海外進出も奨励されている。

2015年、『国務院の国際生産能力、設備製造の合作に関する指導意見』が通達され、これは事実上の政府奨励を受けることが可能な対外投資認可リストと見られている。

この通達を見ていくと、華為(ファーウェイ)、美的、三一重工、福耀ガラスなど、対外投資に積極的な企業がどうして政府から打撃を受けないのか、その理由が理解できる。要はこの指導意見に合致する企業群なのだ。

「国家戦略」がすべてに優先する

改革開放以来、外資の導入を国是としてきた中国にとって、対外投資は政府の監督管理部門にとっても、企業、個人にとっても経験不足は否めない。そのなかには国家戦略があり、企業の商業的な動機、政府からの利益を巡る競争、衝突、協調がある。

にもかかわらず、中国には、いかに市場メカニズムを採用し競争で勝負を決するといえども、覆すことのできない原則が存在している。それはすなわち「国家戦略」がすべてに優先するという事実で、それに従う者は栄え、逆らう者は滅びるのである。

万達グループの王健林代表、福星グループの郭広昌代表らは、誰よりもその原則を熟知していたから富豪に成り上がることができたわけで、いち早く共産党に従って歩むことを表明したのは、彼らの嗅覚が危機を回避するため、そうさせたというべきだろう。

陳 言(ちん・げん)
在北京ジャーナリスト。1960年、中国・北京生まれ。82年南京大学卒業。「経済日報」勤務を経て、89年より日本へ留学。1998年年慶應義塾大学経済学研究科博士課程修了。萩国際大学教授を経て2003年に帰国。月刊「経済」主筆を務める。2010年から北京で日本企業研究院を設立、執行院長に。

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