日本人の深刻すぎる「セックスレス」をデータで検証する

日本人の深刻すぎる「セックスレス」をデータで検証する

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/09/15
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日本人は「セックス離れ」しているーーなんとなく、日々そう感じている人は少なくないが、裏付けとなると難しい。だが日本の不妊治療のスペシャリストで、慶應大学名誉教授・内閣官房参与(少子化対策・子育て支援担当)の吉村泰典氏によれば、さまざまなデータから「本当に」セックス離れが進んでいることが読み取れるという。

「当たり前のこと」を忘れている

現在、日本が未曾有の人口減少・高齢化社会へと突き進んでいることは、今さら改めて説明するまでもないでしょう。

合計特殊出生率、つまりひとりの女性が生涯に産む子供の数は、2005年に1.26となりました。この時は、役人やわれわれ産婦人科関係者の間では「1.26ショック」と言われたものです。

その後、出生率は1.44(2016年)まで回復したものの、出生数そのものは毎年「史上最低」を更新しています。事実、昨年度は1899年の調査開始以来、初めて新生児の数が100万人を割りこみました。

日本の人口を増やすには、合計特殊出生率を2.07まで引き上げなければならないことが明らかになっています。これはごく簡単に言えば、「すべての女性が2人以上の子供を産まなければならない」ということですから、簡単な目標でないことは容易にわかります。

あまりにも当たり前のことですが、子供が生まれる前には必ず(不妊治療による人工授精・体外受精などを除いて)男女の性交渉、つまりセックスが必要です。しかし今、日本人はこの「当たり前のこと」を忘れつつあるようにさえ思えます。

これから示すさまざまな統計データは、30代まで含めた若い世代の性行動の変化、いわゆる「セックス離れ」が深刻な状況に達していることを示唆するものばかりです。

不都合な真実

まず、下の2つのグラフをご覧ください。

最初のものは、代表的な性感染症であるクラミジアの感染者数の推移を示す統計です。男性・女性ともに、43766人の感染者がいた2002年以降、ほぼ一貫して減り続けていることがわかります。昨年の感染者数は24396人と、2002年の半分近くまで減っています。

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もうひとつは、人工妊娠中絶数の統計です。同じ時期の中絶件数は、2001年から減少の一途をたどっていることがわかります。2014年の件数は、やはり2000年前後と比べて半数近い18万1905件でした。

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これら2つのグラフの変化のしかたを見比べてみると、形がほとんど一致することがわかります。

もちろん性感染症も、人工妊娠中絶も、減っていること自体は悪いことではありません。事実、性教育関係者の間では、これらの結果を「避妊やコンドームの使用に関する教育がうまくいっている証拠だ」と評価する声すらあります。

しかし、コンドームの出荷数は近年、激減しています。厚生労働省が発表している薬事工業生産動態統計のデータによれば、2000年には341万8000グロス(注・1グロスは144個)が1年間に出荷されましたが、2011年には199万9000グロスと、実に4割も減っているのです。

これらのデータを総合すると、「避妊や性感染症予防の意識が向上した」などというポジティブな見方は、詭弁にすぎないと言わざるを得ません。今の若者は避妊を徹底しているというわけではなく、単に「セックスをしていない」のではないかーーこうした結論のほうが現実的な認識といえるでしょう。

不妊治療の前に、やることがある

若い世代がセックスをしない。たとえ結婚しても、セックスレスになる。これでは、いくら政府が「婚活」を推奨しようと、人口減少問題に歯止めをかけることは不可能です。放っておけば、日本人は近い将来「総セックスレス」とでもいうべき深刻な状況に陥ってしまうでしょう。

日本人の「セックスレス化」の何が最も大きな問題かというと、これは政策で解決することができないという点です。人の好き嫌いや気分、性的嗜好まで政治がコントロールすることはできません。もはや事実上、打つ手がないのです。

それにしても、なぜ現代の日本人は、これほどまでに「セックス嫌い」になってしまったのでしょうか。

少子化の要因は性生活の問題ばかりではありません。経済的な問題、待機児童問題、育児と仕事の両立の問題など、さまざまな要因があることは誰もが承知しています。さらに言えば、子供が生まれると、やらなければならないことがたくさん出てきますから、仕事に忙しい世代が子作りを控えたいと考えるのも当然かもしれません。

一方で、産婦人科医である私のところには多くのカップルから不妊に関する相談が寄せられますが、彼らの話をよくよく聞くと、不妊の原因が単なる「セックスレス」であることが少なくないのです。

「セックスをしていない」のに「子供ができないので悩んでいる」と言われても、何と言っていいのかこちらも困ってしまいます。そうしたカップルには、「不妊治療を考える前に、もっとセックスできるような環境づくりを考えてください」とアドバイスしています。

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バカげた話のように聞こえるかもしれません。しかし私には、この性行動の変化も日本の少子化の原因のひとつだと思えます。

しかも、往々にして「セックスが嫌だ」と言うのは、女性よりも男性の方なのです。彼らを見ていると、普段インターネット空間に浸りすぎて、実生活のことが後回しになっているのではないか、と言いたくなってしまいます。

現在は価値観が多様化していますし、他にも楽しいことがたくさんありますから、わざわざ面倒なセックスなんてしたくない、というのが若者の本音なのかもしれません。あるいは、バーチャル・リアリティの世界でしか人を愛せない若者が増えているのかもしれません。

私はいわゆる「団塊の世代」ですが、この原稿を読んでくださっている読者には、30代以下の若い世代の方も多いでしょうから、ぜひ性に関する認識やご意見を聞かせていただきたいものです。

結婚できない人の「男女格差」

もちろん、「セックスレス化」だけが日本人の少子化の原因ではありません。構造的な問題としては、結婚しない、あるいはできない人が増加していることが第一に挙げられます。

2015年に行われた国勢調査では、男性は30代前半で47.1%、30代後半で35%が独身。女性は同じく30代前半で34.6%、30代後半で23.9%が独身となっています。

つまり、30代でいえば男性の半数近く、女性の3人に1人が結婚していないということです。ちなみに1985年までは、30代後半の女性の未婚率は1割を切っていました。今は結婚が「マスト」から「オプション」の時代になっているということでしょう。それ自体は、個人の価値観の問題ですから、とやかく言うべきことではありません。

ところが、細かい部分を見てゆくと、ここにも看過できない構造的な問題があることがわかります。

まずは、生涯未婚率(50歳時点で結婚していない人の割合)に少なからず男女格差があることです。以前から、生涯未婚率には男女間で差がありましたが、近年その格差が大きくなっています。2015年の調査をもとに計算すると、生涯未婚の男性が4.3人に1人であるのに対して、女性は7.1人に1人となっています。

これも当たり前のことですが、男女の人口総数はそれほど大きく異なりません。それなのに、女性と比べて男性の方が圧倒的に「結婚できない人」が多いわけです。

さらにこの未婚の問題は、雇用と密接に関係していることもわかっています。

2013年の総務省による労働力調査によれば、例えば30代前半で正規雇用についている男性の未婚率がおよそ4割なのに対して、同じく30代前半の非正規雇用者男性の未婚率はおよそ7割と、正規・非正規の間で大きな差がついています。

一方、女性はその逆です。同じく30代前半だと、非正規雇用者のほうが未婚率が低く、正規雇用者はおよそ半数が未婚となっています。簡単に言えば、男性の場合は非正規雇用者が、女性の場合は正規雇用者がそれぞれ結婚しにくいという現状があるわけです。

これも統計から読み取れる事実ですが、実は日本のカップルは、結婚さえすれば平均して2人くらいは子供を産んでいるのです(これを完結出生児数といい、2015年の国立社会保障・人口問題研究所による調査では1.94人でした)。逆に言うと、日本人は「結婚しないと子供を産まない」国民ということですから、未婚者が増えること、しかも男女いびつな形で増えることは大きな問題です。

「生殖」から目を背ける日本人

「女性の社会進出が進んだから、出生率が下がった」という見方がありますが、海外では女性の労働力が高い国ほど出生率も高いということは、ご存知の方も多いでしょう。

そうした国、例えばスウェーデンなどでは、女性が働きながら子育てができる環境が整っています。またフランスでは、結婚していないカップルが子供を持つことも珍しくありません。日本でも、夫婦別姓をもっと普及させたり、婚外子に対する世の中の見方を変えていかなければならないと思います。

ちなみに、ヨーロッパで日本と同様、少子化に苦しんでいるのがイタリアとドイツです。ここに日本を加えると、嫌でも「三国同盟」という言葉が頭をよぎってしまいますが、イタリアとドイツは家族観や社会観も日本と似ているところがあります。

他にも、アジアでは香港(2015年の合計特殊出生率1.20)や台湾(同じく1.18)など、日本以上に少子化が進んでいる国もあります。

スウェーデンやフランスのように、少子化対策が功を奏している国と、日本のように少子化へ突き進む国は、どこが最も違うのか。私は、「子供を産むか産まないかは、女性の権利である」という意識があるかどうかだと思います。

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極端な例ですが、例えば胎児に何らかの重い先天的障害があった場合、日本では22週を超えると人工妊娠中絶を受けられません。しかし、例えば出生率1.8を保っているイギリスでは、妊娠何週であろうと、女性の意思で中絶を受けることができます。

これがなぜイギリスでは問題視されないかというと、逆説的ではありますが、障害のある人が人生を十分に楽しんで暮らせるような社会的ケアの体制が構築されているからではないかと思います。つまり先天的障害のある人であっても、社会の中できちんとその地位が認められ、位置付けられているということです。

日本では、出生前診断で胎児に先天的異常が見つかった場合、95%以上のカップルが中絶を選ぶという実情があります。

しかし、日本の母体保護法には「胎児条項」、つまり「胎児に何らかの異常が見つかった場合、人工妊娠中絶を受けても構わない」ということを定めた条文はありません。法的な裏付けがないにもかかわらず、胎児に障害があった場合には、日常的に中絶が行われているのが実情なのです。

「生殖の自立」は、海外では大統領選挙や国政選挙の争点にもなる大きな問題です。しかし、日本人はそこから目を背け続けていると言わざるをえません。

出産・子育てにお金を回すしかない

さて、こうした現状をきちんと認識した上で、私たちは出生率を少しでも上げる方法を考えなければなりません。

冒頭で述べた2005年の「1.26ショック」から10年あまりが経ち、昨年の合計特殊出生率は1.44まで回復しています。2005年と現在で何が変わったのかというと、出産・育児をする世帯への経済的支援が向上したことが挙げられます。

2005年当時、健康保険から支出される「出産育児一時金」は子供ひとりあたり38万円でしたが、2009年10月以降は42万円に引き上げられました。42万円あれば、健康保険に加入している人なら、ほとんどの場合で出産時の自己負担が必要なくなります。

また、妊娠期間中は母親が妊婦検診に通いますが、その検診支援の回数も5回から14回までになりました。これによって、妊娠期間中の経済的負担もかなり軽減されました。

生まれてくる子供たちを育てるために国がちゃんと予算をつければ、出生率は上がる。これははっきりと裏付けのある事実と言ってよいと思います。しかし今のところ、まだまだ日本は子供にお金を使わず、高齢者ばかりにお金を使っているのが現実です。

ここ最近、日本の将来像についての関心・不安が再び高まっています。しかしながら、「2050年に総人口が1億人を切る」というようなことは、本質的な問題ではありません。その頃には、1年間に生まれてくる子供が現在の半分、約50万人にまで減ってしまうことのほうが、はるかに大きな問題です。

言うまでもなくその時、現在のような日本の国家システムは維持できなくなるでしょう。

今、私たちがやらなければならないのは、将来への投資として、国家予算をしっかりと子供たちのために使うことです。そのためには、極端な話ですが、消費税を15%に上げてそれをすべて子供のために使う、といった抜本的な施策も必要になるのではないかと考えています。

吉村泰典(よしむら・やすのり)1949年岐阜県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。同大学医学部産婦人科教授、日本産科婦人科学会理事長、日本生殖医学会理事長などを歴任するほか、第二次安倍内閣から内閣官房参与(少子化対策・子育て支援担当)を務める。著書に『間違いだらけの高齢出産』など。

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