持続可能な商売をするためには、「復元力」が必要だ

持続可能な商売をするためには、「復元力」が必要だ

  • ハーバービジネスオンライン
  • 更新日:2018/10/21
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テーブルやカウンターは常にシンプルにしておく努力を(写真/小林正憲)

14年間、ひとりぼっちでオーガニック・バー「たまにはTSUKIでも眺めましょ」を営んできた。その間、俺はハサミを1個しか買ったことがない。アナタはこの14年間で、ハサミを何回買っただろうか? 家にハサミが何個あるだろうか? 今回は「復元力」について語りたい。

椅子や箸が整然と並んでいると乱雑に並んでいる店。第一印象、どっちがいい?

アナタが、バーや居酒屋に入ったとする。その時、どちらが気持ちいいだろうか?

A:椅子と箸が整然と並んでいる

B:椅子と箸が乱雑

当然だがAの方が気持ちいいだろう。その理由がわかるだろうか。カウンターの椅子が、規則正しく間を空けて並んでいてカウンターの奥まで入れてあり、背もたれがカウンターと並行して一列に並んでいる。カウンターの箸も規則正しく並んで、一列に揃っている。そこに入ってきたお客さんは「この店はちゃんとお客さんを気持ち良くお迎えする心構えがある」と無意識に察知するのだ。

お客さんが誰もいないのに、Bのように椅子も箸も乱雑に並んでいたら、入ってきたお客さんは「なんだか、乱れているな~」と感じるに違いない。それが店の第一印象になる。居心地良さそうな店かそうでないか、無意識の中でインプットされる。次もこの店に来たいかもう来ないかの、判断基準にもなるだろう。

そんなの当たり前の話で、椅子やテーブルや箸を綺麗に置いている店がほとんどだ。だから逆に、それができていないとしたら致命的である。だが、立ち飲み屋のような安くて薄利多売の店なら、雑多なほうがいい場合もある。店内が適度に乱れているほうが、誰でも気軽に入りやすいからだ。「どんなお客さんに来てほしいか」という店主側の想いによる。

さて、店内に入ったお客さんは、綺麗に並んでいる箸や置物や椅子やテーブルの上を乱す。椅子を出して座り、箸を使い、料理を食べ、酒を飲み……当然のことだ。お帰りの際に綺麗に椅子をしまい、テーブルを拭いて新しい箸を綺麗に並べてくれるお客さんがいたら、逆になんだか不気味だ。「お金が払えないので、洗い物させてください……」なんて言われかねない! お客さんは店内を乱すものなのだ。

持続できるかできないか、それは「復元力」にかかっている

そこで大切になってくるのが「復元力」。できるだけ早く元どおりに戻す力だ。どんなに忙しくても、復元することの優先順位を下げない。ちょっとした合間に元に戻す。例えば、注文に追われ調理に追われていても、オーダーのドリンクや料理を運んで厨房に引き返す時に椅子を元に戻すとか、飾り物の向きを戻すとか、トイレのスリッパの向きを揃えて戻すとか。それらを何気なしにするのだ。

そして手ぶらで厨房に戻らない。食べ終えているお皿や、飲み終わったコップや瓶を下げてくる。厨房の中に居ても、コンロに火を灯してフライパンを乗せて熱で温まるほんの10秒程度の間ですら、洗った皿を元に戻すとか、使った栓抜きを元あった場所に戻すとか、すべてが「復元力」に左右されると言える。

一人で店を回しているのだから、自分がやらなきゃ誰も元に戻しちゃくれない。誰も元に戻さなきゃ、店はどんどん乱れていく。開店時間には綺麗だった店の雰囲気も、夜が更けるにつれ猥雑になってしまうし、料理や酒の出るスピードもどんどん遅くなる。これでは、後から来るお客さんや、遅い時間に来るお客さんの第一印象が悪くなるし、サービスが低下する。そんな店が長続きするわけがない。

「復元力」は多くのプラスの波及効果をもたらす

さらに「復元力」の効用は、清潔な印象を保つだけにとどまらない。

1)作業効率を良くする

2)失くし物がなくなる

3)労働時間が減る

4)利益が増える

といったプラスの波及効果が出てくるのだ。一つずつ説明しよう。

1)作業効率を良くする

例えば、洗い物も「復元力」に左右される。お客さんのテーブルに、お皿やコップが出っぱなしだったとする。次にオーダーが入り、お酒を出そうとしたら「コップがない!」、料理を出そうとしたら「お皿がない!」となる。急いで客席に行き、コップや皿を下げ、洗って拭いて……という無駄なアクションが必要になる。その場しのぎの作業に追われ、悪循環に陥ってしまう。

よしんば、客席から皿やコップを下げていても、それらを厨房に溜め込み、使った鍋やフライパンなどを洗わないで貯めていると、一人で営む飲食店の狭い厨房は汚れ物だらけになり、野菜を切るまな板を置くスペースすらなくなる。

汚れ物の隙間に包丁や調味料が隠れ、それが必要な時にすぐに見つけられない。見つけても窮屈な場所に追いやられていて、取る時に調味料をこぼしたり、あっちを向いた包丁を掴む時に指を切ってしまったり……なんてことに繋がる可能性が高まる。

調味料をこぼしたら拭く時間も奪われるし、指を切れば痛い。バンドエイドを探して貼るのも自分だ。オーダーが入ってから片付けや洗い物を始めるとしたら、料理提供に余計に時間がかかってしまう。だから、調理をしながらお客さんと会話をし、常に洗い物を進めて元の場所に早く戻す「復元力」こそが、安全と安心を高め、オーダー提供のスピードを上げ、すべての作業効率を向上させるわけだ。

2)なくし物がなくなる

例えば、ハサミを使ったとしよう。すぐに元の場所に戻さなければ、次使うときに探さねばならない。探して見つからなければ、翌日、買いに行かねばならない。買いに行けばお金がかかる。「復元力」がないまま時を経てゆくと、なくすたびに買ったハサミが狭い店内に溢れることになる。なんとマヌケな話か!

地球資源に限りがある中で、アナタのニーズ以上にハサミを独り占めしてしまうわけだ。残念ながら、ハサミは両手両足で4つ同時には使えない。使いたい時に使えるハサミは1つだけだ。その他使わないハサミのためにこの星の資源を奪うのか。

「ハサミごときで!」と嘲笑するかもしれないが、そういう人は他のモノでもきっと必要のない余計な消費をしているはずだ。常に「復元力」を持ってハサミを置く場所を決めていれば、ハサミを見失うことはない。お客さんの席の足元になくしたハサミがあるとしよう。呑んで意見の相違が出た時、お客さんがそのハサミを拾って、店主を刺すかもしれない。大切な必需品を失うことが多々あるとすれば、きっといずれは「いのち」という側面からも、「生きる」という側面からも、アナタ自身を見失うだろう。と大袈裟に書いてみた(笑)。

3)労働時間が減る

例えば、またもやハサミをなくしたとしよう。探す時間が必要になる。厨房の下を覗き、冷蔵庫の裏を覗き、すべての引き出しを探し、すべてのポケットを探し、お客さんが盗んだのではないかと疑い、探し物は永遠に続く。結局見つからず、買いに行く。

その往復の移動時間の浪費、ハサミの色や素材や大きさや値段を選ぶ時間の浪費、無駄だとは思わないか。そんな時間があるなら、昼寝したほうがいい。読書したほうがいい。ジョギングしたほうがいい。ハサミで切り絵でもするほうがいい。

「復元力」がないと、時間が奪われることになる。労働時間が増えることになる。ハサミに限ったことではない。ラストオーダーを終えてお客さんがすべて帰った後、「復元力」で常に現場復帰ができていれば片付けがラクだし、なにより時間がかからない。だから早く家に帰って寝られる。翌日仕事に来てもすぐに仕込みから始められる。そう、「復元力」は仕事の時間を減らしてくれるのだ。

4)利益が大きくなる

例えば、またもやまたもやハサミをなくしたとしよう! なくすたびにハサミを買う。1つあれば用が足りるはずなのに、いくつもいくつもハサミを購入することになる。これを世間では「コスト」という。利益は、売上からコストを引いたもの。同じ売上なら、コストが小さいほうが利益が大きくなるわけだ。

ひとり飲食店では、利益はほぼ自分の給料である。ハサミを買うたびに給料を減らしているということだ。ハサミに限ったことでない。「復元力」があれば、1つのものを長く使えて、余計なコストを使わなくていい。結果として、自分の取り分が増える。もしくは、必要以上に売上を上げることにガムシャラになる必要がなくなる。無駄にガンバルほど、いのちをすり減らすことはない。

「復元力」は、賢く生き延びるための普遍的なスキル

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カウンターの椅子はいつも整然と並ぶよう、常に素早く復元する

元どおりに戻す「復元力」。それが、アナタのナリワイと、アナタの幸福度と、アナタが属する人類の持続可能性を、すべて高めてくれる。飲食店に限らない。「復元力」とは、古今東西、ビジネスにもプライベートにも通ずる、賢く生き延びるための普遍なるスキルなのだ。

ちなみに、当店「タマツキ」を営んだ14年間を通じて、1代目のハサミは開業前から使っていたものであり、使い果てた末に役割を全うして壊れ、2代目が未だに現役である。おかげで、店で政治の話や宗教の話でお客さんと意見の相違があっても、ハサミで刺されたことはない。

だから今、生きている。ハサミを買ったのはこの14年間で1個だけに留まっている。俺の身の回りには、マナ板でも、菜箸でも、14年間ナリワイとして活躍してくれたモノがたくさんある。暮らしの中でも、ホッチキスやバッグや服など、学生時代から使っているものがたくさんある。それらの長持ちしているモノがあるから、他のモノが少なくて済む。買い物が少なくて済む。それらはもはや消費物でもなく、モノですらもなく、友のような存在になっている。

【たまTSUKI物語 第10回】

<文/髙坂勝>

1970年生まれ。30歳で大手企業を退社、1人で営む小さなオーガニックバーを開店。今年3月に閉店し、現在は千葉県匝瑳市で「脱会社・脱消費・脱東京」をテーマに、さまざまな試みを行っている。著書に『次の時代を、先に生きる~まだ成長しなければ、ダメだと思っている君へ』(ワニブックス)など

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